ミーティア越境編
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「カラマさん」
「…………」
「……カラマさん」
「……何だ」
紫音さんを見送って、既に一時間は経ちました。
本来ならば、手紙を渡してすぐに戻って来る手はずだった。一時間も音沙汰が無いのはおかしい。それは分かります。
カラマさんが紫音さんを心配しているのは意外ですが、彼女に配達を依頼した私とて心配しているのは確かなのですが、それはそれとして。
「ロトムが逃げ出す程スマホを握り締めて、睨み付けるのは止めてください」
「ロト……」
「ロトムが怯えていますから……。人の物を壊してはいけませんよ」
「ぐぅ……。分かった……、返す……」
渋々、と言った様子でカラマさんが私のスマホを手放しました。彼女の手から離れた途端、ロトムがようやくスマホの中に身を落ち着かせます。その間も、紫音さんからの連絡が来ないか視線を逸らさないカラマさんの目から逃れる為に、画面を暗くしてもらう気遣いに助けられてしまいました。
「ポケモンに様子を見てきてもらいましょうか?」
「……ふんっ。どうせじきに失敗したと泣いて帰って来るに決まっている!!」
あれほど心配して落ち着かない様子だったと言うのに。ドラゴン使いのプライドもあって、素直になれないのかもしれません。難儀な事です……。
「では私のポケモンに頼んで……」
ヤレユータンならば、森のポケモンに的確に指示を出して情報を集めてくれるでしょう。そう思った私がボールを手に取ると、木々の向こうから何やら話し声が聞こえて来ました。
「……! まずい。校長、ピクニックセットを仕舞え!!」
「分かりました」
ドラゴン使いの里に近いこの場所では、詳しいカラマさんの指示に頷くのが確実。急いでピクニックセットを小さく折り畳んで収納すると、そのタイミングで二人のドラゴン使いが近付いてくるではありませんか。
「カラマ!? お前、パルデアにいるはずでは……」
「どういうつもりかは知らないが……。ひとまず来い」
「どうもこうも。里の外での修行を認められぬ者達の言葉を聞く理由は無い」
「…………」
竜使いの里の方々は、これほど言葉が刺々しいものなのでしょうか……。彼らと同郷であるはずのハッサク先生との会話では、これほど刺々しい言葉を向けられた事は無いのですが。
「ハッサク様の指示だ。配達人の協力者を連れて来る様にと」
「ハッサク先生の……」
「……! 配達人は無事なのか!? 手紙はちゃんとハッサク様に手紙を届けられたのか!?」
「ああああそんなに揺らすなああ! ……んんっ、詳しくは知らん」
ハッサク先生からの指示だと聞いた途端、カラマさんが飛び上がります。ドラゴン使いの肩を激しく揺さぶるカラマさんが引き剥がされるのを見ながら、私は考え込みました。
配達人。つまり紫音さんの事でしょう。ハッサク先生が彼女の事を認識していると言う事は、無事に手紙を届けられたという事。その紫音さんを送り返さずに、我々を招集しようとしていると。
……何やら嫌な予感がします。
「我々を里まで案内していただけると思ってもよろしいですか?」
「手荒な扱いはするなと言われている。大人しく従えば、こちらもそれなりの扱いで返す」
「分かりました。ではお願いします」
「校長!」
「カラマさん。穏便に、ですよ」
そう微笑むと、カラマさんは不満を隠さないまま顔を逸らしたものの、大きなため息を吐いて歩き始めます。
勝手を分かっているからか、迷い無く歩く彼女の後ろを歩くだけ。やがで開けた道に出る頃には、風に乗って僅かに焦げた臭いが漂い始めていました。
*
*
「あ、来た」
「…………」
「わぁ、カラマさんスゴい顔」
紫音さんが潜入した水門からではなく、里の正門から竜使いの里に足を踏み入れた私達を出迎えたのはドラゴン使い達──ではなく、朗らかに手を振る紫音さんでした。
ポケモンバトルで流れ技が掠ったのか、紫音さんの顔には絆創膏が貼られているものの、概ね見送った時と同じ様子に見受けられます。
「お前ー!! 何だその顔はーーーっ!!!」
「のうがゆれてるぐわんぐあむのまかだみあなっつぅ」
「カラマさん。紫音さんの頭が落ちそうです」
「その時は新しい顔をつけてやる!!」
「その時はちゃんと『紫音ぱんまん、新しい顔よ』って言ってね」
「お前は何を言っているんだ?」
先程、ドラゴン使いよりも激しく紫音さんの肩を揺さぶるカラマさん。脊椎が損傷してしまうからと慌てて止めたものの、当の紫音さんはいたって元気そう。時間差で痛みが出た場合、原因が分からない痛みにならないか少し心配ですが。紫音さん本人の素頓狂な発言に、カラマさんが冷静になった今の内が、話を進めるチャンス。
「何も分からないまま連れて来られたのですが……。紫音さん、何かあったのですか?」
「ああ、はい。まずハッサクさんには手紙を渡しました。ビデオレターはまだです」
「ふむ、なるほど」
「カラマさんの地図もあったし、ジャックが注目を集めてくれたしで、スムーズにハッサクさんがいた建物に到着できました」
「それは良かったです」
「ふんっ、当たり前だ。わたしが協力したんだから」
「ただその時、放火犯にされそうになりました」
「……放火犯?」
とんでもない言葉が聞こえてきました。
放火犯。あまりの言葉に思わず聞き返すと、紫音さんはあっけらかんとした様子で頷くではありませんか。聞き間違えた訳では無さそうです。それどころか、淡々と話を続けます。
「里の人がみーんなジャックの方に集まってたので、逆に証拠が無くて危ない所でした。私じゃないって言っても、そりゃあ侵入者より里の中にいる人の方が信用度高いですからね」
「……タンジー様……」
拳を握り締めるカラマさんが、険しい顔で名前を呟いた。"タンジー様"。……確か、タンジー様の離れにハッサク先生がいるというお話ではありませんでしたか?
「あ、そんな名前でした。ハッサクさんがいる建物の前での事だったので、ハッサクさんと、一緒にいた人がスマホで映像撮ってくれてて助かった、という訳です」
やはり。と言う事は、"タンジー様"は自宅、もしくは自宅敷地内にある建物に火を放ち、それを紫音さんがやった事にする算段だったと言う事になります。
「だから気を付けろと言っただろう!!」
「あぎゃー! そうは言いますけどカラマさん! 気を付けろなんて直接言われてませんよ! 何か意味ありげな事をボソッと呟いてたってクラベル先生に教えてもらっただけですけど!?」
「……そうですね、忠告が婉曲過ぎます」
伏せる様に警告しようとして「頭が高い」と言う。
今回は、相手が何をしてくるか分からないが故に、意味有りげな言葉を漏らしただけ。
「ぐっ……」
「まぁ、過ぎた事は仕方ないので! で、木造建築が多いこの場所で放火は他の建物にも燃え移る危険があって重罪なので、そのタンジーさんは連れて行かれました」
「経緯は分かりました。それで、我々が里に呼ばれた理由は何なのでしょう?」
「何だか、私自身もジャックでお騒がせした事と、放火事件の関係者って事になるので事情を聞きたいんだそうです。で、外でクラベル先生とカラマさん待たせてるって言ったら呼んできなさいって事になりました。何でも、今から宿泊施設のあるポケモンセンターまで移動してまたここに来るより、今夜一晩ここで過ごした方がいいだろうって」
「……なるほど。合理的ですね」
移動の手間はもちろん、逃走の可能性を潰すという意味でも合理的です。
お泊りだ、と一人で盛り上がっている紫音さんに苦笑いをしながら、私は相変わらず険しい顔をしているカラマさんに訪ねます。
「休める場所はあるのでしょうか?」
「布団の心配か? 里の外からもドラゴン使いの修行者を受け入れている。その者達の為の布団があるから、それを使うのだろう。寝泊まりするのは、里長様の屋敷だ」
「そうですか」
「……このままわたしが里長様の屋敷まで連れて行く。お前達はもう下がっても良いぞ」
「カラマを含めて連れて来るように言われているんだが? 話が終わったのなら行くぞ」
「……ナマイキなー!!」
堂々と話を仕切ったカラマさん。しかし、それを流された事に憤慨した彼女は、先を行かれてたまるものかと誰よりも速く歩き始めました。最早競歩の速度で突き進むカラマさんを止めたのは、意外にも紫音さんでした。
「あ、そっち放水でびしょ濡れなのでそんな早歩きだと転びますよ〜」
「ぬっ……。早く言え!!」
「進む道はこっちだ馬鹿め」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは! おいっ、バトルしろ!!」
「はぁー……」
「う〜ん、元気」
若者は元気が有り余っている様です。紫音さんも困った様に笑うだけで止める様子はありません。
「場所が分かってれば、私達だけでも先に行けるんですけどね〜。用意をするからって、ここでクラベル先生達を待っていてくださいって言われてるんです」
「先程カラマさんが言っていた布団等の用意があるのかもしれませんね。だからと言って、先方を待たせ過ぎるのも良くありません。紫音さん、止めるのを手伝ってください」
「は〜い。レッツゴーでサクッと無力化しちゃいましょう」
「いいえ、君のミズゴロウの水で……」
「……随分と迎えに時間が掛かっているから見に来れば……、何を遊んでいるのです?」
今にもニ対一のポケモンバトルが始まろうかというその時。緊張感で張り詰めた空気に、懐かしさすら感じる声が響きました。
そちらに顔を向けると、見慣れた背広姿ではないハッサク先生の姿が。
「お久し振りです、ハッサク先生。……少し痩せましたか?」
伝統衣装として見た事があります。キモノやユカタと似た形の衣服に腕を通しているハッサク先生は、私と目が合うと少し気まずい様子。ぎこちない笑顔の先生に握手を求めると、わずかに迷ったハッサク先生は小さな声を絞り出しました。
「……校長先生……。未だ小生をハッサク"先生"とお呼びいただけるのですか?」
「当然です。私としては、ハッサク先生からの辞意を受け取っていませんからね。現状、言うなれば長期の無断欠勤です」
「これは手厳しい……。長期の無断欠勤をしでかした小生は、教職に戻れますですか?」
「通常ならば席は無いでしょうね。……ですが、ハッサク先生ご自身で今回の経緯を説明した上で、心から教壇に戻りたいと願い、教師陣皆の是があればすぐにでも」
「…………」
私の言葉に、小さくため息を吐いたハッサク先生は、そのまま差し出していた手を下ろしてしまいました。安堵のため息だったと思いたいのですが……。ハッサク先生にの中には、わだかまりが残っているのかもしれません。
「ハッサク先生……」
「校長先生の手を取る為にも、小生には果たさなくてはならない責任があります」
「……そうですか……」
生徒の皆さんの為にも、これ以上自習をお願いし続ける訳にはいかない。正解の無い授業とは言え、教え導く教師がいなくては皆さんも迷ってしまいます。
「……ハッサクさんが帰らないなら、私もここに残ります」
「……紫音さん?」
紫音さんが言いづらそうに口を開いたのは、私達の話が終わった直後でした。
会話の中盤から、何やら挙動が怪しいと思っていたのですが……。ハッサク先生の傍に歩み寄った紫音さんの言葉に、私は怪訝な顔を隠せません。
「……あれがソレでこれがアレな感じなので!」
「紫音さん、それでは何も分かりません……」
「あ……。あ、あ〜……。ハッサクさんっ!!」
困り果てた紫音さんに助けを求められたハッサク先生が、同じく困った顔をして彼女の肩を抱き寄せるではないですか。
「……褒められた事ではないと理解はしているのですが……、彼女とはいずれ結婚する心積もりでした」
「けっこん」
「生徒ですから! 手出しはしていませんですよ!!」
「……合点がいきました……。恩人の危機だから必死なのかと思っていましたがなるほどそういう……」
大切な人の為ならば、危険を厭わない。
親御さんと会う為にエリアゼロに降りたペパー君しかり。いじめに立ち向かったスター団の皆さんしかり。
紫音さんも、我々が止めなければハッサク先生の為に単身ジョウト地方へ渡ろうとしていたのですから。若い方々の行動力というものは侮れません。
「でもハッサクさんに教師をしてもらいたい気持ちもあるので、帰らないって言われても説得したいと思っていましたよ!」
「その心配はいりません。小生、教師を辞する気は微塵もありませんですよ」
「良かった〜! じゃあ帰りましょう!!」
「帰るのは責任を果たしてからですよ」
「そうだった!!」
パルデアに帰るつもりであると言うハッサク先生の言葉に、両手を挙げて喜ぶ紫音さん。
「ハッサク先生」
「……はい……」
「紫音さんも」
「へぁい?」
「交際についてはお二人で決める事ですから、私から言う事はありませんし、これまで気付かなかったくらいですから大丈夫だとは思いますが……。アカデミー内では節度を保ってくださいね。困るのはハッサク先生ですよ」
「……はい」
「……はい……」
二人揃って、同じ顔で同じ返事をするその様子に私もほぉっとため息を吐いて、オモダカ理事長に現状の報告をしなければと、頭の中で簡単な報告書をまとめ始めたのでした。