ミーティア越境編
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「いっそげ、いっそげ〜!!」
『はっしれー、いっそげー』
『あう。んぇ、ぐぇえ』
カインの牧場近くでタクシーを降りた紫音は、全力で走っていた。何せ、ジニアとゆうあに捕まってお説教されちゃったから、予約の時間ギリギリになってる!
紫音の頭の上で応援しているニャッコはともかく、走りやすい様にフードの中に入れられた僕はあっちこっちに揺られてグラグラだ。揺れる景色の中で、何事かと様子を見に来るポケモン達が見える。ごめんね! 僕の紫音がお騒がせしてます!!
「ぜはぁっ……、間に合った〜!!」
『ご来訪だぞー』
「ありがとうニャッコ……」
息を整える紫音の代わりに、ニャッコがチリンチリンと呼び鈴を鳴らす。それとほぼ同じタイミングで、扉の向こうからランクルスが顔を出した。その奥からカインの声も飛んでくる。
「はい、間に合っていないよ。まぁ、授業でも無いし許そう」
「良かったぁ……」
「その代わり。わたしが君のポケモンの予防接種や健康診断の後、仕事を手伝ってもらおう」
「よっしゃやります!!」
『ケンコーシンダン?』
何それ聞いてない、みたいな顔でニャッコが首を傾げた。昨日紫音がちゃんと説明してくれたでしょ……。
『ジョウトに行くっていうのは知ってるよね?』
『うん』
『違う地方に行く時には、健康診断と予防接種は必要なんだって!』
『えー? だって自分達、風に乗って行くのにそんなのした事無いよー』
『人にゲットされたらそうはいかないの。しないと連れて行ってもらえないよ!』
『えっ! やだー!』
『じゃあ健康診断してもらわなきゃ!』
もう一度ちゃんと説明すると、ニャッコはやっと分かってくれたらしい。うんうん、と頷いたニャッコにホッと安心した僕達を眺めていたカインが、心配そうな顔で紫音に話し掛けた。
「……紫音、一応確認するけれど」
「ハイ……」
「ポケモン達に説明はしているよね?」
「したんですけどね……、ハハ……」
ニャッコのぼんやりで紫音が怒られてしまった。苦笑いで返事をする紫音の頭に戻ったニャッコは、自分のせいで怒られているのに『気にしないでー』なんて言いながら頭を撫でている。うーん、マイペース過ぎる!! 紫音はニャッコをもちろん連れて行くつもりなんだろうけど、この調子でジョウト地方に行って大丈夫かなぁ? 僕も初めての場所だから、ちょっとドキドキ、凄くワクワクしてる。そんな状態で、紫音だけじゃなくてニャッコのフォローまでしなきゃ、ってのは大変そうだなぁ。
「さて、今日の予防接種は……、手持ちの六匹。ラクシアとニャッコ、モノズとカロン、そしてジャック……、新しい子だね。種族は……、……ルギア!? ルギアを手持ちに入れて行くのか!?」
「ギガインパクト級のご挨拶をと思いまして!」
『挨拶はいんぽーたんとってセイジも言ってたからね!』
『いんぽーたんとって何ー?』
『さあ?』
ガッツポーズを決めた紫音の肩の上で、僕もガッツポーズを決める。分からないけど、セイジが授業で言ってたんだから何か大切な事なんだと思う。
そんな僕達を前に、カインが何故かおでこに手を当てて呻いた。ランクルスが心配そうに顔を見たかと思うと、ため息を吐いて水を差し出した。
「ほ、本当にボールにいる……。戦争でもしに行くつもりかな……? 戦力過剰だと思うのだけど……。うーん、ルギアはとりあえず後回しにして、モスノウも連れて行くんだね」
「はい。氷タイプだし、ドラゴンタイプに安定して挑めるかなって」
健康診断を受けるポケモンを確認したカインの前で、紫音は新入りのモスノウ──ユミョンって名前を貰ってる──をボールから出す。
『呼ばれた』
『わあ、寒いー』
ポンっ、という音と一緒にユミョンが出てくると、ニャッコがユミョンのまとう冷たい空気から逃げるように高い所へ飛び立った。
「こら。ニャッコは氷タイプが特に苦手なんだから、声を掛ける前にボールから出しては駄目だ」
「あっ。ごめんねニャッコ……」
『いいよー』
冷たい空気が落ち着いたのを見計らって、ニャッコがふわふわと降りてくる。定位置になっている紫音の頭に戻ってきたニャッコとユミョンの様子を見て、カインは持ってたノートに何かを書き込んだ。
「手持ちに入れる様になって日が浅いから、ポケモン同士のコミュニケーションが取れているかも確認するように」
「はぁい」
「コミュニケーションと言えば……、カロンは? カロンの意思はどうなんだい?」
「カロンの意思?」
「ドラゴン使いの里に行くんだろう? 間違いなくドラゴンポケモンに囲まれる。メスだけとは限らない。オスのポケモンに相対した場合のカロンの心傷を考えたのかな?」
「……ほほぉ。ドラゴン使いの里……。先生、詳しく」
カインの言葉に、紫音がずずいっと詰め寄る。見るからにしまった、と言う顔をしているカイン。
「……ハッサク先生が語らない事を、わたしが話す訳にはいかない。プライバシーだ」
「…………」
あ、目を逸らした。紫音に無言で脇腹をつつかれても効果無し。僕がほっぺたをつんつんしても効果無し。ゼッタイに喋らないぞぉ、っていう決意を感じる。
「んんっ。そんな事より、だ。大切なのはカロンだよ。確認したんだろうね?」
あっ、無理やり話を戻した。……でも、カインの言葉は事実だ。
紫音も、ハッサクがいなくなってからすぐにハッサクを探しに行こうって決めて、僕達皆とお話をした。
学校を休んで、ハッサクを探しに行こうと思ってる事。
大変だろうけど、出来れば一緒に来て欲しいって事。
そんな中、カロンには別の事もお話していた。ドラゴン使いの人達がたくさんいる場所に行くんだ。当然、カインが今言った心配は紫音も持ってた。
「……一応、話はしました。カロンが余裕無くなってしまっても、私に撤退の選択肢は無い事も」
「……そこは撤退の選択肢を残しておいて欲しかったな。もちろん、ハッサク先生を連れて帰って来るのが理想だけれど。一番大切なのはね、紫音と手持ちのポケモン達が無事に戻って来る事なんだよ」
「…………」
『紫音……』
黙り込んじゃった。今度は紫音が目を逸らす番だった。
何も言わなくなった紫音にため息を吐いて、カインは軽く肩を竦めるだけ。返事を待たないまま、お仕事の話を始めた。
「お説教はわたしの役目ではないからここまでにしておくけれど。仕事の話に戻ろう。健康診断後、問題が無ければそのままポケルスの予防接種も終わらせるから、皆付いておいで」
そう言いながら、カインが歩き出す。続けてランクルスもふわふわと付いて行く。注射かぁ……。バトルではちょっとくらい痛いのはヘイキだけど、注射はそれとは違う痛みだからあんまり好きじゃない。
嫌だなぁ、なんて考えてた僕は、紫音の足音が聞こえない事に気が付いて振り返る。全然動いていない。何なら、紫音の頭に乗ってるニャッコもそのままだ。
「……カイン先生は、私が行く前提で止めないんですね」
「何だい? 止めてほしかったのかい?」
「いや止められても行きますけど……。ジニア先生もゆうあ先生もオッケーなんて様子じゃなかったし、先生は皆止めるもんなんだと……」
「……ふむ。その疑問には答えるから、紫音もこっちへ。ニャッコを連れておいで」
「あっ、はい」
紫音の疑問に、カインは移動の足を止めないまま僕達を呼び寄せる。最初に診察台に乗せられたのは……、僕。いつも一番に名前書いてもらうせいで、僕がトップバッターに!!
「はい、ラクシアはリラックスして……。吸って……、吐いて……」
『んふっ、んふふ……! く、くすぐったいよ〜!! ……あぅっ』
「はい、いい子だ。……紫音、君はきちんと手順を踏んで、嘘偽りなく書類を記入して提出した。不備が無ければ基本的に届は受理される。止められたのなら不備があったんだろう。……よし、ラクシアの注射終わり」
背中を撫でてリラックスする様に言われた……、と思ったら脚にぷすっと注射針! そのままぢゅう〜っとお薬を入れられた。話している間の出来事だった……。僕もびっくり、紫音もびっくり。あっという間に順番が回ってきたカロンはボールの中で困惑している。
「早っ……! 流れるような注射……」
「次、カロン」
「おいで、カロン」
『……痛いのは好きじゃないんだけど……』
カロンは大きくて、僕みたいに診察台に乗る事は出来ない。床の上でジリジリと逃げようとしているカロンの様子に、カインがカバンからモンスターボールを取り出した。
そのボールの中から、おでこからピンク色の煙をモクモク出しているポケモンが出てきた。眠ってるのかな……?
「ムシャーナ、彼女にリラックス出来る夢を」
『ふわ……? ひぁっ!?』
煙を吸ったカロンの目がふわふわと閉じていく。穏やかな顔になった所でチクッ。眠気が一気に飛んでいったカロンが思わず悲鳴を上げる頃には、もう注射が終わっていた。
「……今回の予防接種、越境申請の予約にしたってそうだ。きちんと申請フォームから予約して、紫音の順番が来た。断る理由は無いよ。はい、次はニャッコだ」
『あい』
「…………、お願いします」
手招きされたニャッコが返事をした。……返事をしただけで全然頭から動こうとしないから、紫音が仕方なくニャッコを診察台に移動させた。
「ルール破ってたら……?」
「無許可で越境したポケモントレーナーがいるとレンジャーに通報する。ふふふ、気難しいレンジャーに当たったら可哀想に、程度は思うかも知れないね」
「怖っ!!」
気難しいレンジャー……。うーん、テキトーに生きてる紫音と相性すっごく悪そう。ちゃんとルール守ってて良かった!! パルデアに来たばかりの頃、ハッサクと一緒にカインに怒られた甲斐がある。それはそれとして。
『ぽにゃ?』
注射されたニャッコが首を傾げた。ぽにゃ? って……。注射された手を不思議そうに見ているニャッコの様子に、紫音も笑うのを我慢してる。
「……うーん。ニャッコ、もしかして君はぼんりやしていて注射にも気付いていないパターンだね? 時間差で痛みを訴えるかもしれないから、その時は構ってあげるように」
「はぁい」
「さて、モノズの順番だね。恐らく孵化して初めての注射になるのではないかな?」
「そうかも……。ハッサクさんが注射してないなら多分……」
話題の中心にいるモノズは、ふんふん、と鼻を鳴らしている。ここが何処だか探るのに一生懸命になってるみたいだ。カインの牧場には来た事あるけど、今日みたいに診察台やお薬がある部屋に入った事は無いから、不安になってるのかも。
「オーケー。じゃあ初めての注射、チクッと行ってみよう」
『注射……? チクッと?』
聞き慣れない言葉に、モノズがじわじわと後退る。だけど、すぐに紫音の足にぶつかって悲鳴を上げた。
「ありゃ、完全に怯えモードだ。モノズー、私だよ。ちょっと抱っこするね」
そう言いながら、モノズを抱っこしようと腕を伸ばした紫音は、怯えモードになっていたモノズにがぶりと噛まれて悲鳴を上げる。
『わぁ!? 何? 誰!?』
「ふぎゃー!?」
『ひわー!?』
紫音の悲鳴にびっくりして、モノズがまた悲鳴を上げて暴れ始めた。うーん、大変な事になった!! ど、どうしよう……!!
「うーん、阿鼻叫喚……。モノズが返事をする前に行動に移すから……、っという話は今する事じゃないね。ムシャーナ、モノズに夢を。ランクルスは包帯を」
「久々に噛まれた……っ! 手加減無しで噛まれましたぁ……」
血がいっぱい出てる。紫音の足元でオロオロしていると、僕に気付いたカインが傷の手当をしながら声を掛けた。
「いいかい、ラクシア。今回の事は、モノズのせいじゃない事をよーく話して聞かせてくれるかな。紫音のせっかちが悪いんだって事をね」
「そんなぁ」
『分かった』
「あっ! ラクシアの裏切り者〜!!」
「警戒している相手の返事を待たずに触れればこうなる。誰が相手でも、コミュニケーションは大切だよ」
「あい……」
もう血が出ないようにしっかり押さえて、包帯でテキパキと手当をしていくカインが、ふと悲しそうな顔をした。
「……コミュニケーション……。ねぇ、紫音。ハッサク先生が戻らないと答えたのなら、無理やり連れて戻ってはいけないよ。残念だけど、分かっているね?」
「……はい……」
「……まあ、休学届を受理されない限り行けないのだけれど。ふふふ、まさか学校をサボって行くのかな? 他でも無いハッサク先生に学費を払ってもらっているのに?」
「ぐっ……! 確定急所攻撃止めてくださいよ〜! そこまで言うならカイン先生が保護者欄書いてよ〜!!」
「無理だね。わたしは君の保護者では無いから」
「うわ〜ん!!」
包帯を巻いた手で、大袈裟に嘘泣きをして見せた紫音に構わず、カインはもう次の注射の用意を始めている。紫音の嘘泣きは全く通用していなかった。
「よし、紫音も撃沈した事だし。眠っている間にモノズの注射をして……、ルギア用の注射針を用意しなければ……。まさか本当にいるなんて……」
「嘘だと思ったんですか?」
紫音を援護するみたいに、ジャックが入っているボールが器用に暴れた。……僕、あんな風にボールで暴れる事なんて出来ないのに。
「伝説と言われるポケモンだという事を忘れていないか? 普通、人の前に姿を現さないんだよ」
「えー? 普通にお喋りも出来ますけど?」
「会話も出来る!? ……あっ、待て、待つんだ! ここで出すんじゃない!!」
「え?」
喋りながら、ボールの開閉ボタンをポチッと押した紫音に、カインが顔色を変えた。それはそう、だってジャックは……、ルギアはとっても大きい! 部屋の中で出すなんてとんでもない!!
『とりゃあ〜!!』
紫音、色んな事を考えてるのかもしれないけど、さすがにぼんやりし過ぎ! 僕だってジャックを部屋の中で出しちゃダメって分かるよ!! 大慌てでジャックがいるボールのボタンをもう一度押した。赤い光が漏れ出てたけど、ギリギリの所でジャックが部屋にみちみちに詰め込まれる状況は回避出来た……!
『ふぃ〜!』
「……紫音、一応聞くけれど」
「な、ナンデショウ……」
「ちゃんと寝ているよね? 判断力の低下が凄まじいけれど?」
「……あはー」
嘘を誤魔化す時のお返事。あれこれ調べたり計画を練ったりしているから、実は最近の紫音はちゃんと眠ってない。寝たと思ったら突然起きてノートにメモしたりしてる。
僕達も紫音をちゃんと眠らせようとしているんだけど……、こういう時だけ察しのいい紫音は、夜になると僕達をボールの中に入れる様になってしまった。
「……そんな状況で越境なんてさせたら、紫音だけではなく手持ちのポケモン達にも危険が及ぶ。寝なさい」
「あはー」
「よし、ハッサク先生の不在で寂しい紫音の為だ。お泊り会を提案すれば、皆参加してくれると思うのだけれど……。どう思う?」
「み、皆って……?」
「ふふふ、君を心配している皆、に決まっているだろう? 夜更かしが出来ると思わない事だ」
「ひぃっ!!」
『良いんじゃない? 紫音、寝て!』
「ラクシアは賛成してくれている様だよ?」
「さ、寂しくなんてないですからぁ〜! 残念!!」
「おーい。予防接種が終わっていないよ。戻っておいでー」
「そうだったぁ〜!!」
一人で逃げようとしたけど、カインに呼び止められてずべっと転んだ紫音。顔から転んだせいで、鼻が真っ赤になってる。
「見事に転んだけど、鼻血は出ていないね。……冗談はさておき。事実寂しいのなら、そう言えば良い。君は一人ではないのだから」
「……ハッサクさんが寂しがってるだろうから!」
「そうかな? まあ、そうかも知れないね。漏れ聞こえる話だと、どうやらハッサク先生の意思を無視した行動の様だし。彼らには是非セイジ先生の言語学……、コミュニケーション学を受けてもらいたいものだ」
そう話をまとめると、カインはテキパキとユミョンの注射を終わらせた。残ってるのはジャックだけ。
「…………」
外に出て、実際にジャックを見上げたカインは、そのままの状態で一分くらい呆然としてた。期待以上の反応だったから、紫音がこっそりその顔を撮影して盗撮だって怒られたのはまた別のお話。……ちゃーんと撮る相手の許可を取りなさい、だって! 今日の紫音、怒られてばっかりだ。反省して、ちゃんと寝て欲しい。