ミーティア越境編
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『紫音? ああ……、最近何だかいつにも増してバトルしてくれなくなったよね……。紫音とのバトル、そんな戦い方するんだっていう意外性あって楽しいのに……』
『紫音……? ああ、あのトラブルちゃんか。最近大人しいよな。大人しいって言うか……、何か声掛けちゃいけない雰囲気があるような……』
『紫音君? 紫音君は普段と変わらずに授業受けてるけど……。あ、でも……、授業が始まるギリギリに教室に来て、終わるとすぐ出て行っちゃうから、最近会話してないかも。多分、あの教室にいるみんなそうだよ』
「むむむぅ……」
最近、紫音ちゃんがおかしい。
ネモちゃんに聞いても、ペパー君に聞いても、ピーニャ君に聞いても、みんな違和感に気付いているけど理由までは分からない、っていうのが共通の認識だった。
まず一つ。バトルが好きじゃないからバトルしない。でも、ネモちゃんが頼み込んだらまんざらでも無い顔で頷いていたのにそれが無くなった。
理由を聞いてみたけど、ニコッと笑うだけで教えてくれなかったらしい。バトルに何かあるのかも知れない。
二つ目。声を掛けるのが怖い。……確かに、最近の紫音ちゃん、基本的に無表情だ。話し掛けた相手がわたしだと分かるとニコッと笑ってお喋りしてくれるんだけど……、笑うより先に向けられる視線は怖いかも知れない。ちょっとペパー君の気持ちが分かる。
そして三つ目。教室に一番後に来て、最初に出て行くという話。特に、ホームルームの時が分かりやすい。ジニア先生のお話が終わって、先生が「それでは、今日はここまででえす」って言い終わると同時に教室の扉が開く音がする。振り返ると、紫音ちゃんを追い掛けるラクシアの小さな後ろ姿を見る毎日だ。
「紫音ちゃん……。毎日あんなに急いでどうしたんだろう……。ウェーニバルはどう思う……?」
「クワ。クワワ」
「……うーん……、話聞いてくれるかなぁ……」
心配になってしまう。……もしかして、ポケモンに呼ばれて正気を失くしてしまっているのかも……。そんな事になっていたらどうしよう。
「……よしっ! わたし決めたよウェーニバル!」
「……?」
「明日、ちょっと紫音ちゃん尾行してみるっ!!」
「クェ……。クワッ!!」
話を聞いた方が早いんだろうけど、今の紫音ちゃんは何だか仲良くなる前のペパー君の雰囲気に似てる。多分、聞いても質問には答えてくれない。尾行すれば、紫音ちゃんの様子がおかしい原因が分かるかも……!
……でも、わたし一人じゃ限界がある。
そこでまず、ネモちゃんを協力者になってもらう事を思い付いた。同じクラスだし、ホームルームの時間は確実に教室にいる。
作戦は……。そうだ、ホームルームは欠席して、アカデミーの外へ出る為には確実に通るエントランスで紫音ちゃんを待ち伏せする。
ネモちゃんには、紫音ちゃんがホームルームに出席しているか、そして教室を出て行ったかの確認をお願いしよう! そうすれば、紫音ちゃんはもうホームルーム前からアカデミーにいなかった、なんて事故は起きないはず!
計画を練ってネモちゃんにメッセージを送ると、時間を置かずにすぐオッケーの返事があった。
『私も紫音の様子気になってたんだ! もちろん手伝うよ』
「ネモちゃん……」
良かった。ホッと安心して、わたしは明日の尾行に緊張しながらベッドに潜り込む。
ちょっと不安だけど、手伝ってくれる友達もいる。きっと大丈夫……。そう言い聞かせながら、わたしは夢の泉にふわふわ沈んでいった。
*
*
「……来ないなぁ……」
翌日。計画通り、ホームルームを欠席したわたしは、エントランスに並ぶ本棚の影から階段を睨み付けていた。
受付カウンターの両サイドの階段を色々な人が行き来しているけど、目的の人物は待っても待っても現れない。肩にミズゴロウって、かなり目立つと思うんだけど……。
『教室にはもう誰もいないよ。紫音捕まえた?』
「うう、いないよぉネモちゃん……。どうしよう……」
『おっかしいなぁ……。紫音、今日も電光石火で教室出て行ったのに……』
帰宅する生徒は、もうほとんどいなくなった。代わりに、部活動や夜間部の生徒達が多い。つまり、真っ先に帰るはずの紫音ちゃんは、ゴーストポケモンみたいに壁を抜けて帰ったとしか考えられない。
「……ちょいちょい」
「うう、もう少し待ってねウェーニバル……。あと五分待って見付けられなかったら今日は諦めるから……」
「張り込みご苦労様のアオイちゃんや〜い。張り込みにはアンパンと牛乳がマストだよ」
「あ、ありがとう……。えっ!?」
「誰を張り込んでるのか知らないけど、さっきのホームルームでジニア先生、次の生物の授業で小テストするって言ってたよ。じゃあね〜」
「…………うん、じゃあね……」
探していた紫音ちゃん本人に張り込みの差し入れを貰っちゃった……。校内で寄り道してたみたい。びっくりし過ぎて、そのまま紫音ちゃんとお別れしちゃう痛恨のミス!
うう、このままだと様子がおかしい理由を突き止められない……! 今日貰ったアンパンとモーモーミルク、変な組み合わせだけど、ありがたく明日の張り込みで使わせてもらうね!!
次の日。
「せっかくだし、座って待とうかな」
アカデミーの大きな扉の前にはベンチがある。出入口がよく見えるベンチに腰掛けて、アンパンとモーモーミルク、そして生物の授業の小テストに備えて教科書を用意した。これで、今日の張り込みの準備は万全! ……そう思っていたのに。
「アオイ? 何やってんだ、こんな所に座って」
「お、お兄ちゃん……!」
そこに立たれると、出入口が見えないよー!!
お兄ちゃんは勘が鋭いから、ちょっと右って言ったら最後、わたしがまた何かに巻き込まれているんじゃないかって心配する……。どうしよう……!
「……アンパンと牛乳……。張り込みか?」
「ど、どうして……!?」
「当たりかよ……。誰を張ってる?」
何も言ってないのに! パンとモーモーミルクで張り込みしてるってバレるなんて思わなかった。
隣に座ったお兄ちゃんは、質問に答えるまで移動するつもりは無さそう……。渋々口を開くしか選択肢は無かった。
「うう、紫音ちゃんを……」
「……張り込みのターゲットに張り込みセット貰ったのか?」
「うん……。うん? どうして分かったの?」
誰に貰ったかまでをピッタリ当てるなんて……。びっくりしてお兄ちゃんを見ると、肩を竦めて笑う。
「……その組み合わせの張り込みセットを渡すのはあいつしかいないだろ」
「あはは……」
「ついでに言うと、その組み合わせが偶然鞄に入ってる、なんて事は無いから、たぶんあいつわざわざそのセット買いに行った可能性すらある」
「……え、もしかして……」
「張り込みバレバレだって事だよ。まさかターゲットが自分だなんて思わなかっただろうけどな」
そんな……! わたしとしては、ちゃんと隠れていたつもりだったんだけど……。わたしが見付けるより先に紫音ちゃんに見付かった上、わたしが何をしているかまでお見通しだったなんて……。ちょっと自信無くなってきた。
「アオイはあれこれ考えるより、正面突破が性に合ってるんじゃないか? ほら、来たぞ」
「正面突破……。よしっ! おーい、紫音ちゃん!」
お兄ちゃんとそんな事を話していると、ホームルームが終わる時間になっていたみたいで。昨日より早い時間にアカデミーから出てきた紫音ちゃんは、声を掛けたわたしに気が付くとひょこひょこ近付いてきた。
「おっ、今日もサボったアオイちゃん! そしてだいたいサボってるあるじま君。あるじま君のサボり癖移っちゃったかな? 今日は特にジニア先生からの連絡事項無かったよ」
「わっ、ありがとう……。じゃなくって!」
昨日みたいな事にならない様に、しっかり紫音ちゃんを捕まえる。ニコニコしていた紫音ちゃんに、勇気を持って質問してみた。
「紫音ちゃん……」
「うん?」
「こっ……、この後ヒマですか!?」
「ごふぁっ」
後ろからお兄ちゃんが吹き出すのが聞こえた。
まっ、間違えちゃったぁ……! 聞きたかったのは「どうして最近そんなに忙しそうなのか」って事だったんだけど、口から出てきたのは何故か全然違う言葉。
一拍遅れてキョトンとした紫音ちゃんは、困った様に笑った。
「ごめんねぇ……。ちょっとやらなきゃいけない事山積みになってて、紫音さんしばらくゴタホーなんだよ……」
「そっ、そうなんだ……」
「本当にゴメンね……! あっ、じゃあ明日! 明日のランチは一緒に食べよ! とりあえずそれで許してくれるかな……?」
両手を合わせてそんな事を言われてしまったら、話の流れで忙しい理由を聞く事が出来なくなってしまう。すっかり紫音ちゃんのペースに乗せられて、気付いた時にはわたしは言われるがまま明日のランチの約束をした紫音ちゃんとさよならしていた。
「……あれ?」
「相変わらずイエスちゃんだな……」
「そんな事っ……! ……あります……」
お兄ちゃんの言う通りだ……。しょんぼりとベンチに戻ったわたしは、その気持ちのままアンパンをモーモーミルクで押し流す。むむっ、甘いパンと牛乳の組み合わせって、意外と美味しいかもしれない……。
さらに翌日。紫音ちゃんとランチをしたわたしは、結局放課後を待たずに昨日と同じベンチに腰掛けていた。。
理由は簡単。お喋りは盛り上がったけど、そう言えばわたしばかりが話していた事に気が付いたから。
放課後新しく捕まえたポケモンの事。パルデアでは見掛けないポケモンが大量発生した噂。授業の話、新作スイーツの話……。
色々な話を、紫音ちゃんは全部面白そうに聞いてくれた。午後の予鈴が鳴るまで盛り上がってしまったせいで、二人とも大慌てでご飯を飲み込む事になってしまったのも反省点。
「今日こそ……っ!」
もう張り込み三日目だ。周りを見ていれば、だいたいパターンは分かる。
昨日の紫音ちゃんは、タクシーにも乗らず大階段を歩いて降りて行った。タクシーを呼べる場所は決まっているから、徒歩で移動した紫音ちゃんはしばらくタクシー移動はしない。ライドポケモンも連れていないから、完全に徒歩移動だ。
今日はどっちだろう……。アカデミー前でタクシーに乗らなければ、声を掛けずにちょっと離れて尾行しようと思う。
「よし、今日こそ……!」
ポケモンの命中率三〇%の技だって、確率で言えば三回も出せばそろそろ当たってくれるはずだし! 頭の中で、タイム先生が確率の計算が違いますよって言った気がするけど!!
「あっ、来た……!」
紫音ちゃんが出てきた。外に出るなり、小走りを始めた。……歩いてる時とあんまりスピード変わらない様な気もするけど、紫音ちゃんの中では急いで移動してるんだと思う……。階段を降りていくのを確認して、わたしもこっそり移動を始めた。
階段を一段ずつ飛ばして駆け下りる紫音ちゃんは、最後の何段かを一気に飛ばして着地した。小さなラクシアも、フードにすっぽり収まっている。……いいなぁ、わたしもフードがある服着たら、どの子かスポッと入ってくれないかな……。
「……って、見失っちゃう!」
新しい洋服の事は、とりあえず頭の隅っこに追いやって。わたしは相変わらず小走りで移動する紫音ちゃんを歩いて追い掛ける。
この先は、南二番エリアだ。可愛いポケモン探しに行くのかな、なんて考えていたわたしは、テラスタルの結晶洞窟に入って行く紫音ちゃんを見てビックリした。
「ええ!? 結晶洞窟……、何でだろう……?」
小さい結晶ならともかく、紫音ちゃんが潜り込んだサイズの洞窟は、それなりの数のジムバッジを持っていないと、ポケモンのテラスタルパワーが強すぎてそもそも入れないのに……!
「外まで吹き飛ばされたらどうしよう……!」
「いてて……、この入口の狭さはどうにかなんないのかなぁ……」
「紫音ちゃん……!?」
普通に出てきた……。洞窟にいたポケモンが落とした道具を鞄からポイポイ取り出して軽くすると、また移動を始めた。
……え? 待って待って! 洞窟のポケモンが道具を落とすって事は、中にいたポケモンを倒したって事になる。
「ウェーニバル、ちょっと紫音ちゃんの行き先見張っててくれるかな?」
「クワ」
ウェーニバルに監視を頼んで、紫音ちゃんが捨てた道具を確認する。ハネと……、マトマの実もある! ここにあった結晶洞窟のポケモンは、ジムバッジを六個の実力が無いと入れないくらい強いポケモンだったんだ……。
「そうだ、ウェーニバルに追い付かないと……!」
何で捨てたのか、何が欲しかったのか、回収すれば何か分かるかもしれない! そう思って、紫音ちゃんが捨てたらしいきのみとハネを拾い集めて、ウェーニバルを追い掛ける。
岩陰に身を隠していたウェーニバルは、わたしが追い付いたのを確認して、見ていた方向を指差す。そっちを見ると、紫音ちゃんがバトルを挑まれて……、勝利した所だった。
いつもならラクシアとハイタッチして喜ぶんだろうけど、今日の紫音ちゃんは違う。ラクシアはすぐに紫音ちゃんの肩に戻って、賞金を受け取った紫音ちゃんは振り返る事なくまた走り始めた。
「ええ……!?」
もう何も分からない。ラクシアも戸惑っている様子は無いから、ちゃんと意思疎通出来てるんだろうけど……。わたし達とバトルする時は、勝っても負けても凄いねって笑ってるのに、今の紫音ちゃんはニコリともしない。
「アオイ、お腹痛い?」
「ぴゃあ!?」
考え込んでいたら、突然名前を呼ばれて飛び上がった。驚いて振り返ると、そこにはエイルちゃんがいる。心配そうな顔をしたエイルちゃんに、わたしは慌てて近くに来てもらう。
「座って! 見付かっちゃう!!」
「見付かる?」
「早くー!」
慌てているからか、エイルちゃんは渋々わたしの隣に座った。
「お腹痛いって思ったから声掛けたのに。チクチクするから、あんまり近くにいたくない」
「チクチク?」
「うん」
「……? この辺りの草、そんなにチクチクするかなぁ……」
エイルちゃんが見た事無い顔をしてる。いつものふわふわな雰囲気はどこかに飛んで行ってしまったみたい。
「無理言ってごめん……。紫音ちゃんに見付かると思って……」
「……紫音、近付きたくない。今の紫音、ずっとトゲトゲしてる……。ちょっと痛い」
人の気持ちを感じる事が出来るエイルちゃん。チクチクする空気を避けてお散歩していたら、座り込んでいるわたしを見付けて声を掛けてくれたんだって。……と、言うか今大切な事言いませんでしたか!?
「え? 痛い理由は紫音ちゃんなの!?」
「うん。ずっと怒ってる。怒ってるのに笑ってるから、トゲになってる」
「怒ってるの!? 紫音ちゃんが?」
紫音ちゃんは怒っている。そう聞くと、確かにわたしが話し掛ける前の表情は怒っていた様な気がしてきた。話していない時も、基本的にニコニコしていた紫音ちゃんが笑わなくなってる。……一大事なのでは!?
「ありがとうエイルちゃん! あと、呼び止めてごめんなさいっ!!」
「へ? う、うん……? もう隠れてなくて良い?」
「大丈夫! ……ミライドン、手伝って!!」
ウェーニバルと一緒にミライドンの背中に飛び乗って、わたしはセルクルタウン前のポケモンセンターに併設されたショップを利用している紫音ちゃんに追い付いた。
「紫音ちゃん!」
「おおぅ? また会ったねアオイちゃん! これで三日連続。もはや運命なのでは?」
カウンターには、きんのたまや彗星のかけらが何個か並んでいる。買い取ってもらうつもりらしい紫音ちゃんは、駆け寄ったわたしにニッコリ笑って振り返った。
この顔だけ見ると、怒ってる様には見えない。だけどよく見たら、全然楽しそうじゃない。勇気を振り絞って、わたしはエイルちゃんに聞いた事を紫音ちゃんにぶつけた。
「……ねぇ、何に怒ってるの?」
「……、…………」
すとん、と笑顔が消えた。何て言うかな、とドキドキしていたわたしに、さっきと同じ笑顔を浮かべた紫音ちゃんが言う。
「オコッテナイヨー」
「……分かった。話してくれないなら……、ポケモンに聞いちゃうから! バトルしよう!!」
「嫌です」
ピシャリと断られた。いつもなら、『嫌だなぁ〜、困ったなぁ〜、でも可愛い友達の頼みだからなぁ〜、しょうがないなぁ〜』ってバトルしてくれるのに。バトル出来ない時は、次のバトルを紫音ちゃんから誘ってくれるのに。
無表情でたった一言。その短い言葉で、絶対にバトルしないという意思を感じた。でも、ここで引き下がる訳にはいかない。
「どうして!?」
「楽しくないから」
「わ……、わたしとウェーニバル相手じゃ楽しくないって事?」
「あ〜……。泣かないで、私が怒られるよ。アオイちゃんとウェーニバルが悪いとかそうじゃなくて……」
「ちゃんと教えてっ!!」
やっと紫音ちゃんの表情が動いた。困った顔をした紫音ちゃんは、肩にいたラクシアを腕に抱き締める。
「はぁ〜。あのね、アオイちゃん。アオイちゃんが言う通り、私は……、私達は今すごく怒っててね。友達に八つ当たりする様な楽しくないバトルしたくないの」
「八つ当たり……」
「そう。だからアオイちゃんもネモちゃんも、もちろんあるじま君ともバトルしない。楽しくないから。で、その代わりに実益と実益を兼ねて外を走り回ってたってワケ」
「実益と……、あれ? 趣味と実益じゃなくて?」
趣味と実益は聞いた事あるけど、実益と実益は聞いた事が無い。同じ言葉が並んでるだけだよね?
「結晶の洞窟で高く売れる道具を、バトル吹っ掛けてくる人からは賞金を。知らない人には悪いけど、八つ当たりさせてもらってるんだ。実益と実益と……、実益だね!」
「な、なるほど……?」
すっごくいい笑顔だ……。笑ってるのにちょっと怖いくらいにいい笑顔。
「怒ってる理由は……」
「アオイちゃん、分かってても言っちゃダメな事があるんだよ。分かってくれるかな?」
「うん……」
きっと間違いなく、授業をお休みしているハッサク先生に関わる事だ。何だか先生達がピリピリしてるし、きっと紫音ちゃんも……。
「……でも、何か出来る事あったら何でも言ってね! 助けになるから!」
「あはー、ありがとう。でも、アオイちゃんはそのままでいてくれたら助かるよ」
「え?」
「帰ってこなきゃって思えるから」
「え……」
どういう事だろう。まるでどこかに行くつもりみたいな……。
言葉を失ったわたしに構わず、紫音ちゃんは手を叩いて話は終わり、とばかりに笑顔を浮かべる。
「あっ! もう夜になっちゃう。アオイちゃんもあんまり夜遊びしちゃいけないんだぞぅ」
そう言って、紫音ちゃんはセルクルタウンのタクシー乗り場に向かっていく。元気に手を振る紫音ちゃんだったけど、その顔はどんな顔しているかはよく見えなかった。