ハッサクさん夢短編集
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「へ……、へっ……、へっちょい!!」
パルデアも季節が進みました。パルデアには常に春夏秋冬の季節があるけど、その中でも更に寒くなったり暖かくなったりという感じ。つまり、寒い所は非常に寒い!
さすがに室内では空調が効いているからそこまで寒くはないけど……。問題は夜寝る時。自分の体温で布団が温まるまでがちょっと辛い。寒いのが苦手な私は、そのほんの少しの冷たさを我慢するよりハッサクさんに甘える事を選んだ。
「ハッサクさん」
「おや? 先に休むと言っていませんでしたか?」
「そうなんですけど……。あの……、布団冷たいので、一緒に寝ませんか……、っていうアレです……」
言ってて恥ずかしくなってきた……! 自分から一緒に寝ましょうって言った事はほとんど無い。ゴースの毒霧を吸い込んで倒れた時に言ってしまったくらいで、添い寝のお誘いはハッサクさんからが基本だ。
羞恥心のせいで徐々に小さくなる声を何とか捻り出した私が、断られる可能性を考えていなかった事は認めましょう。だから、私なりの必死の誘いに首を振ったハッサクさんに驚いてしまった。
「もちろんでっ……、……駄目です……」
「……えっ」
「えっ、とは何ですか。あいにくですが、小生にも都合がありますですよ」
「そっ……、う、ですよね……」
びしりと断られてしまった以上、「もちろんです」って言い掛けませんでしたか、なんて聞けるはずも無い。言っていませんなんて言われたら、もう砕け散った心は取り戻せない。
「わがまま言ってすいません……」
「いいえ。お誘いは嬉しかったですよ」
「はい……。おやすみなさい……」
紫音、粉砕。しょもしょもになった心のまま、私はすごすごと部屋に戻る。萎れた私の顔を見たラクシア達が慌てて頭やら何やらを撫でてくれるひんやりした優しさをありがたく受け止めながら、布団の中で丸くなった。
*
*
「って言う事があってぇ……。心も寒いのですよぉ……」
「ほぉ〜ん、大変やな〜」
そんな事があった数日後。私はココア片手にチリちゃんに絡んでいた。ハッサクさんで暖を取りたい私と、何だかそっけないハッサクさんの戦いにならない攻防はまだ続いているのだ。
もちろん、身体が冷えないように温かい飲み物を渡してくれたり、体調は悪くないかという気遣いはある。でも何だろう、ちょっと物理的な距離を感じるのである。
「私何かしちゃったかなぁ……」
「さてなぁ。大将なら、何かやらかしたらその時叱ってくれるんちゃう?」
「じゃあ何もしでかしてない?」
「いや? それは知らんけど」
「そんなぁ……。ぐすっ、心が泣いています」
「おーおー、カワイソになぁ」
チリちゃんから雑によしよしされた。
「リーグで見る大将は公私分けとるとは言え普段通りやからなぁ……。いつからそんなんなったん?」
「いつから……? ここ数日……」
「ここ数日、いつもと違う事せぇへんかった?」
「いつもと違う事……。眼鏡買った」
「眼鏡。……何で? 視力悪かったん?」
「いや、そういう訳じゃないけど……。買った眼鏡であるじま君倒した日にハッサクさん添い寝誘ったら振られた」
「……真剣な相談ってのは重々承知の上で聞かせて欲しいんやけど……、眼鏡であるじまはん倒したってどういう状況なん?」
眼鏡であるじま君を倒した。確かにそんな話を聞いただけじゃ何の事かさっぱり分からないだろうなぁ。そんなチリちゃんの為に、実演して見せる事にしました。多分、チリちゃんにもこの笑いは通じるはず!!
「ご覧ください。眼鏡を使ったあるじま君の倒し方です。……へ、へっ……、へぇ〜っくしょい!!」
「急にくしゃみしてどう……、っなはははははは!! 何やねんその眼鏡と鼻の下のヒゲ!!」
そう、私が買った眼鏡とはカトちゃん仕様の眼鏡なのである! 盛大なくしゃみをして下を向いたわずかな時間で隠し持っていた眼鏡を装着して鼻の下に水性ペンでヒゲを描く。本当ならハゲ頭のカツラまで装着するべきなんだろうけど、オトメゴコロがストップを掛けた。
それでも、顔を上げた瞬間のインパクトで笑い倒す事は出来る。あるじま君にはついでに「紫音ちゃんぺ」で追撃しておいた。余裕の勝利である。
「チリちゃんにも勝った……」
「そのっ、顔のまま、こっち見んといてやー!!」
「いえい。今の私には誰も勝てない……」
「ひぃ〜っ。エラいもん見たわ……。……せやけど、ここ数日の間であるじまはん倒したっちゅー事はアカデミーの話ちゃう? 教室はともかく、廊下でそんな大きいくしゃみしたら響くやろ」
涙が滲むほど笑ったチリちゃんがふと真面目な声になった。そっちに顔を向けるとまた噴き出した。会話が出来ないので眼鏡外します。
「あー、巻き込まれた人は何人かいましたね」
「とんだテロリストやないか! ……あー、まぁそれはそれとして。チリちゃんもそれとなぁく大将に聞いてみるけど、紫音も大将に聞いてみ。自分ら気遣いが衝突事故起こしがちなんやから、正面から行って自爆したら案外解決するかもしれへんで」
「自爆したら死んでしまうやないか〜」
「せやな〜。……何ならハッサクさんにさっきの眼鏡姿見せればええんちゃう?」
「チリちゃん、あのね。オトメゴコロって知ってる? 何で好きな人にヒゲ姿見せなきゃなんないの?」
「自分オトメゴコロあるんかい」
「花も恥じらうオトメですけど!?」
酷い言われようです。さすがにハッサクさんをカトちゃんネタで笑わせようとは思わないよ! いやインパクトはあるけど! そのくらいインパクトが無いと笑ってもらえないって判断したらやるかもだけど!! 今の状態でそれやっても困惑させるだけになりそうで……。
「これ以上嫌われたくないよぉ〜! どうしようチリちゃん!!」
「だぁー! 分かったから泣かんといてや!! チリちゃんが泣かせたみたいやん!」
チリちゃんに縋りついたら、すっごく困った顔で引き剥がされた。確かに、泣いてる方が縋りついてたら修羅場に見えるかも知れない。鼻を啜って大人しく着席しました。
「ほなおさらいや。チリちゃんは午後の仕事で大将と顔を合わせる機会があったらさり気なく聞いてみる。紫音は今日帰ったらハッサクさんに突撃する。これでええか?」
「大爆発してくればいいんですね?」
「元気の塊の用意を忘れんようにな」
「あっ待って。人が作った道具はポケモンに持たせても使い方が分からないよね?」
「自分人やないか」
「それはそう」
「なははは」
「あははは」
「もう元気やないか!!」
スパーン!! 小気味いい音を立てて、チリちゃんの空手チョップが私の脳天に叩き付けられた。派手な音の割に痛くない。さすがコガネ、いい叩き方は把握しているらしい。
*
*
『しょーもない理由やから、安心して自爆してみ。報告はいらへん』
チリちゃんからそんなメッセージが来たのは、私がポケモン達と晩ご飯の用意をしている時だった。
ロトムが報せてくれたメッセージを何度読んでも、自爆をおすすめする一文があるだけで、何がハッサクさんの不興を買ってしまったのか分からない。やはり自爆か……。いつ覚悟を決める?
それはそれとして。しょーもない理由かぁ……。私はラクシア達と自分のご飯皿を用意していそいそとご飯待機をしているドラゴンポケモンを見下ろした。
「皆は私がハッサクさんを怒らせた事何か知ってる?」
「キュエ? キュギュッ!?」
「フカ! ……カフフカ」
「えっ」
「プリュア。リュープァ」
私が問い掛けると、セビエとフカマル先輩、そして最近家にいる事が多くなったアップリューが一斉に振り返った。何か答えようとしたセビエの背中に、先輩の大きな口ががばりと噛み付いた……。大丈夫なのかと心配になった私に、アップリューが心配いらないとばかりに頭に乗ってきた。
「……あー……、先輩。通訳出来るエイルちゃんもいないしジャックもボールから出せないし、言っている内容は分からないから噛み付かなくて大丈夫だよ……。とりあえず何か秘密にしてる事は分かった……」
「ギュエエ!!」
「フカ!」
「は〜い、ご飯の前だから、きのみじゃなくて傷薬にしようね」
噛まれた、と主張するセビエの背中に傷薬を吹き掛ける。さすがりくザメポケモン、歯型がガッツリ付いてる……。
「はぁ〜、ハッサクさんに聞いたら教えてくれるかなぁ?」
「何をですか?」
「だから、私がハッサクさんを怒らせた……、こと……」
「……」
「…………うううわあああああハッサクさんだぁいつの間にーーー!!!」
いつの間に帰宅したんですか!? アレですか、フカマル先輩がセビエに噛み付いて悲鳴を上げてドタバタしている間ですね! 気付かなかった!!
「ちょっ、待っ……! とりあえず部屋に引っ込みます!!」
「はい?」
聞かれたくない事を聞かれてしまった私は、混乱したまま自分の部屋に引っ込もうとハッサクさんの前を通過する。しかし、ハッサクさんの困惑している声が聞こえた直後、自分の足に躓いて目の前ですっ転ぶという醜態を晒してしまったではないですか!
「……紫音!」
「ふぎゃあ!?」
床に顔面から飛び込む寸前で、ハッサクさんの腕が身体の前に差し出された。そのままゆっくりと誘導されて、私は床に座り込む。
「お手数おかけしました……」
「驚きはしましたが、もう慣れましたですよ」
ぽんぽん、と優しく背中を撫でられた。手のひらから伝わるハッサクさんの体温がじんわり温かい。うう、この体温が寝る時に欲しい!!
「察するに何やら小生を怒らせた、と勘違いさせてしまった様ですが……。小生は君に何も怒っていませんですよ? 叱る時は、その時に伝える様にしていますから」
「……チリちゃんに相談したら自爆しろってアドバイス貰ったので自爆しますね」
「……チリ……。またふざけたアドバイスを貰いましたですね」
「怒らせたんじゃないのなら、どうして、その……、添い寝……、断ったんです、か……」
「…………」
無言。ハッサクさんは無言のまま、居心地が悪そうに視線を逸らした。何か言いづらい理由で添い寝を断られたんだと察するには十分だった。
「はっ……! 寝相が悪い……? 歯ぎしり、いびきが酷くて眠れない……!?」
「……違います。チリが探りを入れてきた時の様子を思い出したのです。ちなみに、君の寝姿は幸せそうですよ」
「……えっ。チリちゃんには何て言われたんですか?」
チリちゃんの質問……。パルデアに来た初日の面談みたいにストレート質問なのか、それともオブラートでお包みした質問なのか……。いやぁまさか「何で添い寝のお誘いフったん?」なんて聞きませんよね?
「ちゃんと紫音の相手をしているかと問われました。その一言で君が寂しがっているのだと理解して、急いで帰宅したのです。……寂しがっている理由は想定外でしたが……」
「すいません……」
「いいえ、とんでもありませんです。小生とした事が、紫音を喜ばせるつもりで紫音を傷付けていたとは……」
「喜ばせるつもりで……?」
何かサプライズを仕込んでいた、という事なのかな。首を傾げた私に、ハッサクさんはソファで待っている様に言い残して部屋へと消えて行った。一分も経たずに戻ってきたハッサクさんの手には、毛糸玉と編み棒、そして作りかけの何かがある。
「先日、アカデミーで君が大きなくしゃみをしているのが聞こえまして……」
「…………アカデミーでくしゃみ……? はっ!」
カトちゃん眼鏡であるじま君を倒した時の……? まさか、あの人だかりの向こうにハッサクさんがいたって事……!? まさか、カトちゃん眼鏡を見られ……?
「通り掛かった小生の耳にも聞こえる程の大きさだったので心配になってしまいまして。こっそりマフラーを作ろうかと……」
「マフラー! えっ、ハッサクさん手作りの!?」
私に内緒でマフラーを編んでくれていたって事!? せっせとちまちま細かい作業をするハッサクさん……。内緒にしているから、私と一緒に眠れなかったという訳だったのか……! 思い返してみると、添い寝は断るのに寒くないか、体調に変わりはないかを気遣ってくれていた。なるほど、風邪を引いたと勘違いしていたのなら納得である。
「チリには、これを作っている間に肝心の紫音が風邪を引くと怒られてしまいましたです……」
「それなんですけど……。ハッサクさんが聞いたくしゃみ、実はちょっとしたおふざけでして……。寒いのは本当ですけど、あの大きなくしゃみはわざとです……」
「……良かった。風邪を引いた訳ではなかったのですね」
「ご心配お掛けしました……」
しょんぼり肩を落とす。面白いと思って行動に移したカトちゃん攻撃が、思いもよらずハッサクさんに勘違いさせてしまった。
「ですが、アカデミーに限らず、本格的に寒くなりますから。君の肩には頻繁にラクシアが乗りますですね。彼と頬擦りしているのも見掛けます。水タイプ特有のひんやりした身体が首に当たって冷えてしまうのでないかと思うのです」
「それ言うなら、ハッサクさんだって手持ちにセグレイブいるし、同じ事言えませんか?」
「……確かにそうかも知れませんですね」
氷タイプでもあるセグレイブ。最近手持ちに仲間入りした鋼タイプでもあるジュラルドン。二匹のお世話をするには、寒い季節は手がかじかんで大変そう。
「よぉし! じゃあ一緒に作りましょう! 一緒に作ると楽しいですよきっと!」
「一緒に作るのなら、そのまま一緒に眠れますですね?」
「はいっ! ……はい?」
「ではそうしましょう。毛糸は何色が良いですか?」
「あ、毛糸……。うーん、せっかくならセグレイブの色合いを……」
あれ? 気のせいでしょうか、今流れる様に今日の添い寝が決定しませんでしたか? ちらりとポケモン達に目を向けると、生暖かい視線を向けられている……、事は無くテキパキとポケモンフーズを用意していた。
「……ごろごろ」
ただ一匹、呆れた顔のラクシアが小さく鳴いた。オーバーヒート起こす前に助けてね……。
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