おべんとつけた来訪者
「お、いたいた! 山姥切」
自室に戻ろうと本丸の廊下を歩いていたら頭に白い三角巾をつけた鶴丸国永に遭遇した。山姥切を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。エプロンの類は身につけていなかったのでなんだかちぐはぐな印象が否めない。
「鶴丸、あんた今日は厨の手伝いじゃなかったのか」
「手伝ってたぜ~。なぜか追い出されたがな」
ひょいと肩をすくめる鶴丸にため息をつく山姥切。今日の厨は節分に向けて恵方巻の試作中、だと聞いている。追い出された理由に思い当たり過ぎるのも考えものだ。それだけこの刀と過ごした日々が長くなってきたということか。
「……また何か変なものを入れようとしたんだろう」
「今回は変なものじゃないぞ。日向おすすめの梅干しと浦島おすすめの鯛の昆布じめ、更には松井江おすすめのトマトだ! 白いすし飯が赤く染まって鶴らしいだろう」
謎のどや顔を披露しているが山姥切が知りうる限り恵方巻の具にはどうなんだと思うラインナップである。伊達の刀──主に燭台切光忠だ──が料理好きなこともあって厨に出入りすることも多い鶴丸だがその料理センスはからっきしである。ごくまれに独創的な創作料理に出来上がることもあるが大抵は食べ物で遊ぶなと厨を追い出されることになるのだ。
鶴丸の手には太巻きが一本のった皿があった。多少いびつな出来だが見たところ特に問題はなさそうだ。
「…………で、それが?」
「あぁ! 一本は完成したからせっかくだしきみに食べてもらおうと思ってな。持ってきた」
「まさか、俺が食べるのか⁉」
「味は悪くないと思うぞ。食べられるものしか入れてないし」
「当たり前だ! 全く俺の腹が丈夫だから良いものの……」
「食べないのか?」
食べ物を粗末にするなど山姥切には考えられないことだった。
いまでこそ刀も増え、遠征も交代で回せるようになって資源も小判も余裕が出来つつあるがこの本丸の立ち上げ当初は日々食うメシにも困るほどだったのだ。
一粒の米を笑うやつは一粒の米に泣くのである。
「…………食べる」
食べ物を、しかも自分のためにと持ってきてくれたものを断る選択肢などなかった。
だがその前に──。
「そうこなくっちゃな……っと、山姥切?」
先ほどから気になっていたのだ。布の下から鶴丸を見やれば白で同化して見えにくいが口の端に違う色の白を認めた。
「っ⁉」
「……おべんとついてる」
鶴丸の口元から指先で米粒を引き取るとそのまま自身の口に入れる。指先をペロッと舐めて斜め上を見ると石化したように動かなかった鶴丸がようやく動いた。
「~~~きみっ! そういうところだぞっ」
「何がだ?」
「あー」とか「うー」とか頭を抱えてうなっているがどうかしただろうか? やはり恵方巻の巻き合わせが悪くて腹を下したか。あまり動くと皿から落ちてしまいそうで気が気じゃない。鶴丸のとる行動は山姥切には大概理解不能だ。もちろん今回も。
「おい、とりあえず部屋へ行くぞ。寿司を食う時は茶がいるだろう」
いまだに「あー」とか「うー」とか「無意識だよなぁ」とかブツブツ言っているが構うものか。
行動は理解不能だが鶴丸が付いてくることに疑いは全くないのだから。
自室に戻ろうと本丸の廊下を歩いていたら頭に白い三角巾をつけた鶴丸国永に遭遇した。山姥切を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。エプロンの類は身につけていなかったのでなんだかちぐはぐな印象が否めない。
「鶴丸、あんた今日は厨の手伝いじゃなかったのか」
「手伝ってたぜ~。なぜか追い出されたがな」
ひょいと肩をすくめる鶴丸にため息をつく山姥切。今日の厨は節分に向けて恵方巻の試作中、だと聞いている。追い出された理由に思い当たり過ぎるのも考えものだ。それだけこの刀と過ごした日々が長くなってきたということか。
「……また何か変なものを入れようとしたんだろう」
「今回は変なものじゃないぞ。日向おすすめの梅干しと浦島おすすめの鯛の昆布じめ、更には松井江おすすめのトマトだ! 白いすし飯が赤く染まって鶴らしいだろう」
謎のどや顔を披露しているが山姥切が知りうる限り恵方巻の具にはどうなんだと思うラインナップである。伊達の刀──主に燭台切光忠だ──が料理好きなこともあって厨に出入りすることも多い鶴丸だがその料理センスはからっきしである。ごくまれに独創的な創作料理に出来上がることもあるが大抵は食べ物で遊ぶなと厨を追い出されることになるのだ。
鶴丸の手には太巻きが一本のった皿があった。多少いびつな出来だが見たところ特に問題はなさそうだ。
「…………で、それが?」
「あぁ! 一本は完成したからせっかくだしきみに食べてもらおうと思ってな。持ってきた」
「まさか、俺が食べるのか⁉」
「味は悪くないと思うぞ。食べられるものしか入れてないし」
「当たり前だ! 全く俺の腹が丈夫だから良いものの……」
「食べないのか?」
食べ物を粗末にするなど山姥切には考えられないことだった。
いまでこそ刀も増え、遠征も交代で回せるようになって資源も小判も余裕が出来つつあるがこの本丸の立ち上げ当初は日々食うメシにも困るほどだったのだ。
一粒の米を笑うやつは一粒の米に泣くのである。
「…………食べる」
食べ物を、しかも自分のためにと持ってきてくれたものを断る選択肢などなかった。
だがその前に──。
「そうこなくっちゃな……っと、山姥切?」
先ほどから気になっていたのだ。布の下から鶴丸を見やれば白で同化して見えにくいが口の端に違う色の白を認めた。
「っ⁉」
「……おべんとついてる」
鶴丸の口元から指先で米粒を引き取るとそのまま自身の口に入れる。指先をペロッと舐めて斜め上を見ると石化したように動かなかった鶴丸がようやく動いた。
「~~~きみっ! そういうところだぞっ」
「何がだ?」
「あー」とか「うー」とか頭を抱えてうなっているがどうかしただろうか? やはり恵方巻の巻き合わせが悪くて腹を下したか。あまり動くと皿から落ちてしまいそうで気が気じゃない。鶴丸のとる行動は山姥切には大概理解不能だ。もちろん今回も。
「おい、とりあえず部屋へ行くぞ。寿司を食う時は茶がいるだろう」
いまだに「あー」とか「うー」とか「無意識だよなぁ」とかブツブツ言っているが構うものか。
行動は理解不能だが鶴丸が付いてくることに疑いは全くないのだから。
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