外殻大地編
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紫音がマルクト帝国に来て一晩が明けた。
ピオニーの厚意で、城の客室を借りて眠りに就いた紫音。次に目が覚めたら真っ暗な世界なのでは、と言う考えは、朝日の光に消えて行った。
(生きてる……。夢じゃないんだ)
窓の外に目をやれば、憎らしいほどにいい天気。
「はふぅ……、これからどうなるんだろう……。そもそも、時間軸はいつ頃なんだろう……」
「紫音様、ピオニー陛下がお呼びです」
紫音が静かに呟いた言葉は、ノックの音に消える。
昨日は、ジェイドに尋問されて終わった。今日も尋問が待っているのかと思うと、布団から起き上がるのも億劫だ。だからと言って、叩き起こされるのも怖い。渋々扉の向こうに返事をして、紫音はもぞもぞと用意を始めた。
「おっ、やっと来たな」
案内されたのは、昨日と同じく大広間。変わったことと言えば、この場にいる人数くらいだ。
玉座に座るピオニー。その近くに控えているジェイド。
そして、二人に向き合う形で立つ紫音の三人だけの静かな部屋だ。
「安心しろ。人払いはしてある」
「あなたの話を、陛下にも聞いてもらう必要があると判断しました」
(うぅ、やっぱり……!)
紫音は二人に気付かれないように、そっと息を吐く。
分かっていたことではあるが、何から説明すればいいのか。
「えーっと……、私は違う世界から来ました」
「それは昨日も聞いたな。お前の様子とルギアの存在。嘘を吐いている様子は無い」
「ルギアの存在は突然の報告でした。だと言うのに何故、あなたは私の事を知っていたのかをもう一度説明して頂けますね?」
当然の事だが、二人の表情は厳しい。
「あなた方は、私の世界では物語の登場人物です。ジェイド・カーティス大佐は、ピオニー陛下陛下の命を受けて、キムラスカ王国との和平を結ぶために……」
「ちょーっと待った! いったん待ってくれ」
紫音の言葉を遮り、ピオニーが制止の声を上げた。
驚いて口を閉じると、頭を抱えるピオニーの横でジェイドは呆れたように肩を竦めている。
「そんな話は無いと昨日言ったんですが……。陛下?」
「あるんだよ、そんな話が……。後日頼もうと思っていたんだ……」
「……はい?」
「耳を貸せ」
小声で相談を始めた二人に、取り残された紫音も不安になって来た。
「もしもーし」
小声で存在を主張すると、ハッとして口を噤んだ様子を見せられると、不安が膨らむばかり。最後に視線だけで会話したかと思うと、ジェイドがゆっくりと紫音に歩み寄って来た。
「あなたの処遇が決まりました。……あなたはこれより軍人として、私の第三師団に所属していただきます」
「……はい? あの、私戦争の無い国で生まれ育って来たんですけど!」
軍人として。それはつまり、人を殺さなければならない時が来るかもしれないという事だ。
戦争は遠い話として生きてきた紫音が青ざめるのを見て、ジェイドは安心させるように彼女の肩を叩く。
「ご心配なく。あなたが軍人になるのは隠れ蓑です」
「隠れ蓑……?」
「お前は、この世界の物語を知っていると言った。まだジェイドに伝えていなかった和平の事を知っていたし、信憑性はちょっぴりだがあると判断した」
ピオニーの言葉に、紫音は頷いた。
「ルギアのこともあり、監視しなくてはならない。ならば、事情を知る者、そして失言してしまった時のフォローが上手い者が適任だ」
紫音は、ようやく彼らが言わんとしていることが分かった気がした。
監視しつつも、預言とはまた違う未来を知るであろう紫音を他の者に利用されない為の防護柵。それは、紫音にとってもありがたい話だ。
前線に出ることになっても、敵軍との戦闘は少ないであろう後方部隊に配属されるのだから。
(まぁ、ジェイドにくっ付いて行く時点で、戦わなきゃいけないんだけど)
それでも、違う世界に来た心細さゆえに、画面越しだったとは言え、知っている人が近くにいた方がいい。
「分かりました……」
「いい返事です」
「決まりだな。……と、いう訳でこれを」
「……これは?」
にっこりと笑ったピオニーから渡されたものは、見覚えのある青い軍服。言わずもがな、マルクト帝国軍の軍服だ。
「サイズはぴったりだと思うぜ」
「あ、……アリガトゴザイマス……」
いつの間に測ったのか。
紫音は驚きのあまり、疑問を口にすることもできず、片言で謝礼を述べるとぎこちない動きで大広間を退出して行った。
もちろんピオニーが測った訳ではなく、紫音の華奢な体に合う一番小さいサイズを用意しただけである。紫音が退室した後、紛らわしい言い方をするなとジェイドに怒られている事など知る由もなく、勘違いを訂正される事も無かった。