外殻大地編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あーぁ、紫音達が拐われたおかげで余計な時間食っちまったぜ」
「返す言葉も無いっす……」
「でもでも、ルーク様大活躍だったじゃないですかぁ!」
「へっへーん、当然じゃねぇか」
カイツールの軍港が見える所まで戻ってきた。不満そうな顔をしていた癖に、アニスにおだてられたルークはすっかり上機嫌だ。
感謝しろよー! と力加減無く叩かれる紫音は堪ったものではない。
「……自分も攫われておいて、紫音に偉そうな顔出来ないと思うわ」
「……うっ、うるせっつーの!」
そんなルークは、ティアの冷たい一言に自覚があるのか気まずそうな顔を背けた。その先で、ちょうどヴァンの姿を見付けた彼が手を振るが、あいにく師匠には気付いて貰えなかったようだ。
「師匠もあっちこっち忙しそうだなぁ……」
うなだれていたルークは、整備士からの伝言にさらに肩を落とす。会談が終わり次第会いに来るように。自分を後回しにされているせいか、その顔は少し不満そうだ。
「軟禁されているお坊っちゃまとは違うんですよ」
「……んだよこの陰険野郎」
「おや、誰もあなたの事と言った訳では無いんですが……」
にこやかに笑うジェイドは、玩具を見付けた子供のようにとても楽しそうだ。いいように遊ばれているルークを見て、ガイも困り顔で紫音に目を向ける。
「……紫音、ジェイドの旦那を止めてくれ」
「無理かな……。私達だけでも先行った方がいいと思うよ」
もし止められたらそれは偽者ジェイドだよ。苦笑いしながら先を歩き始めた紫音に、他の女性陣も続く。
ガイが後ろを見れば、ルークは未だジェイドにからかわれているし、イオンはその様子を笑いながら眺めているだけ。
「誰か助けてくれー……」
これから先の事を考えると、ガイは憂鬱で仕方なかった。ジェイドがいれば大丈夫とも言いきれない以上、ガイ自らが彼の遊びを中断させるしか無いのだから。
§ §
「おぉ……! これはルーク様」
「……あ?」
「覚えておられませんか? ルーク様がまだ幼き頃、一度バチカルの屋敷でお目にかかりました、アルマンダインにございます」
会談が終わる頃合いを見計らい部屋に入ると、厳格そうな男性とヴァンがいた。全く覚えていない様子のルークに、アルマンダイン伯爵は少しだけ複雑そうな顔をしたが、すぐに表情を引き締める。視線の先にいるのはイオンだ。
「イオン様、こちらのヴァン謡将から、今回の襲撃の件をお聞きしました。……ダアトからの誠意ある対応を期待しております」
「我がしもべの不手際、お許しください」
このような場面を見ると、普段は儚げなイオンは文字通り人を導く導師なのだと、紫音はぼんやりと理解する。
どこか他人事のように考えていると、隣に立つジェイドに小突かれた。ハッと我に返ると、アルマンダイン伯爵が警戒した目でこちらを見ている。どうやら、ボーッとしている間に、和平の話になっていたようだ。
「……死霊使いジェイドか」
「えぇ、その通り。ご挨拶が遅れ、大変失礼致しました」
警戒されていたのはジェイドの方だったらしい。警戒心を隠そうともしないアルマンダイン伯爵。ジェイドも口調こそ丁寧だが、その声は絶対零度の冷たさだ。
「……マルクト帝国皇帝、ピオニー九世陛下の名代として、和平の親書を預かっております。そして……」
「……あ、私は針谷 紫音少尉と申しマス……」
せっかく後ろに隠れていたのに、上官に押し出されれば名乗るしかない。頭の天辺から爪先まで、まるで値踏みするかのように眺められた紫音は生きた心地がしない。
内心震え上がっていた紫音を一通り値踏みしたアルマンダイン伯爵は小馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「……フン、ずいぶん貧相な使節団のようだ。それに……、針谷少尉と言ったか? 彼女は戦闘要員には見受けられないな。そんな細腕で、ルーク様と導師イオンを守れるのか、はなはだ疑問ですな」
「数多の妨害工作がありました故、ご理解いただければと思います。彼女の事はご心配無く。私自らが鍛えましたので」
(ひぇー、人の頭越しに火花散らさないで……っ!)
睨み合う二人は、これでもかと言わんばかりに敵意剥き出しだ。あまりの緊迫感に、紫音の頭はもう真っ白だ。話に自分の事が挙げられていると気付く余裕も無い。
ルークが何か言っている。それに言葉を返すアルマンダイン伯爵。やはり王族のルークと接する時は、雰囲気も柔らかくなるらしい。
どういう話に決まったのか、訳も分からないまま外に連れ出された紫音は、力尽きたように座り込んでしまった。
「……こ、恐かった……!」
「……あの雰囲気の二人に挟まれてたし、ねぇ?」
「……同情するよ、紫音」
「あれでも抑えていたつもりなのですが……。まぁ、あなたに向けた訳では無いのですから」
未だ身震いが収まらない紫音を見かねて、ティアとアニスが背中を撫でてくれた。ジェイドの言葉に、アニスはその髪を揺らしながら抗議した。
「私だって恐かったんですよーっ? その雰囲気の中、ついこの間まで一般人だったって言う紫音を間に挟んで睨み合うなんてさすがによくないですよぅ」
ジェイドはアニスの言葉に、ようやく自分がどれほど紫音を怖がらせたのかをおぼろ気に理解したらしい。すみませんでした……、と困ったように謝罪すると、足早に立ち去ってしまった。
本当に分かったんですかー!? そんな風に叫ぶアニスを宥めながら、紫音は用意されたこの日の宿に向かうことになった。
「うー、寝れないよミズゴロウ……」
「……ごろ?」
そして夜。紫音は、巡回しているだろうキムラスカ兵の足音に、元々浅い眠りから呼び戻された。起き上がって窓の外に目をやれば、他の宿舎とは圧倒的に警備の数が違う。
マルクト兵だからという理由で、紫音とジェイドは他のメンバーとは違う宿舎で休むことを余儀無くされた。確かに敵国の兵とは言え、和平の使者である紫音達をここまで露骨に扱うことはないのではないか。
その不満をため息と共に吐き出せば、部屋の反対側のベッドで寝ていたジェイドが僅かに身をよじらせる。
「……仕方ありません。我々は、まだキムラスカと敵対しているのですから」
「起きてたの?」
「えぇ、誰かさんの大きなため息のお陰で」
枕元に置いていた眼鏡を掛けると、ジェイドは小さく欠伸を噛み殺した。
「……休戦中とは言え、緊張が高まっているのも事実。下手な動きをすれば、いい捕虜となってしまいますよ」
「……一般の人は、普通に行き来出来てるのに……。何で国はそう出来ないんだろ……」
ミズゴロウを撫でながらそう呟いた紫音は、本当に分からないと言った表情をしている。
そう言う事を簡単に出来るほど、国家は簡単ではない。そう諭そうとして、ジェイドは思い出した。一般人と言っても、紫音はただの一般人ではない。
以前は戦争とはほど遠い生活をしていたと聞く。つまり、紫音が身をもって経験する以外に、簡単に理解できるものはないだろう。
「……敵国の軍人だからって、大佐もアルマンダインさんも敵意出しすぎだよ」
「……昼間は大人気が無かった自覚はあります。あなたも怖がらせてしまいましたしね。ですが、戦地はあの程度では済まないことを覚えておくことです」
「そうかも知れないけど……。でも私は後方支援だもーん」
ヘラリと笑う紫音には、緊張感の欠片もない。彼女の性格なのか、生まれ育った環境がそうさせているのかは分からない。
後者の可能性も考え、ジェイドは小さく溜め息を吐く。環境が違えば、考え方が変わるのも分かる。
「……その平和ぼけをどうにかしてもらわないと、私の調子が狂います」
「え、私のせい? って、そもそもボケてないし!」
キョトンとした後に全力で否定する紫音に、ジェイドはため息で返す。
(……私が平和ぼけするわけにはいかないんですよ)
自分自身の苛立ちを軽減させるはずが、空気だけが抜け落ち、能天気な紫音への羨ましさと重い苛立ちだけが胸に燻り続けた。
§ §
「おーい遅いぞジェイド、紫音!」
「寝坊癖をなんとかしなさい」
「うぅ、ごめん……」
まだ半分眠っている紫音と、それを半ば引き摺るようにジェイドがやって来たことで、ようやく人数が揃った。
出港の最終準備に追われるキムラスカ兵達が、キビキビとした動きで走り回っている。
「うーん勤勉だねぇ……」
「紫音も見習ったらどーぉ?」
「止めてよアニス……。勤勉な私なんて気持ち悪いだけだよ……」
「充分勤勉な方だと思いますがね」
アニスと船に乗り込みながらそんな話をしていると、いつからいたのか、後ろからヴァンが話に入ってきた。
驚いて振り返れば、ヴァンがにこやかに笑っている。
「是非、信託の盾騎士団に欲しいものです」
そう言って更に笑みを深くしたヴァンは、唖然として動けない紫音達を追い越し、先に入船していった。
先に硬直から回復したアニスが、「総長から直々にスカウトなんてっ!」と言っているのが聞こえるが、紫音はそれどころではない。
『是非、信託の盾騎士団に欲しいものです』
(……狙われてる!? 私が? それとも手持ち?)
後者か、あるいは両方か。答えの見えない問いが頭を駆け巡る。
「……、おーい! 紫音っ!」
「はぐっ!?」
ハッと現実に引き戻された紫音の目の前には、心配そうに覗き込むアニスがいた。どうやら、気付かぬ内に長い間考え込んでしまったらしかった。
「もう……。総長も、聞こえてきた来た話に乗っかって冗談言っただけだと思うよ? 心配なら、ティアに話聞いてもらう?」
「……うん、大丈夫。ごめん! 心配かけて」
ヘラっと笑ったその顔は、果たしていつものように笑えていただろうか。何とか誤魔化して船に乗り込んだ紫音は、その後ヴァンの言葉を考える余裕が全く無くなってしまった訳だが。
「あ、ルーク! 元気?」
「ぁん? あぁ、紫音か。……そのカタカタ震えてるボールは何だ?」
『今なら誰もいねぇだろ? ちょっとでいいんだって、頼むから!!』
船縁に出てきたルークに笑いかけはしたものの、当のルークは紫音の手にあるボールを怪訝そうに見ている。カタカタと震えているのは、ルギアが入っているボール。
出港してからずっとこの調子で、海に飛び出す隙を狙っているのだ。お陰で紫音は気を休める暇も無い。
「ルーギーアーっ!!」
『いーやーだーっ!!』
「……ま、頑張れよ」
「何を!?」
『どうやってだよ!?』
紫音達が声を揃えて抗議したときには、ルークは既に甲板に向かって歩いて行ってしまった。それを見送ってなおいがみ合う一人と一匹に、後ろから呆れた声が掛けられた。
「やれやれ元気だねぇ」
「あ、ガイ! 元気?」
「あぁ、お陰様で元気だよ。ちょっと退屈なくらいにはな」
『何だ暇なのか? 俺が海の底に連れて行ってやるよ』
「えっ!? えっ、えええ遠慮しますっ!」
ルギアの意地の悪い言葉に思い切り後退りしたガイは、ちょうど後ろから来たアニスとぶつかりそうになり、情けない声を上げて倒れ込んでしまった。
プルプルと震えているガイに興味が移ったのか、ルギアも外に出せと騒がなくなっている。
『……っとに情けねーよな……』
「さっきルークにも言われたんだよ……」
「そう言えば、ルーク様は?」
ガイがいるならルーク様もいると思って来たのにー、と口を尖らせるアニスの疑問に、ガイは距離を取りながらまくしたてる。
「ルークなら、さささっきグランツ謡将に呼ばれたとかで甲板に行った!」
「……え?」
その一言で、紫音は重大なことを思い出した。
ヴァンと乗る最初の連絡船。甲板に呼び出されたルーク。ルークに暗示をかけるイベントが起きようとしているのだ。
慌てて甲板に向かおうとしたが、時既に遅し。前方からヴァンに連れられたルークが歩いてきた。ルークの目は、よく見なければ分からないが、微妙に焦点が合っていない気もする。
(……間に合わなかった!)
こうなってしまった以上、アクゼリュス消滅を妨害するには、ヴァンに合言葉を言わせない他に無い。ルークを止めようにも、彼は今まで以上にヴァンに心酔していく為、こちらは厳しいだろう。
「紫音、着いたみたいだぞ」
「……へ? あ、うん!」
到着を知らせる汽笛が響く。近付く陸と同じように、最初で最大の山場も、刻々と迫ってきていた。
§ §
「ちぇー、またこの面子かよ」
中間点のケセドニアに到着してすぐ。アリエッタをダアトの監査官に引き渡すために別れたヴァンを見送りながら、ルークは不満そうに呟いた。
子供であるアニスより子供な言動に、ティアは兄の言葉を引用して宥めている。
「そうですよ、ルーク様。後は領事館に行って、船に乗るだけなんですから」
「長かったルークの大冒険も、やっと終わりが見えてきたな」
「おまけでも良いから、陛下への取り次ぎ忘れないでね!」
雑談しながら領事館への道を歩いていると、サーカス団のような三人組が近付いてくる。漆黒の翼だ。ノワールがルークに色目を使い気を引きながら、その手は華麗にポケットから財布を掠め取ろうとしている。
「はいストーップ、この手はなーに?」
それを見咎めた紫音が、にこやかに笑いながら伸ばされた手を掴んでやれば、ノワールは驚いたように慌てて腕を払う。
「……あらん? お嬢ちゃん。人の手とは思えないほど、異常に熱かったわよん?」
「……え?」
見れば、ノワールのグローブは焦げたかのように変色している。怪訝に思って近くにいたティアに触れてみるが、彼女は何も感じない様で首をかしげるだけ。
「訳分かんない奴もいたもんだ……。ずらかるよ、ヨーク、ウルシー!」
脱兎の如く走り去る姿を追いかけようにも、彼らはあっという間に人混みに紛れて消えてしまった。ルークが悔しがるが、ジェイドの鋭い声に呼ばれて顔を歪めるだけに留まった。
「くそーっ! こんな街早く出ようぜ!」
「まぁまぁ、これも旅の醍醐味だぜ」
不満を撒き散らすルークを宥めながら領事館へ足を運ぶと、船の準備には今しばらく時間がかかるとのこと。その待ち時間に、コーラル城で手に入れた音譜盤の解析を依頼するため、一行は商人ギルドを取り仕切るアスター邸を訪ねた。
城程ではないが、相当な豪邸。応接室に通されたものの、紫音は座ることも無く歩き回っている。
「でかくて落ち着かない……!」
「きゃわ~ん! お金持ちって感じ~!」
大きな屋敷だと妙な現実感がある。慣れない紫音がそわそわとしているのに対し、アニスはこれでもかとばかりにはしゃぎ回る。解析に時間は取られないはずなのだが、紫音にとってこの待ち時間は拷問のように感じられた。
「うぅうぅうぅ……」
「……酷い貧乏ゆすりですね。ただでさえ貧乏なのですから、この雰囲気を満喫して帰ってはどうですか?」
「うるさーいっ!」
「お待たせいたしました。こちらが解析結果でございます」
ジェイドにからかわれていたお陰か、紫音は途中からこの待ち時間の苦痛が消えた事に気付いた。それがジェイドの優しさだと認めてしまうと、態度に出て更にからかわれてしまうため、不機嫌な表情は変えなかったが。
「解析もしていただいた事ですし、そろそろ行きましょうか」
「ケセドニアにて、また何かご用がございましたら、このアスターをお尋ねください」
アスター邸を後にし、紫音はようやく肺に溜まっていた空気を吐き出す。後は船に乗って、可哀想なディストをボコボコにしたら、バチカルに到着だ。
「こちらにおいででしたか! 船の準備が整いました。すぐにでも出港を……」
「……っ! 危ない!」
報告に来たキムラスカ兵の後ろから、黒い影が迫る。狙いは、ガイが持つ解析結果だ。
叩き落とされ、散らばった紙を広い集めている隙に、再びシンクが迫る。
「それを寄越しな!」
「……っ! 断る!」
言葉の応酬をしながら、シンクがガイに斬りかかる。彼の腕に、カースロットの術式が刻まれたのだ。
(……ごめんね、ガイ)
今この場で、ガイがカースロットにかけられると分かっていて、何もしなかった紫音が一番悪い。だが、ルークとガイには、カースロットを乗り越えて、本当の親友になって欲しい。
だが、紫音が痛みに呻くガイと一緒に紙を広い集めていると、ジェイドの切羽詰まった声が聞こえる。
「前を見なさい、紫音!」
「……ほ?」
言われた通り顔を上げると、シンクがすぐ目の前まで迫っていた。彼の手は、紫音の腕ではなく腰に伸ばされている。
一番シンクの手近にあるのは、ルギアが入ったボールだ。
「アンタが来るか、そいつらを奪われるか」
「どっちも、お断り、なんですけどっ!」
「だったらこっちも考えがある」
「わぎゃっ……」
ニヤリと笑ったシンクに突き飛ばされた紫音が体勢を整えている間に、彼は紫音の腰からルギアのボールを奪い取った。突然パートナーから引き離されたルギアは、シンクの手から逃げ出そうと、全力でボールを揺らす。
『離しやがれ、……このっ!』
「……何コイツ、あの喋るデカブツか!」
「ルギアを返してっ!」
「……っ、望み通り返してやるよ!」
ホラよ! と投げ付けられたボールを何とか受け止める。ガイも何とか立ち上がり、全員で港に向かって全力で走り出した。
紫音もルギアを大事に抱えてそれに倣う。何も言わないルギアが少し心配だが、乱暴に扱われて目を回しているだけなのかも知れない。
「あっ、ルーク様出港の準備が……」
「だーっ、いいから早く船出せ!」
「はい! ……え!?」
「追われてるんだよ! 急げ!」
なおも追い縋るシンクに、ルークがミュウファイアをお見舞いして船の後尾に飛び付く。彼が落ちる前に、船の上に引き上げてようやくひと安心だ。
こうなることが分かっていたとはいえ、実際に追われて全力で走るのは、体力の無い紫音には辛いものがある。
バチカルまでもう少し。間も無くやってくるであろうディストをボコボコにしたら、ようやく紫音達の本来の仕事が始まるのだ。
(……うーん遠距離も対応出来る武器欲しいなぁ……)
「……上手く扱えるんですか?」
「やれば出来る! アクゼリュスまでに何とか……、え?」
驚いて顔を上げると、隣には紫音と同じ青い服。ジェイドは呆れたような溜め息を吐き、紫音の頭を軽く叩いた。
「……その様子、どうせあなた一人でどうこうできる問題では無いのでしょう?」
「……うっ」
「あなたに、何が、できると、言うんです?」
そう言いながらむにっ、むにっと頬を突かれる。一つ一つの痛みは無いが、精神的なダメージが蓄積されていくのはなかなか厳しいものだ。
「アクゼリュス。そう言いましたね? 何が起きるか、それをどうしたいのかが分からなければ、私も何もできませんよ」
「うぅ……」
「それは、預言を頼ることと同じ意味ですか?」
頼ってもらってもいいんですよ?
そう言うと、紫音の肩に手を置いて微笑んだ。見上げたジェイドは微笑みを残して船室に消えていく。叩かれた頭を撫でながら、紫音は小さく笑う。
(……頼ろうにも、何て言えばいいんだろう……)
街一つが消滅する、なんて。あまりに突拍子の無い事を言えず、紫音は曖昧に笑ってその場を逃げ出した。
21/21ページ