初恋騒乱編
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私は今、大きな問題にぶち当たっていた。
「ボタンちゃん、イケると思う?」
『何をもってイケると思った?』
ボタンちゃんと通話しながら、呼び出された池のほとりまでやって来たまでは良い。目的地の小島も見えてる。
しかし、その小島に渡る為の手段が無いのである! ……いやラクシアやカロンに手伝ってもらえば、一分どころか三十秒もかからず渡れるけど。着替え持ってきてないんだよ……。迂闊だったぜ……。
「今なら自由に空も飛べるはず」
『飛べるか』
「助走付けて飛ぶ」
『ここ数日の付き合いだけどさ……。紫音、結構なポンコツだよね? 確実に失敗してどろんこになるから止めな?』
「こふっ」
ボタンの正論! 紫音に効果はバツグンだ!
がっくりうなだれて、もう濡れる事を覚悟してラクシアに手伝ってもらおうとした私に、ボタンちゃんは呆れた様な声でアドバイスしてくれた。
『……スマホロトムの安全装置を使う。それならそこを中継地点にして、向こう岸に行けるんじゃない?』
「スマホにそんな機能あるの?」
『あるよ。ロトムが頑張ってくれる』
ボタンちゃんのプランはこうだ。
私がロトムを握り締めながら助走を付けて飛ぶ。着水する前に、ロトムが私を空中にキープ。振り子の原理で勢いを付けてもう一度飛ぶ。向こう岸に着地出来れば、濡れずに小島に降り立つ事が出来るって訳だ。
スマホ操作のアシストだけじゃなく、そんな事も出来るなんて……! ロトム、ホントに凄い。凄い時代になったものだなぁ。
「ロトム凄いねぇ。ちょっと手伝って欲しいんだけど……」
「ロト!」
「重かったらゴメンね! お礼にサンドイッチ一緒に食べようね!!」
「ロロトー!!」
いいよー、ってニュアンスのお返事を頂いたので、私は何度か屈伸して準備運動を始めた。よし、イケる気がする!!
「見よ! 私の勇姿!!」
『そこで勇姿使っちゃうんだ……』
「とぁーッ!!」
バトルで勇姿見せてくれるのはポケモン達なので
!! 紫音、行きまーす!
助走! 離陸!! ロトムのサポートを受けて一瞬浮遊した後に無事着地!!
「あっ」
小島のへりが苔むしてる! つるりと滑って背中から結局落ちると思った瞬間、持ったままだったスマホに思いっきり引っ張られる。ロトムのアシスト再び。お陰でずぶ濡れになる展開を回避する事が出来ました……。
「た、助かったぁ……。ありがとうロトムぅ……」
「ロトト……」
「ふん。無様な到着だが、逃げずにここまで来た事だけは褒めてやろう」
「はぁ、ども……」
仁王立ちして私を待ち構えていた人が、ふんっと鼻を鳴らす。この前果し状を叩き付けられた時も思ったけど、何でこんなに敵視されてるんだろう? バトルすれば何か分かるかな……。
「決闘ってくらいだから、お互い名乗ります? 雰囲気出るし」
「必要無い」
「えぇ〜!? じゃあ言い方変えよう、名乗ってください。こっちは訳も分からないまま呼び出されたんだから、そのくらいのリクエスト聞いてもらえますよね?」
「……良いだろう。ドラゴン使いのカラマ」
「ポケモントレーナーの紫音」
「一匹ずつ出し合ってのバトル、交代は無し。お前はミズゴロウを使え」
「ポケモン指定ありってマジすか。いや最初からラクシアに頼むつもりだったけど」
何なんだろう。コルサさんと言い、私を敵視してくる人とのバトルはポケモンの指定されるって流れが出来てる。まぁ良いけど。
「と言う訳で、ラクシア、お願い!!」
「ごろっ、ろー!!」
「行け! アップリュー!」
「プリャー!!」
おー、アップリューだ! ハッサクさんも連れてるアップリュー。草とドラゴンタイプの可愛いポケモン。ポケモンの指定してくるだけあって、ラクシアの水タイプに有利なタイプを出してきた。うん、そんな気はしたよ。念の為、皆に苦手なタイプに対抗出来る技を覚えてもらって正解だった。
「一撃で終わらせてやろう。アップリュー、タネ爆弾!!」
「ラクシア!」
「ごろっ!!」
水鉄砲を細く鋭く繰り出して、タネ爆弾を弾き返した。苦手なタイプだろうと、そんなの当たらなければ痛くも痒くも無いのだ!!
「ちっ。無駄な抵抗を……。ならばタネマシンガンだ!!」
「プッ……、リャリャリャリャ!!」
ぷくっとほっぺたを膨らませたアップリューの口から、凄い勢いで種が飛んでくる。撃ち返せない様に、数で攻める作戦にしたらしい。数こそ正義、その選択は正しいと思う。
「ラクシア、どろかけ!!」
どしゃっ、と泥を投げ付ける。数を取って威力が下がった分、泥でタネの勢いは弱められると思ったんだけど、そう上手くはいかない。代わりに、泥を突き破ってくるタネの散弾がはっきり見えるようになった。ラクシアのセンサーと視覚、両方で確認出来る攻撃なんて怖くない。身軽に避けたラクシアと目を合わせて、腕を叩いた私はもう一度どろかけの指示を出す。
「どろかけ!」
「バカめ。そんな攻撃が効くか! アップリュー、タネマシンガンだ!!」
「プリャア!?」
「なっ……、どうした!?」
「そぉれ、もう一回!」
「ごろろっ!!」
ばしゃっ、どしゃっ。見事アップリューの腕に命中した。もちろん、草とドラゴンに対するタイプ相性は理解してる。地面タイプ、アップリューにはあんまり効いていない事くらい分かる。目的は攻撃する事じゃありませんからね!
「ほぉら、降りておいで〜」
「プリャっ……! ププリャ!!」
「アップリュー! その羽ばたきで泥を落とせ!!」
軽いアップリューが、泥の重みで羽ばたきの速度が落ちてきた。翼を持ち上げる事が出来ないから、上から攻撃出来るというアドバンテージを維持出来ない。
「ラクシア、雪なだれ!!」
地面とすれすれの所まで落ちてきたアップリューの頭に、ラクシアの雪なだれが襲い掛かった。雪なだれ、用意するのに時間が掛かるから、使いどころが難しい技ではあるんだけど、念の為覚えておいてもらって良かった!
「ぷりゅう……」
「あ……、アップリュー!!」
「いえーいさすがラクシア!」
「ごろ〜!」
氷タイプの雪なだれは、アップリューには良く効いた事でしょう。
きゅう、と目を回したアップリューに駆け寄るカラマさんを横目に、ラクシアとハイタッチ! 震える手でアップリューを抱き上げたカラマさんは、涙目で私達を睨み付けた。
「小さい上に足場が悪い場所を用意したのに!! タイプの相性もこちらが有利なのに!!」
そんな気はしてた〜。池に囲まれてるから、どうしても足場がぬかるんでる。その為に、タイプ相性だけじゃなく、飛ぶ事が出来るアップリューを用意したんだろうなぁ。
「知らないの? ミズゴロウって元々沼地にいるポケモンだから、足場がちょっとぬかるんでるくらいの場所は絶好調になるんだよ? 勉強不足だったね。泥で翼を奪われた竜……。飛ばないリンゴはただのリンゴだ……」
「ロト、ロトト」
「え? どうしたのロトム」
キメ顔で名言をお借りした私の目の前に、ロトムが滑り込んできた。画面に何か表示されてる……。あ、ポケモン図鑑だ。
「カジッチュには飛ばない進化分岐もあるの? はぇ〜、ポケモン面白いねぇ」
飛ばないアップリューはただのタルップルだった。お詫びして訂正いたします。
知らないポケモンの進化、まだまだありそう。帰ったらまた頑張って勉強しなくちゃ。知りたい事はまだたくさんある。
「わたしはまだ負けてないっ! まだ戦えるポケモンがいる!! 背を向けるな! 逃げるな!!」
そう思ってたら、カラマさんがとんでもない事を言い出した。あれ……、一匹ずつのバトルってルールじゃなかった……?
「……え? でも、勝敗決まったよね?」
「決まってない! 見ろ! わたしにはまだポケモンが残っている!!」
「はぁ、まぁ、そうですね……?」
ずいっと突き出されたボールには、アップリューとは別のポケモンが入ってる。うん……、バトル出来る手持ちポケモンはいるね……。そして、腰にも一つボールが残ってる。
「いや、私は構わないんだけど……。お姉さん……、カラマさん、その理屈で言うと、手持ちポケモンの数でも私の方が多いんだよね……。決闘ってくらいだし、バトル出来るポケモンの数も同じにした方が……」
対する私は、場に出てるラクシアの他に、ニャッコ、カロン、モノズがまだボールにいる。しかも皆元気。
真剣勝負ならなおさら、数を合わせてバトルした方が良いと思ったんだけど、カラマさんは違ったらしい。
「わたしにもプライドがある! 全部倒されるまで諦めるものか!」
「う〜ん、執念。立会人ボタンちゃん、どう思う?」
『うーん……、何度も立ち上がってくる諦めの悪さ、うちは嫌いじゃない。紫音が良いなら、せっかくそこまで遠出したんだし、付き合ってあげても良いんじゃない?』
「おっけまる。よぉし、許可も出たしじゃあ再開しよっか。ラクシア、またお願い出来る?」
「ごろろぁ。ろぁ!」
任せて、とばかりに脚を踏み締めて応えたラクシア。どんなポケモンが出てくるんだろう、とワクワクしていた私は、繰り出されたタルップルをあっさり撃破してしまった。
「……何か、ごめん……?」
いやあの……。速さを活かすアップリューに対して、足場の悪さを気にしないどっしりした佇まいのタルップル。動かないならこっちから行くぞって事で雪なだれをしたら……、そのままばたんきゅうしてしまいまして……。
「……あ……? 負け……?」
「ラクシアは進化もしてないし、この小さくて可愛いボディに目を奪われたんですね……」
「真に強い者は、相手が誰だろうと油断しない……。身を持って理解しました……」
誰に言ってるんだろう。まぁ、油断が招いた劣勢ですからね。決闘を申し込んだ側が、自分に有利に運ぶ様にあれこれ仕込むってのも一つの作戦。その作戦を、カラマさんは自分の油断でパァにしちゃったんだ。ドンマイ。
そんなカラマさんも、さすがにもう油断しないでしょう。ラクシアはまだまだ元気だけど、実はここから一気にひっくり返される切り札を残してるのかも知れない。タイプ相性を考えたポケモンじゃなくて、カラマさんの本気ポケモンが。
「カラマさん、終わったって顔してるけど、もう一匹残ってるよね。私も、やる気持て余してる他の子に入れ替えて良い?」
アップリューもタルップルもドラゴンタイプだ。それに、風になびくマントとぴっちりボディスーツ。ジョウト地方の記憶の引き出しが開き始めていた。
あの服、フスベシティのジムリーダー、イブキの服に似てる。カラマさん、ドラゴン使いなんだ。
「私はモノズを出すよ。カラマさん、最後のポケモンは?」
「いや、このポケモンはバトルをする為に連れてきた訳では……」
ドラゴンにはドラゴンで。礼儀を通すつもりでモノズのボールを握った私に対して、カラマさんは慌てて残ったボールを背中に隠す。……ええ……、襲ったりしませんって。
「……そうなの? あ、もしや私のポケモンへの対策が間に合わなかった感じ?」
「わたしのポケモンではない」
「ああ、預かってるんだ。大事な預かってるポケモンをバトルに出す訳にはいかないもんね。……え、じゃあこれでホントに終わり? 私の勝ちでいいのかな?」
「……構わない。だが勘違いするな。わたしが弱いだけだ」
『そこは素直にお前は強いって言う所……。まぁいいや。お疲れ紫音』
「いえーい。勝ったついでにカラマさん」
「……何だ」
「何で私敵視してるの? どっかで会った事ある? 何かやらかした?」
「…………お前は悪くない。ただ、わたしにも立場というものがある」
「ん〜? 勝ったんだからちゃんと教えてよ。喧嘩売らなきゃいけない立場って何?」
「……負けてはいけなかったのだ!!」
「うわビックリした」
『急な大声止めろし』
ビックリしたなぁ。どうやらカラマさん、負けちゃいけない立場だったらしい。うーん、よく分からない。
「……うーん、あいまいなヒントだけ提示されてもなぁ……。分からないのは仕方ないからまぁいっか。とりあえず、お疲れ様でしたぁ」
今度こそ帰ろう。やる気に満ち溢れていたモノズの為に、道すがら野生のポケモンに相手してもらおう。ポケモンセンターに着く頃には、いい感じに発散出来てるはず。
「よぉし、もう一回大ジャンプ披露するとしますか!!」
助走足りるかなぁ、と思いながら、ロトムを握り締めて小島の中心へ歩く。うつむいたままのカラマさんの横を通り過ぎる時、それは起こった。
「あっ……」
「ほ?」
カラマさんの手から、ハイパーボールが転がり落ちた。預かりもの、って言ってたポケモンが入ったボールだ。
落としたよ、って拾い上げようとした私を突き飛ばしす。突然の事に顔からスライディングする事になった私のポケットから、皆が入ったボールがポロポロ零れ落ちた。さすがにこれはひどい。文句を言おうとカラマさんを振り返ると、慌ててハイパーボールを遠くへ放り投げている所で。
「投げた!? えっ、預かったポケモンなのでは!?」
言おうと思っていた文句も吹っ飛ぶこの衝撃。驚いていると、さらに驚きの言葉が飛んできた。
「頭が高い!!」
「控えおろうって!? なん──」
何で、と言葉を言い終わる前に体に何かが激突してきた。水色の何か。私の身体は、お腹に突き刺さったまま空へと舞い上がる。
「ひゅっ……」
「ひぅっ……、ああ……! 止めて! 止めてください!! 戻ってきて!!」
カラマさんの悲鳴が聞こえる。痛みで霞む目を凝らすと、私の身体を空へと打ち上げたのはボーマンダだと分かった。アップリュー、タルップルからの三匹目がボーマンダ。預かっているポケモンとは言え、あまりに大きさも力も違う。
「紫音! 今助けるからー!!」
「リュー!!」
「エイルちゃ……」
上空で応援してくれていたエイルちゃんが、カイリューの背中に乗って文字通りかっ飛んできた。でも、私とボーマンダの距離が近いせいで攻撃は出来ない。私を拾い上げようとしたエイルちゃんの手は、火炎放射の熱に驚いて引っ込められてしまった。
「ぐひぇ」
「ボァー!!」
結果、打ち上げた私を背中でキャッチしたボーマンダは、そのまま空を飛ぶ。うぇ、巨体がお腹にめり込んだせいで吐きそう……。
「こらー! 紫音返して!!」
「ぽにゃー! ぽぽにゃー!!」
「うーん……、デジャヴ……」
ポケモンに拐われて空を飛ぶ私。それを追い掛けるニャッコ。うーん、見覚えがあるぞ。この流れだと、ニャッコふっ飛ばされてエイルちゃんと一緒にいるカイリューに激突しそう。
エイルちゃんに気を付けて、って伝えたくても、吐き気を堪えるのに精一杯。ニャッコ……、私と出会った日の事件を覚えていておくれ……。近付き過ぎてはいけないのだ……。
「ボァンダァー!!!!」
「ぽにゃー!!」
「ニャッコー!!」
私の願い虚しく、火炎放射に焼かれたニャッコがふっ飛んだ。カイリューの顔に着地する、なんて事にはならなかったけど、燃やされて墜落していくニャッコを前に、カイリューの意識が一瞬ニャッコにも向けられる。
「ニャッコを……、皆を、お願い……」
距離のせいで、エイルちゃん達に私の声は届かない。落ちていくニャッコを指差して、拝むポーズを繰り返すと、しばらく迷ったエイルちゃんは大慌てでカイリューとニャッコの回収に行ってくれた。
さっきの場所には、皆置いてきてしまった。カラマさんのポケモンは皆戦闘不能になってるけど、何があるか分からない。
「げほっ……。ところで、君はどこに行くんだね?」
ボーマンダに問い掛けても、もちろん返事は無い。
崖を超えて、海が見えてきた。パルデア地方の海。ハッコウシティも海辺の街だったけど、あんなきらびやかな雰囲気は無い。北の海、冷たい海だ。
「……いや、まさかとは思いますけど……」
カラマさん、負けてはいけないって言ってましたね。
負けたらカラマさんがお仕置きされるって事ではなく……、決闘相手を無かった事にするって可能性ありませんか、これ。
「いやいやいやいや……」
「ロト……!」
あり得ない可能性が頭に浮かんで、思わず首を振る。そんな私に、そっと救いの手が差し伸べられた。そう、スマホロトム!!
こそっと存在を思い出させてくれたロトム。安全装置で、高い所から落ちても大丈夫だってボタンちゃん言ってた! ロトムが頑張ってくれるって!!
「……! ロトム……、助けてくれるの?」
「ロト!」
「くぅっ……。でもこのままどこかに連れ去られるよりはマシだよね! 行こう、ロトム!!」
覚悟を決めた私が、ロトムと一緒にボーマンダの背中から飛び降りる。足元には海! あっ、冷たい海で着衣水泳出来るかな。
「ボァンダ! ガァアア!!」
「ひぃえ〜!」
逃走に気付いたボーマンダが、私達目掛けて突進してくる。口元に光源。……あれ、もしや破壊光線では!? 人に向けて破壊光線。あんな事するのワタルだけじゃなかったんかーい!!
「本日は絶好のお天気死ぬには最悪のお日柄!! ……って言うか死ねるかー! 海にいるんだったら私を助けてジャックー!!」
ジョウト地方の海にいたルギアを呼ぶ。海は繋がっているとは言え、パルデア地方とジョウト地方がどれくらい離れているかなんて分からない。でも、もしもの可能性に賭けて精一杯の声で叫ぶ。
しかし、何も起こらない。迫り来る光に飲み込まれて、私はロトムと一緒に海に叩き付けられた。
その後、私の行方を知る者は、誰もいなかった──。