ハッサクさん夢短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
コンコン。扉がノックされる音。
「紫音、起きる時間は過ぎていますですよ」
『むにゃむにゃむにゃ……、ぶぺぇ!?』
ハッサクさんが扉の向こうから優しく呼ぶ。起きる時間だ。分かっているけど、今日はアカデミーも休みだし、特に予定も無いし。まったり過ごすつもりだった私は、ハッサクさんの声に誘われるままにベッドから起き上がって……、そのまま床に落下した。
「……? 紫音?」
『落ちた……?』
「失礼、開けますですよ」
返事せずに独り言をぶつぶつ言い続けているせいで、ハッサクさんは私がまだ起きていないと思ったらしい。断りを入れて扉を開いたハッサクさんの姿は、私の視界では足しか見えなかった。
……足しか?
『はぇ?』
「……紫音は何処へ!?」
顔色を変えたハッサクさんがベッドへ駆け寄ってくる。ついでに、ベッド下に転がっていた私を拾うのも忘れない。ラクシアをそうしていた様に、私を肩に乗せた。
『……私ってば、ハッサクさんの肩に乗るサイズになってる……』
「いない……。それはそうと、君は不思議な色のハネッコですね……」
『ハネッコ? ……ハネッコ!?』
「おっと」
驚き再び。ひっくり返ってハッサクさんの肩から転がり落ちた私を、慌てて大きな手が受け止める。
その時に、自分の手が視界に入った。小さな手。水色の手だ。水色と言えばミズゴロウの脚だけど、それとは違う。言われてみれば、確かにハネッコの手だと思う。
それに気が付いてから良く発言を聞いてみると、自分の耳が拾う音は「ハネハネ」という音だ。自分が発言しているんだから特に何も思わなかったけど、とんでもない事態になっているのでは!?
『……か、鏡! 鏡〜!!』
飛び降りようとして、上手く飛べずに落下した。ニャッコがハネッコだった時は、頭の葉っぱをプロペラみたいに回して飛んでいたのに! 今の私にはそれが出来ない。
『わぁ〜ん! ニャッコ、飛び方教えて〜!!』
『呼んだー?』
「こら、暴れてはいけませんよ」
『ぎゃー!? 突然のドアップ!』
再び捕まった。両手で頬を挟まれて、じーっと見られている。ここここんな距離で目が合うのは普段の生活ではあまり経験が無いのでフリーズしてしまった。
大人しくなったと言うか、フリーズした私を他所に、ハッサクさんは困った様にため息を吐く。
「もしや、かくれんぼですか?」
『かくれんぼって言うか、もう捕まってるって言うか……』
「むむむ……、さすがにベッドの下を覗くのは……」
『別にえっちな本とか隠してませんよぉ』
「…………」
『………………』
ハッサクさんの疑問に律儀に返事してたら、ハッサクさんのお顔が私の方に向いた。見つめ合う事数秒。恥ずかしさが限界に近付いてきた頃、それを見越したかの様にハッサクさんが小さな声で呟く。
「……紫音?」
疑問系ではあったけど、多分ハッサクさんの中で何かピースがピタッとはまったんだろう。もはやただの確認だった。
『はい』
手を挙げて返事をすると、壊れかけた機械みたいにぎこちない動きでもう一度私のほっぺたに触れる。片手で支えられるくらい軽い身体になってしまった私は、凍り付いたハッサクさんを前に朝の挨拶をした。
『あ、おはようございます〜』
「…………」
『あれ? お〜い、ハッサクさ〜ん?』
手を精一杯伸ばして、ハッサクさんの鼻のてっぺんに触れる。反応は無い。
『まぁほら、ポケモン転送装置の事故でポケモンと合体しちゃった人もいるくらいですし! ねっ!!』
一生懸命話し掛けても無反応だ。それはそっか、人の言葉は分かっても、ポケモンの言葉は分からない。しかも、混乱しているだろうからなおさらだ。
「……ど」
『ど?』
「ドラゴ──ンっ!!」
『うにゃあ〜!!』
フリーズから復帰したハッサクさんが放った声量に驚いて吹っ飛んだ。バクオングも真っ青になるレベル。耳を塞いでいても貫通するくらいだからね、それを直に浴びれば目も回る。
『きゅう……』
紫音、撃沈。ボトッと床に落ちた私は、慌てたハッサクさんに拾い上げられてジニア先生の元へ連れて行かれる事になったのです。
*
*
「水色のハネッコ……。通常生息している個体はピンク色。色違いは緑色ですからねえ……。珍しいなあ……」
『いや〜んそんなに見ないで〜』
『紫音、嫌なら本気で言ってね。いつでもハイドロポンプするよ!!』
『う〜ん。ハイドロポンプしちゃうと大事そうな機械壊れちゃうから、目潰し的な泥かけ程度にしといて』
「うーん、このおしゃべりさんな感じ……。紫音さんと言われればそんな気もしてきます」
そして今。ジニア先生にラクシアの背中から取り上げられて、まじまじと観察されている私です。人間と身体の構造が違うせいか、上手く歩く事も出来ない私は、ラクシアの背中に乗せてもらって移動して来ました。
ハッサクさんの肩じゃない理由は簡単。ハネッコの色違い……、ですらない色の私は目立つ。ポケモンの姿ではあるけどポケモンではないので、モンスターボールも使えない。
だけど、元々水色のラクシアの背中に乗っていればそんなに目立たない。と、言う訳で……、何と! 今だけ! ラクシアの背中に乗り放題!! 後でニャッコの回る花びらにも乗せてもらいたいなぁ……。
「ふんふん……。頭の葉っぱも元気なのに、回せないみたいですねえ。オレンジ色だから、もしや枯れているのではと思ったけど、単純にそういう色合いである、と……」
「何か分かりましたですか!?」
「はい! どうしてこうなったか分からない、と言う事が分かりましたあ!」
「つまり何も分からないって事ですね!」
緊張の面持ちでジニア先生の言葉を待っていたハッサクさんがズッコケた。記録を付けていたゆうあ先生も苦笑いだ。
ジニア先生の手からハッサクさんの膝の上に戻された私は、三人が座るテーブルを覗き込もうと背伸びした。しかし、テーブルの縁しか見えなかった……。テーブルに乗せられた私に、ハッサクさんが紙とボールペンを渡す。
「エイル君ならば会話出来るやも、とは思いますが、取り急ぎ筆談で会話をしてみましょう」
『はぁい。……よし、は、あ、い……、っと』
……失敗した。「はぁり」になった。ハネッコの小さな手じゃ上手く書けない。
むむむ、と必死に書き終わって顔を上げたら、何故か微笑ましい顔が三つ並んでいた。解せぬ。
「ハネッコが真剣な顔して文字書いてるなんて、新鮮な光景だなぁ」
「人の言語を習得したポケモン……。噂では人と会話が出来るニャースがいるそうですが、詳しく探せば筆談が出来るポケモンも……」
「話がズレていますですよ! ……しかし、この様子だと長文で回答してもらうのは難しそうですね……」
「文章が長いと、その分時間も掛かりますしね……。よし、じゃあ短文で答えられる質問にしましょう!」
『助かるです〜』
「はい、書いてくださあい」
ジニア先生。にこぉって笑ってますけど、お隣のゆうあ先生の苦笑いをご覧ください。対面に座ってるハッサクさんの困った顔をご覧ください。雰囲気で分かりませんかね……。だめ? そう……。
『…………』
「せんせ むじょあ」
渋々書いたら、また書き損じた……。でもこれは雰囲気で察して欲しい。
「むじょあ……? せんせ……、話の流れからすると、これはぼくの事ですよねえ」
「先生、無情……、と言った所でしょうか。文句を書かれていますですよ」
さすがハッサクさん! ハナマル上げちゃう。待ってて、ハナマル書くから……、って思ったけど、これあまりにも私が大変過ぎませんか? こうなったら、コックリさん方式で行こう。
「ええ!? 酷いなあ!!」
「あ、待って。紫音ちゃんが何か書いてる……」
『よいしょ。ほいしょ……、よしっ!!』
イエスならマル、ノーならバツ。分からないならクエスチョンマークをペンで指せばよいのだ! さすがに文字を全て書く根性は無かったよ……。
「マルと、バツと、疑問符……」
「……あ! なるほど。君は紫音ちゃんである?」
『マルー!』
察してくれたゆうあ先生の質問に、私はボールペンで元気よくマルを指す。
「原因は分かりますかあ?」
『分かりませんっ!』
「現状困っている事はありますですか?」
『う〜ん……。無いです!』
ちょっと楽しくなってきた。ハッサクさん達も、あれこれ聞き出すのが楽しくなってきたらしく、油断しているととんでもない質問が飛んでくる。
「ちゃんと勉強していますか?」
『のっ……、はいっ!!』
「怪しい……」
「小生の事は好きですか?」
『そりゃあ……、って、……ハッサクさん!!』
「おやおや、怒らせてしまいましたですね。しかし、人にペン先向けては駄目ですよ」
結局あれこれ聞かれて分かった事は特に何も無かった。どういう理屈でこんな事になっているのか、いつ戻るのか。さっぱり分からない。
ポケモンと意識をシンクロさせて、ポケモンの身体で動き回れるマシンが試作段階で存在しているそうだけど……。私の現状だと、機械を使った訳でも無いから余計に原因が分からない。自然には存在しないカラーリングのハネッコになっている事が、さらに謎を深めているらしい。
「……あ」
『……?』
皆でうーん、と唸っていると、ふとゆうあ先生が手を叩いた。
「ポケモンになりたいと思った? もしくは、ポケモンと話したいと思った?」
『ほぁ〜。それならいつも思ってるよ』
マルを周囲を何度もぐるぐると囲む。
ポケモンと話したい。そんなの当たり前じゃないですか〜!
ラクシアが私のボケにどんなツッコミ入れてくれているのか、とか。
ニャッコがいつもどんな独り言を言っているのか、とか。
カロンが先輩としてどんな事をモノズに教えているのか、とか。
ジャックに通訳を頼んでも、『通訳? 全員分? 面倒くせぇ』って生意気溢れる一言で断られてしまうから、いつもその様子を見ているだけ。雰囲気でしか会話が出来ないのはちょっともどかしいよね。だから、ずっとエイルちゃんがめちゃくちゃ羨ましいと思っていた。絶対楽しいので。
「その願いが不思議な形で叶ったんじゃない?」
「そんな事がありますですか……?」
「ポケモンは不思議な生き物ですからねえ。ぼく達がまだ知らないポケモンの力で、紫音さんの願いを叶えてくれた可能性も……。定かではありませんが、興味深いですよねえ……。例えば採血なんかどうでしょう」
『ノー! ノーノーノー!! 断固拒否! ハッサクさ〜ん!!』
「おっと。……凄く嫌だそうです」
「そんなあ……。血液を調べれば何か分かるかも知れないのに……」
心底残念そうなジニア先生である。……一応聞いておきたいんだけど、その何か分かるかもの"何か"の部分って、私がこうなった理由じゃない可能性含んでませんか? 聞きたくても今の状態じゃ聞けない。とりあえず、迎えに来てくれたハッサクさんのお手手にしがみついておこう。
「生物学者としてはまたとないサンプルなんですけどお……。うう、ちょっとだけ……、プスッとするだけなら……」
『やっぱり研究者としての方面だった! ヤダー! ゆうあ先生止めてよぉ!!』
「……はっ! んんっ、ダメですよ。気持ちは分かるけど、サンプル採るにしたって嫌がる子に無理矢理はよくありませんっ!!」
『ゆうあ先生、止める方向性そっちじゃないよぉ! こうなったら自分で戦うしか無いっ!!』
フンス、とボールペンを槍の様に構えて戦闘態勢に入った。食らえっ、紫音の乱れ突き〜!! ……もちろん、ハッサクさんの手の上から乱れ突きしているので二人には届かない訳だけど。
『うりゃりゃりゃっ!!』
「きゃあ、乱れ突き!」
「ご、ごめんなさいぃ〜!」
可愛い……、と言うよりは楽しそうな悲鳴を上げて逃走する二人に満足して、私はハッサクさんの手のひらで胸を張る。どうだ、参ったか!
「……紫音、先ほども注意しましたが」
『はぇ?』
「ペン先を向けるのはもちろん、真似とは言え人を突いてはいけませんですよ」
『……はい……』
胸を張っていたら、ハッサクさんから真面目なお叱りを受けてしまった。ほっぺたをむんずと掴まれてしまっては抵抗出来るはずも無く。はい、ごめんなさいとしょんぼりするしかありませんでした……。
*
*
結局、戻る方法は何も分からないまま。帰宅した私は、困った事に気が付いた。
そう、ハネッコの姿では、手持ちポケモンのお世話が出来ないのである!! むしろ私が皆に世話を焼かれる始末。ラクシアの背中居心地サイコーです。
『どうしよう……。一日背中に乗せて歩いて貰ったのに、お礼にシャワーしてあげる事も出来ない……』
『ハネッコの紫音、軽いから大丈夫! ハッサクに脚洗ってもらって来るから、その間紫音はモノズに乗ってて。……おーい、モーノズー!!』
『なぁに?』
『紫音を背中に乗せてあげて!』
『……紫音? ニンゲンは乗せられないよ?』
『昼間説明したでしょ。何故かハネッコになってるって』
『それはそうだけど……。……あっ、だから今日撫でてくれないの!?』
『いや撫でたよ。……ハネッコの手で』
『分からないでしょ? この子見えないんだから。ニャッコに撫でられたと思ったはずよ』
『カロンの正論。……ロンだけに!!』
しーん。私の言葉に、周りの空気が一気に氷点下になった。
『ちょっと寒いんだけど。誰の仕業? わたし、ふぶきなんて覚えてないんだけど』
『すごーく寒いー』
『うちの子が辛辣!』
酷い言われようである。悲しい。だけど、ポケモンとこうやってお喋りするという夢が叶っているのがとても楽しい。モノズの背中に乗ってリビングに到着すると、脚を洗ってもらったラクシアから、ハッサクさんのお呼び出しが知らされた。何だろう、と思うより先に、ニャッコに頭の葉っぱをギュッと掴まれて身体が浮く。
『はい、移動ー』
『ちょっと待っ……、もうちょっと右に……。よし、落として!』
『そんなUFOキャッチャーじゃないんだかぐぇっ……、ぷぇ……』
『あれ?』
落としてって何ですかラクシア君。人を景品みたいに……! ニャッコが落とした私の身体は、ラクシアの背中でバウンドして床に着地した。
ぺしょ、と床で伸びた私を、カロンが器用に尻尾ですくい上げてラクシアの背中に乗せてくれた。
『飛べれば落ちなかったのにー』
『ニャッコさんや……。飛べないハネッコはただの紫音さんです……』
『そっかー』
『はい、ハッサク待ってるから行くよー。なんかね、地面に近い所移動したから、紫音も洗いますです、だって』
『ほぁ、なるほど』
自分じゃ分からないけど、確かに目には見えない汚れが着いてるのかも。……え、ハッサクさんに洗ってもらうのですか?
『ねぇラクシア、ハッサクさん脱いでた?』
水仕事と言うかシャワーするくらいだから、もしかしてハッサクさん脱いでたりしませんか、という疑問が頭に浮かんだのです。ちょっと気まずいと言うか。いやこっちがぎゅっと目を閉じてれば良いのかも知れないけど!!
『……あのね、紫音』
『はい』
『紫音だって、僕達を洗ってくれる時はハダカじゃないでしょ? 洗い終わった後のタオルを用意するだけで脱がないでしょ?』
『……そっか! 良かった!!』
そういえばそうだった! ハッサクさんも別に脱ぐ訳じゃ無い。ポケモン達を洗ってる間ずっと裸になってたら風邪引いちゃうからね! 当たり前の事なのに忘れてたぜ……。
『連れてきたよー』
『連れられて来ましたよ〜』
「はい、いらっしゃいませ」
そんな話をしながら、ラクシアに運搬されてシャワールームに到着いたしました。
扉の隙間に顔をねじ込んで、ラクシアがシャワールームの扉を開ける。一緒に到着を知らせると、ハッサクさんはにこやかに笑ってラクシアの背中から私をひょいっと持ち上げた。
「お迎えの際はまた呼びますから、ラクシアはリビングで待っていてくださいです」
『おっけー! 紫音、大人しく洗ってもらうんだよ!』
『くすぐったくても我慢します!』
そんな会話をしながら、閉まる扉の向こうのラクシアに手を振る。身体を洗ってもらう経験なんて、小さい子供の朧げな記憶しか無い。少しドキドキである。
「さぁ、シャワーを始めますよ」
『はぁい』
キュッ、と水栓をひねる音。その直後にパシャっと温水が頭にかかった。てっきり水だと思ったから、その温かさに少しビックリする。
「人の感覚がある君に、水のシャワーは慣れないでしょうから。違和感はありませんか?」
『無いです〜。はわぁ、あったか……、む?』
「……む。おやおや? 何やらもくもくしてきましたですよ!?」
『うわうわっ!? 何で煙〜!?』
お湯を浴びた身体から煙がもくもくと出てきた。ドライアイスが溶けるみたいに、シャワールームの床に煙が溜まっていく。
「にゃわ〜!?」
「なっ……」
ポフン! 軽快な音がして、視線がさっきより高くなった。それと同時に、床のタイルの感覚のお陰でいつもの自分の足が戻ってきた事が分かる。
「戻っ……」
「たおっ……、タオルを!!」
「うわっ」
戻った、と言うより先に頭からバサッとタオルが降ってきた。それはそうだ。何も装着していなかったハネッコから戻った今の私、服を着ていない!!
咄嗟に目をぎゅっとつぶって、タオルを投げてくれたハッサクさんの判断に助けられました……。
「ちゃんとタオルを身体に巻きましたかっ!?」
「くるまってます……。あの……、見ました?」
「…………」
一瞬だったとは思うんだけど……。こう……、裸を見られる心の準備とかそういうものがあると思うんです!! 目を逸らして黙り込んだハッサクさんを睨むと、罰が悪そうに白状した。
「一瞬見えました……」
「……お嫁に行けない!!」
「心配はいりません。小生以外の所へ行かせるつもりはありませんので」
そういう話ではないのです!! 私にも羞恥心というものが……、という文句を言おうとした私の目の前に、何故かハッサクさんのお顔がある。
「……へ」
「……っ、危ない。ここでキスしてしまうと止まらなくなる」
「何だか物騒な言葉が!」
キスされる所だったって事ですか!? タオル一枚でハッサクさんに挑むには防御力が不安過ぎる。踏み止まってくれて助かりました……。
「ふふ、気のせいです。さて、君は一度シャワールームを出て着替えを用意して来ると良いでしょう。その間に、小生は水を浴びます」
「水を、ですか?」
「そうです。……正直、濡れた身体に貼り付いたタオルもそそると考えている所ですので、頭を冷やしますです」
「……はっ、はい……。あ。た、タオル! ハッサクさんが使う新しいタオル置いときますね!!」
そう言うハッサクさんの視線がもはや痛い。狙われていると理解するには十分過ぎる。
とりあえず新しいタオルを用意して、大慌てでシャワールームを後にした。部屋に着替えを取りに行く為にリビングに入ると、ポケモン達が皆あんぐりと口を開けて驚いた顔になる。
「ごろろぁ!?」
「戻ったよ〜。同時に、ラクシアが何て言ってるか分かんなくなったぁ……」
ごろごろと鳴いて足元を走り回るラクシア。もうお喋りは出来そうにない。儚い夢だった……。
「お喋りは出来なくなったけど、皆を撫でたり抱き締められないってのも寂しいから、私はこれが一番良いのかも」
「ごろ?」
そう、これで良いんだ。一つ出来る様になった代わりに、二つ三つ出来なくなる事が増えるなんて割に合わない。一つ後悔があるとすれば……。
「ロトムに頼んで、写真いっぱい撮ってもらえば良かったなぁ」
写真も残っていないから、まさに夢の一日だったというワケだ。