外殻大地編
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「あーあ! 早くカイツールとやらに行こうぜー」
「え~……、確かマクガヴァンさんが橋落ちてるとか言ってたよね?」
ルークの呟きを聞きながら、紫音はまだ覚醒しきってない頭を捻って昨日の会話を思い出す。確かゲーム内でも、橋が落ちているから遠回りを余儀無くされたはずだ。
うんうんと唸る紫音の記憶を信用していないルークが、その言葉を鼻で笑う。見計らったかの様に行商人が通り掛かったのはそんな時だ。
「んなの言ってたかぁ?」
「あーぁ、困ったぞ……。街道沿いの橋が落ちてちゃ、アクゼリュスにも行けやしない……」
「……マジかよ」
「どうやら、紫音の記憶は正しかったようですね? ルーク」
「……わ、悪かったな!」
一応謝罪の言葉を口にしたものの、ルークの顔には分かりやすく不満が浮かんでいる。
「フーブラス川は今の季節、穏やかな水流のはずだぜ。距離的には最短だ」
「だからと言って、靴を濡らすのかよ」
ガイのフォローも何のことやら。フーブラス川に向かって歩きながら、ルークは未だ小鼻を膨らませている。
どうやら、靴を濡らすのが相当嫌らしい。この流れでは、『ルギアを使わせろ!』と言われかねない。背筋を流れた嫌な予感に、紫音はルークに気付かれないうちにそっと最後尾に移動した。
「……、紫音?」
「……あっ、ごめんね。そんな近付かないから」
「……すまない」
紫音のすぐ前を歩くガイと小声で会話をしていると、予想通りルークがルギアで飛べば良いんだと言い出した。最後尾に移動した意味はあまり無かったようだ。
「なぁ! 紫音もそう思うだろ!?」
「う〜ん、特に思わないかな!」
「靴も濡らさない、パッと渡れるんだぞ!」
「ルギアが許してくれるかな?」
『誰がするか、そんなこと』
耳元で騒がれては頭が痛い。
面倒になってルギアに丸投げすれば、ルギアは問い掛けられる前にバッサリと切り捨てた。ルークの言葉をずっと聞いていたせいだろう。応える声は心なしか機嫌が悪い。
「全員乗せられないしね。諦めて」
「じゃあ俺だけでも!」
なおも食い下がるルークに、紫音は遂に堪忍袋の緒が切れた。
自分の望んだことは全て叶えてもらえると思っているルーク。気付いた時には、紫音は彼の頬を思いっきり抓っていた。
「い……っ! ……え?」
「一人だけ楽出来れば良いの?」
「……痛ぇ……!」
赤くなった頬を押さえて茫然とするルークを放置したまま、肩を怒らせて歩き始めた紫音。ジェイド達は、慌ててその後を追った。
「紫音、やり過ぎよ!」
「ティアはムカつかないの? 自分さえ楽できればいいっていうあのルークの態度!!」
「……それは……」
「ルークなんて一人で川越えて、魔物にボコられちゃえばいいんだ!」
腹の虫が収まらない紫音は、足元にあった小石を思いきり蹴り飛ばした。綺麗な放物線を描き、落下した先には。
「……あ」
「おや、怒らせてしまった様ですね。責任を取って一人で相手をしなさい」
コツンっ! という音と共に石がぶつかったのは、この川に生息する魔物、オタオタ。しかし、他の個体に比べて体が大きい。
俗に言うボスと言ったところだろう。
「あなたがボコられないようにしてくださいね?」
「ふぇぇぇえ……。いだっ!」
「ふざけてないでさっさとやりなさい」
言葉と共に紫音を前に押し出したジェイド。紫音一人での戦いの幕が開いた。
「てぃや! 魔人剣!」
「その調子では、いつ終わるか分かりませんよー」
「うるっさーい!」
のんびりと観戦するジェイドの野次に怒鳴り返すが、彼の言う通り、あまりダメージを与えられているようには見受けられない。
ティアもガイも、その様子を呆れた様子で眺めている。このままでは、ジェイドに言われた通り、紫音の方が負けてしまう。
「剣の舞っ! ……効いてない!!」
「まったく……、見ていられませんね」
柔らかい身体がポヨンと斬撃を受け流す。態勢を整える為に距離を取ると、すぐ横を自分と同じ青が走り抜けていった。
それが自分の上官だと気付いた紫音は、驚きのあまり口を開けて呆然とする。
「天衝墜牙槍! 紫音今です、止めを!」
「へ? は、はい! 虎牙破斬!」
二人の連携攻撃に堪えきれず、オタオタが音素に還る。
ようやく倒せた安心感。はぁぁ、と大きく息を吐いて地面に座り込んだ紫音に、遠目から眺めていたティア達も歩み寄ってきた。
ジェイドはと言えば、槍を仕舞いながらにこやかに笑う。紫音が訓練で何度か見たあの笑顔だ。
「あなたの力はその程度では無いと思っていたのですが……、私の買い被りでしたかねぇ?」
「ぐぬぬ……」
「……訓練、やり直しましょうか」
素晴らしい笑顔でそう言われた。
助けを求めるために後ろを振り返るが、その笑顔に裏を感じ取ったらしく、一度は近付いてきたティア達も遠くに避難してしまっていた。
「よろしいですね?」
「……はい……」
今の紫音には、そう答えるしか道は無かった。身体に傷は付かなかったが、心に付けられた傷を思い出す事になってしまった。
§ §
「ルーク、いい加減機嫌直せ」
「……るせぇ!」
「紫音は一人で魔物と戦った上、ジェイドからお叱り受けてただろ」
ズカズカと先頭を歩くルーク。紫音とルギアから飛行移動を拒否されたことを未だに根に持っているのか、先程からルークの態度が酷い。
水を盛大に跳ねさせて歩くルークに、堪らずガイが呼び止めた。
「……おーいルーク!そんな歩き方してると、水に足取られて転ぶぞ!」
「けっ、そんなヘマしねーよ! ……どぅわ!?」
「あー……、言わんこっちゃない……」
バッシャーンと盛大な水飛沫を上げて転んだルークに、ガイは間に合わなかったと頭を抱えた。
彼は服が水を吸っている為か、立ち上がれずじたばたとしている。先程の事もあった紫音は、謝罪の意味も込めてルークを助け起こした。
「さっきはごめんね。大丈夫?」
「……ったく、散々だぜ……」
「ルークが蒔いた種ですからね。自業自得と言うものです」
ブツブツと文句を言い続けるルークに、悪戯っぽく笑ってジェイドは言った。
「ミュウの炎で乾かしてもらいなさい」
「頑張るですの!」
「炎ならウインディもいるよ!」
「殺す気かっつーの!」
ルークはびしょ濡れのままジェイドに詰め寄ろうとするが、再び流れに足を取られて転ぶ。わざとやっているのかと言いたくなるくらいに何度も転ぶ彼を見て、後ろを歩く面々は思わず笑いを漏らした。
「あー……、びしょびしょだぜ……」
「ルークは転び過ぎよ」
ようやく川を越えた。後は街道に出るだけだ。
普通の地面を歩けるからか、ルークはご機嫌だ。ティアもガイもホッとした顔をしている。
だが、紫音は気を抜けない。
(どっから来るんだっけ……)
まもなくアリエッタが現れるはずだ。この場では戦わなかったはずだが、そうなる確証は無い。忙しなく周りを見渡していると、前を歩いていたジェイドが突然立ち止まった。
「へぶっ!」
「……何のために辺りを見渡していたんですか」
紫音が打ち付けた鼻を擦りながら前を覗き込むと、そこには威嚇体勢のライガがいる。
「後ろからも来るぞ!」
ガイの声に振り返れば、そこにはアリエッタ。腕の人形を抱き締めて、キッとこちらを睨み付けている。
「逃がしません……っ!」
「アリエッタ! あなたなら分かってくれるはずです! 見逃してください!」
イオンの言葉に、アリエッタは少し迷うような素振りを見せる。導師守護役から外れたとは言え、やはり彼女にとってイオンは大切なのだろう。
「イオン様の言うこと、聞いてあげたいです……。でも……っ!」
再びこちらを睨み付けたアリエッタに、迷いは無かった。
「その人、ママをどこかに連れて行った! だから、一緒にいる人もアリエッタの敵!!」
ビシッと効果音が付きそうな勢いで、アリエッタは紫音を指差した。その指は微かに震えている。
「何言ってんだ? 俺たちがいつそんな……」
「……ライガクイーン運んだんでしょ? 彼女だよ」
ルークの疑問に紫音が答える。その言葉にイオンも頷き、紫音の言葉に補足する。
ホド戦争で両親を失い、魔物に育てられたこと。魔物と会話できる能力を買われ、信託の盾騎士団に入隊したこと。
「でも、ライガクイーンなら……」
「どこに連れて行ったか知らない……、でも……っ!」
ライガに合図を送ろうとしたアリエッタは、紫音の言葉に息を飲んだ。
「ライガクイーンなら……、アリエッタのお母さんは、ダアト近くの森に運んだよ」
「……っ!? ホント、に……?」
「うん、ホント。こう……、人を襲う魔物を餌にしてくれたらライガ達もアリエッタも、巡礼する人達も悪いことじゃないと思って……」
ニッコリと笑いかけると、アリエッタは少しだけ睨み付ける力を弱めた。そして反対側に控えていたライガを傍らに呼ぶ。
「あなたが連れてる仔達がやったの……?」
「うん、そうだよ」
「……どうして、そんな小さい入れ物に閉じ込めてるの?」
「ポケットモンスターは、こういう狭い空間で休む習性があるんだ」
アリエッタの疑問はもっともだろう。説明を始めた紫音の足元が突然大きく揺れた。
悲鳴が漏れるなかで、地面の割れ目から紫色の霧が噴出してきた。
「……瘴気! アリエッタ、動ける!?」
「……うぅ、ママ……!」
「ダアトに帰れば会えるからっ!」
倒れた際に足を挫いたのか、蹲ったまま動かないアリエッタ。後ろからジェイドが呼ぶ声が聞こえる。だが、このまま彼女を放置すれば瘴気に当てられて死んでしまう。
「……ルギア、頼める?」
「ったく、毒が効かねぇ鋼タイプ連れとけっての」
「今連れてないから仕方ないでしょ! エアロブラストで瘴気を祓って」
よく考えればエアロブラストの無駄打ちになるが、今はそんなこと言っていられない。
今からティアの所まで走ろうにも、アリエッタを抱えた紫音は、速く走れないのだ。
「サーナイト、リフレクター」
瘴気を晴らし、壁を作る。これでしばらくは大丈夫だろう。
瘴気を吸ってしまったせいか、青白くなったアリエッタの息が荒い。手首に指を添えて脈を数えている紫音に、ジェイドの声が近付いてくる。
「脈は……、問題無し」
「紫音、何をしているんですか!」
ジェイドが走り寄ってきた。彼にしては珍しく、その顔には余裕が見受けられない。グイッと腕を引かれた紫音は、そのままジェイドに抱き抱えられる形になる。
「……おい、眼鏡。紫音から離れろ!」
「あなた方は瘴気の危険性を分かっていない!」
「リフレクターが効いてるから大丈夫だよ」
紫音はいがみ合う彼らから離れて、もう一度アリエッタの様子を見る為に腰を下ろした。今は大丈夫だが、自分達がこの場を離れればリフレクターの効果も消えてしまう。
「ジェイド、アリエッタを安全な所に移動させていい?」
「認めません。ここで見逃せば、後々やっかいな事になりかねません」
「でも……っ!」
食い下がる紫音に、イオンからも援護射撃が飛んできた。二人から頼み込まれては、さすがのジェイドもしぶしぶ折れるしか無い。
「……まぁ、良いでしょう」
「良かった……」
今回だけですよ、と念を押すジェイドにおざなりな返事をしながらアリエッタを運んだ。ライガに彼女の事を頼めば、低く唸って了承の意を示してくれる。
それを確認して皆の所に戻れば、先程ティアが歌った譜歌にジェイドが疑いの目を向けている。
「そんなに疑ってばかりだと、若い内に禿げますよ」
「黙りなさい」
紫音がここぞとばかりにからかってみれば、返ってきたのは冷たい視線。
紫音がジェイドをからかうには、まだ力不足のようだ。
§ §
「さて、少し急ぎましょう。瘴気で思ったより時間をとられてしまいました」
そう言うジェイドは心無しか早歩きだ。このペースでは、イオンが途中でダウンしてしまう。急ぐジェイドを横目にウインディに乗って移動することを提案すれば、イオンにはやんわりと断られた。
「僕は大丈夫ですから」
「ならいいですけど……」
少しだけ不安はあるが、イオンが自分でそう言うなら大丈夫だろう。そう結論付けて、紫音は視線を前に向けた。
「……少しよろしいですか?」
歩きながらも譜歌に対する疑問が消えなかったのか、街が見え始めたところで遂にジェイドが切り出した。
「単刀直入に言わせていただきます。ティア、あなたは何故ユリアの譜歌が歌えるのですか?」
「……それは私の一族が、ユリアの血を引いているから……、だと聞いています」
本当かは分かりませんが。
ティアの答えを聞いたジェイドは、考えをまとめる為に一人で何事か呟きながらも、一応は納得したようだ。
その一方で、ルークはヴァンもユリアの子孫に当たると気付き、機嫌を良くしている。
「疑問はこちらもあります。……紫音、あなたはアリエッタの襲撃を知っているように見えたわ。それに、何故アリエッタの親がライガクイーンだと知っているの?」
「ほぁっ。……えーっと……」
ジェイドの思考を邪魔するのは気が引ける。しかし、ティアはジェイドの疑問に答えたのだ。こちらが彼女の疑問に答えない、というのはフェアではない。
「あっと、ほら、セントビナーで六神将いたでしょ。ママを連れてったって聞こえてね、私が移動させたのはライガクイーンしかいないからそうかな〜って……。うん……、アハハ……」
「…………」
「納得いただけない感じ……?」
「……そうね、納得はできないけど理解はできるわ。さぁ、早く街に入りましょう」
淡々と言うティアはそのまま街に向かう。
先ほどより冷たくなった仲間達の雰囲気に、紫音は少しだけ不安になった。