初恋騒乱編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よーし、ラクシアとハッサクさんが帰ってきたらすぐに休める様に、ご飯をバチッと用意するぞー!」
『おー!』
紫音の掛け声に、家にいた全員が返事をする。
お留守番をしていたセビエとフカマル先輩。
慣れないキッチンで料理をしようと、材料をたくさん買い込んできた紫音。
調味料の置き場所を教えてくれるドラミドロ。それを取り出す役目は自分。そして、味見と応援係のカロンとモノズ。
「皆疲れてるだろうから、スタミナが付くような料理を作りたいと思います!」
『紫音がハッサクのご飯を用意してる間に、わたし達は数が多いからポケモンのご飯を用意した方が良いんじゃない?』
腕を振って気合を入れる紫音を横目に、カロンは流れる様に自分達の食器が仕舞ってある棚を開けた。
確かに、ハッサクのドラゴン達は食べる量も多い。紫音一人でぜーんぶ用意するのは大変。大変なんだけど……。
『真っ先にセグレイブの器を用意するのか……』
『……違……っ、あのドラゴンの分だけじゃないでしょ!?』
自分達を挟んでカロンと反対側にいたドラミドロが、やれやれと大きなため息を吐いた。威嚇するみたいに尻尾をゆらゆらと揺らしたカロンの反論は、自分達全員の視線の先にある器を前にして砕け散る。
『……そう言うけどな、カロン』
『……何よ』
『ラクシアの器が入ってる棚じゃないんだなって辺りがもう……』
自分達でも器を取り出せる様に、仕舞ってある戸棚の場所は自分達の大きさで決まってる。
紫音の手持ちの中でもちっちゃいラクシアは、一番下の扉。そして、ハッサクの手持ちでもおっきいセグレイブは一番上の扉。
『よーし、カロンが言うからセグレイブのご飯から用意しよー』
尻尾で扉を開けたまま凍ったカロンを横目に、自分がセグレイブの食器を引っ張り出した。よいしょ……。あー、重いー。
『ぐにゃー』
『ニャッコが重みで落ちるぞ』
『カロン、そっち行っていい!? 兄ちゃんのお皿割れちゃう!!』
『えっ、あ、でもセビエが走っても間に合わな……』
『うおりゃっ!』
先輩が自分と床の隙間に転がり込んできた。お陰で器は割れずに済んだけど、別の所に被害が発生していた。
『ああー! ざりってしたー』
『ワハハ! さめ肌だからな!!』
『いたっ! えっ、何!?』
『あわっ、モノズ落ち着いて! 痛いの痛いの……、あっち行けー!』
先輩が自分とぶつかった時、先輩のザリザリしたお肌が自分の手に傷を作ったのがまず一つ目。割れずに済んだ器がころころ転がって、モノズの前脚と衝突事故を起こしたのが二つ目。
『紫音ー、ケガしたー』
「……わ、どしたのニャッ……、どうしたのニャッコ!?」
『紫音! モノズ泣いちゃった! どうしよう!!』
「セビエもどうし……」
『わぁーん! 何かぶつかったぁー!』
「ぐひぇ」
紫音にケガした、って言いに行ったら、セビエも紫音の足をくいくいと引っ張る。
足場に上がってお料理していた紫音は、自分のケガを見て驚いて、泣いているモノズにまた驚いた。その声を頼りに、床に降りてしゃがみこんだ紫音のお腹にモノズの頭が刺さったのが三つ目の事故。わぁ、紫音も痛そう。ジンダイなヒガイだー。
「モノズ、お皿がぶつかってきたんだね。急にぶつかったらびっくりするよね分かるよ……。もう怖くないでしよ? ニャッコは傷薬シュッてしよう。はい治ったー」
痛くて変な顔をしながら、紫音はお料理を中断して自分達のフォローに回る。
モノズも、相手が分かれば怖くない。セビエと一緒にセグレイブの器をいつもの場所に持っていくのを確認して、紫音は自分のすり傷に傷薬を吹き掛けた。ちょっと滲みたけど、お薬のお陰でもう痛くない。
残るフォローは、落ち込んでるカロンだけ。
『…………こんなはずじゃ……、無かったのだけど……』
『紫音ー、カロンへこんだー』
「おうおう、元気になったねニャッコ。でも火を使うからあんまり私の近くを飛ぶと危な……、何故か傷心のカロン!!」
カロンの方に意識を向けてもらうと、紫音はまた驚いた声を上げて駆け寄って行く。ケガしてないか確認する紫音は、カロンが戸棚の前で落ち込んでいる事と、器が転がった事を結び付けて答えを出した。
「ピタゴラスイッチの起点ここかぁ……。うん、ラクシア達はたくさん仕事して、お腹空かせて帰ってくるもんね。一人で皆の分のご飯用意するの大変だから、手伝ってくれると助かる!」
『……わたしのせいでニャッコも怪我をしたし……、紫音もお腹痛いでしょう?』
「カロンが気が付いてくれて助かったよ。皆で協力して、ご飯用意しちゃおう! ……ドラミドロも一緒に用意出来そう?」
カロンに気を使って、離れた場所にいるドラミドロ。彼を振り返った紫音の言葉に、カロンは迷う様に尻尾を振る。
『扉の開け閉めはカロンの方が得意だろう。取り出す役目は先輩が担う。自分は先輩を高所に運ぼう。それならば接近するのも最低限では?』
『……そうね。皆もいるし、わたし頑張ってみる……』
「頑張れる? 無理そうなら助けてって言ってね!」
『限界が来る前に尻尾でふっ飛ばしてあげるから大丈夫よ』
『……調度品が壊れるから、それは緊急手段にしてくれ……』
頷いたカロンに、紫音は安心した顔になった。でも、残念ながらカロンの返事は紫音には伝わってない。
ふよふよと飛べるって言っても、ドラミドロは結構大きい。カロンの尻尾でふっ飛ばされたら……、うーん、ガラス割れそう。大変だなあ。
「よーし! では改めて、行動開始!!」
そうならない様に、自分もちゃんとお仕事頑張ろうと思いますー。
*
*
『紫音ただいまぁー! 僕頑張ったよー!!』
いつもより遅い時間になって、やっとハッサクが帰ってきた。ハッサクの肩から飛び出して、まっしぐらに飛びかかってきたラクシアを顔で受け止めて、紫音はラクシアを抱き締める。
「ラクシア! お帰りお疲れ様ケガしてない!?」
『だいじょぶー。でも今苦しいかな……』
「ただいま戻りましたですよ。紫音、ラクシアが苦しそうです」
「おっ……、あっ、ごめんラクシア……。よし、おかえりなさい! ハッサクさんケガは!? どこか痛い所無いですか!?」
ぎゅむぎゅむと抱き締めていたラクシアを肩に乗せて、紫音はハッサクに駆け寄った。怪我が無いかペタペタと身体を触って確認する紫音の様子に、疲れた顔してたハッサクもちょっと笑ってる。
「無論、ポケモン達も大きな怪我無く帰宅ですよ。強いて言うならば、今日の事後処理に頭が痛い程度です」
「何か手伝える事あったら何でも言ってくださいね!!」
『ラクシアー。ご飯できてるー』
『えっ!? ホント!? やった、僕お腹空いてたんだー!』
『ぐにゃあ、踏んづけたー』
自分の頭を踏んづけて、ラクシアご飯にまっしぐら。すっごくお腹空いてたみたいで、いつもよりたくさん入ったご飯を見て尻尾を振ってる。
『食べていい!? 食べるね!!』
『あー、待ってー。ハッサクのポケモンもそっち行くー』
「……む? ニャッコ、どなたかに用事ですか?」
「ご飯もバッチリ用意してるので、ハッサクさんは手を洗って着替えて来てください! その間に仕上げしときますから!!」
『じゃあ自分が皆連れてくー』
紫音に背中を押されて、手を洗う為にリビングに行く前に寄り道しているハッサクの荷物から、モンスターボールを取り出した。でも、自分の手じゃ全部持ち切れない。あー、誰か落ちるー。
『ごめんー。誰か落ちたー』
ぽとぽと。ぽとっ。……ほとんど落ちた。
『誰かって言うか……、セグレイブ以外全部落ちたね』
『自分の頭の中では、リビングまで運ぶ予定だったー。ごめんー』
ビックリしてボールから皆出てきた。それぞれ入ってたボールを持って、謝る自分に大丈夫だと言ってくれた。一安心。
『まぁ、こっちは大丈夫だけど……。カロンの前に顔揃えて大丈夫なの?』
そう言えば。ご飯の用意する時はドラミドロと作業しててもヘーキだったけど、皆揃ったらドラゴンタイプがたくさん。……カロン、大丈夫なのかな。
『…………分かんない』
『分かんないのかー……』
『カロンー、どうするー?』
『……疲れてるでしょ? わたしに構わないでご飯を食べれば良いわ。わたしは部屋にいるから』
『……だってー』
『……ははは……。それを最初から確認しておいて欲しかったかな……』
うーん、ダンドリ上手く行かない。難しいなー、と思いながら、最後に持ってたセグレイブもボールから出てもらおうとしたら、部屋に戻ろうとしてたカロンが振り返った。
『……ニャッコ。そのボール貸して』
そのボール。つまり、自分が今持ってるセグレイブの入ったモンスターボール。
どうしたのかな、と首を傾げて、すぐに察した。何かお話があるのかも知れない。
『いいよー。でも、セグレイブもお腹空いてると思うよー』
『すぐに終わらせるから平気よ』
『……ここじゃダメなのー?』
『……駄目……、じゃないけど駄目。恥ずかしいから駄目』
『そっかー。あのね、カロン。落としたらセグレイブ出てくるからねー。落とさなくても、出てくるかもー』
『えっ。……分かった。冷凍ビームで凍らせておくわ』
『わー、カゲキー』
その証拠に、自分が握ってたモンスターボールも抗議するみたいに揺れてる。でも出てくるのを我慢しているのか、セグレイブは結局そのままカロンが連れてってしまった。
「……おや、セグレイブがいませんですね? 全てニャッコが連れて行ったと思ったのですが……」
「あれ、ホントだ! ニャッコ、セグレイブをどこに連れてったの?」
『カロンと一緒にいるー』
カロンがいる紫音の部屋を指差すと、察したのか紫音もハッサクも心配そうな顔になった。二人で顔を見合わせて、恐る恐る扉に近付いて行く。
『わー、ヌスミギキだー』
『何? どしたの? ご飯食べないの?』
「ニャッコ、ラクシア。しー。静かにね……」
「盗み聞き……。ポケモンの会話を理解出来る訳では無いとは言え、悪い事をしている気になりますですね……」
「と、言いながら私と一緒に扉に耳を当てるハッサクさんなのであった……」
「うぬぅ……。セグレイブのトレーナーである小生には、カロンに危害を加えぬ様に気を回す責任が……」
結果、紫音とハッサク。自分とラクシア、後何か面白そうだと思ったのか、先輩も扉の前にやってきた。
全員で息を殺して、扉の向こうのお喋りを聞こうと頑張ってみるんだけど……。カロンがなんか話してるみたい、って事しか分からなかった。
『……あ。カロンこっちに来る気配!』
『おっとぉ。ここに集まってたら全員ビンタされちまうな! 撤収撤収!! おーい、ハッサクもこっちだ』
『紫音ー。てっしゅー』
「へ? 何?」
「ど、どうしましたですか?」
くいくい、と手を引っ張って扉の前を開けると、カロンが尻尾で器用に扉を開けた。ちょっと顔を出して、じろっと睨まれたから、多分扉の前に集まってた事バレてる。
『……話は終わったから』
「あ、カロン。セグレイブは……」
『返すわ』
紫音が声を掛ける横で、カロンが扉からころころとセグレイブのボールを出した。そのままぱたん、と閉まった扉を背に、セグレイブがぽしゅんとボールから出てくる。
『…………』
『兄ちゃんお帰りー! 紫音とご飯用意したんだ! 食べよう!!』
『…………、うん……』
『……兄ちゃん?』
セグレイブ、ぼんやりしてる。セビエが用意したご飯を目の前にしても、ぼんやりしたまま。どうしちゃったんだろう。
「セグレイブ……、何故か気もそぞろですね……」
『ご飯溢してるー。セグレイブ、どうしたの?』
「どっか痛いとか……!?」
「念の為、ポケモンセンターにも寄って帰ってきたので、そんなはずは無いと思うのですが……」
『カロン……。あんな近くで見れるなんて……』
『…………』
あー。そーゆーコトかぁ。確かに、カロンを怖がらせない様に、セグレイブやカイリューは絶対近付かせない様にしてた。何なら、カロンの視界に入らない様に、顔合わせした日から会ってない。
『はぁ……。今日頑張って良かった……』
「ハハハハッサクさんどうしましょう! セグレイブの鳴き声に元気が無いんですけど!」
「……その割に、尾は嬉しそうに揺れているのですよね……。……まさかとは思いますが、ボール越しとは言えカロンとの顔合わせ以降初めて近距離で見た彼女に惚れ直したのでは……」
『ハッサク、せいかーい。マルを差し上げよー』
ハッサクの頭をとんとん、と叩くと、紫音と顔を見合わせたハッサクが困ったみたいな顔しながら自分を両手で掴んだ。じーっと見下ろすハッサクににこっと笑ってあげると、その顔のまま紫音ともう一度顔を見合わせる。あれー、伝わってないー?
「……この様子を見るに、小生の見立ては正解かと……」
良かったー、伝わった。
相変わらずボーッとしてご飯食べるから、ポロポロ溢してるセグレイブを見ながら、紫音はマジメなお顔になる。
「……つまり、ボール越しならハッサクさんのドラゴンポケモンとコミュニケーション取れるって事ですね……。みんなこっちにいるのに、カロンだけ私の部屋にって事も多くて寂しくないかなって思ってたんです。扉越しにお喋り出来るように、扉にちょっと穴開けて糸電話とか作れないですかね……?」
「糸電話……、悪くない案ですね。カロンお話したい時には、呼び鈴を鳴らすと言うのはどうでしょう?」
「そっか。遠くにいたら、糸電話でカロンに声掛けても聞こえないですからね」
ハッサクと紫音が盛り上がってる。……自分を持ったまま。ハッサクの手、温かいのはいいんだけど、話が盛り上がってきて、ちょっと痛くなってきたー。セビエなら痛くならないのかもしれないけど……、自分はほっぺたが痛い。
『……ねーねー、離してー』
「……ああ、申し訳ありませんです。ニャッコを持ったままでしたね」
『紫音ー』
「おわっ、私に来た。はい、ぽむぽむ〜」
『ぽむぽむー』
わー、紫音の手も温かくてきもちいー。紫音はお話に夢中になっても、自分のほっぺた痛くならないからナオサラ。
「……む?」
「はぇ?」
そうだ。自分が紫音の所に行ったから、ハッサクの手がヒマになっちゃった。
一度紫音の手を抜け出して、ハッサクの手を紫音のほっぺたに持っていく。そして、紫音の手は自分のほっぺたに。うん、これでハッサクの手も寂しくない。カンペキだー。
「……あの、何でハッサクさん私のほっぺたもにもにしてるんですかね……?」
「さぁ……? 君に頬を揉まれて幸せそうな顔をしているニャッコに手を導かれてこの様な形に……」
『へへー。温かいのしあわせー』
「……」
「…………」
「ニャッコ……、ハッサクさんご飯食べられないから、手を離してもいいかな……?」
『……あ。忘れてたー』
そうだったー。まだご飯の途中だった。セグレイブのぼんやりで忘れてたー。まだぽむぽむして欲しかったけど、お腹空いたままはよくない。
『お食べー』
「……い、頂きますです……?」
ハッサクの頭に乗ったら、何故か紫音はハッサクと自分を無言で写真撮影してた。何か面白かったのかな。分かんないやー。