ミーティア越境編
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「……あれ? ニャッコ帰ってくる……」
里のマップを確認する為に、潜入していたニャッコの位置を示すポイントが私達がいる場所目指してフラフラと移動を始めた。
「退け。見せろ」
「あうぇ」
何で押し退ける必要がぁ……。私のスマホロトムなんですけど……。
「カラマさん。無理に仲良くしなさいとは言いませんが、意思疎通は必要ですよ。その調子では、反省の色無しと評定しますよ」
「……貸せ。見せてみろ」
「時間は戻らない。それが自然の摂理……」
「御託は良い。お前のポケモンがどのポイントから戻って来たか確認する。お前はマップでも開いて準備しておけ」
「アッハイ」
人のスマホロトムを半ば奪う様に画面を覗き込むのはカラマさんだ。……そう、カラマさんなのである!! カラマさんに押し退けられた私は呻きながらも、拠点であるピクニックセットの上にカラマさんお手製のマップを広げた。
「紫音さん。途中でポポッコが戻って来てしまいましたが、マップは彼女が描いたこの通りでしたか?」
「大きさはブレがありましたけど、だいたい合ってました」
「当たり前だ」
「虚偽の申告では取引になりませんからね」
「……うぐぅ……」
そして、眼鏡をクイッと上げてカラマさんを見るクラベル先生。私はカラマさんとクラベル先生の三人で、ここジョウト地方へとやって来ていた。
何でカラマさんと組んでいるのかって? これには深い訳があるのですよ。……ほわんほわんポケポケ〜。
「面通しして欲しい人がいる?」
それは、ジニア先生から聞かされた話だった。
何でも、スター団のチーム・ルクバー近くの海岸にドラゴン使いの人が打ち上げられていて。私の事件もあって、何かあったら通報するように言われていたオルティガ君が通報。病院に運ばれたその人が意識を取り戻してすぐ、「死体を確認するまで休む暇など無い」なんて言ったからさあ大変。あれよあれよと警察病院に移送されて、監視付きで治療を受ける事になったらしい。
「……それで何で私が面通しを?」
「そ、それがあ……。ぼくも詳しい話を教えてもらえなくてですね……。ジュンサーさんからクラベル校長を経由して、ぼくにお話が来たんです」
「そうなると、詳しくは校長に聞けって事ですね!」
「わあ、正解です! ……もちろん、無理にとは言いませんけど……」
「行きます。もし面通しの相手がその人なら、ちょっと悪い事思い付いたので行きます」
「しっぺ返しは駄目ですよお」
「違いますー!」
という流れで、カラマさんと再会する事になったのです。
普通、面通しする時はマジックミラー越しに、だと思っていたのですが、そこはお相手さんが療養中という事で。ジュンサーさんとクラベル先生も立ち会っての顔合わせと言う事になったのです。
「おお、やっぱりカラマさんだ。……やつれてません?」
暴れるのか、ベッドに拘束されているカラマさんは、私の顔を見てバクオングみたいな顔になった。あご外れてませんか、なんて聞けるはずも無く。
「……お前っ……、生きていたのか……!!」
呆然としていたカラマさんのお顔がくしゃくしゃになった。驚きすぎて、どこか痛むのかと思ったのも束の間、カラマさんの目から涙がぽろりとこぼれ落ちたではありませんか!
「おかげで死ぬかと思いましたけどね! ワタシスゴクゲンキ!!」
「……何で生きているんだ!?」
「いや情緒どうなってるんですか!?」
わぁっ、と本格的に泣き始めたカラマさん。入院している原因である脱水症状より、どちらかと言うと精神の方が心配になってしまう。
「ご協力ありがとうございました」
「あ、はい……」
そんな私の疑問はさておいて、私を呼んだ目的は達成された。ここに長居する理由はもう無いからと病院の出口へと連れ出される廊下で、私はコソッと付き添いのクラベル先生に話し掛ける。
「クラベル先生」
「はい」
「悪いご相談があるんですけど……」
「悪い相談はお受け出来ません」
「じゃあ質問なんですけど! ……パルデアって、司法取引的な事って出来たりします?」
「……司法取引。司法取引ですか……」
クラベル先生が難しい顔をした。まぁ……、それはそうでしょうね。でも聞かなきゃ分からない。何故ならポケモンの世界の法律分からないから!! ロトムに調べてもらえば一発なんだけど、ロトムに調べてもらってからクラベル先生に相談するより、直接先生に相談した方が早いと思ったんです。
「取引の内容は予想が出来るので聞きませんが……。君を害そうとした人ですよ?」
「そこなんですよね。人を殺したと思ってたからやつれてた……、訳じゃないですよね。休む暇が無いって、つまり誰かに指示されてた。それが、あの暴れボーマンダの本来のトレーナーでしょうし」
「…………」
「しかもカラマさん、私の顔見て泣いたんですよ。ぜひ協力して欲しいなって思ってます!」
「……効率の観点から見ればその通りです。ですが、彼女に関わった罪はそれだけではありません。ポケモンリーグ本部でもボーマンダが暴れた結果、窓ガラスを全面貼り替える事になっていますから……」
「あ……、器物破損……。弁償……」
日本では器物破損罪は親告罪だけど、この世界だとどうなるんだろう……。どこの国準拠の法律なのかな? モチーフになった国や地方? それとも日本のゲームだから日本の法律? うーん、協力者になってもらうぞって喜んだけど、カラマさんが起こした事件はまだ解決に向けて動き出したばかり。連れ出す事なんて許されない。
「案内は無理でも、マップを作成させる事は出来るでしょうね。そのマップが正確かの確認は必要でしょうが、無策で乗り込むより遥かに楽になると思いますよ」
「ではそうします! 早速カラマさんにお話を……、あっ、メモしてもらう紙持ってたかな……」
善は急げだ! あわあわと鞄を開いて確認しようとした私に、クラベル先生は背広の内ポケットから取り出した手帳を見せた。
「お目付け役ですからね。私も同行しましょう」
「助かります!」
クラベル先生が言う"お目付け役"って言葉が、文字通りお目付け役になるなんて、この時は全く思わなかった訳だけど。
閑話休題。
カラマさんに状況を説明すると、私の勢いに反してカラマさんは震えながら首を振るではありませんか。
「……わたしは、自分可愛さで取引等に応じない」
「……カラマさんも、ハッサクさんが本当に仕事を辞めたって思ってます?」
「…………思わん。だが、ハッサク様は事実パルデアの仕事を辞めて里に戻られた」
「おかしいですね。カラマさんは仕事辞めたって思ってないのに、ハッサクさんはパルデアからいなくなった。……確認しに行くんです。手伝って欲しいです」
「…………」
無言で顔ごと視線を逸らすカラマさん。でも、そんな拒絶されたくらいで諦められなかった。
「ジュンサーさんに追われながら、休めないまま存在しない私の死体を探せって言われ続けるか。それとも、竜使いの里マップを作って窓ガラスの弁償して罪を償う。どっちも大変ですけど、少なくとも後者は休めますよ」
「っ……」
「選ぶのはカラマさんですけどね。正直、ちょっと休んだ方が良い顔色してますよ」
そう言い続けていたら、ついにカラマさんの肩が跳ねた。
「おい、紫音」
「手伝ってくれる気になりました?」
「マップマップと言うが、お前、ジョウト地方のマップは把握しているのか? 移動手段は?」
移動手段を聞かれて、私は脳内にぼんやりとしたジョウト地方タウンマップを思い描いた。
まず、飛行機が到着するのはコガネシティです。ゲーム内では飛行場なんて無かったけど、行けなかっただけだと考えれば納得出来る。リニアの駅もあるし、ジョウト地方空からの玄関口なんだろう。モチーフになった大阪府が関西地方の国際的な玄関口だしね。
フスベシティは、コガネシティとは反対側にある。スリバチ山を超えて氷の抜け道を進むのは寒いから却下。となると、暗闇の洞穴を抜けるしか無い。波乗りは必須である、と答えを出して、私は自信満々に頷いた。
「だいたい把握してますよ。移動は徒歩です。まぁ、道中波乗りしなきゃいけない場所があるのでエンジュジムに寄り道してからになるでしょうけど」
「馬鹿なのか?」
「ばッ……!?」
私の答えを聞いたカラマさんが、心底憐れむ様な顔で振り返った。えぇー! さっきはあんなに罰が悪そうな顔をしていたのに!?
「お前が参考にしているのは、間違いなくポケモンリーグ挑戦者が通る道だ。最低限の舗装だけをして、自然は立ちはだかる壁としてそのまま活用されている道路だ馬鹿者。フスベシティを通り過ぎてそのままポケモンリーグまで行ってしまえ」
「な……! ナンダッテー!!」
「考えてもみろ。誰しもがポケモントレーナーである訳でもない。誰しもがポケモンリーグに挑む訳でもない。そんな者達は車が移動手段だ」
「たっ、確かに……!!」
そうだー! 例えばホウエン地方の始まりはトラックの中。でも、ゲーム内では道路で車なんて見た事が無い。車が走る為の道が別にあるんだ!!
しまった、ジョウト地方はゲームで旅したからって下調べちゃんとしてなかった! オルティガ君に移動手段聞かれた時にちゃんと調べれば良かったぁ……!
「免許無い! パルデアみたいなタクシーありますか!?」
「無い」
「うわぁー!! クラベル先生どうしましょう!!」
「阿呆。ガラルやパルデアの様に空を飛ばないだけで、地上を走るタクシーやバスはある」
「良かったー!!」
「ただし、里に向かうバスは無い」
「うわぁー!!!」
下げて、上げて、また突き落とされた。カラマさんにすっかり弄ばれている!! 悔しいです。
ベッドの縁に這い寄って、ベッドを支えに何とか立ち上がる。完全に私で遊んでいたカラマさんは、近い位置で私と目が合って飛び上がった。
「ここまで弄んでおいて……、手伝わないってのはナシですよぉおお……」
「近い。近いぞ!」
「それでお返事は?」
「…………」
返事が無くなった。あんなに元気に私をからかってたのに。
顔を覗き込む事にした。顔を背けられても回り込む。返事があるまで諦めません! 無言の攻防を繰り広げること数分。ようやくカラマさんが音を上げた。
「……分かった、分かったから!! わたしもハッサク様のご様子が気になるからな。取引に応じてやろう!!」
「やったぁー!!」
ふんっ、とばかりに腕を組んで頷いたカラマさんに喜んだのも一瞬。
「……何でベッドの上から私を見上げてるのに、目線は上からなんですか?」
「視野は高い所にあるからな」
「なるほど?」
そういう事にしておこう。ここで変な事を言って「やっぱり協力などせん!」なんて言われたら困りますからね!
という流れで、カラマさんが仲間になった訳です。
いやっ、でもまさか現地まで着いてくるなんて思いませんでしたけどね? どういう取引があったのか、示談で済ませる事にしたのかに関しては、ポケモンリーグ理事長のオモダカさん達で話をまとめたそうなので私には教えてもらえなかったけど。"部外秘"って事なのかな。
とりあえず、マップ制作どころか現地までのガイド役カラマさん。そして校長先生……、になったネルケ。もう訳分かんないな。とりあえずクラベル先生はカラマさんが脱走したりしない様に、監督する役目なんだって。
「校長先生の仕事はどうするんですか? ただでさえハッサクさん不在で大変なのに」
「ええ。ですので迅速に終わるとありがたいです。先生方には、きっちりとお話を付けて来たので……、ええ……」
という流れで、飛行機に乗る前から何故か既に疲れた様子のクラベル先生参戦!!
って訳。回想終わり。
「……い、おい。聞いているのか」
「ハッサクさんに呼ばれてる気がしました」
「嘘を吐け。里とは違う方角を向いていたくせに」
「いやぁ、カラマさんが手伝ってくれる経緯を思い出してしんみりしてました」
「ぐぅっ……」
私が回想している間に、いつの間にかニャッコが戻って来ていた。何かを必死に訴えているニャッコは、そのままの流れで何故かカラマさんに怒りをぶつけている。……里で何があったんだろう……?
「こいつを黙らせろ」
「ぽにゃぷー!!」
「この子は無傷で帰ってきたので、発見されて追い返された、という訳でも無さそうです。と、なると……」
「……何かを見付けたんだろう、という話をしていたんだ。お前が過去に飛んでいる間にな!!」
「あぎゃー! ごめんなさいー!!」
カラマさんに拳骨で頭をぐりぐりされる。でもぐりぐりしながら、私の意識がパルデアに飛んでいる間の会話を教えてくれた。でもクラベル先生、頭ぐりぐりする暴力行為は反省していない判定入って止めてくれたり……、しない!! 私が悪いですごめんなさいね!
「はぁっ。お前頭固いんだな。わたしの指が痛くなったぞ」
「いやまぁ頭蓋骨ですからね、固くないと困りますし」
「戯れはそこまでにしましょう。……ポポッコが折り返してきた場所はここ。カラマさん、建物らしき場所だとお見受けしますが、ここは何の建物ですか?」
「そこはタンジー様の……、里長様の付き人をされている方のご自宅の敷地にある離れだな」
「ほぁ〜。自宅の敷地に離れまであるって、里の敷地自体広いんですね。とうっ……、バトゥルコート何個分くらいですか?」
東京ドーム何個分ですか、って言いかけて、慌てて言い直した。お陰で"バトゥルコート"なんて変なコートが誕生してしまいました! ううっ、うっかり発言を自分で修正しなきゃいけない。ズバッとツッコんでくれるあるじま君がいないと私のボケは輝かないんだー!!
「…………その情報は必要か?」
私がツッコミ不在の悲しみに一人で打ちひしがれていると、カラマさんが疑いの目線を向けた。カラマさんとしては、里のマップを用意するだけの話でしたからね。広さも知りたいなんて言われたら、そりゃあ首を傾げるでしょうね。
「必要です! ルートにもよりますけど、ほらっ、走り回る体力配分とか!」
「その為のSTCチャレンジでしたからね。……しかし、そんな無茶をせずとも、ルギアに乗って空から探す方法もありますよね?」
「そのつもりだったんですけど……。ハッサクさんの居場所が分からなければ、空からの存在感で里の人総出になった所から探す計画だったんです。……でも、もし。ニャッコが引き返したポイントにハッサクさんがいるんだとしたら……」
「……なるほど。理解はした。……しかし、正確な広さは教えられん」
「その辺りは黙秘権があっても良いでしょう。最適なルートを教えてもらう事は可能ですか?」
「それは構わない。……しかし、こいつが本当にハッサク様を見たのかも分からないのに……。ぽにゃぽにゃ言うだけで何も分からないぞ」
そう言って、カラマさんは私の頭の上で大人しく休んでいたニャッコをむんずと掴んだ。むにゃー、なんて抗議の声を無視して、カラマさんはピクニックテーブルの上にニャッコを置く。
「……スマホロトムの翻訳アプリを使えば……」
「そんな手間使う前に話が出来ますよ。……ねぇ、ニャッコ」
「にゃ?」
「ハッサクさん、見付けたの?」
「ぽにゃー!」
「間違いなく頷きましたね。セイジ先生の言語学の授業を手伝っているピカチュウの様な分かりやすさです」
「にゃにゃぽ、ぽぽにゃぽにゃぽ、ぽにゃーーーー!!!」
「お、おう……。急な長文……」
「そして何故わたしに怒りを向けてくるんだ!? おいっ、紫音、止めろー!!」
「すっかり仲良くなりましたね!」
「止めろーー! わたしはドラゴン使いのカラマだぞ!! こんな、こんなポケモンに懐かれてもどうしたら良いのかっ……! ……二人とも見てないで助けろーーー!!」
カラマさんだってポケモンがいるんだから、ポケモンを出して助けてもらえばいいのに。そう思いながらもあんまり意地悪すると、今度は私が悪者になってしまうので、急いでニャッコを回収する。
何でニャッコがカラマさんをそんなに敵視しているんだろう。……私が許しても手持ちポケモンは許してないって事なのか、それともハッサクさんを見掛けた場所で何かあったのか……。
うーん、ニャッコの長文ぽにゃぽにゃを翻訳出来れば良いんだけど……、今はまだジャックを出す訳にはいかないし……。
「とりあえず、闇雲に探す事にはならなくてよかったなって思います!!」
「……、………………」
「へ? どうしましたカラマさん?」
「何でもない。ルートを書き込むからお前のロトムを寄越せ」
「カラマさん」
「……スマホロトムを貸せ」
「はぁい」
小声で何か言ったのは分かったんだけど、あいにく私には聞こえなかった。聞き返してもそっぽを向くので、とりあえず大した事じゃないんでしょう!
「……闇雲に探す方が、まだ人目があるからあの人の言動もまだマシだったろうにな」
カラマさんがそんな物騒な事を呟いていましたよ、と後からクラベル先生にそっと教えてもらったけど、その時の私はいったい何がマシなのかさっぱり分からなかった。