パルデア上陸編
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「では、ここで待っていてくださいですよ」
空飛ぶタクシーって言うから、てっきり大きな鳥ポケモンが運んでくれると思っていた。鳩くらいの大きさのカラフルな鳥ポケモン達が運ぶゴンドラに揺られてしばらく。立派なモンスターボールが象られた建物のすぐ横を通過して、空飛ぶタクシーは殺風景なビルの横に着地した。
ガラス張りのビルの中に案内されてすぐ、目の前には机とそれに向かい合うように置かれた椅子が一つ。その椅子の方に案内された私は、大人しく椅子に腰掛けた。
「皆を呼んできます」
「はい……、えっ?」
え? 皆って言った? つまり複数ってこと? 圧迫面接じゃん怖いな〜。まぁこっちにもポケモン六匹いるし、気持ち的には勝ってるから怖くありませんけどね?
「状況が状況ですので、知識をお借りしようと人をお呼びしただけですよ。取って食おうなどとは思っていませんので、そんな物騒な事は考えなくて大丈夫です」
「……ですよね! 不安だったので全部言っちゃってましたすいません……」
「大丈夫ですよ。では、少々待っていてください」
「あっ、ハイ……」
やっちゃったよ……。全部口に出してた……。
大丈夫だと言った通り、ドラゴン使いの人は私の肩をポンポンと優しく叩くと、フカマルと一緒に扉の向こうに消えた。
ポツン、と残された私は、暇なのでとりあえず椅子に座り直してみたり、辺りをキョロキョロ見渡してみたり。うーん、殺風景な部屋だなぁ、等と思っていると、自動ドアが開いた。
「お待たせしました」
「アッ、大丈夫です」
まず入ってきたのはスレンダーな眼鏡美人。グリーンの髪の毛を後ろで結んでいる。足が長い人。
それに続いて、こちらも長髪美人さん。眼力が強い。この人も足が長い。
その後にダンディ眼鏡さん。優しそうな雰囲気だけど、眼鏡が照明を反射して光っている。
最後に私を拾ったドラゴン使いの男性。書き取り用のバインダーを持って戻ってきた。
「……それでは、面談を始めさせていただきます」
「は、ハイっ」
机に座ったのは、最初に入ってきたスレンダー眼鏡美人。傍らにあるパソコンを見ながら、まず名前を聞かれた。
「まず、お名前からお伺いしても?」
「あ、紫音、です……」
「なるほど。紫音さん、ですね」
めちゃくちゃ緊張する〜! 美人の敬語は圧がある。頑張らないと声もちっちゃくなってしまいそうだ。
「ご出身はどちらですか?」
「しゅ、出身。出身は……、ホウエンです」
「ホウエン地方。随分遠い所ですね」
「そ、ソウデスネ……」
「では旅に出る際、最初に選んだポケモンは?」
「ミズゴロウです」
これは迷いなく答えられた。ホッと安心する暇もなく、面接官は淡々と次の質問を投げ掛ける。
トレーナーカードは持っているか。いいえ。
では、トレーナーIDは。覚えていない。
正直、身元を証明できる物は何も持っていない。これ以上身元をつつかれると、何も答えられなくなってしまう。
「……最後にいたのはシンオウ地方だと伺っています。何故ホウエンからシンオウ地方へ?」
「はぇっ、えっと……、こ、コンテストの為に……」
「コンテスト。……ポケモンコンテストですね?」
「そうです、ハイ!」
「では、そのコンテストの最高成績は?」
「最高成績……。えっと、ホウエンですか? シンオウですか?」
「どちらでも構いませんよ」
「ホウエンでは、全クラスマスターランクです……」
「それは素晴らしいですね。……ですが、最近の記録にあなたのお名前はありませんよ」
「……っ!!」
しまった。ゲームは【紫音】って名前でプレイしてない。言葉に詰まった私に、面接官はそれ以上深く突っ込む事もなくにっこりと微笑んだ。
「……ところで、話は変わりますが」
「は、はい……」
「あなたの事を報告してくれた彼から、どうやらあなたはスマホロトムをご存知ないようだと伺いました。スマホロトム、お持ちではありませんか?」
「持ってません……」
「シンオウ地方では、スマホロトムを使わないと?」
「シンオウ地方ではポケッチを使ってました。ポケッチは……、……あれ? ポケッチも無い……!!」
いやまぁ元から持ってないんだけどね。ポケッチ関連もこれ以上突かないで欲しいなぁ、と思っていたら椅子に座るように促された。
「……長距離の移動手段は秘伝わざの空を飛ぶ、だとも聞きましたが、間違いありませんか?」
「はい……」
「……おかしいですね。ここ数年のシンオウ地方は、野生ポケモンの力を借りて旅をするのが主流になっていますよ」
「……え?」
「手持ちのポケモンが一匹。あなたも野生ポケモンの協力を得ながら旅をしていたのでは?」
「……違います……。いあいぎりはアブソルで、かいりきや岩砕きはミズゴロウ、空を飛ぶ時も手持ちの鳥ポケモンで……、ちゃんと六匹いたんです!!」
「……ですが、発見された時はミズゴロウ一匹しかいなかった」
「そっ……、そう、です……」
そうだ、何でミズゴロウだけなんだろう。ちゃんと六匹揃ってた。何なら手持ちにルギアもいた。
でも今はミズゴロウしかいない。違う地方のポケモンだって、手間はかかるけど連れてこれたのに、今は誰もいなくなってしまった。
「では、次の質問です」
「……はい……」
「フェアリータイプ、ご存知ですね?」
「フェリー?」
「……フェアリー、です。ポケモンのタイプですよ」
「え? そんなタイプありました?」
「……えぇ。発見されたのは十年前ですが」
「じゅっ……」
「……なるほど、分かりました。私からの質問は以上です」
何が分かったんだろう。私には何も分からない。
未来に来ちゃったんだろうなぁ、とぼんやり思ったのは確かだけど、十年単位で時間をすっ飛ばしたなんてさすがに予想できない。
「……そんなに不安そうな顔をしないでください。あなたのお話を聞いて現在分かっている事を、あなたにお伝えします」
そう言ったのは、ダンディな眼鏡の人。さっきは眼鏡が反射して怖いな〜って思ったけど、よく見たら優しそうな顔をしている。
「クラベル、と申します」
「あ、紫音です……」
クラベル、と名乗ったダンディさんは、ニコッと優しく微笑んで眼鏡を押し上げた。
「諸事情で、時間に関する事には他の方より詳しい私からお話させていただきますね」
「お、お願いします……」
「さて、紫音さん。あなたは時空の狭間に落ちてしまったと思われます」
「……はい……」
「シンオウ地方の伝承はご存知ですか?」
「はい、まぁ……。シンオウ伝説は有名ですし……」
そこから話を組み上げました、とは言えないけど、どうやらシンオウの伝説は他の地方でも知られているみたいだ。何とかなって一安心。いやこれからの事を考えると全く安心はできないけど。
「パルデアでも知られていますよ。まず宇宙を創ったポケモンがいて、時間と空間を操るポケモンがいて、創世神の怒りに触れた暴れ者が世界の裏側に追放されている、というお話ですね」
学校の授業の様に、分かりやすく説明が始まった。
私が考えた通り、クラベルさんも時空を超えてしまったと判断したみたいだ。
「ウルトラホールで時空を超えてしまった方は、記憶を失っていたという例もあります」
「ウルトラホール?」
「気になりますか? 興味がおありでしたらアカデミーに……」
「クラベル校長」
「……失礼、話の途中でしたね」
それまで何も言わずじーっと私を見ていたもう一人の眼力強くて足長い人がクラベルさんの話を遮った。話が逸れるのは許さないって感じだけど……、アカデミーかぁ。ポケモンで序盤の街によくある学習塾だよね。タイプ相性とか道具の効果とか黒板に書いてあるんだよねぇ。それ以外の事も勉強出来るのなら、ちょっと興味ある。と言うか、クラベルさん校長先生だったんだ……。クラベル先生って呼ばなきゃ。
「……あなたは記憶の代わりに、これまで旅を共にしてきたポケモン達を失った訳です。もちろん、渡り人もポケモンを失っていますが、記憶が無いので悲しむ事も無い」
「……え! でもボックスにはもしかしたら……」
「トレーナーIDが分からないのに、ですか?」
「あ……」
あー! そうだゲームじゃ当たり前にパソコン使ってたけど、よく考えたらトレーナー毎にボックス振り分けられてるんだから、トレーナーカード読み込ませて使う可能性だってあるんだ……。その肝心のIDは分かりませんって自分で言ったんじゃん……。
「……それに、仮にIDが分かったとしても、もうボックスは使えません」
「使えない……?」
「はい。……少なく見積もっても十年のタイムラグです。悲しいですが、ポケモンにも寿命があります」
「そっ……、れは、そうですけど……」
「長期間使われていないボックスは閉鎖されます。……その際、預けられていたポケモンは新たなトレーナーに貰われたり、野生に返したりするのです」
「そんな……」
だってアニポケのサトシはずっと……、と思ったけどそうだサトシは歳とってない!! ポケモンも生きている、ゲーム内でもポケモンの寿命の話あった。
それに、長期間使われないボックスの話も納得だ。預かるパソコンの容量だって無限大じゃない。使わないものは空けると言われれば違和感は無い。
「………………そんな……」
「…………心中お察しします」
「で、でもミズゴロウ以外にも手持ちがいて……!」
「現実、ミズゴロウしかいません。その時に何があったのかも分かりませんが、……恐らく、ミズゴロウは必死の想いであなたについて来てくれたのだと思いますよ」
「ミズゴロウ……」
何だかそんな気がしてきた。無意識にミズゴロウのボールを手に取ってじっとボールを見下ろすと、ミズゴロウはボール越しに尻尾を振ってくれた。可愛い。
「以上が、現在予想されるあなたの状況です」
「……ありがとう、ございます……。時間飛んだかな〜、とは思ってたんで、ちょっと驚いたけど大丈夫です、アハハ」
そう言って笑った。ちょっと乾いた笑い声になってしまったせいで、クラベル先生に心配そうな顔をさせてしまったのは悪いことしたな、と思う。
「ここからもう一つ大事なことがあるのですが……」
「ドンと来いです」
ポケモンの世界に来た上、どうやら私が知らないポケモンがいくつか発売されてる。これ以上の驚きはないと思う。もう何が来ても驚かないぞ!
「あなたはあなた自身の身元を証明する事が出来ないので、家を借りる事ができません」
「ぶはっ」
クラベル先生の言葉で、驚くべきことにうら若き乙女が野宿する事が決定した。