ミーティア越境編
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「んふぁ……」
「…………」
「でゅひぇ!?」
大あくびを噛み殺して、何とか小さなあくびにした私の脇腹を思いっ切りどつくカラマさん。眠気覚ましにはピッタリ、では無いです。凄く痛かったです。
朝ご飯を食べる時間だー、と起こされたのは太陽が昇る時間。太陽と共に起きて、修行をするって事みたいなんですが……。
恥ずかしながらわたくし、朝にめっぽう弱い! 夜ふかしなら出来るんですが、朝はラクシアの水を被ってやっとしょぼしょぼ起きられるレベル。そのラクシアもまだ起きない時間にカラマさんに叩き起こされたのです。
「どうひてぇ……」
「己が目を覚ましたと言うのに、同室のお前が眠りこけている事に腹が立った。走り込みに付き合え!!」
「そですか……、頑張ってください……。私はあと五時間くらい寝るので……」
八つ当たりで叩き起こされたなんてそんなぁ。カラマさんが言う通りなら、朝ご飯の前に走り込みするって事。朝からそんなに頑張りたくないので、もそもそと布団に帰ろうとする私の足元がひっくり返る。
ひっくり返るとどうなる? 盛大に転ぶに決まってる!
「はーっはっは! 布団が無いのならもう眠れまい!!」
布団を引っ張られたんだ、と理解した私の目の前に、布団ではなく床が迫ってきた。誰か助けて〜!!
「ぽぉおおお」
「んぉお……、カロン! キャッチありがとう!!」
「……ぽぉ」
ボールから飛び出してきたカロンの尻尾が、私の身体に巻き付いた。助けてくれたカロンに頬擦りしようとする私のほっぺたを、ため息と共に優しくビンタしたカロンはすぐにボールに引っ込む。照れ隠しというより、今はドラコンポケモンの気配が強い事に落ち着かないからなのかも。仕事は終わらせたし、カロンの為にも出来るだけ早く退散したいものです。
「はぁ〜、カロンのお陰で私の鼻が潰れる悲劇は回避されたよ」
「良かったな。さて、完全に起きた事だろうから、走り込みに行くぞっ!!」
「ヤダーーー!!!」
何で朝からそんなに元気なんですかっ!? 修行着を押し付けてくるカラマさんからはもう逃げられそうにない……。ぺそぺそしながら仕方なく修行着に腕を通した私は、やる気に満ち溢れているカラマさんの手持ちポケモン達と一緒に、引き摺られる様に朝の走り込みをする事になったのです……。
*
*
「ふぅっ」
「……っ、は、うひぇ……!」
脇腹が痛いぃ……! 部活が終わりました、なんて爽やかな空気感を出しているカラマさんの横で四つん這いグロッキー状態の私。ビワちゃんトレーニングどころの話じゃない。マジでカラマさんの修行の一つに付き合わされただけだ。だからずっとカラマさんのペース。リタイアするっていう考えにもならないくらいのハイペース、よく頑張りました……。
「ここまで来れば良いだろう」
どこをどう走ったかも分からないけど、何だか見覚えがある水路まで走ってきた。朝の早い時間だから、冷たい水で冷やした手を火照った顔に当てると気持ちいい。
「あぇ? まさか今からすぐ復路展開?」
「帰りはルギアに乗れば良いだろう。それよりも、だ」
「えぇ……。私のポケモンに聞く前から決定事項にするんだ……」
「ええいうるさいな!」
「何でぇ!?」
回復してきた脇腹をどつかれた。あれ、これさっきも同じ事されたな!? 人の脇腹だと思って!!
「朝食が済んだら、いよいよ事の顛末を里長様の前で語る。動機として、お前とハッサク様の関係が槍玉に挙げられるだろう」
「……あら〜。つまりこれは密談って事ですか!?」
「うるさいぞ。ここまで騒ぎが大きくなった。里長様のお耳にも入る。……嫁取りの話になるぞ」
「……選り取りみどり?」
「よーめーとーりー!」
「いひゃい〜!!」
「そういう関係ではないのなら話は早いだろうが、昨夜ハッサク様が校長にも言っていただろう。実質嫁だ」
嫁取りなんてワードが出てきたから、いつもの様に茶化そうとしたらほっぺた引っ張られた。話しながらびよんびよんとほっぺたを引っ張られる。アンパンマンじゃないので、そんなに引っ張っても千切れませんですよぉ!!
「いや待ってくださいよぉ……。そりゃあゆくゆくはけ……、けけけ、ケッコン……、とかもあるだろうけど、そういうのは卒業してからってハッサクさんも言ってたし私まだ嫁じゃないです……。カラマさんも聞いたでしょ?」
「そうだな。だが、里には里の風習がある」
「ふむ。何かしきたりがあるんですね?」
「タンジー様の暴走も、それに由来するとも言えるな。……幼い子に親が添い寝するでもなく、幼いきょうだいでもない男女が同じ部屋で寝たら、それは夫婦の契を交わしたと同義とされている」
「…………」
「…………」
沈黙。と言うより、私が凍り付いた。
その氷が溶けるまで待っていてくれたカラマさんの肩をむんずと掴んで、私は震えながらも声を絞り出す。
「なんで、いっしょにねたこと、しってるですかぁ……?」
動揺しすぎて、タラちゃんみたいな喋り方になってしまったですぅ。……じゃなくて!!
「学校で添い寝バレした時はフカマル先輩がエイルちゃんに話したのがきっかけで自爆したけどなんで遠いジョウト地方の人がそんな事知ってるのぉ〜!?!?」
「知ってるも何もお前とハッサク様は見るからに男女の距離感だろうがっ!!」
「ぎゃんっ!?」
「同じ家で暮らしている事は少し調べれば分かる。その上であの距離感、考えなくても分かるわ馬鹿がっ!!」
力いっぱいに振り下ろされたアームハンマーが私の脳天に直撃クリティカル。再び地面に寝転ぶ事になった私の頭を指でプスプス刺しながら、カラマさんの呆れた声が降ってくる。
「ヒドい! でも、ハッサクさんがお付き合いするの私が初めてじゃないでしょ? カッコ良くて紳士的、感動屋さんのご愛嬌もあるし」
「ハッサク様だぞ。当たり前だ」
「まさか、その度にこんな事してたんですか?」
「そんな訳あるか。初回でハッサク様の逆鱗に触れる事間違い無し。つまり今回が初めてだ。……これまではタンジー様と同年代だったので余裕があった。まだ大丈夫だと。ところが今回はお前だ。いよいよ若い胎が良いのかと暴走された、といったところだろう」
「はぇ〜。嬉しくない初回特典〜」
"若い胎"って言い方も何かイヤだなぁ。それ、つまりハッサクさんは若かったら誰でも選びそうって事でしょ? ハッサクさんにすっごく失礼では?
「…………ふぅん、なるほどなぁ〜」
「何が"なるほどなぁ〜"だ! いいか! お前はこれから衆人の目に晒されるんだぞ! その上、悪意の罠にまんまと引っ掛かって!! 状況を分かっているのか!?」
「え〜ん面倒くさい状況だってのは分かってますよ……。お仕事終わったし、いっそハッサクさん連れて帰りたい気持ち……」
ハッサクさんの気持ちを無視してそんな事しませんけどね。責任を果たしてから、って言ってたし。
それに何より、そんな事したらハッサクさんに嫌われそう! それは嫌、ぜったいに!!
「私としては、そりゃあ放火犯に仕立て上げられそうになった事は驚きましたけどね? ハッサクさんが信じてくれたからそれでいいかなって気持ちなんですよね〜。後はジュンサーさんに引き渡すとかそういう話ですよね? それはそれとしてどうやらそのタンジー様さんがハッサクさんに失礼な事考えてたって分かってムカムカしてきたけど」
「は? お前はまだ放火の容疑者のままだが?」
「……えぇー!?」
何ですって!? 驚き過ぎて痛みも怒りも吹っ飛んだ。
起き上がった私に、カラマさんは今日の会合で話題に上るだろう事を指折り数えている。
「まず放火について。これが一番の話だろうな。被害はタンジー様の屋敷のみで済んだが。ここでタンジー様の有責が認められないと……」
「認められないと……?」
「その先は無い。いくら長を継がれる予定のハッサク様の嫁だとしても、まだその話が出ていない。つまりお前は闖入者で、放火の容疑者だ」
「最悪じゃないですかぁ!! ……ん? 長を継ぐって何ですか?」
「何だ知らないのか? ハッサク様は里長を継ぐべく育てられた方だぞ。そのハッサク様に選ばれたのだからシャンとしろという話だ! ただの闖入者でしかないお前なんか、ハッサク様も庇い切れんぞ!」
つまり、被告人弁論をどうにか切り抜けて、証人として出てくるタンジーさんが有責だって分かってもらわなきゃいけないって事だ。
検事はまぁ、里の人がやるだろうけど、じゃあ私の弁護人は……?
「あの……、弁護人って付きますか……?」
「……可能性があるとしたら、ハッサク様の付き人だな」
「その言い方、ほぼ望み薄って事じゃないですか!!」
「大丈夫だ、校長もいるだろう!」
「そこはカラマさんも弁護に回るって言ってくださいよぉお……!!」
「師に表立って刃向かえるか!!」
「師。……師ってつまりカラマさんのお師匠さんが、タンジーさん?」
「そうだ」
「へぇ〜。……大変だったんですねぇ……」
いやぁだって大変でしょう。師匠だからって、死体を探せなんて横暴過ぎません? 放火魔に仕立てられた私ですら思わず同情してしまうレベル。
「それは……、わたしからは何も言う事は無い。ただ、ずっと寂しそうだとは思っていた」
「ふぅん? 寂しかったからってハッサクさんへの対応は許しませんけど」
「……里の外へ修行へ出たきり戻らぬハッサク様の許婚だと聞いていたから、健気な方だとばかり……。同時に、顔も知らなかったハッサク様に怒りすら感じていた」
「ところがどっこい、実際は違った?」
「いや、タンジー様がハッサク様のお帰りをずっと待っていたのは本当だ。タンジー様を慮る事すらおこがましいが、……きっと、ハッサク様を見送ったあの日から、先に進めなかったんだろう」
きっと、お世話になった師匠の事を悪く言えないのかも。……びっくりするくらいのトンデモ指示が出されたとしても。
「ふぅん。でも、タンジーさんがハッサクさんの手を断っちゃったんだもんね」
「そう、らしいな……」
「決闘の時も、ボーマンダいれば勝てるって言われて貸し付けられた感じです?」
「それは違う! 移動のついでに、パルデアの空を感じさせてやって欲しいと言われたんだ」
「……実力無視して押し付けられた訳じゃないんだ。一安心」
まぁ実際はどう思ってたかは分かりませんけど。カラマさんが不在の時に、炎を背負ったタンジーさんが「海が駄目なら山に」なんて叫んでた姿が強烈に焼き付いてる。ラクシア達の様子からも、あのボーマンダが私を打ち上げて海に捨てたボーマンダで間違いない。
カラマさんが私に勝てば良し。勝てなかった場合の保険があのボーマンダだったんだね。どう転んでも、私がハッサクさんと連絡を取れない状態にする為に。
「……よしっ」
とりあえずハッサクさんを監禁した分。失礼な勘違いで暴走した分。ハッサクさんが帰って来なくてしょんぼりしてるセビエやフカマル先輩の分。
あと、監禁のせいで帰れなくて仕事が大変になっているアカデミーやポケモンリーグの皆の分。
「十回くらいじゃ足りないなぁ……」
「……何をする気だ?」
「……えへへー」
……不眠不休で、存在しない私の死体探しを命令されたカラマさんの分も入れとこうかな。
「乙女のヒミツ!」
「…………」
あ、ドン引きしてる。まぁいっか。もうカラマさんに怒っても仕方ないって分かったし。それもこれも、ぜーんぶタンジー様さんに受け止めてもらわなくっちゃ!!
「さぁさぁ帰りましょう! ハッサクさんが私の不在に気が付くと、過保護大爆発してしまうかもだし!」
「……寒気が……。タンジー様がお前と連絡が取れない理由を何と伝えていたか分からないし……。戻ろう、早く!!」
そっかぁ。旧スマホロトムは海の底。連絡が取れない事を幸いに、ハッサクさんにどんな話をしていたのか分からない。
きっと自分のせいにされている事を察したのか、カラマさんがお屋敷目指して走り出した。今度はぐるりと外周を回る事なんてせずに、目的地目指してまっしぐら。
置いて行かれると、あっという間に迷子になっちゃう!
「わぁ〜! 待ってカラマさん!! ハッサクさんに電話すれば……、って速っ!!」
イーブイの逃げ足もびっくり。スマホを仕舞う暇も無いまま、私はカラマさんの背中を大慌てで追い掛けた。