ミーティア越境編
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「待ちなさい、まだ話は……」
「これが全てだ! 話す事はもう無い。ハッサク様は、パルデアよりも我々の元に帰る事を選んだのだ!!」
総大将がおる部屋から、何やらドタバタと騒がしい音が聞こえる。何や、と思うて廊下に顔を出したチリちゃんと出会い頭に衝突した御仁は、そのまま走り去ってしもうた。
「何やもう……。謝りもせんと失礼なやっちゃなぁ……」
「チリ! ここで誰かとすれ違いませんでした!?」
「通ったと言うかぶつかってきた言うか……。まぁ、すれ違いましたね」
「確保に協力してください! 彼女、とんでもない事を言うのです」
「確保。物騒やなぁ。そんななる程とんでもない話って何です?」
「ハッサクさんが仕事を辞めると」
「──。……何て?」
「彼女、ハッサクさんが仕事を辞めると言ったのです。ハッサクさん本人からは、お父様の体調が芳しくないので一度帰省すると連絡を受けているのですが……」
「……了解。ちょーっと乱暴な事になってもええです?」
ハッサクさんが仕事辞めるワケあらへんと思ったわ。仮に辞めるって時にも、あの人退職代行なんて使わへんやろ。その辺り、キッチリしてそうやし。
そんなハッサクさんの言い分と、さっきの御仁の言葉が食い違っとるから、オモダカさんにハッサクさんお仕事辞めます〜なんて言いに来た御仁に詳しい話を聞きたいってなってると。
「おぅ、ちょーっと待ちぃな! 忘れもんやで!! ……ドオー、足元に泥かけたれ!!」
廊下を全力疾走して、リーグの出口前でようやくさっきの御仁の後ろ姿を捉えた。何やボール握っとる。空を飛ぶつもりだと判断して、力いっぱいにドオーが入ったボールを投げ付ける。届くかは賭けやったけど、絶妙な場所にドオーが着地した。
「ドォっ!!」
「くっ、滑っ……! きゃあ!!」
「手荒な事して堪忍なぁ? ウチの総大将が、自分ともうちょいお話したいそうやねん。……付き合うてくれるやろ?」
泥に足を取られて転んだ御仁を見下ろす。……あ、この人アレや。この前ド修羅場の時にノコノコリーグに来て、ハッサクさんに連れ出された人や。大将連れ戻し隊の一人やな。
「わ、わたしには行かなければならない所が……」
「そう冷たい事言わんといてや。ほら、手ぇ貸してやるから、お話する場所行こや」
「アカデミーに行かなければ……」
「……!!」
チリちゃんが手を差し出すと、連れ戻し隊員は首を振ってチリちゃんの手を払い除けた。ええ……、そんな冷たい対応されるなんて泣いてまうわ……。泣かんけど。
「ぼぁあ!!」
「ひゃう!?」
そんな今年考えとったら、転がした拍子に手から離れたボールからボーマンダが飛び出して来た。驚いている様子を見るに、隊員さんじゃなく、ボーマンダ自身の意思でボールから出てきたんやろ。せやけど、様子がおかしい。
転がしたチリちゃんから守る為やなく、隊員を威圧している様な雰囲気。明らかに力関係がトレーナーと手持ちポケモンのそれや無かった。
「……ここはバトルフィールドちゃうで。その資格も無しにポケモン出したらあかん」
「ボーマンダ、言う事聞いて、ください……!!」
「ボァンダー!!」
「……あかん! そこ、出口前退避!! 怪我するで!!」
隊員の制止を聞く事無く、ボーマンダの口元に熱源が集まり始めた。そんなまさか、人に向かって破壊光線なんて。……そのまさかの光景が目の前で始まった。
ほとばしる光線が自動ドアを粉砕する。……直接光線を受けた部分は溶けてしもうとる。
砕け散ったガラスを浴びた職員の悲鳴と、周囲の人間の怒号が飛び交う中、隊員の首根っこを咥えて、ボーマンダが飛び上がった。そのまま出口目掛けてひとっ飛び。かっ飛んで行くボーマンダの羽ばたきで、わずかに残ってたガラスが床に落ちた。……いやいやいや! 背中に乗せるんやなく口に咥えて空を飛ぶ手持ちポケモンおるかいな! 信頼関係どうなってんねん!!
「アホー! 自動ドア直すんもタダちゃうんやでー!! ああもう! ……自分ら、ケガしてへん!? 見えへん欠片刺さっとるかも知れん。痛みが無くても病院行きや。診断書貰うて来るの忘れんように!!」
「チリちゃーん! みちをあけてくださいですー!!」
「ポピー、あかんで! 今は……、のぁ!?」
「ごめんなさいですの! ポケモンちゃんがとおります!!」
砕けたガラスを浴びた面々を置いて追跡出来へん。まずは怪我人を救護して、無事なもんでガラスを片付けて……、なんて優先順位組み立ててたチリちゃんの後ろから、ポピーの声。
ガラスがあるから近付かない方がいい、と言い掛けたチリちゃんの目の前にアーマーガア! 咄嗟にしゃがみこんだチリちゃんの頭上を飛び越して、アーマーガアが空へと飛び立った。
「デカヌチャン! デカハンマー!!」
「ヌッ、チャー!!」
アーマーガアの背中にいたデカヌチャンが、そのハンマーをぶん投げる。殴り飛ばす岩が無いんなら、ハンマーを投げればええやないってか! 丹精込めて作ったハンマーそんな使い方してええんかい!!
「あー! とどきません!!」
「ハンマー落ちるで! ドオーがキャッチ……、しようにもおてて届かへん!!」
そもそも、落ちる速度に対してドオーが間に合わへん。あの重量のハンマーが落ちたら、小さなクレーター出来るんちゃうか?
「デカヌチャン! キャッチしてください!!」
アーマーガアの背中から大ジャンプしたデカヌチャンが、無事に空中でハンマーをキャッチした。ブーメランよろしくぐるんぐるん回ってるハンマーの勢いを上手く受け流して、滑り込んだアーマーガアの背中に着地。デカヌチャンのかぁいらしい見た目に反して、ドスン、なんて音が聞こえた気がした。
「オモダカちゃんからおねがいされたのに……」
「しゃーない。怪我した人も助けなあかんし……。ポピーのダイオウドウなら、怪我もせんとこのガラスをまとめられへんやろか?」
「おかませください!」
「おおきに! さすがポピーや。……せやけど、取り逃がしてしもたな……」
「仕方ありません。……ですが、こんな大事になるとは……」
「総大将!」
総大将がエントランスに降りてきた。エントランスの惨状を見渡して、困り果てた様にため息を吐く。……えろぅすんません……。
「怪我人はすぐに病院へ。タクシーを手配します。……チリ、あなたには別件をお願いします」
「追跡ですか? 何やあの御仁アカデミー行かな言うてましたけど……」
「いいえ。これ程の事態を招いたのです。彼女の件はジュンサーさんへ任せます。チリは、紫音さんの所在を調べて欲しいのです」
「ほぁ? 紫音の?」
「ハッサクさんが故郷絡みの何らかに巻き込まれているとして。こんな大事にする方々です。……紫音さんに危害を加えないとは言い切れません」
「…………! ちょーっと失礼しますわ」
紫音に危害が及ぶとは考えもせんかった。せやけど、ただの職場でこんな大暴れをするポケモンがおる。無理やり連れ戻そうとしてんのに、紫音がパルデアにおる限り確かにハッサクさんは向こうに帰らへんやろ。帰ったとしても、総大将がハッサクさんから聞いた通り一時帰宅止まりや。
せやけど、紫音も向こうに連れて行ってたら? 人質になっていたら? それを理由にハッサクさんが脅されていたら?
「バトルはそこそことは言え、本人アンポンタンな所あるからな……。ホイホイ釣られて誘拐なんて可能性もあるわ……。無事でおってくれやぁ……」
『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為掛かりません』
「…………。番号間違えたやろか……。ロトム、紫音の番号に繋いで欲しいんやけど……」
「ロト! ロトロトロト……。『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為掛かりません』」
チリちゃんが操作して繋がらず。ロトムに頼んでもっかい試しても繋がらず。……指先が冷たくなった。
繰り返される音声メッセージは、紫音のスマホと繋がらないと言っている。
「……も、もっかい! もう一回頼むわ。ちゃんと紫音の番号に……!」
「……チリ」
「オモダカさん、ちょーっと待っててな。だって、そんな訳あらへんやん。パルデアやで? 課外授業でパルデア全土を巡る生徒達の為にもって、ナッペ山のてっぺんでも電波切れへん様になってるパルデアで電波の届かへん場所なんてある訳ないやん! 嘘や。ちゃんと番号確認してもっかい!!」
「ろ、ロト……」
「電波が安定しない場所はあるのです。……例えばそう、エリアゼロ」
「……ほなアオキさんに、大穴に繋がるゲートが稼働したか見てもろて……」
「ゲートは稼働していません。動けば、私の元に警告が来ますから」
「……ほなエリアゼロちゃうな。……あ! 充電切れてしもたとか……」
「その可能性はありますが……、先程のボーマンダの様に空を飛ぶポケモンがいれば話は変わってくるのです。……彼女には、人を乗せて空を飛べる手持ちポケモンがいません。落とされてしまった場合、そのまま大穴に……」
総大将の話に添うように、チリちゃんの頭ん中で映像が浮かび上がった。ボーマンダに首根っこ掴まれた紫音が、大穴の上空で放り投げ出される映像が。
ジタバタしながら落ちていく紫音。唯一飛べるポケモンはニャッコやけれど、風に飛ばされるくらい軽いあの子が人間を支えて飛べるとは思えへん。その先にあるのは……。
「……落ちて、死んだ……?」
膝から力が抜けた。慌てて総大将とポピーが駆け寄って来たけども、それに応える余裕も無い。
「落ち着いてください。ですから、その可能性を潰す為に、アオキにエリアゼロ周りの監視カメラの確認をさせます。何も異変が無ければ、紫音さんは別の理由で電話に出られないのです」
「……早う言うてやぁ……」
そんな意地悪あらへんやろ……。お話の順番逆やで……、なんて文句言う元気も無い。
「充電切れの可能性も十分にあります。アオキが確認している間、チリは彼女の行方を知っている方がいないか探しましょう」
「ポピーもおてつだいします!」
「ガラスの片付けも終わった様ですし、ポピーは紫音さんの行方を聞いた人のお名前のメモをお願いします。会議室を使うと良いでしょう」
「おかませください! チリちゃん、いきますよっ」
「はぁい」
元気良く返事をしたポピーに手を引かれて、チリちゃんは総大将が使用許可を出した会議室で腰を落ち着かせた。
「ロトム、あるじまはんに電話して」
「ロト! ロトロトロト……」
クラスメイト、紫音と何かと仲がいいオトモダチ。そして紫音以外の通話履歴で一番上にある人物に電話を掛ける。……それ以上の意味があった事は否めへんけど、数回のコールの後に聞こえた声に少し安心した。
『おー。どうした?』
「……紫音知らへん? 今日どこそこ行くってぇ話聞いてない?」
『何だ急に……。……アイツの今日の予定は知らねぇけど、昨日わざマシンのレシピくれって言われたな』
「……そか……」
あるじまはんが知らへん。まぁ、そらそか。オトモダチやからって何でも話す訳や無いしな……。
『ワタッコ程じゃねぇけど、紫音もまあまあ気ままだからな……。アイツの行き先聞くなら、俺よりハッサクせんせだろ』
「そのハッサクさん絡みやねん……。電話繋がらへんねん……」
『……、分かった。アオイやネモにも聞いてみる。泣くなよ』
「泣いてへんっ……!」
『はいはい。何か分かったら連絡する。だから、そっちも何か分かったら教えるよーに』
泣いてへんのに。子供をあやすみたいな声を残して通話が終わった。心配そうにチリちゃんを見とるポピーに首を振ると、ポピーも肩を落としてあるじまはんの名前の横にバツ印を書いた。
フユウにも電話した。カイン先生にも電話した。二人とも口を揃えて『所在を聞くなら、自分ではなくハッサク先生では?』なんて言う。正直大将がおったらチリちゃんもそうする思うわ。
「出掛け先候補の二人が知らへんのかぁ〜。次……、ゆうあちゃん……」
先生ならまた別の角度からの情報を持っているんちゃうか。それがダメなら、それこそあるじまはん経由のアオイやネモからの情報を待つしか無い。
流石に四度目ともなれば、状況の説明もスムーズになる。ハッサクさんの不在を伝えて、紫音の所在を知らないか尋ねると、ゆうあちゃんから困惑の声が返ってきた。
『……紫音ちゃんなら、今日は北一番エリアに行ってるはずだよ』
「北一番エリア!? えらい遠出したなぁ」
『それがね……、決闘申し込まれたの』
「け……、決闘!? バトルやなくて?」
ファンタジーなドラマや映画でしか聞かへん様なワードが飛び出して来た。さすが紫音、本人がおらん時もおもろいのズルいわ。
『果たし状叩き付けられてたよ! ぶつかったのに弱い人には謝らない、なーんて言う人だった』
「果たし状ってそんな……っ、そんな事する人今の時代におるんや……」
笑いを堪えるせいで声が震える。せやけど、おかげで紫音の行き先は判明した。
決闘の開始時刻は正午やったらしいから、もうとっくにバトル終わってその辺さまよっとるかも。
「いや〜良かったわぁ。あのアンポンタン、スマホの充電もせんとそんな場所に行ったら迷子になっとるやろうし、探すついでに叱っておかな」
『でも、もう日が暮れるよ? さすがにエリア移動してるんじゃない?』
「日が暮れるなら余計にや。ゴーストにモテる体質、どのくらい改善したか分からへんし、ホンマにスマホの充電切れとるならタクシーも呼べへん。ポケモンセンターに行ければまだ可能性あるから、ジョーイさんに聞くだけやからすぐや」
ジョーイさんに頼んで、タクシー呼んで帰宅しとる可能性もある。そうなると、もう少し待っていればチリちゃんからの鬼の様な着信にひっくり返って、電話してくるかも知れん。
……もちろん、アオキさんから不穏な報告が無ければ、の話やけど。
『探すってなったら呼んでね! 人手は多い方がいいだろうし!』
「おおきに! ……はぁ〜、ポピー、やーっと紫音の行き先分かったで」
「きこえました! きたいちばんエリア、ですね。オモダカちゃんにおしらせしてきますの!」
「進展があった様ですね」
「オモダカちゃん!」
入るタイミング待っとったんか、ってくらいピッタリのタイミングで総大将が会議室に顔を出した。ポピーに手を引かれて、会議室の椅子に腰を下ろした総大将が持ってきてくれたんはええ報告やった。
「アオキからも報告が入りました。大穴の上空は、飛行ポケモンやタクシーがまれに通過するのみで、人を運べる様なポケモンはいなかったと」
「ほな単純にバッテリー切れやな。あのアンポンタン……、こんな大騒ぎに巻き込んだ罰として、向こうしばらく奢って貰わな割に合わへんわ」
「ふふ、そうですね」
「総大将、ちょーっと探して捕まえて来ますわ」
「ええ。ハッサクさんについて大事な話もありますし、連れてきてくださいね」
そう見送られて、タクシーを呼んだチリちゃんはすぐさま北一番エリアに飛ぶ。
もう暗くなる。街から離れた北一番エリアは、日が暮れるとお月さんの灯りしか無い。リーグ職員も見回りするとは言え、広いエリア全部に目が行き届く訳や無いし。
迷子になっとったら、いくらポケモンと一緒とは言え心細いやろ。
無事やと信じたくて、紫音が大穴に落とされていないって事実だけに縋りたかったんや。
*
*
「……見て、へん?」
「はい……。その写真の方はいらしてないですね……」
「……そか。おおきにな……」
北一番エリア周辺のポケモンセンター全て回って、収穫無し。移動しながら、紫音の姿を探してはみたがそちらも収穫無し。
日はもうとっぷり暮れて、半分に割れたお月さんも登り始めてる。だいぶ遅い時間になった。だってのに、紫音から折り返しの電話も無い。誰が電話しても電話繋がらへん。さすがにおかしい。
「と、言う訳でお集まりいただいたってワケやねん」
「ハネッコよろしく、どっかの木の枝に引っ掛かってんじゃないか?」
「……上は探してへんかったわぁ、……やなくて。こうなるともうジュンサーさん案件やない?」
「……ぐっ、正論……。せやからちゃんと呼んどるわ」
「ま、まあまあ! ほら、チリさんが心配しているのは、件のボーマンダが現在の紫音さん不在に関係しているか、ですよね? どちらに転んだとしても、呼び出された場所に行ってみるのは悪くないと思いますよお」
「何でジニアまで来てんの?」
「ええ〜。だって、ぼくが受け持っている生徒が行方不明になってるんですよお? そんな話を聞いたのに吉報を待っているだけなんて、ちょっと居心地が悪いじゃないですかあ」
紫音が呼び出された場所は、ゆうあちゃんが知ってた。ほな、そこに何らかの痕跡があるんちゃうかって話になって。
立会を頼んだジュンサーさんと、依頼した本人のチリちゃん。そして、手伝いを名乗り出てくれたゆうあちゃんと、くっついて来たジニア先生。そして話を聞いたあるじまはんとフユウまで来てくれた。
紫音、自分探したるって人こんなにおるんやで……。少ししんみりした所で、ゆうあちゃんが歩き出す。
「果たし状には、物見塔の側にある小島に来いって書いてありました」
「逃げ場の無い場所指定する辺り、ホンマに決闘って感じやな」
「そこでバトルしていて、被害者は何かトラブルに巻き込まれた可能性がある、と」
「そうです。今日リーグで暴れた御仁と、紫音に喧嘩売った御仁が同一人物やと分かればわざわざ出向く必要無かったんですけど……」
「ボーマンダ……。野生ではほぼ棲息していない上、ボーマンダまで育てられるトレーナーは多くありませんから……。ボーマンダの痕跡が見付かれば、同一人物の可能性が高くなりますが……、行ってみない事には分かりません」
現場を見ない事には分からへん、という事らしい。
暗い中ライトと月明かりを頼りに小島に辿り着くと、確かにそこにはバトルの痕跡が残っとった。
「ゆうあさん、この辺り照らしてください」
「はい」
「水場が近い事が幸いしました。足跡、しっかり残っています。パルデアでは見慣れない足跡。深さもそこまで深くない。小柄な四足歩行のポケモンでしょう」
「こっちにもあるで。……こっちは暴れた痕跡やけどな。この大きさ、ミニリュウハクリュウと違うな。ウロコも残って……。これ色違いミロカロスのウロコやないか!!」
「カロンか……。確定だな」
すっかり研究者の顔になった三人のお陰で、紫音は間違いなくここでバトルした事が証明された。それと同時に、紫音がカロンのウロコが剥がれる様な戦い方をするとは思えへん。暴れた理由は、すぐに見付かった。
「……ありました。ボーマンダの足跡です」
「……なるほど。カロンはドラゴンが嫌いや。急に知らんドラゴンポケモンが現れて、恐慌状態に陥って暴れたのかも」
「それで、肝心の紫音ちゃんは……?」
「分かりません……。ミズゴロウの足跡は、小島の奥に続いていますから……、どうやらこの辺りから走り出していますね……」
「先生、紫音本人の足跡は?」
「…………」
ラクシアが走ってるのに、トレーナーの紫音の足跡は無い。ほな、何でラクシアは走り出した? 向こうに何がある?
「ミズゴロウに並走する様な人の足跡はありません。……やや?」
ラクシアの足跡を辿り、小島の奥まった場所に歩みを進めた先生は、恐る恐る何かを拾い上げた。
「学生証です。……紫音さんの」
「…………」
泥に塗れた学生証。トレーナーカード等の身分証は落ちていないか辺りを捜索してみたけども、学生証の周りに何や道具が何個か散乱しとるだけで、それ以上の落とし物は見当たらなかった。
「……事件性ありとして捜査に入ります。ご協力、ありがとうございます」
「そん、な……! やっぱり止めなきゃいけなかったんだ……!」
崩れ落ちるゆうあちゃん。一日に二度も崩れ落ちる訳にはいかんと何とか踏み止まったけれど、チリちゃんかて今にも膝から崩れ落ちたい気持ちでいっぱいや。
「……ここからだと、大穴を目指すよりも……」
「…………」
「海に捨てた方が早いな」
ジニア先生の言葉が尻尾切りになった。ラクシアが向かったらしい方向に顔を向ける。……この先には冷たい北の海。あるじまはんの言う通り、そっちの方が遥かに早い。
泳げる水ポケモンがおるけれど、ラクシアの足跡がここにあって、カロンも外に出ていたと言う事は、紫音連れて泳げるポケモンおらへんちゃうか……?
「……ほらほら! ジュンサーさんに任せた事やし、うちらに出来る事はもう無いで! 帰っていいお知らせ待とうや。なっ?」
フユウに背中を擦られながら、ゆうあちゃんがフラフラと立ち上がる。もう日付が変わる頃。先生達は明日アカデミーで授業あるし、フユウもボックスの仕事がある。
確かに、チリちゃんらに出来る事は、もう何も無い。せやけど……。
「嫌や〜! 紫音にたらふく奢ってもらう約束したんや〜!! 約束破ったらハリーセン丸呑みしてもらうでアホー!!」
アホー!! アホー…… ……ホー……
チリちゃん渾身の呼び声は、周囲に虚しく響き渡るだけやった。