ミーティア越境編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なんっ……。まぁええわ! とりあえず、紫音確保ー!! ロトム、アオキさんに電話……、ちゃう! アオキさんだけやない。皆に一斉送信!! 紫音確保したでー!!!」
フユウちゃんに羽交い締めにされた私は、ポケモンリーグ本部までやって参りました。空飛ぶタクシーで連行されるまでの間、ハッサクさんが仕事を辞めたと改めて聞かされて、何か知らないか聞かれたけど……。正直、私が話を聞きたい。
「ウチも軽く聞かされただけやねん。詳しい事は何にも……。紫音死亡説もあったし」
「死んでませんけど?」
勝手に殺さないで欲しい。……まぁでも、一日音信不通になってしまったのは反省します……。
「そんくらい心配したって事。皆に謝るんやで。……あ、着いたな」
タクシーのゴンドラが地面に降りる衝撃が伝わってきた。建物の入口には、アオキさんがいた。フユウちゃんから連絡を受けて……、という訳では無さそう。入口脇で何やら打ち合わせみたいな事をしている。
「……何これぇ……」
「おや、フユウさん。……紫音さんもご無事で」
「自動ドアどないしたん……?」
「風通しのいい職場って事……?」
普段は全面ガラス張りの建物なのに、その一部が窓枠しか残っていない。自動ドアどころか、昨日地震でもありましたか、ってレベルで前面の窓ガラスが割れてる。
いい感じの風が、そよそよと建物内のカーテンを揺らしていた。
「んはっ……!」
「……昨日トラブルがありまして。自動ドアは粉砕しました。怪我人も多いので、本日は最低限の人員を残してほぼ休業状態です。……自分も休みたかったのですが……、話の内容が内容なだけに……」
「何事ぉ……?」
窓ガラスがこんなに割れるトラブルとは……? 科学実験に失敗したとかじゃないとこんなに割れないんじゃないかな、分かんないけど。
「それはそれとして。皆さん会議室でお待ちです。自分もこの打ち合わせが終わり次第合流しますので、お二人は会議室へ」
「はぁい。ほな行こか」
「うぃっす」
アオキさんといったんお別れして、私とフユウさんは言われた通りの会議室の扉を叩いた。叩いた、とは言え扉は開いていたから、ノックして顔を覗かせると、部屋にいた全員が一斉にこっちを振り返る。
わぁ、初めてリーグに来た時を思い出すなぁ。オモダカさんの周りに、チリちゃんとポピーちゃん、あるじま君にジニア先生ゆうあ先生、そして校長先生までいる。
……それに加えて、ジュンサーさん。ワァオ、アニメで見た事あるジュンサーさんとはちょっとお姿違うけど、ジュンサーさんだって分かる。足元には……、あ、ガーディじゃなくてヘルガーが控えてる。カッコイイ〜!!
「……彼女が被害者ですか?」
「はい、間違いなく」
「紫音〜!」
「どぅえ」
「……ちょい待ち、足あるよな?」
「勝手に死んだ事になってる!?」
何と言う事でしょう。出会い頭に絞め落とされそうです。フユウちゃんの言ってた紫音死亡説、今実証されようとしています。
それはそれとして、ゴーストポケモンみたいに足が消えていないか確認されるのは心外である。
「殺さんといてぇ……」
「皆で心配したんだからね!」
「ごめんねゆうあ先生……、ちょっと苦しいかな……」
「死んだって言うより……、まぁ死亡確認出来なかっただけって言うべきか……」
「紫音死んでへんわ!!」
「ちゃんとハグできます! しんじゃイヤです!!」
「ポピーちゃん……、ちょっと内臓ねじり出そぉおお……」
上から、首を絞め落とす勢いで抱き着くゆうあ先生。お腹に巻き付くポピーちゃん。その二人をギュウギュウに抱き締めるチリちゃん、間に私を挟んで。このままでは圧縮されてしまいます。
「お三方、心配だったのは分かりますから落ち着いてください。紫音さんが今にも死にそうです」
校長先生の救いの手。無理やり引き剥がす訳でも無く、ポンポンと三人の肩を叩いて落ち着かせる。そのまま、ジュンサーさんが待つテーブル向かいの椅子に案内された。
「はっ。……んんっ、何はともあれ無事やったんやし、紫音に聞かなあかんことぎょーさんあんねん」
「ぎょーさん」
「ジュンサーさんに聞かれた事を素直に答えるんやで」
「はぁい」
私の肩をポンポン、と叩いたチリちゃんは、近くの空いている椅子に腰掛ける。ぐるっと周りを囲まれている。心配しなくても逃げないよ……。
「お聞きしたい事は主に二つです。まず、この建物を破壊したドラゴン使いに心当たりがあるか。そして、あなた自身が行方不明になっている間の行動履歴です」
「ほほぉ」
アオキさんが言っていたトラブルって、ドラゴン使い絡みなんだ。知っているかどうかは分からないけど、答えられる事は答えないと。
「ドラゴン使いの心当たりは、ハッサクさん……、四天王兼教師のハッサクさんと、後は昨日決闘したカラマさんだけです。手持ちにドラゴンタイプって意味なら、サワロ先生とか、チャンピオンのネモちゃんとかもいますけど……」
「ボーマンダを手持ちに入れているのは?」
私の狭いコミュニティの中でボーマンダを連れている人……、あ、いた。昨日のカラマさんだ。
「カラマさん……。ん〜? でもあの人、ボーマンダは預かり物って言ってたなぁ……。戦う為のポケモンじゃないとも言ってたし……」
「なるほど。オモダカさん」
「はい」
「カラマと言う名に聞き覚えはありますか?」
「昨日、私に面会を申し入れた後に騒ぎを起こした者の名です」
「同一人物であると確定しましたね」
カラマさん何やってるんだ……。偉そうな態度だったけど、勝つ為にそれなりに準備をして私を迎え討つ用意をしていたのに、負けてヤケを起こしたのかな……。
「紫音さんの話を聞くと、彼女のボーマンダは預かり物なのですね。彼女自身では制御出来ていなかったと聞いていますが、間違いありませんか?」
「破壊光線も、空に飛ぶんも、ボーマンダの判断やったで」
「ふむふむ……。しかし、人がいるにも関わらず破壊光線を放ち、建物に損害をもたらした責任はポケモンではなくトレーナーにあります。……例えそれが借り物のポケモンであったとしても」
「……嘆かわしい事です……。トレーナーの実力と見合わない強さを持つポケモンは、指示に従わないどころか、こんな事態を引き起こしてしまう……」
うーん……。オモダカさんの様子を見ると、この世界の法律では人のポケモンのやらかしは、それを防げなかったトレーナーの責任って事になるのかな……。その為のジムバッジ。それをもぎ取れる実力があるから、人から貰ったり預かったポケモンとの意思疎通も出来るってとりあえず認識したけど、落ち着いたらその辺りも勉強しなくちゃ。
それと同時に、ここは情状酌量を訴える場になると気付いた私は、慌ててカラマさんのフォローに回る。
「あっ! で、でもカラマさん、暴れ出したボーマンダを私達と反対方向に投げたり、危険だって教えてくれましたよ。頭が高いって」
「その言葉では、注意喚起の言葉として不適格と言わざるを得ません。紫音さんはその言葉を聞いて、行動を起こせましたか?」
「……控えおろうって事かーってツッコんでしまいましたね……」
頭が高い、控えおろうってセットで言うものだからね。あの時は鬼気迫っていたし、私一人でボケてもツッコむ人がいないのもあってははーっ、て土下座まではしなかったけど、その場のノリと勢いがあれば様式美として土下座までやります。
それはそれとして。あるじま君のお腹にダイレクトアタックを決めてしまいました。ちょっと申し訳無い。
「ぶふぁっ。……んんっ、紫音、昨日のバトルは決闘だったんだろ? 強さを示すのにボーマンダはちょうどいい。ドラゴンポケモンの最終進化、しかも厳つい顔だからな。普通はビビる」
「何その私が普通じゃないみたいな言い方」
「ビビったのか?」
「ううん、全然」
暴れた事には驚いたけど、怖くは無かったなぁ。ラクシアも外に出てたし、一人じゃなかったからかも知れないけど。
「そんな普通じゃない紫音に効かないとも知らずに強いポケモンを借りたはいいが、指示を聞かないから隠してた。筋は通ると思うぞ」
暴れ回って自分も危ないから、戦力に数えなかった。それなら最初から連れて来なけれよかったのに、って思うけど、まぁタクシーで空を飛ぶよりボーマンダで飛んだ方が早かったのかも。空を飛ぶ事を夢見て進化したくらいだから、空を飛ぶ指示は聞いてくれる、みたいな。
「それで、暴れたボーマンダはどうなった? 暴れた痕跡だけ残っとったで」
「ああ、カラマさんに勝って、ボールから飛び出して来たボーマンダが暴れ出して。お腹に頭突きされて空に打ち上げられてびゅーん、海にポイッ。しかし何とその時! ロトムがトドメの破壊光線から庇ってくれたのです! ……スマホから抜け出して助けてくれたから、ロトムの浮力を無くしたスマホは結果的に海の底に……」
「………………」
「あれ?」
返事が無い。ただの屍の様だ。
おかしい。ロトムの見せ場は気合い入れて語ったのに、皆の顔は屍って言うか凍り付いてるって言うか。最初に氷から開放されたのは、見た事の無い顔をしたフユウちゃんだった。
「……自分何で生きてんの?」
「ロトムが守ってくれた〜。命の恩人そのイチ。……ポケモンだから恩ポケ?」
「破壊光線の件やない! その前ェ! ボーマンダの頭突きを腹に受けた言うのに何でピンピンしてんねん!」
「はぶぇ!?」
「はーいバンザーイ」
「えっ!? 何で服脱がせようとしてるの!? ちょっ、ねぇ、男子いるんですけど!! アー!!」
コガネお姉さんに両方の脇腹をどつかれて、服を剥ぎ取られそうになった。慌てて丸くなって剥ぎ取りを逃れようとしたんだけど、緊急参戦したゆうあ先生がそれを許さない。
「ちゃんと病院行ったの!? 内臓傷付いてない!?」
ペロンと服を捲られて、三人掛かりで私のお腹を撫で回す。ちょっ、止めっ……、……今しれっとつまんだの誰ぇ!?
「くすぐった……、ちょ、止め……っ、んふははは!!」
「……専門やないから分からんけど、お腹の筋肉がちょっと縮んで硬くなっとるだけで他は健康的やな……」
「ひぃ〜! も、死……っ!!」
「皆さん、話はまだ終わっていませんよ。落ち着いてください」
「……あい……」
「ごめんなさい……」
「心配で……」
オモダカさんに一言叱られた皆は、座っていた椅子に戻っていく。もぞもぞと服を整えるついでに息も整えるまで一分。ようやく話が出来る程度には落ち着いてきた。
「ひは〜……。それで、陸に上がった私はクラスの皆とエイルちゃんに助けられて、無事に帰宅したと言うわけです! その時に……」
ルギアに助けられたんです、って言おうと思ったんだけど、どうやらそのタイミングでは無いみたい。皆難しい顔をしているので、ジャックのボールに伸ばしていた手をそっと膝の上に戻した。……今ルギアの話をしたら話が吹っ飛んでしまいそう、そのくらいの空気は読みます。
「あ〜……、その時にはもうボーマンダは見当たらなかったですね。現地にいなかったボタンちゃんも合流してたから、そこそこ時間経ってたのかも」
「連絡先、全部海の底だから誰とも連絡を取れず、紫音自身が機種変更どころか新規契約扱いで電話番号が変わったから誰からの連絡も届かなかったって訳か……」
「正直ね、ちょっともったいなぁって思うよ? ラクシア達の可愛い写真も、皆を撮った写真もいっぱいあったのに……。まぁ、それはこれから更新して行くから構わないんだけどね!」
え、でももうハネッコ時代のニャッコの写真が無いって事か……。そう考えるとダメージ大きいなぁ……。
しゅん……、と肩を落とした私に、ジニア先生が別の話を切り出した。
「ところで、ここから別の本題なんですけど……、ハッサク先生の不在は聞きましたかあ?」
「フカマル先輩から聞きました! 何やら数日家を空けるって。そしたらフユウちゃん会うなり違う事言うんですもん。ハッサクさんが仕事辞めるってそんなぁ」
「私達も困惑しています。ハッサクさんからは、お父様の体調が芳しくないので、一時的に帰郷すると直接連絡を貰ったのですが……。件のカラマさんは、仕事を辞めてパルデアは戻らぬと」
「アカデミーも同じ状況です。突然の事ですが数日空けるので、美術の授業とクラブ活動に関する指示を頂いていました。……こちらは言うだけ言うと、すぐに立ち去ったので、ポケモンが暴れると言った事もありませんでした」
「……へぇ……」
聞かされた話に、思わず口元が引き攣る。おっと、危ない。考え込むフリをして慌てて口元を隠した。
「ハッサクさんには、こちらから再三連絡を入れているのですが……。移動中なのか、時差のせいなのか返信は未だありません」
暴れたり、ハッサクさんの不在を狙ってこんな嘘を言うなんて。カラマさんそんな事する人には見えなかったけどなぁ。
言い方は難ありありではあったけど、一応ボーマンダを遠ざけようとしてた訳だし……。でもリーグで大暴れしたのも事実。
そして何より、ハッサクさん自身の説明と食い違う辞任騒動。天職だって言ってたアカデミーまで辞めるなんて。更に言うなら、四天王のハッサクに会いに来て欲しいって言ったのはハッサクさん自身なのに、約束を果たせないままだ。これはおかしい。
「……話の途中ですけど、やる事思い出したので私はこれで! では!!」
「あっ! こらっ、紫音ちゃん!!」
表情筋を意識的に動かした私は、にっこり笑って手を振った。これ以上ここにいたら、怖い顔になる。
ゆうあ先生の声を聞きながら会議室を飛び出した。
ダメだ、ダメ。ダメ。皆に怒ったってどうしようも無い。だって皆困ってる。私なら何か知ってるんじゃないかって思ってたのかも。でも、私も何も知らない。
……考えなきゃ。私はどうしたらいい? ハッサクさんは本当に辞めたのか。四天王としてのハッサクさんに会いに行く約束したのに? 先に言い出したのはハッサクさんなのに?
聞かなきゃ。どうしていなくなったのか。
行かなきゃ。ハッサクさんがいる場所に!
探さなきゃ。ハッサクさんがいる場所を!!
「……、……さん。……紫音さん」
「はっ。……あ、アオキさん! 皆まだ会議室にいますよ」
「いえ、そうではなく。……学生の内に"からげんき"を使うのはいかがなものかと」
「え〜? 紫音さん元気ですよ!」
あれこれ考えながら歩いていたら、業者さんとの打ち合わせが終わったアオキさんに声を掛けられた。会議室の方を指差すと、アオキさんは困った様に首を振る。
からげんきは良くない、なんて言われると言う事は、何か心配掛けるような様子だったと言うワケで……。一人になったから油断した。
むんっ、と力こぶを作って元気ですアピールをして、アオキさんの横をすり抜けようとした私の耳に、複数の足音が聞こえてきた。
「あっ、アオキさんナイス! 紫音捕まえとって!!」
「はあ。この場合、セクハラで訴えられませんか」
「今紫音逃がすとまた連絡取れへんなるから!」
「……なるほど。では失礼して」
「にゅわ! ちょ、アオキさん……、痛っ」
アオキさんは私の肩に手を置いて、ずずいっとチリちゃんとフユウちゃんの前に突き出す。キリリッと釣り上がった目が、怒っていますよと言っていた。
ひぃ〜、って思うのも束の間。ポケットからするりと飛び出して来たロトムが、私のほっぺたをスマホの角でぐりぐりしてくる。痛いと文句を言うと、ロトムがある画面を見せてきた。
「連絡先ノ登録ガアリマセン」
「……あっ!!」
ロトムに皆の連絡先登録するの忘れてるよ、と指摘されて一番の用事を思い出す。
怒って頭真っ白になってた……。ありがとうロトム……、また行方不明になる所だったよ。
「諸々のお話終わったら、連絡先まとめて登録するから。それまで大人しくしときぃ」
「あい……」
チリちゃんの小言と一緒に、デコピンまで貰った。反論のしようも無いので、大人しくそれを受け入れた私は素直に会議室へ戻ろうとした。
「……ん?」
そんな私の右腕をチリちゃんが、左腕はフユウちゃんが掴んでいるではありませんか。がっちりホールドされて、自分の意思では思った方向へ進めない。
「あの、お二人さん? 歩けないんですけど……、進めないって言うか……、ねぇ〜!!」
「はい、つべこべ言わんと歩きや!!」
「みーんな待っとるんやで! 紫音がおらんかったらお話進まへんねん!!」
「やだっ……、ヤダー! やらなきゃいけない事があるのは本当だもん!!」
「被害届出す為の書類作成とか、寮に入るかとかそう言う話を……。ちょっ、いい加減諦めんかいっ!!」
「被害届は本人が生きているので良し! セビエもフカマル先輩もいるし何より誰も住まなくなった家はすぐ傷むから寮に入りません!! はい、次の議題あればどうぞ!!」
「ここで終わらせようとすな!」
「……予防接種シーズンの病院でよく見る光景ですね……」
ジタバタしても効果が無い。足を突っ張っても、二人掛かりで腕を引っ張られてズルズルとさっきまでいた会議室の方へと戻っていく。
嫌だ! 私は!! 調べ物をするんだ!! 移動の為にお金も貯めないといけない!! 時間が無いんだっ!
「わあ、元気な抵抗ですねえ」
「やばい、敵側助っ人の気配」
「あまりにも時間が掛かっているので、迎えに来たんです」
「あ〜!!」
ふよわわ〜ん。リキキリンのサイコパワーで、足を突っ張るという抵抗を無効化されてしまった! そのままリキキリンの背中に乗せられて、会議室まで戻る事になったのだった……。