ハッサクさん夢短編集
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「小生は……、弱い!!」
「……」
ポケモンリーグの本部。現在、貴重な休憩時間が始まった所。
そんな時間にハッサクさんが何か言い出した。弱いとは何についてなのか。まぁ、自分から聞かなくても勝手に話し始めるだろう。ハッサクさんはそういう人だ。
「聞いてください! 昨夜も危うくあと一歩で食べてしまうところだったのですよ!!」
ほら話し出した。同性だからか、最近そういった嘆きをよくぶつけられる。正直、知りませんよと一言返したいのは山々だが、その一言を発したが最後、今度は「アオキはお相手がフユウ君だからそんな事が言えるのです!!」とばくおんぱが放たれるのが目に見えている。……学生になると決まっていた彼女に墜ちてしまったのが運の尽きだろうに。
「そう、彼女は悪くないのです! ただの小生を見てくれる、寄り添ってくれる。少々照れ屋が過ぎますがそれはそれ。小生のベッドに入って何と言ったと思いますですか? ハッサクさんの匂いに包まれているですよ! 何と言うことでしょう!! 小生……」
「……待ってください。照れ屋だと言いましたよね? 彼女が自分から布団に潜り込んだんですか?」
思わず、熱が入り始めたハッサクさんの言葉を止める。
言葉から察するに、彼女と寝室を分けているのだろう。顔見知り程度だが、活発な部分もある彼女ならやりかねない。もし自分がフユウさんに言われたら……、正直グッとくるどころの話ではない。まぁ、それはそれとして。
ちょっとした悪戯心を持って、寝室に忍び込んでそんな事を言ったのかと思っての事だったのだが。
「はい? ……いえ、小生が連れて行きました」
「連れて行きました。……連れ込んだ、と?」
「はい、まぁ……。そうなりますですね」
「連れ込んでおいて……、食べてしまうところだった……? まさか、また添い寝で終わらせたんですか?」
ちょっと意味が分からなくなってきた。眉間を揉んで理解しようと努力してみるものの、自分に置き換えてみると更に理解が難しくなった。
「キスくらいはしました!!」
「キスくらいするでしょう。ティーンですか?」
「彼女はティーンです」
「ハッサクさんの話です」
「一般的には枯れていてもおかしくない年齢ですが何か!?」
「……」
「何ですかその目は!!」
強い、弱いとは何だっただろうか。
ああ、もしや、ハッサクさんと自分の中で逆の意味で会話が進んでいるのかもしれない。そう思ってしまっても仕方ないだろう。
一般的には、十分に強い理性を持っている彼が納得する程の強さとは一体どれ程の意思になるのだろうか。……まぁ、自分には関係の無い事だが。
「一歩立ち止まる事が出来ずに……、したいと思った時には既に行動が終わっているのです……」
「……トップの指示は守ってるんですよね?」
「当たり前でしょう。小生、天職である教師を辞したくありませんです」
「…………」
「言いたい事があるのならズバッと言いなさい!!」
「……強い弱いの定義が自分と違うな、と思っただけです。他意はありません」
好き合った相手と共寝しておいてキス止まりとは。やはり、弱いどころか鋼の理性では。
「よくキスで止まりますね」
「……酸素が足りなくなり、紫音が気絶寸前まで行ってようやく小生が我にかえりますです」
「…………」
うわぁ。
口に出さなかった自分を褒めて欲しい。キスだけで我慢しているのではない。
キスまでしか彼女の体力が保たないのだ。どれ程しつこいのか……、考えたくない。
「弱いでしょう……?」
「…………そうですね」
「どうしたものか……」
「……自分に聞かれても……」
更に先に踏み込んだら……。彼女には同情を禁じ得ない。気絶しても揺り起こされてまた気絶する……、新手の拷問ではないだろうか。
「とりあえず……、体力を付けさせたら良いんじゃないですかね……」
「なるほど! ……いえ、そうではなく小生の歯止めのかけ方を……」
「飯の時間が無くなります。自分はこれで」
「アオキ! 待ちなさいアオキ!! まだ話は終わっていませんですよ!!」
トップの指示を必死に守っているハッサクさんだが、本番まで行けない反動なのではないかという気もする。……本番まで行ってしまえば、間違いなく責任を取って辞職してしまうだろうが。
……そう思いながら、そそくさと昼飯の為にも逃げ出した。これ以上巻き込まれたらたまったものじゃない。
ハッサクさんが怒鳴る声が響くが、トロピウスの背中に飛び乗って窓から脱出を試みた。
ああ、腹が減った。無性に彼女の作る飯が食べたい……。
そう思った時には、フユウさんの連絡先を呼び出した。
*
*
午前中の授業が終わって、生徒の皆が口々に空腹を訴えながら教室を出て行く。その波の中、もじもじと教室に残ってみんなが出て行くのを待っている生徒が一人。
「飯行かねぇの?」
「へぁっ。あっ、後で行く!!」
「ほーん? ……席無くなっても知らねぇからな」
「わ、分かってますです!」
もじもじしている紫音ちゃんに、あるじま君が声を掛けた。飛び上がって返事をするけど、その言葉もぎこちない。
……これは……、面白い事になりそうな予感。
あるじま君も同じ事を思ったのか、紫音ちゃんの肩をポンポン、と叩いて出て行った。
「……これ、ぼくもいない方が良さそうですねえ」
「かもしれません……。あの様子を見るに、間違いなくキマワリさん関連でしょうし」
キマワリさん。おおっぴらにハッサク先生の名前を出せない時にはそう呼んでいる。
そんな会話をジニア先生と交わしている間も、紫音ちゃんは落ち着き無く椅子の場所をガタガタと調整している。
その様子に苦笑いをして、ジニア先生も教室を出て行った。これで、私と紫音ちゃんの二人きり。
「お待たせ。何か質問?」
「ゆ、ゆうあせんせぇ……」
「うん。どうしたの?」
「きっ……、ききききすのときってどうやっていきをすうんですかっ……!?」
「コフッ」
うわぁ……! そういう相談かぁ〜!!
そりゃあもじもじする。人がいなくなるのを待つ! 恥を忍んで相談したんだろうなぁって言うのが分かって、私は苦い顔になりながら紫音ちゃんの隣に腰掛けた。
「あ~……、ね……。難しいよね……」
「先生も難しいの……? わ、私お付き合いするのも初めてで……、キスって言っても小さい頃にほっぺたちゅーしたくらいで……、こう……、うん!!」
「濁したねぇ」
「濁しますよそりゃ! 分かってるんですよぉこういうのはあんまり相談する様なモノじゃないって事くらい!! でも、だって! 何かこう……アレなんです!!」
「それだと何も分からないなぁ」
「ウワァ〜ン!!!」
頭突きする勢いで机に突っ伏した。ゴンッ、と鈍い音を立てて紫音ちゃんがそのまま動かなくなる。
言わないと分からないよ、とその肩を叩くと、紫音ちゃんは額まで真っ赤にした顔を上げた。思ったより痛かったのか、涙目になっている。
「息を吸えなくて」
「うん」
「苦しくて、ちょっと意識が……、飛びそうに……」
「……うわぁ」
「ごめんなさいやっぱり忘れてくだしゃい……。先生、ご飯食べに行こう……」
思ってたよりヘビーだった。思わずうわぁ、って漏らしてしまったら、紫音ちゃんは申し訳なさそうな顔をして立ち上がる。
慌てて引き止めて椅子に引き戻した。せっかく相談してくれたんだし、どうにか解決のヒントくらいは見付け出したい。とりあえず、どうしたいのかを聞き出そう。
「……どうしたいか……? ちょっと手加減して欲しいと思ってて……」
「手加減かぁ……。相手が相手だからなぁ……、ハッサ……、じゃない、キマワリさんには手加減してって言ってみた?」
「言った……。言ったら……、うう……」
「言ったら?」
少しずつ声が小さくなって、うめき声を漏らす以外遂に黙り込んでしまった。
先を促すと、彼女は私達以外誰もいない教室で周りを警戒し始める。よほど聞かれたくないのかな? それとも言いにくいのか……。誰もいない事を改めて確認した紫音ちゃんは、こっそりと私の耳元に囁いた。
「い、言う前は一回が長くて……、言ったら短くなったけど回数が増えた……」
「……ふんふん。その間に息を整える時間貰えてるんじゃないの?」
「そ、それが……、インターバルほとんど無い……」
「わぁ〜……」
う〜ん、可哀想! それしか言えなかった。
紫音ちゃんにしかコーフンしないハッサク先生、その欲はもちろん全部紫音ちゃんに向かう訳で。手加減してって言われても、多分ハッサク先生限界まで手加減してるからもうどうしようも無いのかもしれない。……ハッサク先生じゃないから分かんないけど。
「ねぇ、先生も難しいって言ってたよね? 苦しくなったら押し返したりしてるの?」
「あぁ〜……、押し返すって言うか、ジニア先生は一応叩けば止るから一旦待ってくれるけど……。ハッサク先生はどう?」
「叩く……」
キョトンとした顔になった。……もしかしてコレ、手が自由にならない感じなのでは!? 思っていたよりとんでもない話を聞いてしまった気がする。
「じゃ、じゃあもう、苦しくなったらガブッと噛んでみるとか……!」
「噛む!?」
「舌は急所だからね。さすがに思いっ切り噛まれたら、キマワリさんも止まるんじゃないかなぁ……」
「な、なるほど……! ……痛くないかな……」
「まぁ痛いとは思うよ。痛くないと止められないかもだし……」
「うぬぬ……!」
遠慮してると、甘噛みだって認識されてハッサク先生もっと喜びそうだし……、と小声で付け加えると、紫音ちゃんはバフっと顔が真っ赤になった。
「それでも駄目なら……、もうポケモンに護衛を頼むしかないと思うな!」
「あうあうぇ〜……。息が出来るようになれば噛まずに済むんですよね……?」
「まぁ、ね」
……でもハッサク先生、紫音ちゃんの呼吸ごと食べてるんじゃないかなぁ。さすがにそこまでは言えなくて、鼻呼吸の練習するぞっ、と意気込んでいる紫音ちゃんに曖昧に微笑むしか出来なかった。