ハッサクさん夢短編集
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『……っ、ドラゴ──────ンッ!!』
「……うわわぁ!?」
ある日の朝。聞いた事の無い悲鳴が家を揺らした。
聞いた事の無い声量。聞いた事の無い声。でも、その悲鳴は間違いなくハッサクさんの悲鳴だって分かった。
そんな悲鳴上げられたら、朝が苦手な私だってさすがに目が覚める。飛び起きた私は、髪の毛を適当に結んで大慌てでハッサクさんの寝室の扉を叩いた。
「ど、どうしましたハッサクさん!!」
『あああ紫音! 助けてくださいです!!』
「い、今開けますね!」
ハッサクさんが助けを求める程の事態とは。相当やばい事が起きているんだろう。私に何か出来るとは思えないけど、そんな切羽詰まった声を上げられて放っておける訳も無い。
覚悟を決めて扉を開けると、そこにはハッサクさんのパジャマを着た金髪の見知らぬお姉様がいた。
……ほわっつ? どちら様? 紫音、困惑。
扉を開けたまま、お姉様としばし見つめ合う。うーん、間違いなく昨日ハッサクさんが寝る前に着てたパジャマ。
さっきの悲鳴の事もあるし……。もしかして、ちょっと袖や裾が余るくらい一回り小さくなったハッサクさん……?
「……ハッサクさん……?」
「小生です……。朝起きたら、こんな事に……」
困り果てた表情で床に座り込んで、自分を抱き締めて涙目になってる。自分を抱き締めているせいで、普段のハッサクさんには無いたわわが強調されてしまっている訳ですが。そんな悩ましいポーズで上目遣いされたら、可愛いって思ってしまっても仕方ないと思うんですよね。
「うっわ可愛い」
だから、思った事をポロッと言ってしまった私は悪くないと思うんです。エロ可愛いって言わなかっただけ偉いと思うんですが、ハッサクさんは傷付いた顔をした。
「紫音!? 何を言って……?」
「ハッ! な、何があったんですか!?」
「取り繕わないでくださいです……。しっかり可愛いと聞こえましたですよ……」
「おっと本音が」
「……それに、元々歳を重ねた小生が女性になったからと言って、可愛いなんて評される訳がありませんです……」
「……分かってない! ハッサクさんは分かってなぁ〜いっ!!」
「……!?」
私の声に驚いたのか、ビクッと体を震わせたハッサクさんの肩を掴む。うわぁ、華奢になってる! 単に胸が大きくなっただけじゃなく、骨格まで女性の物になってるぅ!!
「……いいですか、ハッサクさん」
「……は、はい……」
「大人の女性が、少女みたいに涙目になって震えているというギャップ! 少なくとも私はめっちゃ好きです!!」
「……わ、分かりませんです……」
「困惑した顔もいい! もっと見せてください!!」
「い、嫌です……! ……しょ、小生の話より、君はどうです? 何か変わった事はありませんですか!?」
「ハンドル急旋回。……うーん、変わった所は無いですね……」
ペタペタと自分の体を触って確認する。胸も相変わらず。喉に触っても、喉仏は無い。……まぁ、声が低くなった自覚も無かったし……。本当にハッサクさんだけ性転換してしまったみたいだ。
「良かったです……」
「よくはないですよ。……ハッサクさん」
「はい?」
「……なんっで私よりデカイんですかぁ!!」
「ひゃあ!?」
胸に手を伸ばしてハッサクさんのたわわを持ち上げた。
……重っ! パジャマ越しでも分かる。私の手のひらから溢れるほどデカい。……これ、もしかしたらDどころかE……、下手したらFもあり得る。
「……このサイズ……、大きい人は重力に負けて垂れてくるとか聞いた事あるけど、今日性転換したばっかりだから形を保っていられるのか……、それとも元からハッサクさん体鍛えてるからこの胸をキープできる筋力があったのか……」
「あ、あの、紫音……。そんなに揉まないでくださ……、ひぁんっ……」
「……デカくて感度も良好って反則では?」
「し、知りませんです!!」
えっち過ぎませんか。
知りません、ってそっぽを向いたハッサクさんは、恥ずかしさのせいか耳まで真っ赤になってる。えーっ! かーわーいーいー!!
「にはは、よいではないか〜!」
「紫音、少々人が変わっていませんか!?」
「気のせいですよ!」
普段いい様にされてるから、ちょっとやり返してるだけですって! ……言わないけど。
そんな事をしていると、ハッサクさんのたわわ圧に負けた不意にパジャマが弾けた。それはもう、胸の部分がパーンっ、と。
「……えっ」
私の耳ギリギリの所を、圧に負けたボタンが飛んでいった。ヒュン、と凄い音を立てながら。
恐る恐る後ろを振り返ると、ボタンが扉に刺さっていた。ボタンは凶弾にもなり得る。役に立たない教訓を得た私は、無言でハッサクさんの零れそうなたわわを隠すためにパジャマを押さえた。
「……とりあえず、伸縮性のある服あります?」
「ニットが……」
「ニットか……。それ一枚だとちょっとなぁ……。一応シャツを下に……、パツパツになりそうだな……。胸を潰せば……」
「重ね着は暑くありませんですか?」
「暑いとは思いますけど……。感度良好のハッサクさんがニットだけだとたぶんとても……、いや絶対ツラいと思います」
「……?」
「……ものは試し! 実感してもらいましょう! クローゼット開けますよ。ニットどこですか?」
「ああ、はい。季節物なので、今は奥まった所に……」
ハッサクさんに言われるがまま、ニットを探し当てた私は、引っ張り出したそれをハッサクさんに渡す。
着替えが終わったら部屋から出てきてください、と言い残した私は、大急ぎで自分の部屋に走った。たぶん、絶対、間違いなく。ハッサクさんはニット生地に胸が擦れてとんでもない事になる。
完全に潰せなくても、とりあえず擦れなきゃオッケー判定にしよう……! 家にある物……、私のシャツを使って、ハッサクさんの胸ガードを用意しなきゃ!!
『き、着替え終わりましたです……』
一人でそんなドタバタをしていると、ハッサクさんが控え目に声を上げた。着替え終わったと言うけど、部屋から出て来ない。呼ばれて扉を開けると、ハッサクさんは微妙な顔でニットが胸に触れないように服を引っ張っている。
「……あー……、やっぱり……」
「…………胸の尖りが擦れて、くすぐったいと言いますか……、意思に反して更に触れる面積が増していくと言いますか……」
「ほぁ〜」
うーん、言い回しの人妻感すごぉい。
「うーん、言い回しの人妻感すごぉい」
「……紫音……、君が人妻になれと言うのなら小生は……」
「……はっ! まっ、待ってください! 誰の人妻になるって言うんですか!!」
「……逆に聞きますが、君以外に誰がいると言うのです?」
「ハッサクさんが……、私の奥さんに……!?」
その時、私の脳内にあるビジョンが浮かび上がった。
疲れて帰宅した私を迎えるハッサクさん……。普通のシャツでもいいけど、エプロンしてるのもいいかもしれない。そのハッサクさんがこう言うのです。
『ご飯にしますですか? お風呂にします? それとも……、しょ、う、せ、い?』
もうそんなの一択しか無いよね!!
「ハッサクさんで!!」
「……君が何やら一人で思考を完結させた事は分かりましたです」
呆れた顔で後ずさりされた。しょうもない事を考えた事は認めますが、それはそれ。ドン引きしないでください。
「…………んんっ! とりあえずですね。予想通り胸が擦れて大変な思いしているハッサクさんに、これを使います」
「それは……。君のシャツではないですか!」
本当はブラジャーがいいんですけどね……。私のはサイズが違いすぎるのでダメです。溢れてしまいます。
「これを使って、ちょっと胸を潰します。苦しいけど、胸を揺れない様にすれば服が擦れて嫌な感覚からは逃げられるはずです」
「……なるほど……。詳しいですね?」
「こすぷっ……、んんっ、コンテストの時の衣装で男装する時があってそれで自分でも胸を潰す時があったんですその応用です!!」
「コンテストの応用とは! 本当に君がいてくれて良かったです……!」
あっぶなーい! なんちゃってコスプレしてたって言う所だった……。まぁ、こうやって役に立つからやってて良かったオタク趣味って事で!
「という訳で! ハッサクさんは、このシャツを胸に当てて動かないように固定しててください」
「……着るのではなく?」
「着ません。巻きます」
「巻く……!?」
「背中に回して……、うわ女体化ハッサクさん細いな……。このシャツなら前で結べそう……」
シャツを一周させて潰した胸の下で結べば、結び目もそんなに目立たない。綺麗な形だったたわわを潰すのは心苦しかったけど、服に擦れる違和感は、今のハッサクさんには辛すぎると思う。こうするしか無かった。
ぎゅむっ、と固く結ぶと、ハッサクさんがちょっと苦しそうに身動ぎする。その時漏れた吐息がまたエロい。うーん、やっぱり人妻では?
「んっ……、紫音、苦しいです……」
「動く度に胸が服で擦れるのがいいか、苦しいのがいいか選んでください」
「……どちらも嫌です……」
「擦れ続けると血が出ますけど」
「出血……!? 嫌ですっ……、こんな所を怪我するなんて恥ずかしくて……!!」
「……もしかして合法的にぱふぱふできたのでは……?」
「ぱふぱふ……?」
「あっぶない何でもないでーす! はい、では苦しいの我慢してくださいね〜」
「うぅっ……」
「大丈夫、私だってハッサクさん守るくらい出来ます! 任せてください!!」
「助かりますです……。小生一人ではどうなっていたか……っ」
しくしく、と言うよりよよよ……、って感じで涙を拭うハッサクさん。可愛すぎる……。とりあえず抱き締めて頭を撫でてあげると、ハッサクさんもぎゅっと私に抱き着いてきた。
*
*
「にへへ……、ぱふぱふ……」
いったい何の夢を見ているのか。紫音はにんまりと笑いながら眠っている。彼女の事だ。ポケモンに囲まれている幸せな夢でも見ているのだろう。
そう思っていたのだが、紫音は予想だにしない事を寝言で呟いた。
「ハッサクさん……、守るくらい、できう……」
「…………」
むにゃむにゃ、と不明瞭になっていく言葉に、小生は驚きのあまり睡魔がしばし消え失せる。彼女の夢の中のでは、小生は守るべき存在になっている様だ。
それはそれは、心強い。どうやら、小生が知らぬ間に随分可愛らしいナイトが付いていたらしい。
小さく笑って、小生は紫音の肩まで布団を掛け直して自分も隣に潜り込む。
「おやすみ。小生のナイト殿」
「ん……」
寝息で返事を寄越した紫音は、相変わらず幸せそうな顔で眠っていた。