色づくとちおとめ
「へぇ、うまいもんだなぁ」
鶴丸国永が感心したように俺の手元を見た。見くびってもらっては困る。これでもこの本丸の初期刀なのだ。『はじめての野菜作り』や『簡単誰でも畑名人』などの書物を片手に畑を開墾したのも山姥切と早くに顕現した短刀たちだ。いまでこそ専門家の桑名江に畑の管理は任されているが山姥切にも一過言くらいある。
「しかしビニールハウスなんてものはないからな。うまく育つかは……」
「いいさいいさ、今回はお試しってことで。この本丸では初めて育てるんだろう? 楽しみだ」
山姥切の植えた隣に倣って鶴丸も苗を植えた。緑がまだ薄い頼りない苗だ。桑名江にも相談したがこの本丸の環境では生育は難しいかもしれないと言っていた。だが言い出したら聞かない鶴丸になかば押し切られて畑の片隅に今回植えることになったのだ。
「大きくなれよ~」
審神者が贔屓にしている通販サイト、万屋マーケットで見つけたという鶴のじょうろで上機嫌に水やりをする鶴丸。以外にも畑仕事を気に入っているらしい。鶴丸は平安刀だ。同じ平安の刀はどうにかして畑当番を免れようとする輩が多いのだが──土の匂いが落ち着くのかもしれない。
「っ! 鶴丸! やりすぎだ」
「うわっ、すまん!」
折角植えた苗が流れていくところだった。
「ちゃんとあんたが世話をしろよ」
「わかってるって。出来たら一番に山姥切に見せるぜ」
まだ育つかもわからないのに嬉しそうに告げる鶴丸が眩しかった。
二振りで植えた苗はすくすく成長している。鶴丸もサボらず世話をしているようだ。桑名江に教わって支柱をたて、簡易だが風よけもつけられた。今ではほかの刀も収穫を楽しみにしている。白くて可愛らしい花が落ち、そのあとに実ができてきたらしい。
「見ろよ、山姥切! ここここ」
「? どこだ?」
「あーもうちょっと右だって……って」
まだ葉の色と同じそれは見つけにくい。しゃがんで目を凝らしていると鶴丸と近寄り過ぎて頭がぶつかってしまった。鶴丸は頭をおさえたままうなっている。
「……だいじょうぶか?」
「っつー、きみは石頭だったんだなぁ。驚きだぜ」
「その、すまん」
鶴丸があんまり痛そうにするものだから申し訳なくなってその白と銀が混ざったような頭に手を伸ばした。よしよしと撫でてみる。どうやらこぶにはなっていないようだ。ピクリとも動かない鶴丸を不審に思っていると、顔を隠してしまった。嫌がってはいないようだと判断して撫で続けると耳が赤らんできた。
「鶴丸?」
「きみなぁ!」
こちらに向けられた顔も耳と同じく赤かった。
緑だった実が白くなり、だんだんと色づいてきた。形もふっくらとしてきてもうすぐ食べごろだろう。鶴丸は今遠征に出ている。その間の世話を頼まれた山姥切も今では収穫を楽しみにしている。そろそろ帰還するだろうか。
「はやく帰ってこないと先に食べてしまうぞ」
「それは困るなぁ」
誰も聞いていないと思ったからこそ口に出した独り言を拾われて驚く山姥切の脇から手を伸ばし、鶴丸の白い指が色づいた赤い実を摘んだ。
「ほい、初物はきみに」
「……いいのか?」
「もちろん」
手で受け取るものだと思っていた鶴丸の持つ実に山姥切が口を近づける。てずから食べさせることになった。大きい果肉は一口ではおさまらず、齧られた断面から果汁が落ちそうになる。
「ん、うまい」
「そ、うか。良かった」
「甘いな」
「そうか」
「あんた、さっきからそうかしか言ってないぞ」
「そうか」
昨年、桜とともに顕現した鶴丸。その日おやつに出されたショートケーキ。真っ白な土台の上にのる赤。その赤を大事そうに最後まで取っておいて食べたときの山姥切の顔が忘れられなくて、きっと好きなんだろうなと思った。喜んでくれるかと思って育てた苺だったが。
「顔が赤いぞ? まるでこの苺みたいだ」
お返しとばかりに摘んだ苺が鶴丸に差し出される。お揃いの赤色を前に生唾を飲み込む。覚悟を決めて口を開けた。
鶴丸国永が感心したように俺の手元を見た。見くびってもらっては困る。これでもこの本丸の初期刀なのだ。『はじめての野菜作り』や『簡単誰でも畑名人』などの書物を片手に畑を開墾したのも山姥切と早くに顕現した短刀たちだ。いまでこそ専門家の桑名江に畑の管理は任されているが山姥切にも一過言くらいある。
「しかしビニールハウスなんてものはないからな。うまく育つかは……」
「いいさいいさ、今回はお試しってことで。この本丸では初めて育てるんだろう? 楽しみだ」
山姥切の植えた隣に倣って鶴丸も苗を植えた。緑がまだ薄い頼りない苗だ。桑名江にも相談したがこの本丸の環境では生育は難しいかもしれないと言っていた。だが言い出したら聞かない鶴丸になかば押し切られて畑の片隅に今回植えることになったのだ。
「大きくなれよ~」
審神者が贔屓にしている通販サイト、万屋マーケットで見つけたという鶴のじょうろで上機嫌に水やりをする鶴丸。以外にも畑仕事を気に入っているらしい。鶴丸は平安刀だ。同じ平安の刀はどうにかして畑当番を免れようとする輩が多いのだが──土の匂いが落ち着くのかもしれない。
「っ! 鶴丸! やりすぎだ」
「うわっ、すまん!」
折角植えた苗が流れていくところだった。
「ちゃんとあんたが世話をしろよ」
「わかってるって。出来たら一番に山姥切に見せるぜ」
まだ育つかもわからないのに嬉しそうに告げる鶴丸が眩しかった。
二振りで植えた苗はすくすく成長している。鶴丸もサボらず世話をしているようだ。桑名江に教わって支柱をたて、簡易だが風よけもつけられた。今ではほかの刀も収穫を楽しみにしている。白くて可愛らしい花が落ち、そのあとに実ができてきたらしい。
「見ろよ、山姥切! ここここ」
「? どこだ?」
「あーもうちょっと右だって……って」
まだ葉の色と同じそれは見つけにくい。しゃがんで目を凝らしていると鶴丸と近寄り過ぎて頭がぶつかってしまった。鶴丸は頭をおさえたままうなっている。
「……だいじょうぶか?」
「っつー、きみは石頭だったんだなぁ。驚きだぜ」
「その、すまん」
鶴丸があんまり痛そうにするものだから申し訳なくなってその白と銀が混ざったような頭に手を伸ばした。よしよしと撫でてみる。どうやらこぶにはなっていないようだ。ピクリとも動かない鶴丸を不審に思っていると、顔を隠してしまった。嫌がってはいないようだと判断して撫で続けると耳が赤らんできた。
「鶴丸?」
「きみなぁ!」
こちらに向けられた顔も耳と同じく赤かった。
緑だった実が白くなり、だんだんと色づいてきた。形もふっくらとしてきてもうすぐ食べごろだろう。鶴丸は今遠征に出ている。その間の世話を頼まれた山姥切も今では収穫を楽しみにしている。そろそろ帰還するだろうか。
「はやく帰ってこないと先に食べてしまうぞ」
「それは困るなぁ」
誰も聞いていないと思ったからこそ口に出した独り言を拾われて驚く山姥切の脇から手を伸ばし、鶴丸の白い指が色づいた赤い実を摘んだ。
「ほい、初物はきみに」
「……いいのか?」
「もちろん」
手で受け取るものだと思っていた鶴丸の持つ実に山姥切が口を近づける。てずから食べさせることになった。大きい果肉は一口ではおさまらず、齧られた断面から果汁が落ちそうになる。
「ん、うまい」
「そ、うか。良かった」
「甘いな」
「そうか」
「あんた、さっきからそうかしか言ってないぞ」
「そうか」
昨年、桜とともに顕現した鶴丸。その日おやつに出されたショートケーキ。真っ白な土台の上にのる赤。その赤を大事そうに最後まで取っておいて食べたときの山姥切の顔が忘れられなくて、きっと好きなんだろうなと思った。喜んでくれるかと思って育てた苺だったが。
「顔が赤いぞ? まるでこの苺みたいだ」
お返しとばかりに摘んだ苺が鶴丸に差し出される。お揃いの赤色を前に生唾を飲み込む。覚悟を決めて口を開けた。
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