ミーティア越境編
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「──! 起きて───……!」
「───うちも……にいるべき…………」
「……、ごろごろっ……!」
何だろう。周りがすっごく賑やかだ。凄く寒いし、もうちょっと布団の中で寝てたいんだけど……。あと五時間くらい……。
「エイルちゃん、あんまり揺らしちゃ駄目。濡れて冷たい服は着替えさせた、呼吸も安定してきたし、メロコちゃんのポケモンのお陰で低体温は抜けた。……うん、きっともうすぐ起きてくれるよ。大丈夫……、だと思う……」
「ぽにゃ……。にゃあ!?」
つんつん。小さな手でほっぺたをつんつんされた……、かと思うと悲鳴を上げて飛んでいく音。ええ、誰だろう。
「しかし、ずっと声を掛けているのにいっこうに目覚めぬ……。未だにニャッコも悲鳴を上げる程の冷たさでござる。やはり一度病院に連れて行くべきでは?」
「あーもう。退いて。起こすってのはこうやるんだよ」
ニャッコ。ああ、ニャッコ無事だったんだ。良かったなぁ、エイルちゃんに回収してもらえたんだ。燃やされたから心配してたんだよ……。そう言おうと重い瞼を開けると、私の目の前に大きなモンスターボールが迫っていた。……ふぁっつ? 困惑の声を発する前に、私のおでこ目掛けてそれが迷い無くぶつけられる。
ゴッ!! とんでもなく鈍い音と共に、私は頭を押さえて転げ回った。
「くぁっ……!? ……んだ鍛冶町の角の乾物屋の勝栗買ったが固くて噛めない!!」
「……何て?」
「ほら、起きた」
「……いや、そいつオルティガがステッキ振り下ろす前に目が開いてたぞ」
「起きた事に変わりないからいいんだよ」
「いいのかなぁ……。まあ、とりあえず紫音君の目が覚めて良かったよ。ボタン君から連絡来た時は何事かと思ったけど、皆心配してたんだ」
「ほぁ……、ピーニャ君。……ここどこ?」
物理的に頭割られるかと思った……。ズキズキ痛むおでこをさすりながら体を起こすと、私の周りを支援学級の皆とエイルちゃん、ボタンちゃんが囲んでいた。その輪の中心に寝かされていたらしい私は、ふあふあの羽毛に背中を預けていた。
ピーニャ君の後ろでは、オルティガ君がメロコちゃんに羽交い締めされている。……なるほど、ステッキで起こされたのか。
「オレのアジト。チーム・ルクバーにようこそ」
「はぁ、お邪魔してます。……じゃなくてぇ! ニャッコいる、他のポケモンは!? 小島に落としてきちゃったポケモンは!? ……っつつ……」
「紫音、そのまま動かない方が良いよ。覚えてる? ボーマンダにふっ飛ばされたの」
「覚えてるぅ……。って言うか思い出した……、ロトムは……?」
「だいじょぶ、ロトムちゃんも皆もちゃんといるよ」
立ち上がろうとした私は、お腹の痛みに思わずうずくまる。どうしよう、凄くお腹痛い。
お腹を押さえて座り込んだ私の前に、ラクシアが飛び出してきた。その背中にニャッコ、カロンに連れられてモノズもいる。
「良かったぁ……。皆いるぅ……!」
「ロトムがスマホから出て紫音庇ってくれたんだよ。……まぁその代わり、ロトムの浮力が無くなったスマホは海の底だけど」
「ロトムぅ……! 何から何までありがとう……。生き残っただけで儲けものだよ」
もうロトムに足向けて眠れない。ロトムを拝んでいると、ロトムは照れた様にエイルちゃんの後ろに隠れてしまった。
「カロン落ち着かせるの大変だった……。紫音が二回もいなくなっちゃったから……」
「そうだよね……。ごめんねぇ……」
「ぽぉおお」
カロンは私の謝罪に対して、良い、許す。と言ってくれてるみたいだ。それでも、目を覚ました私の腕に尻尾をくるくると巻き付けてきた。
二度ある事は三度一致って言うし……。もういなくならないよ……、なんて言えない。とりあえず、私はカロンを先頭に手持ちポケモン達を抱き締めた。
私の身体がひんやりしているせいで、ニャッコとモノズが身震いしたけど。ごめん、冷たいの苦手だったね……。
「あの時、何があったか聞いていい? 私打ち上げられてからの状況さっぱりで……」
私にくっ付いたまま離れないポケモンを順番に撫で回しながら、あの場を目撃していた二人を見上げる。顔を見合わせたボタンちゃんとエイルちゃんは、険しいお顔をしていた。
「……うちは画面越しでしか見てないけど……。紫音がボーマンダに拐われてすぐ、北エリアに近い場所にアジト構えてるビワ姉とオルティガに連絡したんよ。特にオルティガ達は、ドラゴンタイプに有利なフェアリータイプが手持ちだし」
「うち、紫音がニャッコお願いって言ってる気がしたから、カイリューちゃんとニャッコ拾いに行ったよ。拾って紫音追い掛けようとしたら、カロン泣いてて……。紫音連れてくれば泣き止むって思ったんだけど、もうどっち行ったか分からなくなっちゃった。だから、ポケモンちゃん達に頼んで、紫音探すお手伝いしてもらおうと思ってた」
「そのドタバタの間に、決闘挑んできたカラマ……、だっけ? あの人血相変えてどっかに走ってった。スマホで妨害したんだけど限界だった……」
「お手数お掛けして……、いやホントにすんません」
もう土下座するしか無い。土下座しようとしたら、私から離れないぞと言わんばかりにカロンが余計にくっついて来た。もう身体に巻き付いてるので動けないですね……。今は口頭のみの謝罪で勘弁してください。
「それが現場の話。発見したのはオレのチームメイト達だよ」
「打ち上げられてた?」
「浜辺に降りてきた」
「降りてきた?」
あれ? ボーマンダの破壊光線受けた時は、完全に海の上だったはず。服は着替えさせてもらったみたいだけど、髪の毛も海水に濡れてベタベタしてるし、間違いなく海に落ちた。
スマホの安全装置もロトムの浮力あってこそらしいので、スマホパワーで地面に浜辺に降りた、なんて事も無いはず。それを踏まえて……、降りてきた?
「紫音が拐われたって聞かされた時は、何の話かと思ったさ。海の方角に飛んだって聞いたから探してやろうと思ったら……、空がピカッと光ってしばらくしたら、そいつが海から飛び出して来たんだよ」
「……ソイツ。どいつ?」
『俺』
「…………」
『………………』
オルティガ君が私の後ろを指差す。振り返ると、銀色の脚が見えた。……脚でっかいな……。
顔が見えないので、身体のラインに沿って視線を上に向ける。思っていたより大きい。もっと上、もう真上を見上げる形になって、ようやくその顔が見えた。
「……ルギアじゃん……」
何ということでしょう。背中が痛まないように敷いてあると思っていたふわふわのクッションは、ルギアのお腹だったのです。
『ジャックって呼べ。お前が決めたんだろ』
「ジャック。……ジャックぅ……。生きてたのかぁ……!!」
『生きてたのかぁ、って言うのは俺の方だからな?』
ルギア。ニックネームはジャック。
ラクシアと一緒に、プラチナをプレイしてた時に手持ちに入れてたポケモン。ズビっと鼻を啜ると、寒いと思ったのかジャックが羽毛を毛羽立たせた。伝説ポケモンの羽毛布団である。
「ジャックぅ……、何でここにいるの? ここパルデアだよ? ジョウトとどのくらい離れてるか分かんないけど、ひとまずパルデアに棲息してない事くらい分かるよ」
『お前が俺を呼んだんだろうよ』
そう言って翼を指みたいに器用に折り畳んで私の顔をドゥムドゥムするジャック。生意気な奴め。いや確か生意気な性格ではあったけど、サイズ差を考えて。顔面がめり込みそうなので止めてほしい。
それはそうと、ジャックを呼んだ? ……ヤケになって何か叫んだ気がする。奇跡的に、それを聞き届けてくれたらしい。うう、ロトムに助けられて、ジャックに助けられて、陸に戻ってからはこうして皆に助けてもらった。
「このご恩は必ず……、って言うかちょっと待って! 私ジャックと会話出来る! 私もエイルちゃんと同じ力を!?」
「いや、そのポケモン直接脳内に語り掛けてきてる」
「耳で鳴き声を拾うと同時に、頭の中に直接言葉が響く故、最初は我に突如として別人格が目覚めたのかと」
『まぁ、俺ってば凄ぇポケモンだし?』
「ドヤ顔」
ふふん、と胸を張るジャック。ただでさえ大きいジャックが胸を張るので、もう私の視点からは顔が見えないです。
そんな会話をしていると、ビワちゃんが真面目な顔で私のお腹に触れる。何か気になる事が……?
「ボーマンダに打ち上げられた……。うーん、紫音ちゃん。服を着替えさせた時に身体を確認したんだけどね、目に見える傷は無いの。だけど、相手がボーマンダだったなら話は別。内臓にダメージが無いか診てもらわなきゃ」
「ボーマンダ……。暴れん坊なポケモンだよね。そのポケモンに襲われて無事なのはホントにラッキーだと思うけど、僕も病院行った方がいいと思う」
「ああ、そっか。うん、そうする……。ハッサクさんに心配かけたくないし」
「スマホも新しいの買わんと。……くぅ、ホント確保出来てたら弁償案件なんだけど」
「身体動かすの大変なら、ここにドクター呼ぶけど」
「いや、検査機械が無いからここに呼んでもダメだろ」
「紫音、だいじょぶ? 動けそう?」
「否、斯様な時こそドクターヘリの出番では?」
うう、皆の心配が沁みる……。心配ないさと立ち上がろうとちょっとだけ頑張ってみて、さっきよりマシではあるけど痛くて思わず呻いた私に、皆ほぼ同時に同じ事を言った。
「紫音、もう動くな」
「はい……。……あ、そうだ。後でお金払うから、誰かボール恵んでくれないかな……。出来るならジャック再ゲットしたい……」
『もう勝手にいなくならねぇなら良いぜ』
「約束は出来ないけど。努力はするよ」
『……見張ってねぇと何処行くか分かんねぇからな! しょうがねぇから捕まってやるよ!!』
「うーん生意気」
軽口を叩ける元気はある。私とジャックのやり取りに、皆が顔を見合わせて笑う。
この時、私達はすっかり忘れていた。皆と解散した後、連絡先を綺麗さっぱり無くしてしまった私の所在を誰も把握出来ないと言う事を──。
何故なら、個人情報はキチッと管理される時代。紙にメモしておく、なんてしようにも人数が多い。
新しいスマホを手に入れたら、学校で連絡先を交換するって事になったんだけど……。そう、誰も私に連絡を取れないのである!!
その事実に気付いたのは、私が翌日フユウちゃんに確保されて、話を聞かされた時だった。
*
*
「つ、疲れた……」
病院に行って検査。ボーマンダにふっ飛ばされたと聞いたお医者さん達に顔色を変えて精密検査に回された私は、幸運なのか手加減されていたのか、それとも何かご加護があったのか、内臓には傷一つ無かった。
それでもお腹が痛いのは、衝撃から身を守ろうとした筋肉が縮んだ状態でキープされているからだとか何とか。正直、内臓へのダメージほとんど無いって事に安心してよく聞いてなかったです。ヨクナイネ!
それはそれとして、温めたりマッサージしたりのやり方を教えられて、痛み止めの薬を貰って、次はスマホの購入。
ロトムが気に入るスマホを見付けて、無事買う事が出来たまでは良かったんだけど、やっぱり元のスマホが無いとデータの引き継ぎは出来ないんだって。
マサラタウンより真っさらになってしまった私のスマホに入ったロトムと家に帰る頃には、ハッサクさんに伝えていた夕方時を超えてもうすっかり夜になってしまっていた。
「ただいま帰りましたぁ……。遅くなってすいません……」
「フカ」
「キュェエ……」
「あれ? 先輩とセビエだけ? ハッサクさんお出かけなう?」
リビングが明るいから、てっきりハッサクさんが首を長くして待ってるかなって思ったんだけど。実際リビングにいたのは、何やらオロオロしているセビエと、セビエを宥めているフカマル先輩だけだった。
私の姿を見るなり、足元に駆け寄ってきたセビエを抱っこして尋ねると、先輩がスマホを指差す。
「フカフカ。フルッフ!!」
「ロト? ロトロトロト……。"新シイメッセージハアリマセン"」
「フカ!?」
おお、さすが最新機種。懐まで痛めた甲斐があったぜ。でも、お陰で合成音声でロトムが文章を読み上げる事が出来るようになった。凄い!
でも、フカマル先輩に反応してメッセージの受信が無いか確認したと言う事は、たぶんハッサクさん私の海底スマホに何か伝言を送ったんだろう。……もう見れないけど。
「実はね、ちょっと大変な目に遭っちゃって……。ハッサクさんに買ってもらったスマホ、海の底なんだ……」
「フカー!!」
「ああごめん先輩! 事故だったんだよ〜!!」
フカマル先輩のはたく攻撃! 弁慶の泣き所をベシベシ叩かれている、ちょっと痛い。先輩が満足するまで甘んじて罰を受けた私は、そっぽを向いた先輩とセビエに話を聞いてみる事にした。
「ハッサクさんはお出掛けである?」
「フーカ」
首を振る。いいえ、と言う事の様だ。
「お仕事である?」
「フ、フーカ」
「ふむぅ……? そうなると……、何か用事が出来た?」
「フカフ」
「……今日中に帰ってこれる用事?」
「フーカ」
「うーん……、ジャック。詳しく通訳出来る?」
『…………』
ボールの中にいるジャックに声を掛ける。巨大なジャックを室内で出す訳にはいかないのでボール越しの会話になる訳だけど。ジャックから返事は無い。代わりに、文句を言うみたいにボールが大きく跳ねた。
「おお……、そんな事出来るんだ……。でもボールの中じゃ話出来ないのか……」
そこまで万能では無いらしい。いや喋ってるのかも知れないけど、ボールの中だと聞こえないのかも知れない。
出来ないなら仕方ない。分かってる部分だけでも現状の把握しなくちゃ。
えーっと、ハッサクさんに用事が出来た。しかし、今日中には帰ってこれない用事であるらしい。仕事では無いみたいなので、チリちゃん達に所在を聞いても分からないだろう。……ふむ、困った! 本当にとんでもない事になった!!
「う〜ん、ハッサクさんの連絡先も再登録したかったし、ジャックの事一番に聞いて欲しかったんだけどなぁ」
いないのなら仕方ない。
帰りをずっと待っててご飯も食べていないセビエとフカマル先輩のご飯を用意して、私の手持ちポケモンのご飯も用意する。とりあえずご飯を食べて、連絡先収集するついでに皆にジャックお披露目して驚いてもらうぞぉと決めた。
そして次の朝。
「タクシーのアプリは登録して……、目的地の座標はロトムが覚えててくれてるし、とりあえず確実に会える人から連絡先登録していかなきゃ……。チリちゃんとかフユウちゃん、いいリアクションしてくれそうだから、先に二人に会いに行くのもいいな!」
まず、出会える可能性が一番高いのはフユウちゃん。ボックスでお仕事しているところにジャックと一緒に登場したらどんな顔するだろう。いつもからかわれてるから、ちょっとくらい驚かせてもいいよね!
ウキウキでフユウちゃんのボックスまで歩いてやって来た私は、早速フユウちゃんがいるであろうご自宅のベルを鳴らした。
「フユウちゃんおっはよ〜!」
「何やずいぶん早くにどちらさ、ま────」
ベルを鳴らして挨拶をすると、フユウちゃんが少々不機嫌そうに顔を覗かせる。私の顔を見るなり、ガシャン、と手に持っていた仕事道具を落とした。
「あ、落ちたよ。だいじょうぶぇ!?」
ぱちーん! 両頬をフユウちゃんの手で挟まれた。むぇ、何事!? お化けでも見た様な顔で私をジロジロと見詰めたフユウちゃんは、家の中に大声で呼び掛けた。
「なんっ……。まぁええわ! とりあえず、紫音確保ー!! ロトム、アオキさんに電話……、ちゃう! アオキさんだけやない。皆に一斉送信!! 紫音確保したでー!!!」
「あえ? なにごほでふか?」
「なにごほでふか、ちゃうわ! こっちが聞きたいわ!!」
「ええ〜?」
「……その様子……。まさか、紫音も知らされとらんの? ハッサクさん、仕事辞めたって」
「…………ふぉっ?」
なにそれ知らない。誰が仕事辞めたって? ハッサクさんが、仕事を? そんなまさかぁ。……辞めないよね? え? どういう事?
状況が飲み込めずにフリーズしてしまった私。
顔色を変えたフユウちゃんに引き摺られて、私はそのままポケモンリーグ本部へとひとっ飛びする事になったのだった。