番外編
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「……何だ? これ……」
十二月に入って数日。街だけでなく、アカデミーもクリスマスの雰囲気に包まれる季節だ。
そんなどこか浮ついた空気の中、寮の自室に帰ってきたペパーは、扉の前に置かれた箱に首を傾げた。デリバード便の配達を頼んだ覚えは無い。
「間違えて配達しちまったのかもな」
あわてんぼうなデリバードがいたものだ。寮の管理人に報告して、回収してもらおうと考えていたのも数秒の事。
「……オレ宛だな……?」
宛名の欄には、はっきりとペパーの名が記されている。何なら、寮の部屋番号まで記入されていた。
しかし、肝心の送り主の部分は空白だ。誰からの荷物なのか分からない。
「ど、どうしたら……!?」
こんな時どうすれば良いのだろうか。人通りもある廊下で悩む訳にもいかず、ペパーはひとまず謎の箱を部屋に持ち込む事にした。
───
──
─
「……なるほど。状況は分かった!」
送り主の分からない荷物に困ったペパーが頼ったのは、友人達だった。
ペパーが部屋の真ん中に置いた箱。その周りを囲むのはネモとボタン、そしてアオイの四人だ。本当はあるじまも呼び付けたのだが、あいにく彼はアカデミーから離れた場所にいると返事が来た。
「予約商品が届いた可能性は無い? うちも忘れた頃に届くから、飾る場所無くて困る事あるし」
まずボタンが口を開いた。実体験を交えた発言だったが、ネモは送り主が空欄である事に首を傾げる。
「それなら、会社の名前が書いてあるんじゃないの?」
「商品名を伏せて届けてくれるとこもあるし、送り主空欄でってコメント残せばやってくれるんじゃない?」
「ボタンは予約商品のテイで話してっけど、オレ、その時必要なもんしか買わないからそれは無い」
「無いかー」
うーん、と四人がまた考え込んだ。
「宛名は間違いなくペパーなんだよね?」
ネモの確認に、ペパーはもう一度箱に貼り付けられた伝票を見下ろす。何度見ても、名前はもちろんの事ながら、アカデミーの住所に寮の部屋番号まで、正確にペパーへ宛てた荷物だ。
「……開けてみない?」
全員でペパー宛だと確認すると、アオイが一つ手を叩く。驚いた三人が彼女を振り返るが、アオイは困った様な笑顔を浮かべたままもう一度同じ言葉を口にした。
「開けてみない事には、何も分からないし……。ここはアカデミーたし、困ったらすぐに先生達を頼れると思います!」
「うーん、送り付け詐欺、の可能性もゼロじゃないけど……」
「あー、箱の中に請求書のパターン……。その時は発案者のアオイ持ちで」
「えっ!?」
「開けるにしても、このまま処分しちゃうにしても、決めるのは受け取ったペパーだよ!」
ボタンの悪戯心に弄ばれているアオイを横目に、ネモはペパーの背中を押す。悩むこと数秒、ペパーは一つ息を吐いて頷いた。
「よし! やっぱり、先生に報告する」
「決まりだね! じゃあ先生のとこ行こう!」
ペパーの決断に、異論は無い。
大きな箱を抱えて、ぞろぞろと部屋を出た一行が向かう先は、カインの授業を受ける教室だった。
「……話は分かったけれど、何故わたしの所へ……? 寮の管理人に報告する事案だと思うけれど?」
「……確かに!」
対応したカインは、心底不思議そうな顔をした。今日の分の授業は終わり、牧場での仕事に戻る為の帰宅準備をしているタイミングだったのだ。
先生が帰るなら……、と顔を見合わせる生徒達に一つ息を吐いて、カインは彼らを教室に招き入れる。
「……それが最善ではあるけれど、開ける前に報告した次善を選んだ事を褒めなくてはね。それに、わたしを頼ってここまで来てしまったんだ。帰れと言う程冷血では無いつもりだよ」
そう言って、カインはペパーが抱えたままの箱を受け取った。普段生徒が使っている机に置いて、箱をまじまじと見下ろす。
「確認なのだけれど。ペパー」
「うん?」
「……こういう時の返事は"はい"だよ」
「は、はいっ」
「グッド。部屋番号に間違いは?」
「無い。……です!」
敬語を忘れたペパーに視線が向けられた。慌てて付け加えた彼に頷いて、カインはスマホロトムで箱の四方を撮影する。
「グッド。……レントラーの目を借りる事が出来れば、中身が安全かどうか分かるのだけど……。いないポケモンを頼る訳にもいかない。ペパー、開けても構わないかな? 何かあった際の責任はわたしが取る」
「送り付け詐欺の時も?」
「その時はジュンサーさんに届けるとも。証言は頼むかもしれないけれどね」
「……ほっ」
「よかったね、アオイ」
「詐欺に限らず、事件に巻き込まれた時には慌てずに頼れる人に相談しなさい」
「はいっ!」
元気の良いアオイの返事にカインが微笑みで応えると、そのまま視線をペパーに移した。
どうかな、と再度箱を開封するか尋ねると、ペパーは大きく頷いた。
「季節的に、何かプレゼント入ってるかもだしな!」
「一応不審物ではあるから中身の確認はするけれど、それさえ済めば本来君への荷物だ。ペパーが持って帰っても構わないよ」
「分かったぜ!」
「"分かりました"、だよ」
「分かりました……」
学校にいる時は、言葉遣いまで厳しい。油断して砕けた返事をしてしまうペパーは、カインの指導を何度も受けてがっくりと肩を落とした。
「さて、では開封する。ここまで運んできたから、爆発物では無いと思われるけれど、開けた途端に作動する可能性もゼロではないからね」
「ば、バクハツ!?」
「作ろうと思えば簡単だよ」
「開けなくてよかった……」
「一気に怖くなってきたぜ……」
「だから、動かさずに管理人に報告が最善だと言ったんだ。……サーナイト。リフレクターを。内側を守るのではなく、衝撃を外へ逃さない形で作ってほしい」
「ぽぉぉ」
「もちろん君もリフレクターの外にいるんだ。開けるのは一人で出来るからね」
「ぉおおおお」
「嫌じゃない。やるんだ」
「……ぽぉぉ……」
カインの指示に、サーナイトが慌てて首を振った。それはそうだろう。トレーナーの指示は、トレーナー以外を守る指示なのだから。
自分のトレーナーを守る為には命すら懸ける事もあるサーナイトにとっては、従うなんて以ての他なのだろう。
「わたしの大事な生徒達を守って欲しい。……出来るね?」
明後日の方向に視線を向けたサーナイトにそう言い聞かせて、カインはいよいよ鋏を持って箱の開封を始めた。彼女の周囲は、渋々と言った様子のサーナイトが作り出したリフレクターで囲まれている。トレーナーに何か起きた場合に備えて、サーナイトが息を潜めてカインの傍らに控えていた。
固唾を飲んで作業を見守る生徒達は、いつカインが爆発に巻き込まれるか気が気では無かったが……。
「……危険物では無いらしい」
その言葉と共に、カインが箱から大きな引き出し棚とミニチュアハウスが一体化した物が机の上に置かれる。
「でかっ。アドベントカレンダーのプレゼントだったんか……」
「バクハツしなくてよかった……!」
「請求書はありました!?」
「……請求書の類は無いね。底にも貼られていない、正真正銘のプレゼントではある。まあ、この小さな引き出しの中にまた何が入っているか分からないけれど……」
どうするか。視線だけでペパーに問い掛けたカインは、控えめに挙手したボタンへ視線を移す。
「これ、カイン先生がペパーにプレゼントした物じゃなくて……?」
「わたしが? ……何故?」
「一日一つずつ開けていくっていうの、先生好きそうだなって思っ……、思いました!!」
「えっ!? カインこう言うの好きなのか?」
ボタンの発言に、ペパーも目を見開いた。ペパーに限らず、アオイも、ネモですら興味があるらしく。答えを期待する視線が増えた事にため息を吐いて、カインは口を開いた。
「その疑問にはノーコメントだ」
「えー!?」
「そしてボタン。わたしは教師だ。特定の生徒へ個人的な贈り物はしない。例えばアカデミーで開かれるパーティのプレゼント交換会で、偶然わたしと交換する形にならない限り、生徒にプレゼントはしない。……教師のわたしがやるとしたら、授業でポケモンとリースを作る程度だろう」
「しょっぱいお返事だったぁっ……」
どこか悔しさを滲ませてそう呻いたボタンは、ガックリと肩を落とした。そして、同じく隣で肩を落としているペパーを慰める様に背中を叩いている。
「まだプレゼント拒否られた訳じゃないから……」
「ちなみに。生徒からのプレゼントはもちろん受け取らないよ。……うーん、しかし授業に興味を持ってもらう為に、今月の授業はポケモンと楽しめるクリスマスの方向に……」
「せ、先生! 話が脱線してます!!」
「……はっ。すまない。それで? このアドベントカレンダーはどうする? 中身の確認までしてから持ち帰るかい? それとも、わたしの方で処分してしまう手もあるけれど?」
「もうここまで来たら、皆で確認しちまおうぜ! その方が楽しそうだ」
「分かった。ペパーが言うならそうしよう。皆でやれば、その分早く終わるだろうからね」
受取人のペパーがそう言うのなら、カインに異論は無い。各々興味のある引き出しから開けていく事になった。
「……わ! これ小さい頃によく食べたキャンディだ!」
「食べ物は成分が分からないから食べないように。包装を似せた別物の可能性があるからね」
「えー!」
「何これすっご……! こっちに入ってるの、もう手に入らないプレミアおもちゃだよ!」
「こっちは……、こっちもお菓子! ……食べちゃダメ、なんですよね……」
「だめだよ。相手が分かっていれば嬉しいものだけれど、口に入れる物は特に気を付けなくては……。……ペパー?」
賑わう女子を横目に、一つしか開けていないペパーの雰囲気が明らかに沈んでいる。声を掛けると、ペパーは手のひらにあったおもちゃをカインに見せてため息を吐いた。
「……ミニチュアの飛行機。……なんつーか、子供が好きそうなのばっかだな」
「今も君達は子供だけれど」
「"今"よりだよ。入ってるお菓子なんて、ガキの頃に食べたお菓子ばっかだし。ボタンが持ってるおもちゃだって、マフィティフがオラチフだった時にいっしょに遊んでたくらい、フツーのおもちゃだったんだぜ?」
「…………今のペパーには嬉しくないプレゼントである、という事かな?」
「……そうだよ。なんなら、こんなデッケェのをドカンとプレゼントされるより、いっしょにご飯食べる方が嬉しかったぜ」
「もしかして、この贈り主は……」
「……父ちゃん、の代わりにアイツが用意してくれたんだろうな。父ちゃんの思い出を元にして」
何で今になって、と言いたげな寂しそうな顔でそう言ったペパーは、残っている引き出しを順番に開けていく。
どの引き出しも、幼い子供が好むおもちゃや、ポケモンと食べられるお菓子が詰め込まれていた。
「……今は、嬉しくない」
「ペパー……」
名前を呼んだものの、掛ける言葉を見付けられずにいたカインを横目に、ネモが一つ手を叩く。
「じゃあ、このアドベントカレンダーに、今のペパーが好きそうなの入れようよ! それで、誰の引き出しが一番嬉しかったか、ペパーに決めてもらお!! もちろん匿名で! ちょうど日付も書いてあるし、番号で発表するの」
「え。でもうちら四人しかいないけど……」
「……ん? ペパーへのプレゼントで四人? もしかして、わたしも数に入っている?」
「もちろん。数が多いから、カイン先生も手伝ってもらわなきゃ」
「……えぇ……!? さっきも言ったけれど、わたしの立場では生徒への贈り物は出来ないよ」
首を振ったカインに、ネモは真剣な顔で食らいついて来た。
「全部で二十四個……。私達は三人、残りの枠は二十一。みんなに声を掛けるし、先生のプレゼントがうっかり紛れてても分からないですよ!」
「分かるかどうかの話ではなくて……」
「カイン先生、とりあえずこのアドベントカレンダー、預かっててください!」
「預かるのは構わないけれど、手伝うとは一言も……」
カインが更に苦言を呈す前に、ネモは大急ぎでボタンとアオイを回収して教室を出て行ってしまった。協力者を募るという建前で、文句は聞かないという意思表示でもあるのだろう。
新しいプレゼントを仕込む為にやって来る時に小言は取っておく事にして、カインはペパーを振り返った。
「……良い友達を持ったね、ペパー。君の事をよく考えてくれている」
「……へへっ。だろ? たぶん、一番気に入ったプレゼント発表の時に、パーティする気も満々ちゃんだぜ」
「プレゼントは無理でも、場所の提供くらいは出来ると言っておいてくれ」
「その時は、カインもパーティに参加するんだからなっ! 場所を貸したカインがいなくちゃダメだろ?」
「…………えっ?」
「現場カントクってやつだな!」
にっこりと笑ってそう言ったペパーに、カインは思わず目が丸くなる。
そして、つい先ほど「一緒にご飯を食べる方が嬉しかった」と言っていた彼の言葉を思い出して納得した。
「良いとも。その招待、喜んでお受けするよ」
「おっしゃー! ウデによりをかけて準備するぜ!」
クリスマスの予定は決まった。ペパーもすっかり明るい表情に戻っている。
アドベントカレンダーに新しく入るプレゼントは当日まで見ない方がいいからと、友人達が戻ってくる前に教室を後にしたペパーを見送って、カインはネモにメッセージを送った。
『アドベントカレンダーを教室に置いていると目立つ。牧場で預かっておくから、プレゼントを入れる時は教えて欲しい。改めて持って行くよ』
送信を確認して、カインは今度こそ仕事に戻る為に身支度を整える。予定外に増えた荷物を抱えてながら、ペパーは何を渡せば喜ぶだろうと考えている自分に気が付いて、小さくため息を吐いた。
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