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カスッ……カスッ……
入居した当時から壊れているインターホンは今日も空押しの音で来客を伝える。壁もドアも薄いつくりで誰かが来ればすぐに分かるため不要だろうと言われれば頷くしかない。
年末も差し迫ったこの時期になにか勧誘のたぐいだろうか。暖かいこたつから出たくないこの部屋の住人、山姥切国広は諦めてどこかへ行ってくれないかと思いながら薄板の玄関ドアをチラ見した。
どうやら山姥切の願いは叶わなかったようで今度はドアが直接ノックされる。
「やまんばぎりさーん!」
名まで呼ばれてしまっては仕方がない。未練をたっぷり残しながら山姥切はこたつから出た。通販など頼んだ覚えはないが遠方に出かけたままの兄弟が何か送ってきた可能性もある。
「はい」
一人暮らしの用心で僅かだけドアを開ける。途端に山姥切の目に飛び込んできたのは雪と見まごうばかりの白だった。
「え……」
「よっ! 俺みたいなのが突然来て驚いたか?」
白光しているかのように見えたのは人だったらしい。もちろんこんなに目立つ印象に残る知り合いなどいない山姥切は即座に怪しい勧誘だと結論付けた。
「いりません」
何か言われる前にとドアを閉めようとしたが相手が一歩速かった。白いツヤツヤの靴がドアに挟み込まれていた。
「話も聞かずに追い返すなんて酷いなあ」
「くっ」
閉めようとする山姥切と閉められまいとする相手との力比べだ。いかな勧誘といえど不法侵入は犯罪じゃないか!?
「新聞は読まないし、神様がどうって話なら兄が僧籍なので間に合っている!」
「俺が宗教勧誘に見えるのかい?」
「え、違うのか?」
「ひどいなあ。とりあえず入れてくれるか? 寒くてたまらん」
「断る……って、おい!」
どこをどう通ったのか怪しげな白い勧誘員は室内に降り立っていた。
「お邪魔しますってな」
「……せめて靴は脱げ」
「お、適応力ある子は好きだぜ」
「誰が子どもだ」
押しに弱いのは事実だが調子の狂うやつだと山姥切は思った。金の両目で室内を見回したあと、怪しさ満点の白い勧誘員はこう言った。
「俺は鶴丸国永。きみたちのいうところの天使とか死神とか、まあそんな感じのやつだ」
「はあ?」
天使だとか言うわりにえらく日本風な名前だ。今の宗教勧誘は厨二病チックなんだな。さて、今日の晩御飯はどうしようか。唐揚げが食べたい気分だ。
「おいおい、聞いてるかい?」
「ああ、聞いてる。あんた天使とか言う割にやけに日本風な名前なんだな。普通なんとかガブリチュウとかじゃないのか?」
「……っ!」
笑い上戸だったらしい自称天使は腹を抱えて撃沈した。
ひとしきり笑った鶴丸はようやく生真面目な顔をして山姥切に向き直った。
「山姥切国広、十七歳、本丸高校2年8組、成績は3が多いな、お、日本史は5だな。身長百七十二センチ、剣道部所属」
「なんでそんなこと知ってる?」
「兄弟が二人いるが別居中。バイトはファミレスの厨房で選んだ理由は賄いが出るから」
「まだ続くのか?!」
「何、たんなる本人確認だ」
役所に届けていないことまで知っているとは悪質なストーカーでなければさすが天使? いや死神? それより何より山姥切に言われて靴は脱いだものの鶴丸は地に足をつけていなかった。文字通り浮いているのだ。
「……ちょっと待ってくれるか。バイトの引き継ぎをしないと。あと出来れば明日のゴミは出したかったのだが」
真冬だし悪臭がして虫がたかることはないだろうが処理するに越したことはない。完全に信じたわけではないがもし鶴丸が本当に天使だ死神だというのなら目的はひとつだろう。
「きみ真面目だなぁ。まだ死ぬと決まったわけじゃないぜ?」
「そう、なのか?」
てっきりもうこの世とはおさらばなのかと。では少しくらいは猶予があるのだろうか。
「気に入った! しばらく厄介になるぜ」
「はぁ? なんでだ。さっさと天国でも地獄でも連れていけば良いだろ」
そう言うと山姥切は首を差し出す。天使はどうだか知らないが死神なら鎌で首を落とすイメージだ。
「いやいや、だからそうじゃないって」
「なんでだ? いっそひと思いにやれ」
「えーと、とりあえず保留だ」
「……あんた、仕事出来ないだろ」
「失礼だなきみ!? これでも出世頭なんだぜ。見ろ! 羽が4枚もあるだろ」
「多いな……それ、飛びにくくないのか」
「そうじゃなくてーっ!」
「あ、直すのか」
「邪魔だからな。別に出さなくても飛べるし」
「そうなのか、すごいなあんた」
「へへっ、じゃなくて! きみいちいちペースを乱してくるな」
「そんなつもりはないんだが……しばらく厄介というがあんた」
「鶴丸だ!」
「……鶴丸、見ての通りここは単身者用のワンルームで狭い」
「大丈夫だ! なんなら浮いて寝るし」
得体の知れない自称天使、あるいは死神の鶴丸国永と厄介事背負い込み系男子高校生山姥切国広の奇妙な同居生活はこうして幕を開けたのだった──。
入居した当時から壊れているインターホンは今日も空押しの音で来客を伝える。壁もドアも薄いつくりで誰かが来ればすぐに分かるため不要だろうと言われれば頷くしかない。
年末も差し迫ったこの時期になにか勧誘のたぐいだろうか。暖かいこたつから出たくないこの部屋の住人、山姥切国広は諦めてどこかへ行ってくれないかと思いながら薄板の玄関ドアをチラ見した。
どうやら山姥切の願いは叶わなかったようで今度はドアが直接ノックされる。
「やまんばぎりさーん!」
名まで呼ばれてしまっては仕方がない。未練をたっぷり残しながら山姥切はこたつから出た。通販など頼んだ覚えはないが遠方に出かけたままの兄弟が何か送ってきた可能性もある。
「はい」
一人暮らしの用心で僅かだけドアを開ける。途端に山姥切の目に飛び込んできたのは雪と見まごうばかりの白だった。
「え……」
「よっ! 俺みたいなのが突然来て驚いたか?」
白光しているかのように見えたのは人だったらしい。もちろんこんなに目立つ印象に残る知り合いなどいない山姥切は即座に怪しい勧誘だと結論付けた。
「いりません」
何か言われる前にとドアを閉めようとしたが相手が一歩速かった。白いツヤツヤの靴がドアに挟み込まれていた。
「話も聞かずに追い返すなんて酷いなあ」
「くっ」
閉めようとする山姥切と閉められまいとする相手との力比べだ。いかな勧誘といえど不法侵入は犯罪じゃないか!?
「新聞は読まないし、神様がどうって話なら兄が僧籍なので間に合っている!」
「俺が宗教勧誘に見えるのかい?」
「え、違うのか?」
「ひどいなあ。とりあえず入れてくれるか? 寒くてたまらん」
「断る……って、おい!」
どこをどう通ったのか怪しげな白い勧誘員は室内に降り立っていた。
「お邪魔しますってな」
「……せめて靴は脱げ」
「お、適応力ある子は好きだぜ」
「誰が子どもだ」
押しに弱いのは事実だが調子の狂うやつだと山姥切は思った。金の両目で室内を見回したあと、怪しさ満点の白い勧誘員はこう言った。
「俺は鶴丸国永。きみたちのいうところの天使とか死神とか、まあそんな感じのやつだ」
「はあ?」
天使だとか言うわりにえらく日本風な名前だ。今の宗教勧誘は厨二病チックなんだな。さて、今日の晩御飯はどうしようか。唐揚げが食べたい気分だ。
「おいおい、聞いてるかい?」
「ああ、聞いてる。あんた天使とか言う割にやけに日本風な名前なんだな。普通なんとかガブリチュウとかじゃないのか?」
「……っ!」
笑い上戸だったらしい自称天使は腹を抱えて撃沈した。
ひとしきり笑った鶴丸はようやく生真面目な顔をして山姥切に向き直った。
「山姥切国広、十七歳、本丸高校2年8組、成績は3が多いな、お、日本史は5だな。身長百七十二センチ、剣道部所属」
「なんでそんなこと知ってる?」
「兄弟が二人いるが別居中。バイトはファミレスの厨房で選んだ理由は賄いが出るから」
「まだ続くのか?!」
「何、たんなる本人確認だ」
役所に届けていないことまで知っているとは悪質なストーカーでなければさすが天使? いや死神? それより何より山姥切に言われて靴は脱いだものの鶴丸は地に足をつけていなかった。文字通り浮いているのだ。
「……ちょっと待ってくれるか。バイトの引き継ぎをしないと。あと出来れば明日のゴミは出したかったのだが」
真冬だし悪臭がして虫がたかることはないだろうが処理するに越したことはない。完全に信じたわけではないがもし鶴丸が本当に天使だ死神だというのなら目的はひとつだろう。
「きみ真面目だなぁ。まだ死ぬと決まったわけじゃないぜ?」
「そう、なのか?」
てっきりもうこの世とはおさらばなのかと。では少しくらいは猶予があるのだろうか。
「気に入った! しばらく厄介になるぜ」
「はぁ? なんでだ。さっさと天国でも地獄でも連れていけば良いだろ」
そう言うと山姥切は首を差し出す。天使はどうだか知らないが死神なら鎌で首を落とすイメージだ。
「いやいや、だからそうじゃないって」
「なんでだ? いっそひと思いにやれ」
「えーと、とりあえず保留だ」
「……あんた、仕事出来ないだろ」
「失礼だなきみ!? これでも出世頭なんだぜ。見ろ! 羽が4枚もあるだろ」
「多いな……それ、飛びにくくないのか」
「そうじゃなくてーっ!」
「あ、直すのか」
「邪魔だからな。別に出さなくても飛べるし」
「そうなのか、すごいなあんた」
「へへっ、じゃなくて! きみいちいちペースを乱してくるな」
「そんなつもりはないんだが……しばらく厄介というがあんた」
「鶴丸だ!」
「……鶴丸、見ての通りここは単身者用のワンルームで狭い」
「大丈夫だ! なんなら浮いて寝るし」
得体の知れない自称天使、あるいは死神の鶴丸国永と厄介事背負い込み系男子高校生山姥切国広の奇妙な同居生活はこうして幕を開けたのだった──。
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