ハッサクさん夢短編集
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「ホウエンやシンオウ地方では、どんなクリスマスを過ごしていましたか?」
ハッサクさんがそんな事を聞いてきたのは、まだ十二月に入る前だった。カレンダーを見ながら、私自身「そろそろハッサクそんを筆頭にみんなへのクリスマスプレゼント用意しないとな」とは考えていたんだけど。
「クリスマス……。実家にいた時は、ケーキや美味しいもの囲んで、皆でプレゼント交換会してましたね! あとは皆でパーティゲームです」
ただしこれは、ホウエン、シンオウ地方の話ではなくて日本での話になるんですけど! パルデアのクリスマス、どんなクリスマスなんだろう。
「なるほど。話しぶりから察するに、二十四日、もしくは二十五日で祝うという事ですね?」
「つまりパルデアは違うんですね!? クリスマスは二十五日で終わり、むしろ被せる様に年明けの準備もしてましたよ」
何せ、クリスマスの一週間後にはもう除夜の鐘が鳴るんだから。そりゃあお坊さんも走る。パルデアだと、そんな忙しない年末年始にはならないのかな?
「では、明日はパルデア式のクリスマスを教えます」
「はいっ!」
「まずは、寒くないようにきっちりと防寒対策をしてから玄関に集合です」
「はいっ! ……え? 出掛けるんですか!?」
「実際に見て、体感した方が楽しく学べるでしょう? それに加えて、君と出掛ける良い理由にもなります」
「それってつまりデー……」
「はい、デートをしましょう」
ハッサクさんはそう言って笑うと、長い指で私のほっぺたを挟む。急に挟んでどうしたんでしょう。
「最近、何かと忙しいせいで紫音と出掛けられず……。いえ、冬期テストの為だと理解はしているのです。小生自身、テストの作成で忙しいですからね。しかしそのせいで紫音不足である現状は否定できません。ですから、明日は出掛けます」
「お、おぉう……。異論は無いですけど、明日は早めに切り上げてゆっくりした方が……、いいのでは……?」
疲れているなら、休んだ方がいいと思っての提案だったんだけど。ハッサクさんは私の言葉に力無く首を振った。
「大丈夫ですよ。肉体的な疲労はそこまで溜まっていませんですから。紫音が不足しているだけです」
「そ、そうなんですか……」
「そうなんです」
真面目な顔でそう返されてしまったら、私は頷くしか出来ない。私が足りないと言うので、とりあえず抱き着いておくことにした。これで少しは充電出来ればいいな、という気持ちだったんですが、そのままハッサクさんに抱えられて私は自分の部屋に運ばれたのでした。……あれー?
*
*
翌日。
ハッサクさんに予め言われていた通り、きっちり防寒対策をして、私達がやって来たのはボウルタウンだった。
てっきり、市場があるマリナードタウンや雪山の中にあるフリッジタウンに行くんだと思っていたから、正直すごく驚いている。
風車は色鮮やかなイルミネーションで飾り付けられているし、街の奥にある迷路にも、普段とは違う変化が起きていた。
「迷路の真ん中にツリーが置いてある……!」
迷路を囲むように、マリナードタウンの様な市場が出来ているではありませんか! 縁日で並ぶ屋台とは違って、キッチンカーが並んでいる。食べ物の他にも、トナカイ……、じゃなくてメブキジカやデリバードの人形も売ってある!
「ひぇえー! 何ですかこれ!!」
「街一つ一つ、特色の違うクリスマスマーケットが開かれているのですよ。ボウルタウンのクリスマスマーケットは、一つの木から作られる装飾が有名ですね。他の街ですと、セルクルタウンは最も知られているカエデさんに限らずクリスマススイーツが有名ですし、カラフシティではクリスマスディナーの予約が争奪戦になっているそうですよ」
「ほへぇ……! 全部回ろうとすると、一日じゃ足りないんじゃあ……」
「そうですね。ですから、比較的すぐに見て回る事が出来る街をいくつか巡ってみましょうね」
「ボウルタウンだけでは終わらないんですか!?」
「終わらせても構いませんが、他の街は気になりませんですか?」
「すっごく気になります!!!」
パルデアのクリスマスってすげー!
クリスマス! それはすなわちイルミネーションとご馳走、そしてプレゼントだけで終わっていた私のクリスマス観が短い時間で一変してしまいました。
クリスマスリースだって、時々玄関先に飾ってるご家庭を見掛けた事はあるけど、パルデアはどの玄関にもそれぞれセンスが光るリースが飾ってある。これが……、本場のクリスマス……。いやポケモンの世界なので本場では無いですけど。それはそれとして。
「ハッサクさん見てください継ぎ目が無いですよこれ!」
「掘っていますから。ポケモンと力を合わせれば、クリスマスツリーとて巨木から掘り出す事だって出来ますですよ」
「すごい……」
ソリを牽くメブキジカが、尻尾がパンパンに膨らんだデリバードを載せている人形だ。……そりゃこんなに尻尾袋に詰め込んでたら、袋の口を持ってないと全部溢れちゃうもんね……。ソリに載るしかない。
「せっかくです。買ってリビングに飾りましょうか」
「いいんですかっ!?」
「もちろんです。他にも気になる物があるかもしれません。見て回りましょう」
「はいっ!!」
輝くクリスマスの雰囲気の中で、私の足はちょっと進んでは止まり、ちょっと進んだら横道に逸れて、なかなか全部の店を見て回れない。
そんな私の様子を、ハッサクさんはニコニコと見下ろしている事に気が付いたのは、やっと半分回った頃だった。
「……はっ……!」
「楽しんでくれている様で何よりです」
「ひ、日が暮れちゃう……!」
「構いませんよ。また時間を作って、別の街の様子を見に行きましょう。パルデアのクリスマス期間は長いですからね」
「確かにまだ十二月になってないのにこの賑わい……。凄いですね」
「まだまだ賑わいますよ。次回は逸れないように、腕を組んで回りましょうか」
「腕を……、組んで……!?」
腕を組む。ハッサクさんの腕に抱き着く形になる訳です。外でそんなに密着するのは恥ずかしいので、分からないフリをして仁王立ちの姿勢になろうとしたら、それを察していたらしいハッサクさんが緩く首を振る。
「紫音、一人で腕を組まないでくださいね」
「アッハイ……」
小ボケ、不発。恥ずかしくても堂々とハッサクさんの隣を歩けるように、どうにか心の準備をしておきます……。
*
*
「ひぁ〜! ボウルタウンしか行ってないのに大満足なんですけど! すっごい、パルデアのクリスマス!!」
両手に買った物を抱えて帰宅したのは、もう夕方に差し掛かる頃だった。
シュトレンという大きな菓子パンも買った。これは、クリスマス当日の二十四日までにちょっとずつ食べる物なんだって。ラクシアが目を輝かせてシュトレンを見ていたけど、ラクシアの手が届かない場所にしまいました。
「パルデアでIDくじが無いのは、もしかしてクリスマス期間にID抽選会をするからですか?」
買ってきたあれこれを開封しながらハッサクさんに疑問を投げ掛ける。そう、パルデアにはトレーナーのIDで運を占うIDくじが無い。たくさんポケモン交換してる人には有利になるアレが、パルデア地方には無い事を残念だなぁって思っていたのですが。
「そうですね。期間を限定した方が、IDくじに特別感が出ますからね。それに、抽選の期間が近付くと、アカデミー内でもポケモン交換が活発になり、その結果交友が広がればという思惑も少なからずあります」
「はぇ〜。確かに、IDたくさん集める為には交換ですもんね」
そう言う私も、くじに参加する前にポケモン交換しなくちゃという気持ちになっている。
交換するならどんなポケモンがいいかなぁ? やっぱりパルデアに棲息してるポケモンがいいよね。ラクシアやカロンはパルデアにはいないから……。ちょっと海を超える遠出すれば会える場所あるけど、みんなにミズゴロウを配ってしまうとカイン先生が怖そう。
「私も皆と交換したいなぁ! "私だと思って大事にしてね!"って渡すとしたら……、ハネッコかなって思うんですけどどうですか?」
パルデアで最初に私を見付けてくれたのはハネッコだし。何かと縁を感じますからね!
「……本気で言っていますか?」
しかし、私の言葉はドゲザンよろしく一刀両断されてしまった。肩を掴んできたハッサクさんが、何やらお怒りである事は分かるのですが。私、何を間違えてしまったんですかね!?
「えっ……。ハネッコを交換するのダメですか……?」
「ハネッコが問題なのではありません。その前です」
「その前……。そもそも交換がダメ……!?」
「戻り過ぎです。"私だと思って大事にしてね"、とは……。それを言うのは小生と交換する時だけにしてください」
「……ハッサクさんには私がいるのに……?」
「…………」
ハッサクさんが私の肩を掴んだまま黙り込んで数秒。膝からゆっくりと崩れ落ちていったハッサクさんは、私を見上げて大きなため息を吐いた。
「……紫音」
「は、はい……」
「君、時々そういう部分がありますですね」
「どういう部分でしょう……?」
本気で分からない。困惑するしか出来ない私に、ハッサクさんは「よいしょ」と声を添えながら立ち上がった。
「誤解を生むような軽口は止めましょう。事実、小生は誤解をしました。小生には君本人がいるとしても、です」
ハッサクさん、もしかして嫉妬した……? オトナの余裕で嫉妬しないと思ってた。
内心驚いている私を、ハッサクさんは小言と一緒に腕に閉じ込める。不用意な発言で余計な心配を掛けた事は確かなので、大人しく捕まって置く事にした。
「小生のハネッコが飛んで行かないように、捕まえておきますね」
「あい……。今なら首輪も甘んじて……、ん? ハッサクさん」
そんな時だった。棚が開く音が聞こえた気がする。
ハッサクさんの脇腹を突いて、腕を解いてもらう。ハッサクさんも、異変に気付いたみたいだ。
「何か聞こえましたね」
「何か開いたような……、ようなぁーーーー!!!」
「ごふぁ!」
「ラクシアー!!!」
何ということでしょう!! ハッサクさんと話してる間に、頭に登ったラクシアに操縦されたセグレイブが、棚の真下にいるではありませんか!! セグレイブの頭の上で立ち上がれば、ラクシアでも棚が開けられる!
「一口で!! と言うか何でセグレイブ操縦されてるの!?」
「ぎゅおぎゅわん……」
「カロンに釣られましたか……」
「ふぉふぁふぁ」
「口の中みっちみちで喋れないじゃん!」
「そんな事よりも今はラクシアです。さすがにこの大きさを口に詰め込んだままでは、窒息してしまいますです!」
「ふぉ……!?」
「ラクシアー!!!」
ハッサクさんが発した"窒息"という言葉に、ラクシアが固まった。それはそうでしょう。噛もうにも口の中にみっちりシュトレンが詰まっている。それはもう口を閉じられないくらい状態だ。
呼吸は問題無いだろうけど、ラクシアのうるおいボディでしっとりしたシュトレンが貼り付いている。ただでさえジャストフィットなので引っ張り出す事も難しい。
「……ぽぉお、ぽっ」
オロオロしていると、カロンが呆れた様子で近付いて来た。セグレイブが慌ててハッサクさんの背中に隠れるのを横目に、カロンがラクシアの後頭部に尻尾の一撃を叩き込む。
「ごびゃ」
ぽんっ。ラクシアの口から、シュトレンが飛び出してきた!!
「ごぁ……」
「ラクシア〜!!!」
閉まらなくなった顎を気にするラクシアに飛び付くより先に、ハッサクさんがひょいとラクシアを掴む。そう、抱えるのではなく掴んだのだ。
「ラクシア」
「ごぉ……」
「シュトレンは、生地の中に練り混んだきのみや果物の風味が少しずつ変わっていくのを楽しんで食べるものです。一気に食べてはいけませんよ」
「ごぁい……」
怒られてしょんぼりしたラクシアに、ハッサクさんは厳しい罰を言い渡す。
「セビエも以前同じ事を言いましたが……。ラクシアがそのシュトレンを丸ごと口にしてしまったので、そのまま食べて構いませんよ。罰として、今年のシュトレンの味が変化していく楽しみは無しになりますが」
「ごぁー!!」
絶望のラクシアが、助けを求めて私に視線を向ける。だけど、私がちゃんと棚に入れた物を独り占めしたのはラクシアなのである。
「私には助けられないよ……」
「ごぁ……、あああー!」
「……私の分半分あげるから! 明日食べちゃった分買いに行こう!!」
「!!!」
それでも、絶望のラクシアを突き放す事は出来なかった。楽しみは半分になるけど、私に出来るのはこれくらい。
ハッサクさんをチラ見すると、何故かハッサクさんが泣いていた。何で!?
「パートナーの痛みに寄り添う事が出来るッ……。素晴らしい関係性に小生は、小生はぁっ……!!!」
大号泣が始まったハッサクさんを宥める。まだクリスマスの準備期間だと言うのに大忙しだ。
でも、これがパルデアのクリスマス。楽しい時期は長い方が嬉しいですからね!
……ツリーの飾り付けでポケモン達がタワーになったり、抽選会にエントリーを忘れて大騒ぎしたのは、また別の話だったりする。
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