外殻大地編
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「うぅーん、落ち着かないなぁ……」
『何でだよ。ちゃんと似合ってるぜ?』
「えぇ、とてもお似合いですよ。……いかにも無能っぽくて」
「くっ、上げて落とすスタイル……、ですね!」
紫音達は今、導師救出の任務に向かうため港にいた。
ジェイドと紫音は、目立つ軍服を脱いで巡礼者が身に着けるような服装に。そして着いて来たピオニーは、帽子をかぶり眼鏡をかけて変装をしている。
「わざわざ陛下まで来なくても……」
「これからのマルクトを左右する大事な任務だぞ? 激励してやらねばと思うのは当然だ」
「紫音、これは使えない学びなのですが……。陛下が執務から逃げる為の理由は何だっていいんです」
ここぞとばかりに胸を張るピオニーに、ジェイドがため息混じりに言った。
皇帝陛下の性格から、そんなことだろうと思っていた紫音は、ジェイドのように大きなため息を吐く。
『辛気くせぇ顔で海に出ると、飛び込むんじゃねぇかって船室に押し込められたりしてな!』
「シャレにならないから止めてよ~」
ボール越しにからかうパートナーを、苦笑いしながらも軽くボールを揺らす。
普段海にいるというのに、どことなく浮かれた様子のルギアを港に着くまでも何度か叱って来た。しかし、叱れば叱るほど、ルギアの態度は悪化するだけ。
『……ルギア、明日から紫音は初任務に就いてもらいます』
『ほーん、そーですか』
『心配ではないんですか?』
『心配さ。心配だとも! でも俺は行けないんだろ? ま、他の奴らもいるし……』
昨日のジェイドとのやり取りを思い出し、ルギアは苦々しく舌打ちする。
(あの野郎……!)
有事の際はその力を振るう。その代わりに、グランコクマを離れて紫音と共に任務に行ける。
(紫音の言ったこと、分かってるんじゃなかったのか……!)
ジェイドが提案したのは、紫音が望んだ【ポケモン達を戦争の道具にしないこと】を無視したものだった。ルギアの巨体から放たれる重圧は、仮に力を振るわなくても十分に威力を発揮する。ジェイドの要求は、さらに一つ上のものだった。
それは、ルギア達のようにトレーナーがいるポケモン達は、彼らと共にいたいという想いを利用した悪魔の提案。
(ちくしょう……! 紫音、ゴメン……)
ルギアが今紫音と共に旅立とうとしている事が、彼女への裏切りなのだ。
ボール越しにジェイドを睨み付けると、ルギアの心を知ってか知らずか、ジェイドは余裕の笑みを浮かべていた。
「導師を救出したら、そのままエンゲーブに向かってくれ。キムラスカへの親書が、それを追う手筈になっている」
「親書、今受け取った方が……?」
「なっ……、失くしたら困るだろ? それだけ大事な物なんだ」
「陛下、できていない……、とは聞かないでおきましょう」
紫音は、親書は遅れて届くと知りながら、あえて親書を受け取るために手を伸ばした。途端に慌て始めたピオニーの様子に、思わずにっこりしてしまう。
「はっ! まさか紫音、知ってたんだな? 知ってて親書を話題に出したな!」
「念の為ですよ!」
「ぐぅ……! 絶対届くから心配するな! 頼んだぞ!!」
旗色が悪くなったとみるや、船に二人を押し込んだピオニーに見送られて、紫音達はグランコクマを後にした。
§ §
紫音達は、船から船を乗り継ぎ、ようやくダアトの港に到着した。
サーナイトのテレポートを使うためにも、まずは人通りの少ない路地で作戦会議だ。
「まず、導師守護役と接触しなければいけません。その特徴、覚えていますか?」
「黒髪のツインテ―ル、ピンクの服を着たかっ……、女の子」
可愛い、を付け足そうとして、紫音は慌てて首を振る。まだ会っていない子を可愛いと言ったら、ジェイドは彼女も何か関係してくると気付いてしまいそうだ。
「ふむ……、少し不安ですが、まぁそれだけ分かっていればいいでしょう。『恋人』の話題を振った時には?」
「お金が恋人です」
「合言葉は問題ありませんね。あとは、時間を待つだけです」
相手が設定してきた合言葉。
普通の巡礼者と間違えないように、との事だが、さすがに不自然すぎる。
(まぁアニスだし! 分かりやすくていいと思う!)
「……ニヤニヤと楽しそうですね」
心の中に留めておくつもりだった笑顔が、気付かずに顔にまで出てしまっていたらしい。
気味が悪いと言わんばかりの顔をするジェイドに、紫音はにっこりと笑った。
「合言葉にお金を指定してくるような人ですよ? どんな人か楽しみだなぁってだけです」
「……そういうことにしておきましょう。敬語も外していただいて結構ですよ」
「えっ!?」
「特例で軍人になっていただいただけですので。人目が無いところでは構いません」
「ありがとう! いやー、ずっと敬語だったから肩凝っちゃって……」
「二人とも敬語では、潜入を疑われると思っての提案だったのですが……。撤回はしませんが、陛下への敬語は忘れないように」
「はい!」
「いいお返事です。では、そろそろ行きましょうか」
そうジェイドに促されて、紫音はいよいよダアトの本教会の敷地内に足を踏み入れた。
街道もなかなかの人通りだったが、中に入ると予想以上の人混みに、うっかりしているとジェイドとはぐれてしまう。はぐれてしまえば、仮に背の高いジェイドを見付けたとしても合流できる自信が無かった。
「……この手は何ですか?」
「あ、これはですね、はぐれない為に掴ませてもらいました!」
「……元気があっていいことです。しかし、この手は離してください」
「えー! はぐれたらどうすればいいの!?」
腕を掴んだまま離さない紫音に呆れたのか、ジェイドは今まで見たことも無い大きなため息を吐いた。ついでとばかりに紫音の額を指で弾き、彼は雑踏の中に進んで行く。
「友好度が足りなかったか……!」
「身元不明なあなたに対して、これ以上無い友好的な態度ですよ」
この雑踏の中での独り言が聞かれた。慌てて口を塞いでジェイドに駆け寄る紫音は、教会の入り口で手持ち無沙汰に座る少女に気付いた。
癖毛のツインテ―ル。桃色の教会服。そして背中にぬいぐるみを背負っている導師守護役。
可愛い……! それがアニスへの第一印象だった。
彼女が可愛いことは知っている。だが、実際に見たアニスは、紫音が思っていた数倍可愛らしい。特に暇だと隠そうとしない少しむくれた顔。可愛い。
「ははは、ニタニタ気持ち悪いですね」
「にこにこでっす! 訂正して!」
アニスを前にしてデレデレしていた紫音は、ジェイドに足を踏まれてようやく我に返った。気付けば、アニスは不審者を見る目でこちらを睨んでいた。
「はぁ……、この調子では恋人を紹介してもらえるのはいつになるのやら……」
「構いませんよーだ! 私の恋人はお金ですから!!」
自然を装って、アニスの傍でそんな会話をすると、アニスも待ち合わせの相手が来たと認識したらしい。
品定めの視線を向けながら立ち上がったアニスは、何やら頷いている。
「顔よし、身長もよし……。あとは家柄と役職だな……。とりあえず……」
「でゅえ」
紫音を押し退けて、ジェイドを路地裏へ引っ張っていくアニス。押し退けるついでにぎろりと紫音を睨むのも忘れない。
「もう待ちくたびれちゃいましたぁ……。あ、私、アニス・タトリンって言います! 導師守護役を仰せつかってます。気軽に『アニスちゃん♡』って呼んでください!」
路地裏に突き進みながら、ばっちり決まったアニスの自己紹介。しかし、ジェイドは一通りアニスの自己紹介を言わせた後にこやかに笑った。
「おやおや、ご丁寧にありがとうございます。先に導師の所まで案内をお願いしますね、アニスちゃん?」
ジェイドの返事に、アニスの元気はあっという間にしぼんでいく。とぼとぼと歩き始めた彼女の後ろを並んで、笑顔のままジェイドは続ける。
「我々の自己紹介は、導師にお会いしたその際に」
「ふみゅううぅ……、て、手ごわい……!」
でも、アニスちゃんはやればできる子! そう自分に気合を入れているアニスは後ろ姿までとても可愛かった。