初恋騒乱編
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学校帰りにハッサクさんと待ち合わせ。何するんだろうなぁ、って思っていた私が連れて来られたのは、ハイテンションな美術家さんの元だった──。はい、回想終わり。
正直言うと、最近テンション上げられない私に気を使ってデートなのかな、とちょ〜っとだけ期待していたんですけど。どうやら予想は外れ、バトルしなきゃいけないらしい。しかもポケモンの指定までされて。
人とバトルする時は基本的にラクシアと一緒だったから、正直ニャッコと組んで対人バトルするのは初めてだ。
しかも……。
『どうでも良いとは言ったが負けても構わんとは言っていない! 特にキサマには負けたくない!!』
負けたくない! そう宣言して私達を元気良く指差すコルサさん。授業の振り返り映像で見掛けたジムリーダーの人だ。
何が気に入らないのか、それともハッサクさん以外には当たりが強いのか、やたらと敵視されている。この調子だと、ジムリーダーとしてじゃなくて、容赦無くバトルを挑んで来そうな勢いだ。
まぁそうなると、間違いなくテラスタルを使ってくる訳で。オーブを起動すると強風が発生する。
バトル中にそんな風が発生したらどうなると思う? ニャッコは飛ぶ、ばしゅーんと。風の向きによってはコルサさんにダイレクトアタックである。もうバトルどころじゃない。
そうならない為には、掴む物が必要だった。何はともかく、強風対策。それが、私がまず考えた事だった。
それを念頭に置いてスマホでニャッコが覚えられる技を確認した上でニャッコとあれこれ相談した結果、私達はいいモノを見付けたのです!
「お二人とも、用意は良いですか?」
「ワタシはいつでも良いぞ!!」
「ニャッコもオッケーです!」
「よろしい。では、僭越ながら小生が審判を務めさせて頂きますです。……両名、バトルポジションへ」
ハッサクさんの言葉を合図に、コルサさんが背を向けた。……ちょっと待って欲しい。バトルポジションとは。アニメだとそれなりに離れて向かい合う感じだったよね? どのくらい離れてたっけ……?
「そのまま逃げても、ワタシとしては一向に構わんぞ!!」
「何だとー! ……はい、先生!」
「はい、何でしょう紫音くん」
「バトルラインが無い場所でバトルする事無かったので、正確なバトルポジションの場所がいまいち分かりません!」
「……!」
分からない事は素直に聞くのが一番! 手を挙げて元気良く質問すると、ハッサクさんとコルサさんが揃ってずっこけた。ハッサクさんの横にいたラクシアに至っては、「はふ……」なんてため息を吐く始末! 分からないんだから仕方ないじゃないかぁー!!
「んんっ、良いですか。しっかり聞いてくださいね」
「はい」
「今回は、野良バトルと言われるタイプのバトルとなります。その場合、基本的にフィールドのラインはありません」
「……そですね」
「真ん中のスペースはポケモンが技を出し合うに充分な距離。トレーナーは、技が流れてきても咄嗟に避けられる距離、それに加えて声を張らずとも指示がしっかり通る距離を考えて位置に付きます」
「なるほど!」
気を取り直したハッサクさんが、自分ならこの場所でバトルを始めます、と解説も交えて教えてくれた。なるほど、さっきの移動距離だと、確かに戦わずに逃げるのか、なんて挑発されてもおかしくない場所だった。そして同時に気が付く。
パルデアに来て最初のバトル。チリちゃんは私と当たり前の様にバトルしてたけど、あの時はバトルの距離なんて考えてなかった。と、言う事は……。
「……もしかしてチリちゃん、私の距離感おかしいの気付いてサイレント修正してくれたって事!?」
「……ハッさん、本当に大丈夫なのか? キサマ、人とバトルした事があるのか?」
「ありますけど!?」
哀れみの視線を向けられている気がする! 心外です、バトルくらいした事あります。プラチナでもちゃんと殿堂入りしてるんだぞぉ。
「まぁまぁ。とりあえずポジションに付いた事ですし、バトルを始めましょう。ポケモン一匹ずつを出し合うシングルバトル。ポケモンの交代は無し。……よろしいですね?」
「無論だ!!」
「よろしいです!」
「では改めて。──よーい」
ハッサクさんの声に、私とコルサさんは揃ってボールを構える。草タイプのジムリーダー相手に、草タイプのニャッコでのバトルだ。ゲームではレベルを上げていれば少しくらい相性が悪くても何とか出来ていたけど、このバトルではそう上手く行くか分からない。ちょっとドキドキする。
「ドラゴン!!」
「頑張れ、ニャッコ! フィールドセット、グラスフィールド!!」
「ぽぽー!」
ニャッコが飛び出すと同時に、周囲に草のエネルギーを満たす。そうするとどうだろう。エネルギーを受けた雑草が大きくなった。おおー、凄い! ポケモンの力ってすごーい!!
「草タイプのジムリーダーを相手にグラスフィールドとは! ワタシの切り札を知っての事かは知らんが……。行け、ウソッキー!!」
「ウソー!!」
「……岩タイプじゃん!!」
ウソッキー!? ウソッキーは岩タイプですけど!?
そう驚いた私を他所に、コルサさんは予想通りテラスタルオーブを掲げた。
「御覧に入れよう! 嘘から出た実!!」
その言葉と同時に、強風が吹き始めた。計画通り、飛ばされない様に慌てて成長した雑草にしがみつくニャッコ。観戦している時より距離が近いせいか、思っていたより風が強い!
「ニャッコ! 踏ん張ってー!」
「ぽにゃー!」
片手じゃ耐えられなくて、両手できゅっと草にしがみつくニャッコ。……正直写真に撮りたいくらい可愛い! それはそれとして。
「ぽっ……!」
「ウソっ、キー!!」
握っていた草が千切れそうになったけど、何とかギリギリの所で吹っ飛ばずに済んだ。キラキラと結晶の身体になったウソッキーは、頭に草を生やしている。
……授業で見た! テラスタイプは変更出来るって授業! なるほど、だから"嘘から出た実"。面白い事思い付くじゃないか……!
「面白いけどそれは後で! ニャッコ、もう離して良いよ!!」
「にゃっ!」
私の声に、ニャッコはホッとした様に手を離す。そのまま、成長した草むらに飛び込んだ。
「私達と追いかけっこしよう! くさわけ!」
ガサガサと草むらを掻き分けて進む。頭上のタンポポは黄色くて目立つけど、ウソッキーを相手にポポッコが遅れを取るはずが無い。
しかも、その上草分けの技を使えばなおさらだ。草を掻き分ける勢いで更にスピードが増していく技。
「はねる!」
「ぽにゃー!」
「ウソぉ!?」
「キサマぁ! 戦う気があるのか!?」
ガサガサ移動して跳ねる。草むらから手を振りながらぴょいーんと飛び出したニャッコに、追い掛ける速度が追い付かないウソッキーは驚いた様に悲鳴を上げた。
手を振りながら飛び出してくるなんて……! ニャッコってば才能があるぞ!! コルサさんもいいリアクションご馳走さまです!
「ほらほら、捕まえられないと攻撃も出来ないですよ〜! くさわけしてハイジャーンプ!!」
「ぽっぽにゃーん!」
「ソッキー!?」
ガサガサと移動して、ぴょいーんと飛び出す。また草むらに引っ込んでガサガサ移動。あっちからこっちから飛び出すものだから、ウソッキーは完全に翻弄されている。
「ウウ、ウッソソ……」
「ぐっ……! ウソッキー、追い掛けるな! 飛び出す瞬間を狙え!!」
でも、何回もドッキリさせている内に、グラスフィールドの効果が薄くなってきた。元気が無くなってきた草むらから、ニャッコの姿が丸見えになる。
「前方に三歩、左足を更に一歩前に!」
「ウソっ!!」
「ウソッキー、そこだ!」
「ぽにゃ!?」
「ウーソーッキィー!!」
スピードの速さで腕を抜けられるかと思ったんだけど、そう上手くは行かなかった。
むんずっ、と挟んだニャッコを見下ろして、ウソッキーはギロギロと睨みを効かせている。うーん、弄ばれたウソッキーが凄く怒ってるぞぉ。
「もう離さんぞ……! ウソッキー、ストーンエッジ!!」
「ウッソソ!!」
「ニャッコ、マジカルシャイン!!」
「にゃっ。ぽにゃにゃ〜!!」
コルサさんと私の指示が飛ぶ。ストーンエッジ、草タイプでもあるとは言え、ニャッコに岩タイプの技は結構痛い。耐えられるか分からないけど、至近距離でマジカルシャインを受けるウソッキーも無傷じゃ済まないはず。
名付けて! バルス作戦!!
「ウギャっ……、アアアアアア!?」
「うぽにゃあ!!」
わぁ、至近距離で眩しい光を浴びせられたウソッキーの悲鳴が凄い。草タイプにフェアリーってそんなに効くのかな……。
フェアリータイプの相性を完全に把握出来ていない私は、そっとロトムに頼んでタイプ相性を確認した。タイプ相性的には……、うん、苦手でも得意でもなかった。ただシンプルに眩しいだけ。昼間ならそうでも無かったのかも知れないけど、今はもう夜。薄暗い中、突然目の前でそんな事をされたら誰だって目が潰れる。
バルス作戦の眩しさに仰け反ったウソッキーは、目を護る様にニャッコを掴んでいた手で目を覆う。
「あっ」
誰がその声を漏らしたかは分からない。でも、仰け反ったウソッキーの頭上にはテラスタルジュエルが輝いている。普段のウソッキーより頭が重い。その頭が重力に引っ張られて、そのまま後ろに……。
「ウソッキー!!」
コルサさんがウソッキーを呼ぶのと同時に、ウソッキーが頭から倒れた。パリンっ、と割れた結晶の中から、まだ目をしぱしぱさせているウソッキーが顔を出す。なるほど、瀕死にならなくても結晶が割れる事あるんだ。
「ウソ……、ソソッキ……」
「よし、ニャッコ。刺されたお尻痛い? まだ頑張れそう?」
「ぽにゃ……。ぽぽっ!!」
下からざっくり刺されたお尻を気にしているニャッコに声を掛けると、ニャッコはいつもより元気が無いけどとりあえず手を挙げて返事をしてくれた。もう少し頑張ってくれるみたい。
「おっけー! 悪いけど、ウソッキーの目が回復する前にきちっと倒しちゃおう!! ……くさわけ!!」
「ぽっ、ぽぽっにゃー!」
「ウソッキー、来るぞ! 受け止めろ!」
「ウッ!? ウソぁーっ!!」
目を擦って周囲の薄暗さに慣れ始めていたウソッキーの胴体目掛けて、くさわけでスピードがかなり上がったニャッコが飛び込んだ。……風で飛ぶくらい軽いボディとは言え、速さが乗れば岩タイプだとしてもそれなりに痛いはず。実際、頭から飛び込んだニャッコを受け止め切れず、ウソッキーの身体がくの字に折れ曲がった。
「ウッ……、ウソウ、ソ……」
「ぽにゃ? ぽぽ〜?」
再び背中から倒れたウソッキー。そのお腹の上から、不思議そうな顔をしてウソッキーを見下ろすニャッコ。
ねぇ大丈夫? みたいな顔してるけど、ウソッキーを戦闘不能に追い込んだのは君です。
「コルさんのウソッキー、戦闘不能! 勝者、紫音とニャッコ!! ……ニャッコの身軽さを基に組み立てたっ……、す"ば"ら"し"い"バ"ト"ル"を"み"せ"て"も"ら"い"ま"し"た"で"す"……!!」
「やったー! 上手く行くか賭けだったけど、無事に勝ったよニャッコ! ニャッコはコンテストの才能があるよ!!」
「にゃ? ぽにゃー!」
ウソッキーをツンツンしているニャッコを掲げれば、ニャッコは一瞬不思議そうな顔をしてすぐににっこりと笑い返してくれた。とりあえず、落ち着いたらお尻の切り傷早く治してもらおうね……。
「負けた……。ワタシの芸術は砕かれた……。同時にキサマの眩さが目に焼き付いて離れん!! ……いや、いかん。駄目だぞコルサ。ワタシはハッさんにたねポケモンと組んだ戦い方を……ッ!!」
「これがっ……、魅せるバトルっ……!!」
……おじさん二人が泣いてる。これどうすれば良いんだろう……。ラクシアに助けを求めると、ラクシアは既にハッサクさんのポケットからハンカチを取り出してハッサクさんの顔を拭いていた。手早い。
コルサさんの方は……、ドレスを着た様なポケモンが優雅に頭を撫で始めた。同時にふわ……、と良い香りも漂ってくる。その香りのお陰なのか、二人の涙も少しずつ落ち着いてきた。
私としては魅せるつもりは毛頭無くて……、ニャッコ吹っ飛び対策に草を生やして、その草を有効活用出来ないか考えた結果だったんですけど……。
でもまぁ、それを言うとヤボになりそうなので!
「お楽しみいただけまひっ……、ましたか?」
自信満々にそういう事にしようとしたら、そのツケなのか見事に舌を噛んでしまいました。