外殻大地編
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「……ふぅ」
部屋中に散らばった書類の山。その山に埋もれて眠る金髪の男に目をやる。
『陛下! ピオニー陛下!!』
「すやぁ……」
己を呼ぶ声に気付くことも無く幸せそうに眠る男を見て、ジェイド・カーティスは眼鏡を押し上げて再びため息を吐いた。
「陛下。ピオニー陛下」
「……すやぁ……」
「……ピオニー」
「……ちぇっ、もう少しくらいいいじゃねぇか大佐殿」
気だるげに目を擦りながらようやく体を起こし、大きな欠伸を一つ。
彼が、このマルクト帝国の頂点に立つ皇帝陛下。探し回っている部下には、同情を禁じ得ない。
「そのもう少し、の間にも仕事は溜まっていくんです。そのつもりでサボってください、陛下」
「お前まで説教するのかよジェイド……」
やってらんねぇな……、と皇帝がぼやいた時、ノックと同時に部屋の扉が開いた。
「……見付けましたよ、陛下」
「仕事熱心だな、アスラン……」
ため息を吐きながら、呆れ顔を浮かべた軍人。目が合うなり、自分の後ろに隠れる皇帝に、ジェイドは気のせいか頭が痛くなってきた。
(……やる時はやる人なのですが……)
ジェイドは己の後ろにいる友をちらりと振り返り、アスランと同じようにため息を吐いた。
「んんっ。ところで少将、何か用向きがあったのでは?」
「……はい、大佐にも聞いていただきたい。実は、帝都に巨大な魔物が現れました。新種なのか、どのような生態か、何故誰にも発見されずに街に侵入できたのか、全てが不明です」
アスランの報告に、ピオニーは怪訝な顔をした。
「何だそれは! 重大案件じゃないか……、俺は知らされていないぞ!?」
「……陛下が見付からなかったからでは」
「うぐぐ……」
ジェイドが呆れながらそう言えば、アスランも否定せずに言葉を続ける。
「陛下がどうしても見付からなかった為、元老院の決定っでカーティス大佐が率いる第三師団に討伐、もしくは捕獲の命令が下されたところです」
言葉の端々にチクリと嫌味が挟まれるアスランの言葉を聞き終わると、ピオニーは両手を挙げて降参の意を示した。
「だから、その魔物身に行っても良いだろ?」
両手を挙げたままにこやかに笑うピオニー。
そんな彼に応えるジェイドも、にっこりと笑って見せた。
「駄目です♡」
「ひぇ」
悲鳴が聞こえた気がするが無視してやることにして、ジェイドは下された任務をこなすために部屋を出る。
何故が胸にくすぶる胸騒ぎに、気付かない振りをして。
*
*
「これは……!?」
目撃情報のあった広場でジェイドが目にしたのは、自分の部下数人が宙に浮き、じたばたともがく姿だった。
彼らの向こうには、見慣れない白い巨体の魔物。その目が放つ妖しい光が一際輝いたかと思うと、拘束を解かれた部下達が一斉に地面に叩き付けられ呻き声を上げた。
周囲に戦える者がいなくなったと判断したらしい巨体と目が合った。その躰からは、圧倒的な威圧感が放たれている。数々の戦場に立ち、魔物とも戦い慣れているはずのジェイドが動けなかった。
(……、どういうことだ……!?)
『…………』
ジェイドが攻めかねていると、何か問いかける声が聞こえた気がした。それはまるで、頭に直接響くような声。
『……は、……か?』
辺りを見渡しても、白い魔物以外動くものはいない。つまり、この魔物は喋る事ができるということ。頭に響く声に意識を集中させると、ようやく言葉が理解できてきた。
「お前も、俺らに危害を加える気か?」
魔物から視線を逸らす事もできず、ジェイドはただその問いを受けるしかない。
『もし違うって言うんなら……、紫音を、俺達のトレーナーを助けてくれないか?』
(……訳が分からない)
この魔物は、つい先ほど自分の部下達を叩き伏せたばかりだ。
それどころか、帝都に侵入し街の平穏を脅かす罪を犯したのだ。このまま生かしておけば、さらなる被害が生まれる可能性が大きい。
「言葉を解する魔物というのも興味深いですが、残念ながらこれが仕事です」
ジェイドは愛槍を構える。標的は、その巨体故に外れる事はまず無いだろう。
槍に雷をまとわせいざ投げようとした時、視界の端に人影が見えた。
「止めて~! 殺さないで!!」
「な……っ!?」
突然ジェイドに体当たりをしてきた者は、ぶつかってきたくせに一人で転んで騒いでいる。
しかし、槍の狙いを逸らすには十分だった。無様にも少し離れた場所に突き刺さっている。
「いてて……、あっ、ごめんなさい……」
どんな人間が妨害してきたのか眉間にしわを刻みながら見下ろすと、びくりと体を震わせて謝罪の言葉を吐いた。
華奢な体付き。見たことも無い服装をしている。
ぶつかってきた勢いは何処へ行ったのか、彼女はジェイドの前ですっかり萎れてしまっている。
「このバカー! 何で出張ってきてんだよ! 助けてくれる人見付かるまで、大人しくしてろって言ったじゃねぇか!」
「こんな大騒ぎにしておいて言う事じゃないでしょ!? この惨事どうするの!!」
かと思えば、喋る魔物とぎゃあぎゃあ言い争いを始めた忙しなく身元も知れない彼女に、ジェイドはその日何度目か分からないため息を吐く。
「……お取込み中申し訳ありませんが、これまでの会話から察するに、あなたがこの魔物が言う紫音とお見受けします。……何故このような状況になったのか、きっちり説明して頂きたいのですが……」
ジェイドが一つ手を叩くと、捕獲用に控えさせていた兵士が集まって来た。魔物と不審者をぐるりと取り囲んで、ジェイドはにこやかに笑う。
「人目がありますので、こちらで部屋をご用意しますね」
そう言うと、紫音は魔物を宥めながら必死に頷いた。