ミーティア越境編
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「紫音さあん! 待ってください〜!!」
ホームルームが終わって、いつもの様にそそくさと教室を出ようとした私はジニア先生に呼び止められた。
はて? 何だろう。呼び止められる様な悪い事してないんだけどな……。
「ここでは人が多いので、ゆうあ先生の教室に行きましょう」
「えっ! お説教ですか!?」
この教室じゃ出来ない話って……。いよいよお説教なでは!? お説教されるのって職員室とか、生徒指導室みたいな場所でやるイメージなんだけど。それはそれとして、怒られる理由に本気で思い当たらない。
正直に言って、今日はカイン先生の所に予定がある。地方を跨ぐ為のポケモンの健康診断。空港でも受けられるらしいけど、ダメだった場合がとても困る。弾かれたポケモンは、向こうに到着するなりボックスに強制送還なんて! そうならない為に、早めに健康診断を受けて、何なら予防接種もする。皆で確実にジョウト地方に行く為に。
「予定ではお説教にならないはずです。ちょっとお話を聞きたいだけですよお」
「……分かりました。じゃあ善は急げです! ほら、早く早く!!」
「わわっ、分かりましたから押さないでください〜!」
グイグイ背中を押すと、ジニア先生は悲鳴を上げながら慌てて足を動かし始めた。目的地は、特別学級だ。
放課後に差し掛かる時間だし、普段そこで一緒に勉強している皆もそれぞれ部活や自分の習い事でもういなくなるはず。内緒の話をするにはちょうど良いのかも知れない。
「……あれ、ジニア先生?」
そう思っていた時期が私にもありました。教室では、普通にゆうあ先生が残っていた。何なら、皆もまだ教室に残っている。まだ授業してたのかな? それとも課外授業?
「実は……、ちょっとお話するのに、この教室をお借りしたくて……」
「……ええ!? もう、そういうのは早く言う! せっかく皆に集まってもらったのに……」
「面目次第もありません……」
「授業無いなら、オレ達は別に構わないぜ。何なら部活もあるしな」
「しょうがないなぁ〜……。職員室に呼び出して出来る話でもないし、もう来ちゃったんだもんね……。皆もやりたい事あるみたいだし、今日の課外授業はここまで! この教室は今から使うから、申し訳無いけど皆は退出してね!!」
腕を組んでむむっ、という顔をしていたゆうあ先生は、皆の言葉にがっくりと肩を落とした。
何の授業するつもりだったんだろう……。えっ、私も一応この教室で授業受けてるメンバーなのに知らないぞぉ。聞き逃してたかな……。
そんな事に思い当たって内心焦る私を他所に、皆は特に気にした様子も無く立ち上がった。
「はいはーい」
「了解でござる」
「オッケイ」
「ジニア先生と紫音ちゃんはそっちに座ってて!」
「はあい」
「じゃあね、紫音ちゃん!」
「おい紫音、明日はこっちにも顔出せよ」
「あ、うん……」
ガタガタと音を立てながら、皆がワラワラと教室を出て行く。手を振ってそれを見送っていると、片付けが終わったゆうあ先生が当たり前の様にジニア先生の隣に座った。
「三者面談……!」
「はあい。では、紫音さんの希望通り三者面談を始めます」
「希望してないっす」
「はいはい。……真面目な話だからね。わたしも心配だから同席させてもらいたいんだけど……」
「何の話ですかね……」
「休学届のお話です」
「……あ〜……」
休学届。確かに昨日、しばらくアカデミー休みますって言う届けを提出した。気付かれない事を祈って、宿題に混ぜて提出したんだけど、しっかりバレていたみたい。チェックする時に気が付くよなぁ……。うーん、作戦失敗である。
「何か不備ありました?」
開き直って首を傾げると、ジニア先生は大きなため息を吐いて一枚の紙を取り出した。そう、私が提出した休学届だ。
「不備ありました? じゃありません。不備ありありです。保護者枠の空欄。休学期間は未定。理由はだいたい察しが付くので不問にしますけど、これじゃあ校長先生に提出するぼくが怒られちゃいます!」
「あはー」
あはー、って笑うしか無い。だって保護者枠はハッサクさんが不在だから書けないし、自分で書いたらまたそれは怒られるだろうし。期間が未定だっていうのも、ジョウト地方に一回行っただけでハッサクさんが見付かる保証が無いから決められないし……。
そのせいで、提出した休学届には私の名前と、いつから休むのかという事しか記入されていない。ほとんど真っ白だ。
「あはー、じゃないです。紫音さん、真面目なお話なんですよ」
「はぁ〜、しょうがないかぁ。じゃあ休学届無しで休みます」
「怒りますよ」
「…………」
ジニア先生が真面目な顔になった。声もいつもより低い。怒りますよってもう怒ってるじゃないですか〜。さすがに茶化しはしないけど、無言で机に突っ伏した私に、話を聞いていたゆうあ先生が心配そうに口を開いた。
「紫音ちゃん……。そもそも、アテはあるの?」
「ふふっ。……アテとは?」
「ハッサク先生を探しに行くんでしょ? アテも無いのに探しに行くの? 情報は?」
「……企業秘密です!」
「特に情報は無し、と……」
「え!?」
サラサラと何かとんでもない事をメモされた。
「違います〜! ちゃんとアテあります!!」
「ホントかなぁ〜……」
ゆうあ先生の鋭い目! ジニア先生も険しいお顔をしているし、更に言うと私は一人。数でも不利なこの状況、煙に巻けないやつだ……。
「分かったよぉ……。確証は無いけど、決闘吹っ掛けてきたカラマさんの服、見覚えがあるんですよ。ジョウト地方のジムリーダー、ドラゴン使いのイブキに」
「イブキ……、ふむふむ。ロトム、ジョウト地方のジムリーダー一覧をお願いしまあす」
「ロトー!」
ジニア先生がロトムに声を掛けると、二人でスマホ画面を覗き込む。
……いや、正直な事を言うと、ジムリーダー変わってるかも、とかそういう不安はありました。ゲームでは、バージョンによってチャンピオンがダイゴからミクリに変わっていたり、その影響でジムリーダーも変わったりしていたから……。もしかしたら、時間の流れでジムリーダー変わってる可能性は考えていた。
まぁ、変わってたら「私が知ってるジムリーダーはイブキなんです!!」で押し通そうと思ってるけど。
「うーん、色やデザインは違うけど、確かにボディスーツにマント姿は共通してる……」
「……ドラゴンポケモンと生活するのに、こんな手足を出しているなんて……。怪我とかしないんでしょうか……」
「ん?」
あれ? 雲行き変わってきたな? ジニア先生が気になるのそこなんだ……。
「手足に傷を付けられない、ドラゴンポケモンを従える事が出来る実力があるぞぉって事かも……」
「なるほどお」
「……紫音ちゃんがまず調べようとしているのはフスベシティなんだね」
「……ううん……。使うポケモンのタイプと着ている服が似ているから、と言うのは証拠としては弱いんですよね。無茶と無謀は違いますよ?」
「宝探しするついでにパルデアを飛び出しちゃった、みたいな!」
「紫音さん。……君がやろうとしているのは無謀です。君がわざわざ探しに行かなくたって、ジュンサーさんやぼく達大人に任せてもいい事柄ですよ? と言うより、もはや大人に任せるべき事柄です」
「……あはー」
心配してくれているんだろう。真剣な顔で私に語り掛けるジニア先生の隣で、ゆうあ先生も頷いている。
最近の皆が何かと構ってくれるのも分かっている。
フユウちゃんにはお腹空いてないか聞かれる。
アオイちゃんには尾行されたし、あんまり学校に来ないあるじま君とのエンカウント率が増えた。その代わりに、何故かエイルちゃんをとんと見掛けなくなったけど。エイルちゃん、心を感じ取れるんだったなぁ。隠す努力はしているけど、そりゃあ内心サンドパン状態の私の側にはいたくないでしょう。
「……そうは言いますけどジニア先生。まず最初にハッサクさんが自分の意思でパルデアを出た以上、誘拐事件として扱えないんですよね」
「……そうですね」
「失踪じゃあ、捜索の優先順位低いですよね?」
「うう……、全部調べてるって訳ですかあ……。でもですよ、決闘を挑んだ人……、リーグで暴れた人が捕まれば、その人から聞き出せます。もう少し待ってくれれば……」
「ボーマンダでパルデアから出てるかも知れないじゃないですか。当たり前だけど、捜査情報は教えてもらえないし……」
「ドラゴンタイプのボーマンダなら、地方を超える体力がある可能性は否定出来ないなあ……」
困ったなあ、って顔で隣のゆうあ先生に視線を向けるジニア先生。無謀な事だから、止めたいのが正直な所なんだと思う。
「……別に休学届出さずに探しに行っても良かったんですけど」
「……じゃあ、どうして出す気になったの?」
「一日連絡が取れなくなっただけで、心配してくれる人がたくさんいるって分かったから。私は誘拐とかされた訳じゃなくて、自分の意思で休むんですよって言っとかないと、今度こそ死亡説が本当になっちゃう」
「そうだね、皆心配するよ。……無謀に飛び込もうとしてる紫音ちゃんを止めたい気持ちは分かってくれる?」
ゆうあ先生が真っ直ぐ私を見てる。心配しているんだってはっきり分かる。
申し訳ないな、という気持ちが無い訳じゃないから、私はその視線を受け止められなくて頷きながらも机の上で組んだ指を見つめた。
「それはもちろん。……でもゆうあ先生。私はハッサクさんがどうしたいのかを知りたい。電話も出てくれないし、返信も無い。それなら行かなきゃ。無茶でも無謀でも」
「はあ……、説得は駄目かあ……」
「お? 無理やり止めさせますか?」
私のポケモン達なら殺る気に満ち溢れてますけど。今日のストレス発散の相手はジニア先生ですか? ……という言葉は口にしないけど。ジニア先生の言葉が正論だって言うのは十分理解出来るから、そうなったら窓ガラスでも割って逃走を試みるしかない。
「止まってくれるならぼくもポケモンも頑張りますけど……。紫音さん、逃げるつもりでしょう?」
「あはー」
「ポケモンの技が当たった、とかならともかく、意図的に設備を壊されたら困りますから。うーん……、とりあえず今日はこの書類を預かっておきますけど、許可は出せませんからね?」
「バレてる!」
「休んだら鬼電! しちゃいますからね!!」
「ロトムがビックリするんで止めてあげてください」
「じゃあ休まないでくださあい。ぼくだって、手伝ってくれているロトムに負担を掛けたくありません」
「ぐぬぬ……」
ニコニコ笑顔のジニア先生から"鬼電"なんて言葉が飛び出してくるとは。そんなロトムに負担が掛かる様な事させないでね、という立派な脅しである。
「はい、じゃあ今日はこれでおしまいです。あまりトレーナーにバトル吹っ掛けたり、ジムバッジも無いのに結晶洞窟に潜り込んでテラスタルポケモンにバトル吹っ掛けたりしないように! してくださいねえ」
「全部バレてる!!」
「エレキネットに引っ掛かりましたね。結晶洞窟はテラスタルパワーの塊ですから、モニタリングしているんですよ。ここ最近、授業が終わって放課後になると、テーブルシティから隣の街に向かってポツポツと消えていくのでもしかしたらと思っていたんです」
「うう……」
「渡航費用が貯まった、といったところでしょうか」
「ジニアせんせぇの眼鏡はお見通し眼鏡……」
「先生ですから」
先生ってこんなにお見通し出来る職業だったっけ……。いや、単純に私が隠密行動出来ていなかっただけかも知れない。こらっ、って怒られないだけまだマシなのかも。
「今日は真っ直ぐ帰ってくださいねえ」
「カイン先生の所に予定が……」
「予防接種じゃないよね?」
「あはー」
「……まぁ、予防接種は渡航に関わらず必要だからね……。病院じゃない理由は聞かない方が良いかな?」
「分かってるくせにぃ」
「茶化さない」
「はい」
シンプルに怒られた。反省。
「それが終わったら、すぐに帰るんだよ?」
「はぁい」
まぁ、予防接種とか健康診断とかあれこれやってたら、今日はバトルしてる時間は無いだろうけど。終わったらご飯を買って直帰です。
「ふぃ〜。留学でもないのに、さすがに学生の身分で地方超えるのはダメっぽいなぁ」
「おい」
「その為に学校辞めちゃう? いやぁ、でも安くないお金使ってもらっちゃってるし、辞めます〜なんて気軽に言えないし……」
「紫音ちゃーん」
「鬼電覚悟で休むしか……」
「オレ達無視するなんて良い度胸してるね?」
「……ふぎゃっ!」
うーん、と考えながら廊下を歩いていたら、踵を思いっきり踏まれて転んだ。見事に顔面からダイブした私が鼻を擦りながら起き上がると、そこには先に帰ったはずの支援学級の面々が揃っているではありませんか。
「話は聞かせてもらったよ」
「盗み聞き? わぁ悪い子」
「悪い子……。うーんまぁDJ悪事だし」
「カチコミに向かうと見た。我らスター団、カチコミにはうるさいでござる」
「カチコミってそんなぁ。ちょっとお話しに行くだけですけど……」
別に特攻仕掛ける訳でもない。ハッサクさん知りませんか〜って聞きに行くだけである。……もちろん、向かってくる火の粉は撃ち落としますけども。別にカチコミするぞっ、という気持ちは……、無いと思う。
「そうは言うけど、穏便に済む話じゃねぇだろ」
「多分ねぇ。火の粉は振り払うけど」
「一人で行くの? それなら、それなりの用意をしなくちゃだめだよ」
「パルデアで手持ちに入ったポケモンともバトルしてるよ」
「そうじゃない、そうじゃないよ紫音。効率の話。たっぷり時間を掛ける余裕はあるのかって聞いてるの」
「どゆこと?」
「夜襲したとしても、普通のバトルではハッサク先生に辿り着く前に夜が明けてしまうでござる」
「そこで、パルデアのレッツゴー戦法だよ。バトル学の授業で習ったでしょ? それが役に立つんじゃないかって訳」
「……確かにそんな戦い方習ったなぁ。でも、それが何でカチコミに繋がるの?」
ポケモンにどっちに突撃してもらうかの指示を出して、後はポケモン同士のシンプルな力比べ戦法。技のタイプじゃなくて、ポケモン自身のタイプ相性とレベルで勝敗が決まる戦法が、どう繋がってくるのか分からなくて、私は険しい顔で首を傾げた。
「まぁ、それを実地で覚えてもらおうって話だ。……オレもドラゴン先公いないのは困るしな。……だけど、オレには探しに行くアテが無い。だからお前に賭ける事にした」
「紫音ちゃん。別に明日から休むぞって訳じゃないなら、明日メロコちゃんのチーム・シェダルに来てくれないかな?」
「チーム・シェダル……?」
「明日の放課後、迎えを寄越す。逃げんなよ」
「え? え、待ってチーム・シェダルとは何ぞや? カチコミの疑問も解決してないんだけど〜!!」
「あはは……。まぁ、明日始める前にちゃんと説明するから。カイン先生との約束あるんでしょ? 怒られちゃうよ」
「いやまぁそうなんだけど……」
何がなんやら。明日きっちり説明してもらうからね、と文句を言おうとした私は、さっき出てきた教室からじーっとこちらを見ているゆうあ先生とジニア先生に気が付いた。
「くぉらぁ〜!! 帰りなさいって言ったのに盗み聞きしてたなーっ!!」
「しからば御免っ!!」
「ただの全力疾走だね!?」
「早歩き程度にしないとタイム先生に怒られちゃうよ!」
「それ困るんだけど! おいシュウメイ! 速度落とせ!!」
「ブロロロームは急には止まれぬ……」
「おい紫音、別々に逃げるぞ」
「おっけまる!!」
「イーブイ顔負けの逃げ足!!」
蜘蛛の子を散らすみたいに……、とは言わないんだなぁ。なんて明後日の方向に感心しながら、私達は廊下の角をバラバラに曲がって逃げ去った。後ろでゆうあ先生が怒ってる声が追い掛けて来るけど、先生二人に対してこっちは複数。追い掛けるには限界がある。
「ひぇ〜、やっぱり学校辞めるなんてとんでもないやぁ!!」
楽しい学校辞めるなんてとんでもない! ちゃんとハッサクさん見付けて帰って来よう。
改めて心に決めて、私はルンルンでカイン先生の牧場へ行く為にタクシー乗り場へと足を向けた。