外殻大地編
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「……で、これは何だよ?」
「逃げ出されて騒ぎを起こされては、こちらも困りますからね」
広間での取り調べが終わると、当たり前のようにルギアに拘束具が取り付けられた。紫音が強制ギブスみだいだな……、と思ったのは一瞬。すぐに我に返った紫音は、ルギアに群がる兵士達に割り込んだ。
「こんなの聞いてないですよ! 外してください!!」
ルギアの前で両手を広げてそう抗議するが、紫音はすぐに兵士達が作る輪の外に弾き飛ばされてしまった。
「……評議会の連中が、解放するのならこれだけは譲らんと頑なでな……」
すまない、と小さく謝罪するピオニーに、紫音はそれ以上何も言えない。
今の紫音達は、謎の魔物とそれを使役する怪しい人物。こうして監視付きとは言え解放してもらえたのは、全てこの皇帝陛下のお陰なのだから。
「……仕方ないですよ。評議会の人じゃなくても、ほとんどの人がそう言うと思います……」
「おや、ご自分の立場をよくお分かりのようですね」
紫音の言葉に、少しだけ、ほんの少しだけジェイドが微笑んだ。
(理解が早くて助かります、なんて思っているんだろうな)
「おーい、当事者の俺は無視かよー」
大人しくされるがままになっていたルギアが、不貞腐れた様な顔で紫音達を見下ろしている。
「おや、ですがあなたのトレーナーさんは、我々が譜業を装着することを許していただけているようですが……」
ルギアは紫音の決定に逆らえない。
ジェイドは、これまでの短時間で紫音とルギアの関係性を何となく推察していた。
紫音は、ルギアのような魔物を従えることができる魔物使い。そしてルギアは、口ではぶつぶつと文句を言ってはいるが、そのくせ紫音の指示に準じた行動をとっている。そして恐らく、主従関係がある。
つまり、紫音をだしにすれば。
「……ちっ、言われなくても分かってるよ」
うるせぇ眼鏡野郎だな……、と苦々しく顔を歪めながらも頷いた様子に、ジェイドは満足げに頷いた。
やはり、紫音の言葉を引き合いに出せば、ルギアは大人しく指示に従うようだ。
(これはいい拾い物をした)
「あ、あの、カーティス大佐、ピオニー陛下……」
自分達を呼ぶ控えめな声に、ルギアを見上げていた二人は紫音を見下ろす。
「……私のことはジェイドとお呼びください。ファミリーネーム二馴染みが無いことはご存知ではありませんでしたか?」
「いや初対面ですし……、いきなり名前で呼ぶのはちょっと……」
「俺は気軽にピオくん♡ と呼んでくれても……」
「おやおや、陛下は冗談がお上手ですね」
「ひぇ」
にゅっと顔を近付けたピオニーを引き剥がして床に放り投げた。
その一連の流れの美しさに、紫音達は状況をすぐに飲み込めずに目を白黒させる。瞬きをする間に、先ほどまでにこやかに笑っていたピオニーが床に伸びている。
(えぇ……、こわっ)
(きれいな顔してえげつねぇ)
紫音達の視線を受けるジェイドは、特に気にした様子も無く眼鏡の位置を戻した。
「さて、話を戻しましょう」
足元に転がる皇帝には一瞥もくれぬまま、彼を器用に跨いで紫音の傍に戻って来た。
「あ、えーと、ルギアはもう好きにさせていいんですか?」
未だに起き上がれないピオニーも気になるが、それよりもまずは大切なパートナーの話だ。
「えぇ、構いませんよ。ただし、場所はそれなりに選んでください。あまり目立つ場所にいると、こちらが対処しきれなくなります」
「心配すんな! 俺が普段いるところは誰も来れないからな!」
むふん、と自慢げに笑うルギアはそう言うが、人目に付かないどころか誰も来れない場所なんて何処にあるのか。
「誰も来れない場所とは?」
「ルギアは深海に棲んでるんです」
「深海!? ルギアの力を借りれば、今まで手を付けられなかった深海の調査も出来るぞ! ルギア、お前実は凄いんだな!」
「実は~、じゃなくて、元々凄いんだよ!」
はしゃぐために復活した皇帝ときゃっきゃとじゃれるルギアを見ながら、ジェイドは眉間に深いしわを刻んだ。
水棲だなんて、そんな話は無かった。ジェイド自身も、陸上で普通に呼吸している彼が水棲だとは思いもしなかった。
それが浅い海ならまだしも、深海だとは。
「譜業が壊れてしまう……」
水圧に負けて、ルギアが深海に辿り着く前に譜業が壊れてしまうだろう。
必要な時に彼を呼び戻すつもりで装着したものだ。それが無ければ、ただルギアを自由にしただけになってしまう。
「じゃ、俺はそろそろ……」
「待ちなさい。事情が変わりました」
「あぁん? もう終わっただろ」
今にも飛び立とうとしていたルギアを慌てて呼び止める。不満を口にしながらも、ひとまず翼を畳んだ彼に安堵しながら、ジェイドは紫音に目を向けた。
「紫音」
「……へっ? 何でしょう!」
「あなたが呼べば、ルギアは戻ってきますか?」
「それはルギア次第ですけど……、戻ってきてくれる?」
「おぅ、何かこの世界危険な気配がするし気が向いたら助けに来てやる」
突然話を振られた紫音は、目を白黒させながらも答えると、ジェイドはルギアを振り返る。
「結構。ルギア、その譜業を外します」
「ジェイド!?」
今度はピオニーが驚きの声を上げた。
なんせ、この譜業を付けることは軍寄りの評議会の人間が譲らなかった事案なのだ。それを分かっているはずのジェイドが自ら外せ、と言ったのだ。
「この譜業は水に弱い。それが深海まで行くとなると、なおさら使い物にならなくなります」
貴重な監視譜業を無駄にしたくない。
言外に含まれた言葉に、ピオニーは大きくため息を吐いた。
「……はぁ、また仕事を増やしてくれやがって……」
「陛下は、仕事が少し増えたくらいがちょうどいいんです」
「こいつぅ、減らず口を……」
「さーて、今度こそ! 行っていいんだろ?」
譜業を外したルギアは、大きく伸びをした。
「えぇ、どうぞ。ただし、すぐに戻ると言うあなたの言葉を信用しての解放です。嘘にしないようにしてくださいね」
「はいはい」
「あ、私も一緒に……」
「あなたはまだです」
「はぇ!?」
飛び立とうとするルギアに乗ろうとした紫音は、突然腕を掴まれた驚きで変な声での返事になってしまった。
「あなたとのお話は、まだ始まってもいませんよ」
にこやかに。眩しいくらいの笑顔でそう言ったジェイドに腕を掴まれたまま、紫音はずるずると引きずられて行く。
「いや……、助けてルギア……!」
「同情するぜ、紫音……」
「助けてくれるって言ったじゃん! わぁ裏切り者~!!」
「元気があってよろしい。さぁ、こちらにどうぞ」
ジェイドに連行された先は、テレビや映画で見覚えのある取調室だった。