外殻大地編
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「……ほぉん。それが本当なら、随分物騒な所に来たって訳だな」
「そうなんだよ……。私の勘違いであって欲しい……」
ルギアにそう答えながら、牢屋の中で紫音は考え込んでいた。
もちろん、何故こんな事になったのかをだ。
いつも通りに仕事へ向かっていたはずなのに、気付けば知らない場所で目が覚めた。それだけでは無い。
「……ルギア、か……」
「何だ? 腹が減ったのか?」
不機嫌そうに答える白い巨体。紫音がゲームで育てていたポケモンがすぐそこにいる。
試しに頬をつねるととても痛かった。これは現実なのだ。
「狭いなぁって……」
「悪かったな! そんな文句言うならモンスターボールをくれよ」
紫音だけならまだしも、人間のための牢屋にルギアを押し込むのは無理がある。巨体のあちこちを無理に折り曲げている彼の不満は今にも爆発しそうだ。
「いつまでここにいれば良いんだよ! 少しでも動いたら牢屋が吹っ飛んじまうぞ」
「それは困ります。あなた方の身元や目的が分かれば、すぐにでも出してあげられるのですが……」
ルギアのぼやきに、近付いて来た足音がそう返事した。
格子の向こうに見えるその姿は、紫音が何度も見た人物に間違いなかった。あんぐりと口を開けた紫音には目もくれず、彼はルギアを見上げている。
「あなた方は何者です? そして、わたしの部下に手を触れぬまま地面にたたきつけたあの力は一体何ですか?」
彼の視線はとても冷たい。紫音は経験したことが無いが、きっとこれが殺気というものなのだろう。
下手な事を言えば殺す、と言外に伝わってくる。
「俺はルギア。海の守り神だ凄いだろ」
「ちょ、何を勝手に……」
「あんた達を叩きのめしたのは俺のサイコキネシスだ」
ルギアは紫音の言葉も無視して一方的にそれだけ言うと、これで満足かとばかりに鼻を鳴らした。ついでにそっぽを向こうとした時に、ルギアの足元に座る紫音を危うく押し潰しそうになったのはご愛嬌だ。
「ふむ、なるほど」
説明に納得していないという顔の男は、眼鏡を指で押し上げる。
(気に食わねぇなぁ!)
ルギアが視線だけを牢の外にいる男に戻せば、自分を射抜く冷たい視線とぶつかった。慌てて瞼を閉じてその視線から逃げると、男が視線を外す気配がする。
「では、次は……。埋もれているあなたのお話を聞かせてもらいましょう」
「おい、待てよ。俺は知っているぞ。こういう時は、お前も名乗るのが筋なんだろ」
「おや、これは失礼いたしました」
流れるように紫音の尋問に入ろうとした男をルギアが止める。名乗れと言われて、わざとらしく失念していたような顔になった男は、小さく肩をすくめた。
「マルクト帝国、第三師団長のジェイド・カーティスと言う者です」
「ひぇ」
ルギアの足元にいる紫音が思わず息を呑む。それをジェイドが聞き逃すはずもなく、紫音にじりじりと迫って来た。
「お名前、教えていただけませんか?」
「わ、わわ私は紫音。針谷 紫音
です……。あ、あとたぶん……」
「おい、紫音!」
今度はルギアが紫音を制止しようと声を上げた。それを片手で制したジェイドが続きを促すと、紫音は震える声で口を開いた。
「この世界ではない場所から来ました」
「馬鹿野郎……! そんな事言ったら……」
ジェイドがここに来る前に、ルギアからは本当の事を言わないようにと釘を刺された。言えば、紫音が危険にさらされると。
しかし、紫音は逆の考えを持っていた。
「いつまでも隠し通せることじゃないし、時間が経ってからの方が危ないと思ったんだ」
「ほぉ、思っていたほどお馬鹿ではないようで」
「お褒めの言葉ありがとうございます、大佐」
紫音の言葉に、ジェイドの眉がぴくりと動く。当たり前だ、自己紹介の際、階級は口にしていなかったのだから。
「死霊使い、ジェイド・カーティスさん」
「余計なことの上塗りしやがった……」
*
*
「お前が噂の襲撃者か!」
「はぁ……」
紫音とルギアは、金髪の男の前で呆然としていた。
さっきまで牢屋にいたのに、連れ出された先は大部屋。上等な椅子に座る男は、ジェイドの苦言も聞こえていないようだ。
「話は聞いているぞ。俺のジェイドが戦意喪失した相手だな」
「語弊がある言い方はお止めください」
紫音は後ろ手に紐で固く縛られ、ルギアは少しでも怪しい動きがあればすぐに斬りつけられるようにと、十人程度の兵士に囲まれている。
『私たちは、ここではない世界から来た。同時に、あなたの事も知っています』
先ほどジェイドに言った紫音の言葉が波紋を呼び、今に至る訳だが。紫音の背中は、既に冷や汗で冷たくなっていた。
「語弊があるのものか。現に今、あの魔物を囲む兵士たちは怯えているぞ」
「…………」
ジェイドの反論が無いとみるや、ルギアを見上げた男。穏やかに微笑んで、彼は凛とした声を上げた。
「俺は、このマルクト帝国の皇帝だ。名を、ピオニー・ウパラ・マルクト九世と言う」
「……なぁ紫音、皇帝って偉いのか?」
「めちゃくちゃ偉いよ!」
「皇帝が偉いという知識はあって助かったよ」
こそこそと会話をする不審者を見て、ピオニーは心底面白そうに笑う。
「敵意も無さそうだ。拘束を解除してやれ」
「は、しかし……」
皇帝の言葉に、危険性が無いとは言い切れないと進言するが、皇帝の意思は変わらなかった。
自由になった紫音達を玉座から見下ろして、彼は一人呟く。
「……誰も知らぬ、第七譜石の内容を知る人物……」
扱いを間違えてはいけない厄介な存在が転がり込んできてしまった。慎重に扱わなければ、新たな戦争が起こりかねない存在だった。