ミーティア越境編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヨルノズクが鳴き始める時間。僕達は、緊張のオモチでその時を待っていた。ピクニックテーブルの上には、いつものサンドイッチの代わりにカラマが作ったマップが置いてある。
「……では、最終確認です」
クラベルが真剣な顔で僕達を見渡した。大きなジャックは、ボールごと飛び上がって聞いているって返事をした。
「紫音さんは、単身で里に潜入してもらいます。進行ルートは覚えましたか?」
「はいっ! ……最悪の場合、ニャッコに案内してもらいます!」
『しまーす』
「少々不安がありますが、良しとしましょう。カラマさん曰く、実力のあるドラゴン使い程、早朝の修行に備えて早く眠る為、夜の作戦決行に反論は無い、でしたね?」
「昼間は修行はもちろん、様々な理由で里の者が各所に散っているからな。夜は精神を鍛える時間でもある。侵入しようとする不埒者なんていないと考えるのが当然だ」
「……しかし、複数で動けば目立ちますから。私達は、里の外であなたに危険があった場合の救出の役目を担います」
「それなんですけど、どうやってSOS出しますか?」
クラベルの話に、紫音が手を挙げて質問をする。僕がいるから危険な事にはならない、……とは思うんだけど、こういうのを"備えあれば嬉しいな"って言うんだって。ハッサクを連れて来るのがお仕事だけど、紫音が無事に戻って来れるのが一番大事だからね!
「ああ、それならこれを使え」
「まっ……、まさかこの流れ……! ポケギアでは……」
「ポケギア? そんな化石とも言える道具、今時使わん」
「化石……。まあゲームボーイカラー時代だから……、だからって化石は無いよぉカラマさん……」
何かに期待した紫音が、あっという間に叩き落とされてる……。"ポケギア"って何だろう。クラベルなら分かるかな、って思ったんだけど、クラベルも不思議そうな顔をしてた。
「見たいのなら博物館にでも行け。エンジュシティ辺りにならばあるだろう。そんな事より、SOSの話だ」
カラマが荷物の中から笛を取り出した。紐が結んである。
「……まさかピューッと吹く……」
「笛だから吹くに決まっているだろう」
「そんな原始的な!」
「灯りが漏れる心配も無い。首から下げていれば、怪我をして動けなくなった時でもすぐに吹けるだろう。原始的と言うが、最後に頼れるのは己だけだと思え」
「んぎゅ……」
カラマの言葉に、紫音がビミョーな顔で笛を受け取った。
何となくだけど分かる。紫音、カッコイイ潜入作戦に憧れてたんだろうなぁ……。何だか不思議な機械を使って通信したりしたかったのに、渡されたのは笛。変な顔をしながらピヒュー、なんて音を出してる紫音に、クラベルがストップをかけた。
「待ってください。これから向かう先は、ボーマンダでトレーナーを直接攻撃した人がいる可能性がある場所です。再びボーマンダに突進を受けて、まともに笛が吹けますか?」
「……いやぁ、あの時は死ぬかと思いましたね!」
「本当に生きていて良かったです……、それはさておき。危険が迫った場合、紫音さんが笛を吹くよりもロトムに電話を入れてもらう方が早いのでは?」
『仕事? おまかせー!!』
紫音のスマホでお仕事をしてるロトムが元気に返事をした。それに合わせて、クラベルが使ってるスマホも飛び出す。
ロトム同士でやり取りを済ませると、紫音のスマホにはしっかりクラベルの連絡先が登録されていた。
「電話を入れてワンコール、それで切ってもらって構いません。その場合、異変ありと判断して救援に向かいます」
「分かりましたっ!」
「そして、カラマさん。有事の際には、紫音さんに提示したルートを辿って救援に向かいます。先導をお願いしますね」
カラマが緊張のオモチで頷いたのを見たクラベルが、僕と紫音を振り返る。走る前の準備体操をしてる紫音は、準備体操を止めて立ち上がった。
「紫音さん。改めての確認ですが」
「はい」
「一番の目的は、ハッサク先生に手紙を届ける事です。積もる話もあるでしょうが、手紙の配達、そしてビデオレターをハッサク先生のスマホロトムと共有したらすぐに戻って来てください。……その先は、ハッサク先生次第です」
「うう……、分かりました……」
「問答無用でお前を排除しようとする方と出会さない事をせいぜい祈るんだな」
「むふー。つまり、配達の邪魔されたら排除していいんですね?」
「カラマさん、煽らないでください。……物騒な考えは横に置いてくださいね。一番は安全に、ですよ」
「はぁい、ゼンショします!!」
ビシッと姿勢を真っ直ぐにして元気良く返事をする紫音の肩で、僕は小さく首を振った。
『あ、紫音これ言う事聞かないつもりだ』
クラベル、ジムバッジ足りてないんじゃない? ……あ、別に紫音クラベルのポケモンじゃないから関係無いんだった!
──こうして、僕達のハッサクへのお手紙配達作戦が始まったのだった。
*
*
「よぅし! ドキドキ潜入作戦開始するよー!」
カラマが用意した潜入ルートにやって来た。ドラゴン使いの里に流れている川……、の少し下流。いよいよここから、ハッサクへのお手紙配達作戦が始まるんだ。
まず、体の小さい僕が水門をくぐる。実はこの水門、ポケモンの力を借りれば開けられる鍵がかかってるんだって。里の外にいて帰るのが遅くなった人が、帰ってくる為の手段の一つらしい。よく分からないけど、難題を乗り越える力を付けさせる為だとか。
「ポケモンに的確な指示を出せれば、そしてその指示をしっかり聞く信頼関係が築けていれば帰って来られる。そういう試験になっているのだ」
……カラマはそう言ってたけど、ちゃんと時間を守ってればいい話じゃない? まぁ、そのお陰で僕達の任務がスイコー出来るんだけど。
「ピクニック拠点から出発したジャックが里の上を通過するまで、五分しか無いからね。手早く終わらせないと、ジャックが我慢できなくなって暴れちゃうかも」
『ジャックだもんね……。驚く様子を見ていい気分になっちゃいそう……』
侵入に気付かれない様に、ジャックは囮だ。すっごく不満そうにボールで暴れてたけど、大きさでもジャックは侵入に向かない。レッツゴーしようものなら、全部薙ぎ払っちゃうんじゃないかな……。
だから、ジャックにはジャックのお仕事を任せたんだ。成功のカギを握ってる事に変わりはないし!
『……よしっ、開いたよ!!』
「開いた? ラクシアありがとっ! いざ、竜使いの里……!」
『こっちこっちー』
「ああ、待ってニャッコ!」
案内の為に飛び立ったニャッコを追い掛けて、紫音が走り出した。その後ろを僕、そしてユミョンがふわふわと飛ぶ。
『聞いて驚けー。見て驚けー』
「やばい、ジャックが追い付いてきた!!」
カラマに指示された道を走っていると、ジャックの声が聞こえてきた。見上げると、まんまるな月にジャックが浮かび上がっている。
「うん! やっぱりルギアはシルバームーンですよね! 夜を選んで正解だった!!」
『絶対夜がいいって言ってたの、そういう理由だったんだ……』
出た、紫音の変なこだわり。これが見たかったんだね……。
「今度は海に反射した満月とジャックで写真撮りたいな」
『はいはい、そうだね……、っ! ニャッコ、下がって!!』
『ほぁ?』
「センサー反応ありなんだね! ユミョン、ゴー!!」
『任せて』
お喋りしながら走ってたら、僕のヒレにビビッと震えた。ちょうど建物の角、ぶつかる前に立ち止まって、ユミョンが静かに前に出る。
「何だあれは……、はっ。なんだお前は!!」
「ムービースキップ!」
「うわぁ!? 目が合ったからっていきなり攻撃するなんて……」
「ニャッコ!」
『おやすみなさいー』
ファサ……、と眠り粉を振り掛けて、竜使いを眠らせる。ポケモンの技は、人間には効果が強過ぎる。倒れる様に眠った竜使いを乗り越えて、僕達はさらに里の奥へと走って行く。
僕達が目的地にしている建物の反対側の方から、ごしゃん、とすごい音も聞こえてきた。紫音の肩に飛び乗って後ろを振り返ると、建物の隙間からジャックの銀色の翼が見える。ジャックが地上に降りて来たんだ。
「ああー! 自慢のドラゴンポケモンが片付けられていくーーー!?」
『……ジャックって"お片付け"の技覚えるんだ……』
横になるのに邪魔だからなのか、翼でポケモン達をまとめて退かしている。ドラゴンポケモンもジャックにとってはまきびし扱いだ。場所を開けて、わざとらしくあくびをする声が聞こえる。
『ふぁーあ、飛び続けんのも疲れたなー。もうここで寝ちまおうかなー』
「後ろで何が起きてるの!? ラクシアが特にストップ掛けないって事は安全? ジャックの棒読みがスゴイんだけど!?」
『気にしないで走って!! もうすぐニャッコがハッサクを見付けた場所だよ!!』
後ろが気になる紫音のほっぺたを叩いて、走る事に集中してもらう。いくらジャックが強いったって、ぜーんぶを相手にするのはさすがに大変だからね! お手紙を渡したら、急いで撤退しなくっちゃ!!
『ここー。この二階ー』
「ニャッコどこに……、上!? 上かぁ……! 建物の構造までは分からないなぁ……、どうしよう……!!」
『ハッサクー、ここだよー』
紫音が悩んでる間に、ニャッコがふわふわと空へ上がっていく。ハッサクを見付けた窓に近付くと、ここだって教えてくれるみたいに窓を叩いた。
「……よしっ。穏便にって言われてたけど、ここはやられた事のお返しということで窓ガラス割っちゃおう」
ぱちん、と指を鳴らした紫音が、モンスターボールを握り締めた。
「ラクシア」
『なぁに?』
「私がしがみついてても、あの高さまで波乗り出来る?」
『うんっ!』
「……そのまま窓ガラス割れる?」
『紫音と一緒に? うーん……、たぶん紫音危ないよ』
「……難しい感じ?」
『出来るけど! 紫音がケガするからヤダ』
僕は、出来る。紫音が、危ない。……うーん、こういう時、エイルがいてくれたらな……!! どうして僕は紫音の言葉が分かるのに、紫音は僕達の言葉が分からないんだろう。困っちゃうね。
「うう、私がダメっていうのは何となく分かったよ……。うーん……、渡すのは私じゃなくてもいい、とすれば……。よしっ、カロンに決めた!」
手に持っていたボールに呼び掛けた。中にいるのは、ずっと待機していたカロンだ。
『とうとう役目が回ってきたのね』
「カロン、ラクシアが波乗りで二階への道を作るから、カロンはその波の勢いで窓ガラス突き破っちゃって! ニャッコは開いた窓からハッサクさんにお手紙を届けてくれる?」
そう言いながら、紫音はポーチをニャッコに持たせた。スマホまでは持てないから、ロトムに頼んでニャッコの後に付いてもらうことに。これで、お手紙配達の準備は整った!
「カロンは役目が終わったら、怖い思いする前に戻って来てね。私ここでボール持って待ってるから」
『分かった。ちゃんとここにいてね?』
『ハッサクー。窓から離れてー』
ニャッコがハッサクに声を掛けている。窓の近くにいるみたいだ。ハッサクが近くにいると、ハッサクまでケガしちゃうからね。……セグレイブが一緒にいてくれれば、ハッサクを誘導してくれるだろうけど……。大丈夫かな?
『ニャッコ、大丈夫?』
『大丈夫ー』
……本当に大丈夫かな? ハッサクじゃなくて、"ニャッコが"大丈夫ってワケじゃ……、無いよね? 見えないからニャッコを信じるしか無いけど!!
『よ、よしっ! 紫音、僕達はいつでも良いよ!』
『急にいなくなるなんて……。横っ面叩かないと気が済まないわ』
「よし……! 作戦開始!」
紫音の掛け声で、僕は気合を入れて大きな大きな波を呼び起こしたんだ。大きく息を吸って、脚で地面をしっかり踏み締めた僕は、イヤな気配に思わず振り返る。
あの時いなかったユミョン以外、皆気付いた。
「ボーマンダ」
『っ……、待ってユミョン! ジャック呼んできて!!』
『わっ、分かった!!』
レッツゴーであっさりやっつけていい相手じゃない。前に出ようとしたユミョンを慌てて呼び止めた僕は、急いで紫音の側まで戻る。波乗りの準備をしていたカロンも移動しようとするけど、カロンは陸だと速く動けない。
『紫音、こっち!!』
「わわっ。体当たりしてどうし──」
カロンが動けないなら、紫音を動かすしか無い! 紫音の足に体当たりして無理やり足を動かすと、僕の考えを読んでくれたカロンが尻尾で紫音を手招きした。
「火炎放射」
普段ぼんやりしてる紫音だって、僕達の様子を見たら状況が分かる。振り返った途端走り出した紫音を追い掛けて、ボーマンダが向きを変えて大きな口を開けた。
「……! カロン、竜巻!!」
ごぉっ、とすごい勢いで炎が僕達を焼こうと迫ってくる。その炎を消す為に、紫音が選んだのは僕達水タイプの技じゃなかった。滝登りするつもりだった僕の目の前で、カロンが放った竜巻と火炎放射がぶつかる。
「カロン、そのまま竜巻で炎を巻き上げて。炎が大きくなったら、丁寧にお返ししてあげましょうー!」
『はいはい、ましょましょ』
紫音の言葉に適当に返事をしながら、カロンが尻尾を振ってさらに竜巻を起こした。炎を巻き込んで大きくなっていく竜巻が、月を背景に真っ赤になってる。
「熨斗付けて返却だぁ〜! そもそも、木造の建物が多い場所で火炎放射はよくないと思います!!」
『ぐぅっ……!』
炎の竜巻が、ボーマンダを飲み込んだ。自分が吐き出した炎を焼く竜巻は、カロンが器用に操って建物に燃え移らない様に細く高くなって消えていく。
「ボーマンダ!」
『おまかせを!!』
「突進!!」
「ラクシア!!」
『待ってました!』
カロンを相手に火炎放射が使えないと分かった途端、ボーマンダが突き進んでくる。紫音が僕を呼ぶ声に頷いて、ボーマンダの目の前に飛び出した。
僕よりずっと大きな体。ぶつかったらあっという間に飛ばされちゃう。そうならない様に、紫音の肩から飛び出した僕は、目を狙ってボーマンダの頭に乗っかった。
『ぎゃうん!?』
小さいお陰で、僕の脚はキレイにボーマンダの目に入った。悲鳴を上げたボーマンダの上を取ったら、後は勢いそのままに付けて落ちるだけ!
『とぁーっ!!』
『ぎゅわぇっ』
よしっ、ボーマンダの長い首にカウンターが決まった! 長い首がアダになったね! わははー!!
『紫音!』
「ナイス、ラクシア!!」
紫音とハイタッチ! ……あっ、やっちゃった。ジャックとニャッコの分忘れちゃったな……。
「眠るにはまだ早いですわ。起きなさい、ボーマンダ」
離れた場所から、冷たい声が聞こえる。そっちを見ると、怖い顔をしたドラゴン使いがこっちを睨んでた。
「何なのです? こんな場所まで侵入者を許すなんて、怠慢が過ぎますわ」
ふぅ。大きなため息を吐いたドラゴン使いは、怖い顔のまま紫音を睨み付けたまま。
カラマが言ってた、問答無用でハイジョしようとする相手だ……。ハッサクにお手紙を渡す前に、この人を退かさないといけないみたい!!