ゼロに続く道
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自分の不用意な発言で、思わぬ気まずい時間になってしまった事を反省しながら朝の仕事を終わらせたカインは、アカデミーの職員室に滑り込む。
授業がある日は、その時間に合わせて出勤出来る様に融通してもらっているカインは、その日いつもより早い時間にアカデミーにやって来た。
「は、ハッサク先生、授業前にお時間ありますかっ……?」
「カイン先生! 息も絶え絶えではないですか」
「いえ……、大丈夫です。ハッサク先生を捕まえる為に、わたしがこの時間しか空けられなかっただけなので……」
「緊急の用事ですか?」
「……はい、緊急です」
「……なるほど。小生に出来る事ならば協力しますですよ」
「ありがとうございます……」
今日は、美術の教鞭を執るハッサクに用事があったのだ。その為に、突発的なトラブルにも対応出来る様に余裕を持って組んでいる仕事を押してアカデミーに飛んで来た。
「実は、ガバイトの鱗についてお聞きしたいのです」
「ガバイトの鱗、ですか……」
ドラゴンポケモンであるガバイト。そのガバイトの鱗は、あらゆる病を治す、疲れた身体を癒やすと言われている。
それが人間への効果なのか、それともポケモンにも効果があるのか。細切れの時間内では、その辺りの詳しいデータを見付ける事は出来なかった。
「ですが、ドラゴンポケモンのエキスパートがアカデミーにいるではないか、と思い当たりまして。……信憑性のあるなしだけでも教えていただけないかと」
「ふむぅ……。確かにドラゴンポケモンは、その身体にとても強い力を持っています。その鱗に傷を付けるのは大変です。……そんな鱗を入手出来れば、悪い病も治る、という願掛けの様な物ではないでしょうか」
「願掛け……」
願掛けでは駄目なのだ。もしかしたら、と期待していたカインは、ハッサクの言葉に思わず頭を抱える。
「……ポケモンに使うつもりなのでしょう?」
「……ええ、はい……」
ペパーが職員室に駆け込んで来た事は、エリアゼロに降りた事も含めて職員全員が知っている。そのペパーの監督がカインである事もまたそうだ。
そのカインが、ガバイトの鱗を求めている。何に使うかなど、言わなくても分かるだろう。
「人が使うならいざしらず、ポケモンの為の薬にするのならば、それはガバイトが落とした物ではありません。ガバイトから無理に剥ぎ取って手に入れた物でもない。……良いですか、カイン先生」
「……はい」
「治したいという気持ちは素晴らしいものです。ですが、その大怪我が彼への罰である事を前提として、今回の謹慎処分の流れであると伝え聞いていますですよ。カイン先生のその想いは、彼の為になりますですか?」
ハッサクの言葉に、カインは考える様に目を伏せた。
しかしそれも数秒の事。すぐに顔を上げてハッサクを真っ直ぐに見据えたカインは首を振る。
「いいえ、教師としては静観べきかと」
「そうでしょうね」
カインの言葉に頷くと、ハッサクは細くため息を吐いた。
「ですが」
カインには、まだ伝えていない事があるのだ。
マフィティフを治したいという感情は、間違いなくカイン自身のもの。
ペパーの為と言う部分も少なからずあるが、何より低い数値で推移していたマフィティフのバイタルが、緩やかに回復の兆しが見えてきた事。それはつまり、マフィティフ自身が諦めていないという事に他ならないと。
「……マフィティフ自身が治そうと頑張っているんです。ポケモンの世話を生業にする者として、手助けをしたいと思ってしまうのです」
「…………」
「だからどうか……。どうか教えていただきたいのです。本当にポケモンにも使えるのか。使えるのならば、その薬の製法を」
これは賭けだった。頭を下げたカインに、ハッサクは慌てた様に立ち上がる。
「カイン先生、頭を上げてください……! 他の先生方もいらっしゃいますから……」
「無理でしたら、そのようにおっしゃってください」
渋々頭を上げると、改めて椅子に腰掛けたハッサクは、デスクの引き出しから手帳を取り出した。
「……ふぅ……。……確かに、ガバイトの鱗をポケモンにも使える薬にするのは無理な話ではありませんです」
「……!」
「カイン先生がガバイトの鱗にまつわるデータを検索しても、詳細が見当たらないのは当たり前とも言えます。欲しい薬効によって扱いが変わりますし、その扱いは秘匿されています。そうでなければ、悪心を持った者にガバイトが狙われますからね。悪心を持つ者が返り討ちに遭うのは自業自得ですが、残念ながら最も被害を受けるのは、悪心を持つ者ではなく周辺に生息するポケモン達です」
そう言いながら、ハッサクはサラサラと手帳に何か書き付けていく。
「ですが、小生はカイン先生のマフィティフの頑張りに報いたいという真摯な想いに心を打たれました。薬に加工出来る鱗を自宅に保管しています。……カイン先生が彼の補習内容を見て合格だと判断したら、件の鱗をお譲りしましょう」
「……! 良いんですか!?」
薬に加工出来るのなら、自分で入手しようと考えていたカインは、思わぬ展開に目を見開く。
「ですが、小生は薬に加工する為の道具も何も持っていないのです。お渡し出来るのは薬一つ分の鱗のみ。……カイン先生、マフィティフに必要な薬効を引き出す作り方はお教えするので、一度きりの製薬を頑張ってくださいね」
そう言いながら、手帳のページを破り取ったハッサクは、カインに破ったばかりのそれを渡してきた。
渡された紙に目を落とすと、そこには必要な道具がずらりと書き記されている。
「……これは……、確かに一式揃えると場所を取りますね……」
「でしょう? 頑張れ頑張れ、ですよ」
手を叩いて励ますハッサクに礼を言って、カインは職員室を後にした。授業が始まるまでの時間で、ペパーに遠隔で指導しなくてはならないからだ。
「やる事が多いな……?」
はて、と首を傾げたカインは、自分に振り当てられている誰もいない教室へと入っていった。
*
*
「……なぁ、カインせんせ」
「うん? 何かな」
その日の授業を終わらせ、午後一番に戻ってきたカインを待っていたのは、何やら落ち着かない様子のペパーだった。
応える事で意識を向けていると示しつつ、マフィティフに点滴で栄養剤を打つ為の作業をするも、ペパーから続く言葉は無い。
「点滴が終わるまで待っていられる話かな?」
「……待てる」
「グッド。では、座って待っていてくれ」
何の話だろうか。疑問を持ちながら、作業を終わらせたカインがペパーの前に立つと、彼は手に持った紙を突き出してきた。
「これっ……、先生がいない間のマフィティフの体温と脈拍。何かよく分かんねーけど、これが正解ちゃんか?」
「……どれどれ」
渡された紙には、ペパーがカインの指示に従って測定したマフィティフのバイタル値が記録されている。
「……直近のデータはわたしの帰宅前。……なるほど」
軽く目を通したカインは、スマホロトムを呼び出した。アカデミーに行くまでに録ったデータを更新する為だ。
「…………」
「……ああ、すまない。君の疑問に対する答えがまだだったね。……これで正解ちゃんだよ」
「よかっ……、たぁ〜……」
カインの言葉を、息を詰めて待っていたのだろう。大きなため息と共に安堵の声を上げたペパーに、カインは更新したデータを見せる。
「君が気にしているのは、マフィティフの脈拍が少し上がった事かな?」
「そう! 下がるのがよくないってのは先生が言ってたから分かんだけど、体温はそのままなのに、心臓はドクドクちゃんってどうなのかなって……」
「そうだね。体温を上げる為には、血液が巡る事が重要だ。表面から見える怪我は治したし、内臓の怪我もドクター達が処置してくれた。あとは、活動する為のエネルギーを回すだけ。マフィティフにその用意が出来たみたいだ」
「……つまり?」
「間もなく体温も上昇するかもしれない。……それでも、動き回れる程に治る、とは言い切れないけれど……」
「そっか……、そっかぁ……! マフィティフ、頑張ってんだなぁ……!!」
感極まったのか、ペパーがマフィティフに駆け寄ろうとする。カインはそんな彼の首根っこを掴んで、無言で元の椅子に座らせた。
「マフィティフは点滴中だ。安静に」
「……はい……」
衝動的に駆け寄ろうとした事を叱られて、しょんぼりした様子のペパーは、今度は静かにマフィティフに歩み寄る。
ペパーもマフィティフも頑張っているのだ。カインは、ハッサクから渡された薬を作る為の道具が記されたメモに目をやる。
これらは自費で購入する事になるだろう。出費は痛いが、彼らが頑張っているのに、大人が頑張らない訳にはいかない。
「出来る事が増えると思えば、それは良い事ではあるからね」
「……? 先生、何か言ったか?」
「マフィティフの頑張りに報いなければ、と言ったんだよ」
独り言を聞き付けたペパーが首を傾げている。その疑問に答えてやりながら、カインは午後の課外授業を始める為に意識を切り替えた。
授業がある日は、その時間に合わせて出勤出来る様に融通してもらっているカインは、その日いつもより早い時間にアカデミーにやって来た。
「は、ハッサク先生、授業前にお時間ありますかっ……?」
「カイン先生! 息も絶え絶えではないですか」
「いえ……、大丈夫です。ハッサク先生を捕まえる為に、わたしがこの時間しか空けられなかっただけなので……」
「緊急の用事ですか?」
「……はい、緊急です」
「……なるほど。小生に出来る事ならば協力しますですよ」
「ありがとうございます……」
今日は、美術の教鞭を執るハッサクに用事があったのだ。その為に、突発的なトラブルにも対応出来る様に余裕を持って組んでいる仕事を押してアカデミーに飛んで来た。
「実は、ガバイトの鱗についてお聞きしたいのです」
「ガバイトの鱗、ですか……」
ドラゴンポケモンであるガバイト。そのガバイトの鱗は、あらゆる病を治す、疲れた身体を癒やすと言われている。
それが人間への効果なのか、それともポケモンにも効果があるのか。細切れの時間内では、その辺りの詳しいデータを見付ける事は出来なかった。
「ですが、ドラゴンポケモンのエキスパートがアカデミーにいるではないか、と思い当たりまして。……信憑性のあるなしだけでも教えていただけないかと」
「ふむぅ……。確かにドラゴンポケモンは、その身体にとても強い力を持っています。その鱗に傷を付けるのは大変です。……そんな鱗を入手出来れば、悪い病も治る、という願掛けの様な物ではないでしょうか」
「願掛け……」
願掛けでは駄目なのだ。もしかしたら、と期待していたカインは、ハッサクの言葉に思わず頭を抱える。
「……ポケモンに使うつもりなのでしょう?」
「……ええ、はい……」
ペパーが職員室に駆け込んで来た事は、エリアゼロに降りた事も含めて職員全員が知っている。そのペパーの監督がカインである事もまたそうだ。
そのカインが、ガバイトの鱗を求めている。何に使うかなど、言わなくても分かるだろう。
「人が使うならいざしらず、ポケモンの為の薬にするのならば、それはガバイトが落とした物ではありません。ガバイトから無理に剥ぎ取って手に入れた物でもない。……良いですか、カイン先生」
「……はい」
「治したいという気持ちは素晴らしいものです。ですが、その大怪我が彼への罰である事を前提として、今回の謹慎処分の流れであると伝え聞いていますですよ。カイン先生のその想いは、彼の為になりますですか?」
ハッサクの言葉に、カインは考える様に目を伏せた。
しかしそれも数秒の事。すぐに顔を上げてハッサクを真っ直ぐに見据えたカインは首を振る。
「いいえ、教師としては静観べきかと」
「そうでしょうね」
カインの言葉に頷くと、ハッサクは細くため息を吐いた。
「ですが」
カインには、まだ伝えていない事があるのだ。
マフィティフを治したいという感情は、間違いなくカイン自身のもの。
ペパーの為と言う部分も少なからずあるが、何より低い数値で推移していたマフィティフのバイタルが、緩やかに回復の兆しが見えてきた事。それはつまり、マフィティフ自身が諦めていないという事に他ならないと。
「……マフィティフ自身が治そうと頑張っているんです。ポケモンの世話を生業にする者として、手助けをしたいと思ってしまうのです」
「…………」
「だからどうか……。どうか教えていただきたいのです。本当にポケモンにも使えるのか。使えるのならば、その薬の製法を」
これは賭けだった。頭を下げたカインに、ハッサクは慌てた様に立ち上がる。
「カイン先生、頭を上げてください……! 他の先生方もいらっしゃいますから……」
「無理でしたら、そのようにおっしゃってください」
渋々頭を上げると、改めて椅子に腰掛けたハッサクは、デスクの引き出しから手帳を取り出した。
「……ふぅ……。……確かに、ガバイトの鱗をポケモンにも使える薬にするのは無理な話ではありませんです」
「……!」
「カイン先生がガバイトの鱗にまつわるデータを検索しても、詳細が見当たらないのは当たり前とも言えます。欲しい薬効によって扱いが変わりますし、その扱いは秘匿されています。そうでなければ、悪心を持った者にガバイトが狙われますからね。悪心を持つ者が返り討ちに遭うのは自業自得ですが、残念ながら最も被害を受けるのは、悪心を持つ者ではなく周辺に生息するポケモン達です」
そう言いながら、ハッサクはサラサラと手帳に何か書き付けていく。
「ですが、小生はカイン先生のマフィティフの頑張りに報いたいという真摯な想いに心を打たれました。薬に加工出来る鱗を自宅に保管しています。……カイン先生が彼の補習内容を見て合格だと判断したら、件の鱗をお譲りしましょう」
「……! 良いんですか!?」
薬に加工出来るのなら、自分で入手しようと考えていたカインは、思わぬ展開に目を見開く。
「ですが、小生は薬に加工する為の道具も何も持っていないのです。お渡し出来るのは薬一つ分の鱗のみ。……カイン先生、マフィティフに必要な薬効を引き出す作り方はお教えするので、一度きりの製薬を頑張ってくださいね」
そう言いながら、手帳のページを破り取ったハッサクは、カインに破ったばかりのそれを渡してきた。
渡された紙に目を落とすと、そこには必要な道具がずらりと書き記されている。
「……これは……、確かに一式揃えると場所を取りますね……」
「でしょう? 頑張れ頑張れ、ですよ」
手を叩いて励ますハッサクに礼を言って、カインは職員室を後にした。授業が始まるまでの時間で、ペパーに遠隔で指導しなくてはならないからだ。
「やる事が多いな……?」
はて、と首を傾げたカインは、自分に振り当てられている誰もいない教室へと入っていった。
*
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「……なぁ、カインせんせ」
「うん? 何かな」
その日の授業を終わらせ、午後一番に戻ってきたカインを待っていたのは、何やら落ち着かない様子のペパーだった。
応える事で意識を向けていると示しつつ、マフィティフに点滴で栄養剤を打つ為の作業をするも、ペパーから続く言葉は無い。
「点滴が終わるまで待っていられる話かな?」
「……待てる」
「グッド。では、座って待っていてくれ」
何の話だろうか。疑問を持ちながら、作業を終わらせたカインがペパーの前に立つと、彼は手に持った紙を突き出してきた。
「これっ……、先生がいない間のマフィティフの体温と脈拍。何かよく分かんねーけど、これが正解ちゃんか?」
「……どれどれ」
渡された紙には、ペパーがカインの指示に従って測定したマフィティフのバイタル値が記録されている。
「……直近のデータはわたしの帰宅前。……なるほど」
軽く目を通したカインは、スマホロトムを呼び出した。アカデミーに行くまでに録ったデータを更新する為だ。
「…………」
「……ああ、すまない。君の疑問に対する答えがまだだったね。……これで正解ちゃんだよ」
「よかっ……、たぁ〜……」
カインの言葉を、息を詰めて待っていたのだろう。大きなため息と共に安堵の声を上げたペパーに、カインは更新したデータを見せる。
「君が気にしているのは、マフィティフの脈拍が少し上がった事かな?」
「そう! 下がるのがよくないってのは先生が言ってたから分かんだけど、体温はそのままなのに、心臓はドクドクちゃんってどうなのかなって……」
「そうだね。体温を上げる為には、血液が巡る事が重要だ。表面から見える怪我は治したし、内臓の怪我もドクター達が処置してくれた。あとは、活動する為のエネルギーを回すだけ。マフィティフにその用意が出来たみたいだ」
「……つまり?」
「間もなく体温も上昇するかもしれない。……それでも、動き回れる程に治る、とは言い切れないけれど……」
「そっか……、そっかぁ……! マフィティフ、頑張ってんだなぁ……!!」
感極まったのか、ペパーがマフィティフに駆け寄ろうとする。カインはそんな彼の首根っこを掴んで、無言で元の椅子に座らせた。
「マフィティフは点滴中だ。安静に」
「……はい……」
衝動的に駆け寄ろうとした事を叱られて、しょんぼりした様子のペパーは、今度は静かにマフィティフに歩み寄る。
ペパーもマフィティフも頑張っているのだ。カインは、ハッサクから渡された薬を作る為の道具が記されたメモに目をやる。
これらは自費で購入する事になるだろう。出費は痛いが、彼らが頑張っているのに、大人が頑張らない訳にはいかない。
「出来る事が増えると思えば、それは良い事ではあるからね」
「……? 先生、何か言ったか?」
「マフィティフの頑張りに報いなければ、と言ったんだよ」
独り言を聞き付けたペパーが首を傾げている。その疑問に答えてやりながら、カインは午後の課外授業を始める為に意識を切り替えた。