外殻大地編
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才能が無い譜術もどきを発動させた紫音が倒れた翌朝。
大事を取って一日休みを貰った紫音は、朝からルギアの背中に乗って空を飛んでいた。伝説のポケモン、その上エスパータイプの力をフルに使えば、ルギアは離れた場所から話し掛ける事が出来るらしいのだが。
「そう言えば、何で俺以外ボールから出さねぇの?」
寝起きにそう聞かれて、それに答える為に朝から海に出かけたと思ったら空を飛んでいた。展開が早い。もう少し眠っていたかった紫音の睡魔は、風と共にはるか後方に飛んで行ってしまった。
「手持ち達のこと忘れるなんざトレーナー失格だぜ、紫音」
「忘れるも何も、今さっき初めて知ったよ!」
「お前なぁ……、嘘もたいがいにしろよ」
「ルギアを入れるボールも持ってないのに!?」
モンスターボールがあれば、わざわざ目立たない深海に、なんて話も無かった。それを思い出して、ルギアも顔をしかめる。
「……そう言えばそうだな。でも没収された荷物、全部返って来ただろ」
「返って来たけど、こっちじゃ使えないなけなしのお金と小説しか入ってなかったよ!」
紫音の様子に、嘘は吐いていないと判断したのだろう。質問攻めが終わったことに安堵する暇も無く、ルギアは速度を上げた。
「あの眼鏡野郎、潰してやる!」
「アァー!!」
紫音の悲鳴も聞かず、ルギアはボールの気配を感じる方向へ進路を変える。
その頃、マルクト帝国軍研究施設では、大騒ぎになっていた。
「暴れ出したぞ! 制圧要請を……、うわあぁぁ!?」
「冷たい! 死んでしまう! 助けてくれぇ!!」
紫音の荷物から発見され、未だ彼女に返還されていない物。赤と白のツートンカラーのボールには、謎の魔物達が飼い慣らされていた。
空っぽの物を含めてその数十一。それに入っていた魔物が、突然自分の意思でボールから飛び出して来たのだ。
風吹が舞い、炎が突撃してくる。
訳も分からぬまま体が宙に浮き、どこからともなく刃が襲ってくる。
「何事だ!」
「カーティス大佐!!」
ジェイドが報告を受けて研究施設に駆け付けた時には、全てが手遅れだった。
まるで、何が大事なものか分かっているかのように、記録装置や研究に必要な譜業が徹底的に破壊されている。
炎に飲まれた研究施設の中で、赤い魔物が一つの装置に噛み付いていた。その中に、小さな体を震わせている魔物が一匹。
「君達は、あの魔物に何を?」
「はい?」
「何をしたのかと聞いている」
死に際の鳴き声を聞いたジェイドは、傍にいた研究員に詰め寄る。
「私は、あれを上手くコントロールできる方法を考えろと言ったはず。瀕死になるまで痛め付けろと言いましたか?」
「ほほーん、そういう事かよ眼鏡野郎ぉ……」
聞こえて来た声に、はっとして上空を見れば、白い巨体が悠然と降りてきた。
その背中には、一日休みを言い付けたはずの紫音もいる。
(見張りを付けるべきだった……!)
特殊な力を持つ紫音の魔物を、自由に扱う事ができれば。
その為には、紫音の命令が無くてもこちらの意のままに動かす方法を考える必要があった。彼女がやって来たことで露見し、その目論見も砕けたわけだが。
「ふざけんじゃねぇぞこの野郎!」
「ルギア! その前に私下ろして!」
「その前に俺が潰す!」
「ミズゴロウ探すのが先だよ!」
ルギアと言い合いしていた紫音は、いつまで経っても下ろさないルギアに埒が明かないと判断したのか、その背中から飛び降りて迷うことなく燃える研究所に走って行く。ジェイドの横を駆け抜ける紫音を止める暇も無かった。
「くっ……、待ちなさい!」
「おい、危ねぇぞ!!」
ジェイドとルギアの制止も聞かず、紫音は一目散に研究所を駆け抜ける。
視線の先には、炎の熱に弱り切ったポケモンがぐったりしていた。他のポケモン達も、少なからずダメージを受けている。
合わせて四匹。やはり一匹いない。
「ミズゴロウ! どこ~!」
紫音は、声の限り叫んだ。燃え盛る爆炎に負けないように。煙で喉を焼かれながらも、紫音は叫ぶのを止めない。
「聞こえてたら返事して~! ミズゴロウ、おーい!!」
叫び続けていると、紫音の耳に微かに鳴き声が聞こえた。
か細い声に振り返れば、透明なカプセルに入れられたポケモンが一匹。閉じ込められたその体は傷だらけだった。
「何これ……! 待ってて、すぐに出すからね!!」
紫音はカプセルを開けようと、装置を触ってみたり叩いたりしてみた。そんな方法で開くはずも無く、無情にも警告音が鳴り響く。
「何でっ……、開いてよ……!」
「そんなやり方では一生開きませんよ」
「ジェイド……! 助けて、このままじゃミズゴロウが……!!」
必死に装置と戦っていた紫音は、ジェイドの声に驚いて振り返る。視線の先にいたジェイドは、何故か所々軍服が切り裂かれていた。
「……あの、その服は……?」
「……あなたのポケモン達は、自由に動くのですね」
「はぁ、まぁ……」
「ルギアにやられました。怒られて来い、だそうです」
肩を竦めたジェイドが慣れた手付きで操作盤を触ると、数秒もかからずカプセルの蓋が開いた。
「ポケモンも、私達と同じように意思があります。無理やり命令を聞かせようなんて、反乱が起きて当たり前です!」
「どうやらそのようですね」
反省しています。
そう言って頭を下げたジェイドの腕の中で、傷だらけの小さなポケモンが微かに笑った。