外殻大地編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ヒドイメニアッタ……」
気のせいか、頬がこけた紫音がトレイに人数分のコーヒーを運んできた。
フラフラと安定しない足取りに不安になるが、何とかコーヒーをテーブルに置いた紫音は、そのまま床に倒れ込んだ。
「はわ、紫音!?」
「コーヒーが冷めてしまいますよ。紫音はお気になさらず」
ジェイドの言葉にそれ以上何も言えず、まずイオンが恐る恐るカップに手を伸ばす。
「わぁ……、良い香りですね」
「なぁ、ミルクと砂糖は無ぇのかよ」
「おや、見た目以上にお子さまでしたか」
「……ぁんだと!?」
ムキになって怒鳴り返すルークを横目に、優雅にコーヒーに口を付けるジェイドは、転がったままの紫音を足でつつく。
「紫音、客人がご不満を抱いているようですよ」
「ぐぇ」
「紫音ー?」
「うぅ……、分かったから足でつつかないで……」
もぞもぞと立ち上がった紫音を見送って、ジェイドは一つ咳払いをして話し始めた。
「さて、お遊びはこの辺にしておきましょう。昨日、謎の第七音素の超振動がキムラスカ、ランバルディア王国王都方面から発生。マルクト帝国領土、タタル渓谷付近にて収束しました」
「…………」
「仮にその発生源がお二人だったなら、不正に国境を越えて侵入したことになります」
「けっ、ネチネチ嫌味なヤツ」
「へへへ~、嫌味だって、大佐」
「嫌味を隠そうともしないからね……」
ルークがリクエストしたミルクと砂糖を持って紫音が戻って来た。待ってましたとばかりにコーヒーにぶち込んでいくルークは、ようやくコーヒーに口を付ける。
「それはさておき、ティアが信託の盾騎士団だということは聞きました。ではルーク、あなたのフルネームは?」
「ルーク・フォン・ファブレ。お前らが誘拐に失敗したルーク様だよ」
その名前に、アニスは分かりやすく目を輝かせた。
「公爵……、素敵……!」
「アニス、丸聞こえ」
「はぅっ」
「…………」
ひそひそ話を咎めるように睨まれてしまった。それだけで終わらず、紫音はジェイドに脇腹をつままれる。
「ひょわ~っ!?」
「何故マルクト帝国へ? それに誘拐などと……、穏やかではありませんね」
「誘拐のことはともかく、今回は私の第七音素と彼の第七音素が超振動を引き起こしただけです。ファブレ公爵家によるマルクトへの敵対行動ではありません」
紫音はいないものとして話を進めるジェイドに、戸惑いながらもティアが事の次第を説明する。その説明に、イオンもルークに敵意は無いと付け加えた。
「……そのようですね。温室育ち、世界情勢には疎いようですし」
「馬鹿にしやがって……」
「世界情勢に敏感な人が、敵国でフルネーム名乗ろうとしないよ」
「ぐっ……」
「あだっ」
話の腰を折るな、と言わんばかりに、ジェイドからチョップを食らった。
「ジェイド、部下だからとあまり紫音を雑に扱わないでください」
「イオン様……!」
「紫音がいなくなっては困ります」
「アッハイ」
「ジェイド、協力をお願いするべきです」
「もちろん、こちらとしてのそのつもりです」
その為に連れて来たのだと言うジェイドは、イオンの背中に隠れている紫音を見下ろす。
「紫音、いつまでも遊んでいないで説明を」
「誰のせいだー!」
「紫音? 二度も言わせるつもりですか?」
「アッハイ……」
ジェイドの笑顔に負けた紫音は、仕方なく状況の説明を始めた。行方不明とされているはずの導師イオンが、何故マルクト軍を共にいるのかを。
§ §
『まず私達を知ってください。その上で信じられると思えたら、力を貸して欲しい。戦争を起こさない為にも』
ジェイドの言葉で部屋から解放されたルーク達は、今はタルタロスを探索中だ。案内役には、ルークに気に入られたいアニスが率先して手を挙げている。
一方紫音とジェイドは、タルタロスの甲板にいた。見渡す限りの大自然だ。
落ち着きなく甲板からの景色を楽しむ紫音を横目に、ジェイドは手すりに体を預けながらため息を吐いた。
「あなたが知る未来では、彼らは協力してくれるんですか?」
「ジェイドでも不安に思うことあるんだ……」
「ははは、まるで私には血も涙もないと聞こえますね」
思わず漏れた本音を聞いたジェイドは、途端ににこやかな笑顔を浮かべる。身を守るために慌てて距離を取りながら、紫音は心配ないと答えた。
「詳細は省くけど、ティアもいるし一緒に行動した方がいいってのは分かってくれるはず!」
まぁ、乗ってしまえばここからトラブルのフルコースが始まる訳だが。続きを飲み込んでにっこりと笑ってごまかした紫音に、ジェイドは何かを察したように肩を竦める。
「嫌な予感がする、と考えておきましょう」
「嫌な予感ついでに忠告なんだけど、ジェイドは特に気を付けた方がいいよ」
憂鬱だとわざとらしくため息を吐くジェイドに、紫音は真剣な顔でそう言った。しかし、忠告を受けたジェイドは、興味が無いことを隠そうともせず聞き流す。
「ははは、ご心配なく」
棒読みの返事に、紫音の不安が大きくなるだけだ。ただでさえ、ほぼ一般人の紫音が一緒に旅をするのだ。ジェイドが弱くなるのは困る。
どうしたものかと考えを巡らせ始めた紫音の思考は、甲板の扉が開いた事で中断することになった。
「やぁルーク。両手に花ですね」
「くぅ、羨ましいなルーク!」
タルタロスを一通り回ったルーク達が甲板にやって来た。両サイドに女性を連れていることをからかってやれば、二人とも全く違う反応を見せる。
「やーん、大佐ったらぁ!」
「わ、私はそんな……」
ここまで違うと、逆に面白い。
だが、照れて否定するティアに、ルークはミュウのことだろうと首を傾げた。
「…………」
「うわ……」
「ルーク、ちょーっとお話ししようか」
「な、何だよ……!」
あまりの言い方に、紫音はルークを引っ張って甲板の隅っこに移動した。
何の用だと顔をしかめるルークの頬を思いっきり引っ張る。もちろん痛いと騒ぎ始めるが、紫音はそれに負けじと言い返す。
「ティアに何て言った!? もう一回言って!」
「いっててて! 何だよ! 花はミュウのことだって言っただけだろ!?」
「花は女性に対して使うって知ってる? 両手に花って同じ例えを使うんだから人間と魔物に対しては言わないの!」
「いいだろ別に! ミュウだってメスだし……」
「まー! それなら両手と頭にお花で良かったですわね!!」
「何だその言い方! お前バカにしてんな!?」
「ご主人様違いますの! ミュウは男ですの!」
「……お前オスかよ!!」
「紫音、怒ってくれなくていいのよ。悪気が無い分タチが悪いだけで」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人に、ミュウとティアが割って入った。ルークは頬が赤くなっているし、紫音も髪がぼさぼさになっている。このまま長引くと終わらないと思ったのか、ジェイドも強引に話を変えた。
「ルークの教育係に会ったらちゃんと教育してって文句言ってやるぅ……!!」
「紫音、そこまでにしなさい。さて、気になっていたのですが、先ほどの話にあった誘拐とは何なのですか?」
「ちっ、知るかよ。お前らマルクトの連中が俺を誘拐したんだろ」
「……ふむ、少なくとも私は知りません。先帝時代の話でしょうか……」
「マルクトを騙っていた可能性もあるね」
「……その可能性は高いですが……」
「ごちゃごちゃ言いやがって。そのせいで、こっちはガキの頃の記憶が無くなっちまったってのに」
ルークが睨み付けながらそう言った。まるで、ジェイドと紫音のせいだと言わんばかりの様子だ。
「……そう言われましても……」
助けを求めるように横に立つジェイドを見上げれば、彼も少し困ったような顔をしている。
「……いろいろ不満はあるでしょうが、何とか協力の決心をしていただきたいものですね」
話は終わりだ、とばかりに船内に戻るジェイド。その背中を見ながら、ルークは納得いかないという顔をしている。
「訳分かんねぇよ……」
「うーん、ごめんね。ルーク達はまだ部外者だから、詳しいことは話せなくて。後で説明するって言ってたルギア達のことも、実は協力者にしか話せないんだ」
「何だよそれ……」
「それに、二人で旅するより、人数多い方が楽しいよ! 旅は道連れ世は情けって言葉もあるくらいだし」
「はぁ?」
ルークは怪訝な顔をしているが、紫音は言うだけ言うと甲板を後にした。
ジェイドには自信満々に言ったが、実際は来てくれるか不安だった。いろいろと考えたであろう彼らがブリッジに姿を見せたのは、それから一時間以上経ってからだった。
「昨今、局地的な小競り合いが頻発しています。恐らく、近いうち大規模な戦争が始まるでしょう」
「最近の大きなホド戦争から十五年しか経ってないしね」
説明のための前置きとして、今の世界情勢を簡単に説明する。
表向きは平和な世界。だが、裏では様々な思惑が絡み合い、簡単に解決できない状態になっているのだ。
イオンが行方不明とされているのも、その思惑が絡んでいること、イオンを使者としてキムラスカとの和平の提案を行うことなどの説明をした。
「……モースは、戦争が起きることを望んでいるんです。僕はマルクト軍の力を借りて、モースの軟禁から逃げ出して来ました」
助け出してくれた紫音達には頭が上がらないと笑うイオンに対し、ティアは抗議の声を上げる。いわく、大詠師は、そんなことを望んでいないと。
「モース様は、預言の成就だけを祈っておられます!」
「じゃあその預言に戦争が起きる、ってあったらそれに従うってことだね」
「うっ……」
「ティアさんは大詠師派なんですね。ショックですぅ……」
紫音の意地悪な確認、そしてアニスが漏らした言葉に、ティアは少なからず動揺した様子だ。いつも真っすぐな目で言葉を返すのに、珍しくその目が泳いでいる。
「わ……、私は中立よ。ユリアの預言はもちろん大事だけど、イオン様の意向も大事だわ」
「そんな目を泳がせながらじゃ説得力が……」
「おーい! 俺を置いてけぼりにして勝手に話を進めるなー!」
さらに意地悪く言葉を続ければ、話に着いて行けずにふて腐れたルークに遮られた。見れば、そうとう不機嫌な顔をしている。
「ごめん忘れてた!」
「はぁ~!?」
「えぇ、すみません。あなたは世界のことを何も知らないおぼっちゃまだということを、すーっかり忘れていました」
「好き勝手言いやがって……!」
ルークはガタンっ! と物凄い音を立てて立ち上がり、肩を怒らせてこちらに向かってくる。目標は、最初に怒らせた紫音だ。
「俺は公爵家の人間だぞ! 分かってんのか⁉」
「ここはマルクトだよ? キムラスカの爵位はここじゃ役に立たないかなぁ」
「ぐっ……」
言い返された言葉に、反論が見付からないルークは、そのまましどろもどろになり、結局は大人しく元の場所に座る。
「くそっ……」
「なかなかやりますねぇ」
「ルークが単純で助かりました」
そう言ってルークににこやかに笑いかけると、何故か怯えたような顔をされた。そんな反応は心外である。
肩を落とした紫音に苦笑いしながらも、イオンが話を進めていく。
「……えーと、教団の実情はともかく、僕らは親書をキムラスカへ運ばなくてはなりません」
「とは言っても、我々は敵国の兵士。和平の使者と言っても、すんなり国境を越えられません」
そこで、ルークの方を見たジェイドははっきりと言った。
「そこで、マルクトでは役に立たないあなたの爵位が必要になってきます」
「おいおいおっさん、その言い方は無ぇだろ?」
地位を必要とされた時、ルークの態度は明らかに横柄になった。その態度は、人にものを頼む態度ではないとジェイドを挑発する。横からティアが諌めるが、その程度で聞くルークではない。
やるのか、やらないのか。口にはしないが、明らかにそう言っている。
ゲーム中も感じたが、ここまで来るとお馬鹿さんを通り越している。
「はいはい、やりますよ」
「紫音?」
勢いを付けて、ルークの足元に滑り込みながら土下座を披露する。スライディング土下座と言うやつだ。
少し膝が熱いが、派手なパフォーマンスを見せれば、ルークも了承してくれるはず。
「うおっ!?」
「少尉!」
「大佐に膝を付かせるまでも無いです。……どうか、そのお力をお貸しください、ルーク様」
その場にいる全員が驚いた。まさか紫音がやると思わなかったのだろう、膝を付くことを要求したルークさえ、咄嗟に言葉が出てこない。
「な……、何でお前がするんだよ……?」
「大佐に膝を付かせるまでも無いです」
「……それはさっき聞いた」
頭を下げたまま返事をすれば、すぐ横に見慣れた軍靴が見えたかと思おうと膝を曲げるのが見えた。
「師団長まで!」
「なっ……! ジェイド!?」
「部下にやらせて、私がやらない訳にはいきません。
マルクト軍、第三師団長の私からもお願いします。ルーク様」
「お前ら、プライド無ぇなぁ……」
やらせたのは誰だ、という言葉を飲み込み、ジェイドに倣って立ち上がる。
ルークの言葉に腹を立てることも無く、笑顔で皮肉を返す上官を素直に尊敬する。
「……分かったよ。叔父上に取りなせばいいんだな」
「ありがとうございます。私は仕事があるのでこれで失礼しますが、ルーク様はご自由に」
「私も仕事があるんで失礼しますね、ルーク様」
話が終わったとたんに、ルークはキモいと言い出して様付けを嫌がる。嫌だと言われたら言いたくなっていまう。ちょっとした仕返しだ。
「分かりました、ルーク『様』」
「失礼しました、ルーク『様』」
にっこりと言ってやれば、これまでで一番嫌そうな顔をされた。そのまま部屋を出ようとすると、ティアに慌てて呼び止めれられた。
「あのっ、ルギア……? 達のことは?」
「あぁ、皆揃ってから説明するね!」
「みんな……?」
疑問符を大量に浮かべている彼らを残して、紫音はそっと扉を閉めた。
シナリオ通り、ルーク達の協力を取り付けた。だが、紫音の前には新たな問題が立ち塞がっている。
「うーん、どう立ち回ろうかな……」
悶々と考え始める紫音。その襲来は、もう間もなくという所まで迫っていた。