ミーティア越境編
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「何なのです? こんな場所まで侵入者を許すなんて、怠慢が過ぎますわ」
ハッサクさんに会う為に、カラマさんの指示通り潜入ミッションを遂行していた私達の前で、大きなため息を吐いたドラゴン使い。月の光しか私達を照らす灯りは無いせいか、その態度からは余計に冷たさを感じる。
雰囲気で負けちゃいけない。だって、相手は建物ごと私を燃やす勢いで火炎放射を指示した人。選択肢を一つ間違えれば、今度こそ危ない。
「──よしっ」
ちょうどいい前振りも頂いた事ですし! ここはムービースキップせずにバシッと決めるべきシーン!! まずはペースを掴まなくちゃ!!
「何なのです? と言われたら!!」
「は?」
「ごろろ、ごろろあごろごろろ!!」
「よし来た! 世界の破壊を防ぐ為!!」
「ぽにゃー、ぽぽにゃぽにゃーぽっぽ」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ぽぉ……」
『紫音、長ぇよ』
あのお決まりの台詞を皆でつらつらと語っていたら、カロンのタイミングでジャックから横槍が入った。振り返ると、狭い路地がジャックの銀の羽根で埋め尽くされている。月光を遮られて余計に暗くなったけど、ジャックが来てくれたお陰で相手のドラゴン使いの人の意識が私から逸れた。よし、仕切り直し成功です!
「ジャック! もう! こういうのは様式美というモノがありましてですね!」
『はいはい、悪ぅございました』
「…………ニックネーム……。なるほど、伝説に聞くルギアを従えていると」
『従ってねぇ』
「従えてません。そういう上下関係は無いです」
「こんな夜分にどうされましたか? 侵入者だと勘違いして、攻撃する者もいるかもしれません。ひとまず今夜はわたくしの屋敷へ」
仕切り直しになったのは相手も同じ。
値踏みする様に私とジャックを何度か見比べたその人は、スイッチが入ったかの様に優しく微笑んだ。今までの冷たい雰囲気が無かったみたい。そして、私達の「従ってない、従えてない」という返事も無かったみたいに。さらに言うなら、問答無用で建物ごと焼こうとした事すら無かったみたいに!!
「……ごろろ。ごろろあごろごろ」
「……分からないけどラクシアの言ってる事分かる……。何か嫌な予感するよね……」
「外は危険ですわ。どうぞこちらへ」
「……結構ですー! 用事が済んだらすぐお暇しますので!!」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。夜は危険ですしお疲れでしょう? ゆっくりお休みになるくらい良いではありませんか」
「いいえ!」
「あらあら、遠慮も過ぎると無礼になりますわよ? ゆっくりお休みになるくらい良いではありませんか」
うーん、ダメだ。ドラクエみたいに「はい」を選ぶまで手を変え品を変えてずーっと会話がループしてるみたい。話が進まない。
それに、夜が危険だなんてカラマさん一言も言ってなかった。むしろ、夜の作戦決行に賛成してたくらいなのに。この人が言う危険って言うのは、野生のポケモンの事なのかな……? それならそれで、カラマさんからの注意喚起があるはず。
そして何より。話を聞いてくれない、延々と会話をループするって事は無駄に時間を使っているって事だ。囲まれて一斉に破壊光線なんてされた時には、さすがにミラーコートが足りない。
「……ラクシア、カロン。ニャッコも準備して」
「ごろ!?」
「大丈夫だよ。ラクシア達にお願いしても、まだ三匹ポケモンがいる。ビデオレターは……、とりあえず諦めて、大切な手紙を渡して退散しよう」
いつもの悪い癖が出ない様に。手で口を塞いで考えを巡らせる。大丈夫、狭い路地でジャックは自由に動けない代わりに、全てを吹き飛ばすエアロブラストがある。ユミョンの吹雪を載せて放てば、ドラゴンタイプだってひとたまりもないはず!
「……やはりお疲れの様ですし、こちらでゆっくりお休みに……」
「い、い、え!! 行動開始! ユミョン、牽制の吹雪!!」
当たらなくてもいい、ラクシアが起こした波でカロンが窓に迫って進路を作って、ニャッコが手紙を届ける。その時間を作る為に、ユミョンにはもう少し頑張ってもらおう!
「まあ、乱暴ですのね。目が合ったらポケモンバトル、というしきたりは、町の外でのお話ですのよ? それとも、侵入者だと露呈した今、もう形振り構わぬという事でしょうか!!」
「ごろぁー!」
『紫音、壁に貼り付け!』
「え。……うわっ! うわわわ!?」
ラクシアの声、警告を翻訳したジャックに答える暇も無く、私の目の前にボーマンダが迫ってきた! 驚きすぎてひっくり返った私は、地面を転がって建物の壁にくっついた。
危ない……! また打ち上げられるところだったよ……。二回目は無事に済むとは思えないからね! さんきゅーラクシア、そしてジャック!!
「トレーナーへのダイレクトアタックはルール違反では!?」
「あらあらまあまあ。わたくしはバトルをするなどと申しておりません。侵入者を排除しようとしただけです」
「んまーっ! 怖い!!」
あらあらうふふ、なんて雰囲気で笑っていますけれど! いや怖いって!! 表情筋だけ動かして目が笑ってない。
「排除なさい。少しばかり燃えても構いません」
「構いますよ!? 木造建築ですよね!?」
「"わたくしが燃やした"訳ではありませんもの」
「……何を言って……」
私が建物燃やすメリットなんて無い。クラベル先生に「穏便にっ!!」ってエコーボイスかなってくらい言われたし。
困惑した私の耳に、タイミング良くカロンが窓ガラスを叩き割る音が届いた。ああ良かった、あとはカロンをボールに戻して、ニャッコに託した手紙をハッサクさんが受け取ってくれればとりあえずの仕事は終わる。
……私自身がハッサクさんに会えなかったのは残念だけど。後はハッサクさんの選択次第だから。
そう思っていたのに。
「……え」
燃やされたのは、ハッサクさんがいると思われる建物……、の路地を挟んだ反対側。それなりに大きな屋敷に火炎放射で火を点けて、その人は急に崩れ落ちた。
「えっ、ちょ、何して……」
「タンジー様!!」
「わ、わたくしの屋敷がっ……!」
えっ? ……え!?
ちょっと状況が読めないんですけど。ドラゴン使いの人……、タンジーさんというらしい人の指示で、ボーマンダがお屋敷に火を放った。タンジーさんのお屋敷だったらしいです。
つまり。自分で自分の家に放火して崩れ落ちたって事。
「何という事を! 侵入が発覚したからと、タンジー様の屋敷に火を放つとは!!」
「いや私じゃないですけど」
ちょっと見れば炎タイプがいない事くらい……、……いやぁちょっと待って。ジョウト地方にいないポケモンが何匹がいる。そのポケモンを知らなければ、炎タイプの技が使えるかどうか分からない可能性も……、あるのかな?
「問答無用! 皆の者、ここに……」
軽く否定したら、案の定と言うか他の人を呼ぼうとしている。いっけなーい! 離脱離脱!! ……なんて言ってる場合じゃない。真面目にピンチ!!
それに、放火犯に仕立てられたって校長先生にも言わなきゃいけない。うわー! 大変な事になったぞ!!
「ぽにゃっ」
「ニャッコー!」
ニャッコがふわふわと戻ってきた。ふぁさ……、っと優しく眠り粉を振り撒いたお陰で、仲間を呼ばれる事態は回避出来た。もちろん、大きくなっていく炎に気付いた別の人が来ないとも限らないけど。
そして肝心の配達は……、荷物持ってない! ちゃんとハッサクさんに渡してくれたみたい。良かった、これで安心して離脱出来る!!
「ハッサクさんの顔を見れなかったのが心残りだけど……」
「放火魔ですわ! 他の屋敷にも火を放たれる前に捕えて!!」
「んんんー! そう言いながら火炎放射させてるぅ!!」
良くない。とっても良くない!
煙がもくもくと大きくなっていくせいか、こっちは喉が痛くなってきてるのに。どうする? 私の手持ちにいる水タイプの力を借りて火を消すべきか、それともいっそエアロブラストで全部吹き飛ばすか。火を放って自分で火を消している、なんて事にされかねない。だって録画なんてしてないから、この場の信用度で言えば圧倒的にタンジーさんが有利だ。
「仕事は終わったもんね! よしっ、ジャック! 退散しよう!!」
ニャッコ良し、カロンとユミョンをボールに戻して、ラクシアは肩に。ずっと待機していたジヘッドは活躍の場が来なくて不満そうにボールを揺らしてるけど、お菓子で我慢して欲しい!!
『テイクアウトするぞ』
「テイクオフね! 持ち帰らないで!!」
「その者を捕らえなさい」
ジャックの脚にしがみついて、いざ離陸、となった時。頭上からまた別の人の声が落ちてきた。
「──え。ぐひゃ」
『あ、潰した』
思わずジャックの脚を掴んでいた手が離れる。その拍子に私の足が軽く踏まれた。銀色の羽毛部分だったから痛くは無かったけど、転んだ拍子に地面で顔を擦ってしまった……。
「ハッサク様!」
「ハッサクさん……」
カロンが叩き割った窓から、ハッサクさんの影が見える。部屋の灯りを背負っているせいでどんな表情をしているのかは分からないけど、聞いた事が無いような硬い声だ。
「まさか屋敷に火を放つ暴挙に出るとは……。予想だにしませんでした」
違う、違うんですハッサクさん。話を聞いて! 家を燃やしたのは私じゃないんです!!
そう言いたいのに、ショックが大きすぎて言葉が出ない。ハッサクさんがいる建物から出てきた人達が、迷い無く私を捕まえる為に手を伸ばしてくるのを他人事みたいに眺めるしか出来なかった。
「そのまま彼女を保護しなさい。お前は鎮火の為に、水タイプと複合のポケモンを持つ者達をここに」
「……ん?」
「は、ハッサク様……?」
「……んん?」
理解が追い付かないぞぉ。地面に転がっていた私は、ガシッと掴まれて壁際まで引き摺られてそのまま座らされた。煙を吸わなくて良いように、ハンカチまで渡されるオマケ付きで。
「リュー! リュリュ!!」
「カイリュー!? カイリュゥゥウ〜……」
カイリューだぁ……! しかもハッサクさんのカイリュー!! 手を振ってくれたカイリューに手を振り返すと、嬉しそうに飛んできた。ぎゅっと抱き上げられて、子供みたいに高い高い状態になった私は、いつもと違う視点でハッサクさんと再会する事になった。
「傷が出来ているではありませんか! 他に怪我はありませんですか?」
そう言ったハッサクさんは、カイリューから私を受け取って地面に下ろす。寝る前だったからなのか、着流し姿である。
「は、ハッサクさんも元気そうでっと言うかその格好も似合ってて良いですね! ……んん? 元気そう……?」
着流し姿に目が行ってしまったけど、元気そうかと言われるとちょっと疑問が残る。ハッサクさん……、何かくすんでませんか……? 炎に照らされてるせいかな……?
「……小生は元気ですとも。……それより。ルギアもボールに避難させてください。煤でせっかくの銀色がくすんでしまいます」
「は、はいっ!!」
そう言われて、慌てて私はジャックをボールに戻す。『ああ〜』なんて不満そうな声と一緒に小さくなっていくジャックに笑いそうになっていると、タンジーさんの悲鳴の様な声が響いた。
「何故なのです! わたくしの屋敷が燃えたと言うのに、何故その娘を優先させるのですか!?」
それは、さっきまでのタンジーさんの様子とは違っていて。きっと心からの叫びだったんだと思う。
消火の為に集まってきた人達も、ポケモンに放水を頼みながらも私達を……、タンジーさんとハッサクさんの事をチラチラと見ている。
「修羅場だ……」
思わず漏れた感想に、ラクシアの無言パンチが私の頬にめり込んだ。傷を狙ったな!? 痛い!
でも今言う事じゃありませんね、すみませんでした。……どうしてラクシアの方がしっかりしてるんだろう……?
「こんなトレーナーだからだね……」
「ごろ」