外殻大地編
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「それでは、イオン様を呼んできますね! 急いで戻って来るので、待っていてくださいね♡」
「はーい!」
ジェイドに笑顔を向けてそう言ったアニスに紫音が返事すると、案の定凄い顔で睨まれた。ジェイドには見せないようにその顔のまま部屋を出ていく器用な特技を見せたアニスを見送って、ジェイドは小さく肩を竦めた。
「……ずいぶんにぎやかな子ですね」
「可愛くていいと思う」
「そればかり……。やれやれ」
人気のない廊下の奥、二人しかいない静かな部屋の中。ジェイドの言葉通り、にぎやかなアニスがいなくなると、とたんに静かになった。
その静かな空気が重苦しく感じて、紫音はサーナイトがいるボールを握り締める。
「……上手くできるかな……」
「あなたが不安がっていては、サーナイトも力を出し切れないのでは? ……しっかりしてくだい。すべてはあなたの肩にかかっている」
ジェイドが優しい声音で紫音を励ました。
その声に驚いてジェイドを見ようとした時、アニスが元気よく帰って来た。
「お待たせしましたぁ!」
アニスの後ろから、儚げな笑顔……、ではなく、少し苦しそうな顔をしている少年が顔を覗かせた。
「こちらが、イオン様です……!」
走ってきたせいか、アニスの息が少し荒い。人目を避ける為に走って来たのだろう。
「……ねぇ、アニス。イオン様めっちゃ苦しそうなんだけど……。大丈夫ですか? イオン様……」
「……ぼ、僕なら、大丈夫……、です……」
紫音が声を掛けると、イオンは優しく微笑んだ。
その笑みを見て表情が曇ったアニスは、急いでここから離れようと提案する。
「休んでもらうにしても、ここじゃすぐに見付かっちゃいますよぅ!」
「それは……、そうかもしれないけど……」
こんな青白い顔で大丈夫なのだろうか。ゲームでは分からなかったが、こんな顔をしていたなんて。
「紫音」
ジェイドに呼ばれて、紫音は唇を噛みながらもサーナイトをボールから出した。
サーナイトが現れるなり、アニスは杖を構えて臨戦態勢になる。ポケモンのことを伝えていなかったのかと、隣に立つジェイドを睨むが、彼は涼しい顔をしている。
「偽者だった……!?」
「こんな魔物もいるんですね……」
「イオン様、感心してる場合じゃないですよ!」
「やはりこれが普通の反応ですよねぇ」
ふむふむ、と頷くジェイドは、アニスたちの反応に満足したようだ。そのせいで、アニスからの敵意を一身に受ける事になってしまったサーナイトは、逃げるように紫音の背中に隠れてしまった。
「この子の力が無いと脱出は難しいって判断なの! 申し訳無いけど警戒解いて欲しいな……」
職業柄、それは難しいだろう。どうにか納得してもらうために、サーナイトの瞬間移動で脱出するのだと懇願して、ようやく臨戦態勢は解いてくれた。
それでも、すぐ譜術を使えるように杖を手放さないのはさすが導師守護役だ。
「ありがとう!」
そうお礼を言って、後ろに貼り付くサーナイトを振り返る。目で合図をすると、微笑みで返事をしてくれた。これなら大丈夫そうだ。
「サーナイトを囲んで! できるだけくっついて……。うん、念のため手も繋いでおこう!」
「何で?」
「バラバラにならないように、だよ」
全員が手を繋ぐのを待って、サーナイトはその細い腕を広げた。アニスはまだ怪訝な顔をしていたが、足元が突然光り出したことに驚きの声を上げた。
「何これ!? 大丈夫なの!?」
「大丈夫! 私を信じて!」
「信じられる訳ないでしょお~っ!?」
アニスの悲鳴だけを残して、その部屋にいたはずの四人と一匹は忽然と姿を消した。
§ §
「みんないる~?」
サーナイトのテレポートでダアトの港に到着した紫音は、ぐったりしている面々を振り返る。
初体験のアニスとイオンが座り込んでいるのは分かるが、何度か実験に付き合ってくれたジェイドまで笑顔が引きつっている。
「はぁ~、とんでもない経験した……」
「うぅ……」
「これがポケモンの力! そのポケモン達から協力してもらうのがこの私、針谷 紫音です!」
「その監視役、マルクト帝国軍第三師団ジェイド・カーティスです」
「心強いです……」
大仕事を見事成功させたサーナイトは、ボールの中でご褒美のおやつを堪能している。
導師を奪取した紫音達は、ここからが本番だ。
「さて、まずはセントビナーに向かい、そこで本隊と合流します。移動の為にこれを羽織ってください」
てきぱきと指示をしながら歩き出すジェイドの言葉に、紫音は胸の中で気合を入れ直す。
自分ができることを一つ一つやっていこう……。そう決意して、紫音はまた新しいボールを手に取った。
「さよなら、平穏」
「……紫音? ルギアが不調ですか?」
小さく呟いた言葉は、隣にいたジェイドにも聞こえなかったらしい。悪口は聞こえるのに……、と思ったが、今はぐっと我慢して、紫音はボールを開いた。
「何でも無い! ルギア、お願い!」
ボールから飛び出して来たルギアに、アニスが驚いて詠唱を始めるのを慌てて止めながら、紫音は今、自分が生き生きしていると感じていた。