ハッサクさん夢短編集
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「ほわぁ〜……、おはようございまふぅ……」
朝。寝起きの紫音がしょぼしょぼした目を擦りながら、ラクシア達と顔を洗う為に洗面所へ向かう。肩にはラクシア、頭にはニャッコ、腕にはジヘッド。カロンは既に紫音の部屋で鱗の輝きを整えているのかしょぼしょぼした顔で部屋を出る事は無いものの、タイレーツの如く行進するのが紫音達の朝の始まりだ。
「……? ……ぽぉぉお!?」
そんな朝のルーティンがカロンから崩れた。部屋を出て数歩歩いた所で、カロンが驚きの声を上げた。その数秒後、ラクシアの頬にあるヒレが何度か紫音の顔を掠める。ラクシアが見事な二度見を披露している間に、カロンが紫音の足を止める為に尾びれを差し込んだ。
差し込まれるとどうなるか。寝惚けている紫音が突然の事態に対応出来るはずも無く、盛大に転ぶ。腕にジヘッドを抱えているので、受け身も取れないままに、だ。
「あわ? ぶやぁ!?」
「ジヒャー!?」
「ごんっ」
「ぽにゃにゃあー」
「……ぽぉおおお……」
悲劇の完成である。崩壊した紫音タイレーツを、小生は苦笑いと共に助け起こす。
「大丈夫ですか?」
「ジヘッド潰しちゃったです……」
「ドヒェ……」
「ジヘェ……」
「うわぁんごめんねぇ!!」
痛みを顕にする双頭を相手に、紫音はオロオロとご機嫌取りをしている。そんな彼女の背中を、小生から視線を逸らさないカロンが尾びれで叩いていた。
「ぽぉ、ぉおおおぉ……」
「カロンどしたの? もしかして尾びれ踏んじゃった?」
「ぽぉおおお!」
「お、おぅ……?」
「ごろ! ごろごろ!!」
「んんんラクシアも落としてごめんだからそんなにバシバシほっぺた叩かないで……」
背中をカロン、頬をラクシア。極め付けにニャッコからも頭を叩かれている紫音は、顔を洗う前に眠気が消え去った様だ。
ポケモン達に指し示された先を見て、小生を見て、もう一度ポケモン達と同じ者を見る。
「…………」
「………………」
「メタモン……? いやメタモン顔じゃないしゾロア……?」
「違う」
「ヒェエ喋ッタァアアア!!」
驚いて仰け反った紫音が、頭を強かに打ち付けた。痛みを訴える紫音があまりに予想通りで、小生自身困惑と混乱が入り混じっていた糸が解けていくのを感じた。
「夢じゃないんだ……? ポケモンってパラレルワールドってあったっけ……? 私が知らないだけぇ……?」
「そうです、夢なら早急に覚めて欲しいと心底思っていますです」
「…………」
そう、今朝小生を起こしたのはセグレイブ達ではなく。
『貴様は何だ。何故このハッサクと同じ顔をして寝こけている』
『……ハッサク……? 小生もハッサクですが、そう問い掛けるそちらはいったい何です?』
『小生だと? ……ハッ。修行を投げ出しただけはある。これ程腑抜けになるとは』
『答えになっていませんですよ……』
『タンジーの説得に是と応えたハッサクだ』
『……なるほど』
小生と紫音の会話を胡乱げな顔で睨む男。ドラゴン使いの里に留まり、小生とは違う人生を歩んできた"ハッサク"だったのだ──。
*
*
「落ち着きましたか?」
「はいぃ……。……と言うか、ハッサクさんの方こそ何でそんな落ち着いているんですか?」
長を継いだハッサクが、普段二人とポケモン達で使っている大きなソファを占領している。そのせいで、小生と紫音は食事時でも無いと言うのにダイニングの椅子に座る事になった。
顔を洗って水を飲み、ようやく落ち着いた紫音に何があったのかを話そうとした小生に、妙な所から横槍が入る。
「このハッサク、発言の許可を出していない」
「……見るからにそちらに話し掛けてはいないでしょう」
「…………」
「うーん……。でも、事実どっちもハッサクさんだもんなぁ……」
「彼女とその辺りの磨り合わせをするので、邪魔をしないように」
「……同じ顔に命じられるのは妙な感覚だな」
同一人物であるのだから、顔のパーツは同じだ。もちろん、立場の違いに依る髪型や服装に差異があるものの、一番の違いは顔付きだろうと自分でも思う。
「ハッサクさん、あんな怖い顔出来るんですね〜」
「怖いと言うよりも……、威嚇でもしているのかと言いたくなる顔ですね。腹立たしい程、記憶にある父上にそっくりです」
「あら〜」
「あれが言うには、家業を継いでいるそうです。"ハッサク様"と呼ばれているとも」
"ハッサク様"と呼ばれているのは、小生も同じではあるものの。それを受け入れているか否かの違いはある。長としての立場が、眉間に刻まれた彫りの深さを作ったのだろう。
「じゃあ、差別化として新ハッサクさんはハッサク様って呼びます?」
「……君に"様"を付けた呼称でハッサクの名を呼んでほしくありませんです」
「ほぁ。……じゃあ……、私にとって別人のハッサクさんなので、ベッサクさんで」
「ベッサク……」
オウム返しをした声が思わず震える。
"ベッサク"と呼ばれた方は、これでもかと顔をしかめているが、そちらに目を向けない紫音はその顔に気付かない。すぐさま原因の方に意識を向けたからだ。
「それで問題は、ベッサクさんが急に現れた理由ですよね……。何かこう……、パラレルワールドと言うか、平行世界の人だとは思うんですけど」
「間違いなくそうでしょうね。小生としては、早急にアレを送り返したいところではあります」
「意外と乱暴。ハッサクさんとベッサクさんが入れ替わったって訳でも無いなら……、ベッサクさんってもしかして穴に……、……ベッサクさん、お腹痛いんですか?」
思考の海を泳いでいた紫音が、ようやくベッサクへと意識を向ける。
大方、普段の丁寧な扱いとあまりに異なる呼び名を受けて混乱状態に陥っていたベッサクが、紫音に声を掛けられた事でようやく意識がはっきりしたのだろう。
何度か瞬きをしたベッサクが険しい顔で紫音を睨むと、小生に問い掛けた。
「……何だ? その娘は。このハッサクの娘だと仮定したとて、あまりにも無礼が過ぎるのではないか?」
「えぇ!? お腹痛いのか心配しただけなのに〜」
「その前だっ!!」
「おお、ばくおんぱはハッサクさんと一緒なんだ」
「小娘ーーー!!!」
「あははは。ご近所迷惑になるから地獄突きしちゃうぞ〜」
そう言いながら、ベッサクの喉元への直線に当たる位置へ拳を突き出す紫音。その際、危うく命中しそうになったマグカップを避難させるラクシアのファインプレーがあったのだが。
「今日まで、このハッサクにそんな態度を取る者は誰もいなかった……」
「あの狭い世界に留まり家業を継いだとなれば、恐れと敬重の扱いばかりでしょうからね」
頭を抱えたベッサクに、同情の気持ちが微塵も湧かない訳でもない。これも自分の選択に後悔はしていないだろうが、小生も外に出て良かったと思えた事は幸いだろう。
「……他にもいるのか? こんなふざけた人間が?」
「え? 紫音さんふざけてませんけど?」
「紫音、今は」
「あい……」
茶々を入れる紫音の唇に指を添えて大人しくさせると、その様を見たベッサクが怪訝な顔で小生と紫音を見比べる。それに収まらず、改めて紫音の頭の先から指先までを値踏みする視線を向けてくるではないか。
「若い胎に惹かれたのか?」
「……紫音の存在と自宅という場所にいた幸運に感謝しなさい。そうでなければ、セグレイブにきょけんとつげきを頼むところでしたよ」
若さだけで紫音を選んだ訳では無い。時期が来れば、巣立ちを見送る予定だったのだ。……小生が離してやれなくなっただけで。
今の小生と価値観が違うベッサクにとって、紫音の価値は"若さ"なのだ。
「セグレイブのきょけんとつげきは人なんてイチコロですからね〜。ハッサクさんが犯罪者になってしまいますです。家壊しちゃうのも大変ですからぁ〜、残念!!」
「なるほど。扱うのも容易いと見える。……どれ」
「……へ」
ベッサクは、表情を失った顔で上機嫌に「残念!!」と断じていた紫音の髪を掴む。
「えっ、痛……!」
「急に手荒な事を……!!」
「同じ"ハッサク"なのだ。お手付きにもならんだろう」
同じ顔のパーツを持った男がそう笑うと、紫音の顔を無理やり自分へ向かせるとその距離を縮めていくではないか。目の前で何を見せられているのかと立ち上がった小生の前で、紫音の口が動いた。
「 」
「……紫音……?」
「 」
口は動いているというのに、肝心の言葉が一向に聞こえてこない。脳裏に口話の可能性も過ぎったが、こんな場面でそんな事をする意味が分からない。
「何故……?」
「何故だと? 何を言うか分からないのは当たり前だろう」
「……!?」
紫音に噛み付こうとしていた男が、いつの間にか小生の背後に回っていた。凍り付いた背筋を無理やり伸ばして振り返ると、男は父に似た顔で笑う。
「それの答えをお前は知らないからだ。その上、己に都合のいい事すら言わせる事も出来ない。憐れな事だ」
嘲る様にくつくつと笑い声を漏らした男は、そのまま紫音を連れて行こうとしている。
待て、と声を発しようにも、喉が詰まって声が出ない。声どころか、息を吐く事も出来ない。
苦しさに藻掻いている内に、小生と同じ顔をした男は紫音を連れていなくなってしまった。
──────
────
──
「う、ううう……」
「びぇ……、スゥ……」
「あーっ! セビエってばハッサクさんの顔の上で寝てるっ!!」
夕方、アオイちゃん達とのピクニックから帰った私が見たのは、ソファで横になって眠っているハッサクさん。その顔の上で寝ているセビエ。……ハッサクさんの苦しそうな声が聞こえてくる!!
「おわおわ……! スゴい所で寝たね……。ハッサクさん大丈夫かな……」
急いでセビエを回収して、ハッサクさんの顔色を確認する。息苦しかったからなのか、少し顔色が悪い。
ドラゴンポケモン達がいれば、こうなる前にセビエを回収してくれるんだろうけど……。私が、と言うよりカロンがいつ帰ってくるか分からないから、ボールに入ってハッサクさんの部屋にいたから救出出来なかったんだろうなぁ。
「ハッサクさ〜ん。大丈夫ですか〜?」
ゆさゆさ。肩を揺らしてみる。起きないなぁ。
もう一度ゆさゆさ。ダメですねぇ。
「ごろ」
「水で起こしてみる? 待ってね、その前に言ってみたい事があるんだ! こう……、キスで目覚めるってアレ!!」
「ごぁあ……」
「ラクシア、ここであくびしないでよっ!」
興味無い、とばかりの大あくび。こっちまで眠くなっちゃう!!
「キスで起きなかったらラクシアお願いね」
「ごろごろ」
「……大丈夫です、起きました」
「へ?」
………………。ハッサクさん、起床。
寝苦しかったせいなのか、それとも私達がそばでお喋りしていたせいなのか。普段見ない不機嫌そうな顔でソファから起き上がったハッサクさんを前に、私はラクシアを抱えて飛び上がった。
「ひぃぇあァーーー!? いっ、いっ、いっ……!?!?」
「いつから起きていたのかを問われれば、最初に肩を揺さぶられた時です」
「何だか顔色悪かったのでっ、一度起きてもらってお水でも飲んでもらおうかとっ!!」
「……そうですか。顔色が……」
「……ハッサクさん?」
何だろう。まだ顔色が悪い。やっぱり水を飲んでもらった方がいいかも知れない。
そう思って、コップに水を入れてハッサクさんに渡すと、ハッサクさんは水を飲む前に私を呼んだ。
「紫音」
「はい!」
「……紫音」
「はい、どうしました?」
よっぽど嫌な夢だったのかな。何かを確かめるみたいに何度か私の名前を呼んだハッサクさんの隣に座ると、覚悟を決めた様に水を一息に飲み干した。変なの入れてませんよぉ!
「……紫音は、小生でない小生をどう思いますですか?」
「へ? ハッサクさんじゃないハッサクさん? メタモンとかがウニョ〜ンと変身したハッサクさんとかじゃなくてですか?」
「違う立場のハッサクが現れた場合です」
「んん?」
定義がよく分からないけど、多分ハッサクさんの顔色が悪い原因なんだろうな。何かそういう夢を見たんだ。
「ん〜、よく分かりませんけど、私が知ってるハッサクさんは隣に座ってるハッサクさんなので……。存在的にはハッサクさんと同じ人だろうけど、私の中で区別する為に違う呼び方考えると思います!」
「……同じハッサクだから構わないのでは?」
「構いますよぉ! どのくらい違う立場のハッサクさんなのかは分かりませんけど、立場が違うならハッサクさんと記憶も変わってるでしょうし! 何と言うか……、私と……、皆との思い出があるかどうかを重視します!! だから、違うハッサクさんは、私にとってのハッサクさんじゃないです!」
「…………」
ハッサクさんにはハッサクさんの。違うハッサクさんには違うハッサクさんの記憶がある。もうそれは存在が同じだけの別人なんじゃないかな。……あっ!
「もしかして、同じ顔だからベッサクさんでも構わないって思ってたんですか!?」
「ベッサク……。そこは正解だったんですね……」
「何が正解かは分かりませんがっ! いいですか、ハッサクさん!!」
「は、はい」
「私がハッサクさんを好きになったのはですね!」
「はい」
「不安な時に寄り添ってくれたり! ゴースト引き寄せ体質の解決に親身になってくれたり!! してくれたからです!! 会ってもないベッサクさんはそんな事してくれなかったので、好きになりませんっ!!」
……あれ? もしかして私、今とんでもない事口走ってない?
「……しっかり小生の事を好いてくれているのですね」
「ああああ当たり前ですます」
我に返って恥ずかしくなってきた! 勢いのまま返事をした私に、ハッサクさんはやっと安心した様に笑った。
「……これで、安心して奴を言い負かす事が出来そうです」
奴? 奴って誰だろう。夢の中でベッサクさんに言い負かされちゃったのかな。
私の疑問を横に、ハッサクさんは私を膝の上に抱え込む。そのまま二度寝の態勢に入ったではありませんか。
「……ちょ、ハッサクさん……?」
「第二ラウンド開始です」
「えぇー!?」
知らない間に、バトルに巻き込まれる事になった私は、ハッサクさんの腕から抜け出す事も出来ないままズルズルと夢の中に引きずり込まれて行った。