初恋騒乱編
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「手を前から上に上げて大きく背伸びの運動〜! ……あっ、待って痛っ! 肩上がんないや」
『お〜っ!』
空は雲一つ無いいいお天気。今日は、紫音と僕達だけでピクニックに来ていた。岩の柱がたくさんある洞窟前にお邪魔して、シートを敷いて、一息ついてお弁当を食べるのかと思ったら、紫音は急に立ち上がって変な動きを始めた。
何やってるんだろう。あんぐりと口を開けた僕と、困惑しているカロン。そんな僕達に対して、小さな手を紫音の掛け声に合わせて動かすニャッコ。状況が見えないモノズだけは、キョトンとした様子で首を傾げている。
『……何? あれ』
『……たぶん、カインに言われた適度な運動と日光浴してるんだと思う……』
そう、今日はカロンの為に外に出てきたんだ。ボロボロになってしまったカロンが元の美しさを取り戻す為……、っていうのもあるけど、ウロコが剥がれるのは痛々しいから早く治したくて、野生のポケモンも適度にいるこの場所までやって来たんだ。……でも。
『……何で紫音が適度な運動してるの?』
「横曲げの運動〜! 片方だけっ!!」
『お〜っ!!』
そう、紫音が主に適度な運動してる。ニャッコは小さな腕をぶんぶん上げてるだけ。何か楽しそうだからニャッコはそのままでいっか……。
『……さぁ……? 僕達にとっての適度な運動ってバトルだと思うんだけど……。何やってるんだろうね……』
「おーい! みんなもやろうよラジオ体操!」
『……その動き、二足歩行じゃないと出来ないと思うよ』
「何か呆れたね!? いいも〜ん! ちょっとニャッコとデートしてくるし!!」
『デート? 自分はハッサクじゃないよ? でも楽しそうだから行く〜!!』
ふてくされた紫音が原っぱに向かって走り出した。それを追い掛けて行くニャッコを見送って、僕はやれやれとため息を吐く。
『あっちは放っといて。……カロン、僕達も技の撃ち合いしようよ』
『……嫌。ラクシアの技、接触技ばかりだもの。……ラクシアまでそうなるのはちょっと……、ううん、すごく嫌』
『……そっか……』
カロンの今の特性は【メロメロボディ】。オスの僕がカロンの身体に触れると、うっかりメロメロになってしまう可能性がある。
カロンが嫌だと言うのなら、僕は身を引くしかない。何だか凄く嫌な思いをしてきたみたいだし。
『じゃあ、わたしは?』
代わりに、モノズが名乗り出た。ちょっと顔の位置がズレているので、後ろ脚を押して体の位置を調整してあげる。ちゃんと面と向かってもう一度言うと、カロンは少し困った様な顔になった。
『……嫌。あなた、まだ弱いもの』
『むぅ。わたし、ご主人守らなきゃいけないの……! ゴキョージュくださいっ!!』
『……今の紫音は、本当に紫音なのか信用出来ないから、わたしを巻き込まないで』
『カロン……』
そう言うと、カロンは体を丸めてしまった。拒絶態勢になってしまったカロンにも諦めず、モノズは控え目にカロンの尻尾に触れる。
『わたし、今のご主人しか知らない。ご主人はどんな人だったの?』
『…………変わってないの。変わってないから信じられないの』
『そうなの?』
『……そうなの。……肩の怪我だってそう。何でわたしに怒らないの……。馬鹿みたい』
ラジオ体操って言うのを始めた紫音は、肩が上がらなくて痛がる声を時々上げていた。そうなってしまった原因は、カロンが放った冷凍ビームだ。
……もちろん、あれは事故だったって僕も紫音も分かっている。嫌な事を思い出して暴れてしまったカロンとセグレイブの間に、紫音が割り込んだから怪我をした。
でも、どうしてセグレイブをあんなに怖がったのか。肝心な事は聞けずにいるけど、カロンは紫音を怪我させた事をずっと気にしているみたいで、あれから暴れる事は無くなった。もちろん、モノズ以外のドラゴンポケモン達が近くに来ない様に、特にハッサクが厳重に言い聞かせてるからっていうのもあるけど……。
『……カロンは怒ってほしいの?』
『……怒ってくれたら、ちゃんと嫌いになれるの。ああ、あのヒトも結局は一緒なんだなって嫌いになれるの』
『……カロン』
悲しそうな顔で何て事を言うんだろう。何をされてきたんだろう。
紫音も信じられなくなっちゃうなんて、きっととても苦しくて悲しい目に遭ってきたんだ。
『紫音はちゃんと怒ってたよ。カロンお姉さんを酷い目に遭わせた人に』
『……っ! 元はと言えば! 紫音が急にいなくなったからじゃない!!』
『あわわぁ!』
『落ち着いて、せっかく少し尻尾が治ってきたのに……! モノズ、紫音呼んできて!』
『わ、わかった……』
モノズの言葉に、カロンが尻尾をバシッと地面に叩き付ける。顔スレスレの所を尻尾が掠ったモノズは、ビックリして後ずさった。
そんなモノズを逃がすついでに、紫音を呼んで来るように言うと、モノズは必死に頷いて走り出した。
……あっ、しまった! モノズ周りが見えないんだ!! 全然違う方に走り出してる!! でも、今のカロンを一人にする訳にもいかないし……!!
『痛ぁい……っ!』
「わぁ、モノズちゃん! だいじょぶ? 怪我してない?」
『……!!』
この声は! 驚いた僕達の前にひょこっと姿を現したのはエイルだ!
モノズの悲鳴に、エイルがその前にしゃがみこむ。怪我してないか確認して、エイルは安心した様に笑った。
「……あ、あなたは紫音のモノズちゃんだね。紫音とはぐれちゃったの?」
『ご主人呼びに行こうとしたの……』
「そっかぁ。……あ、ラクシアちゃんと……、ミロカロスちゃん! 久し振りだね!!」
『……へ? カロン、エイルと知り合いなの?』
「カロン……?」
『…………』
名前には聞き覚えが無いのか、エイルは僕の言葉に首を傾げた。カロンを振り返ると、カロンはムッとした顔のまま尻尾をバシバシ叩き付け始める。
「カインの所で時々お喋りしてたの! でも、……カロン……。何だろう……、辛そう……」
『……ヒトに話す事なんて無い』
『エイルは他の人間より信用出来るよ』
「誰にも言わないで、って事言わない。約束する!」
『…………』
それでも、カロンは僕達に返事をせずに丸くなった。ぶつぶつと独り言を呟くカロンは、まぶたもぎゅっと閉じて自分の心の中に閉じこもってしまったみたいだ。
『分かってる。分かってるの。時空の穴に落ちたんでしょ? それは聞いた。でも、わたしだって寂しかった。知らない場所でひとりぼっちになって! 知らないヒト達に囲まれて! ラクシアには分からない!!』
『……うん、分かんない……』
『わたしだけ昔に置いて行かれたみたい……。紫音はまたわたしだけ置いて行くんじゃないかって……』
カロンの本音だった。
もう置いて行かない、なんて事は言えなかった。だって、僕達は、僕は、一度カロンを過去に置いてきてしまったから。
『信じられない。信じない』
「……カロンは自分がどこ行きたいのか分かんなくなってるんだね。紫音とそっくりだぁ〜」
『…………は?』
「そういう時はね、シンプルに考えればいいって、フユウも言ってた。カロンはどうしたいの?」
『…………わたしは……』
その時、モココが草の向こうからこっそり声を掛けてきた。ちょうど、カロンが考え込む様に黙ったのもあって、僕達は一斉に声が聞こえた方を振り返る。
「モココちゃん!」
『エイル、エイル。カインって人が探してるってお話知ってる?』
「……あ! そうだった! 皆カインがうちを探してるって言ってるんだった! うち行かなきゃ!!」
『えぇ……。エイル、何したの』
「うち何もしてない。……と、思う……」
カインって、普段はとても優しいんだけど……。僕は忘れてないぞ。身体検査って名目で体をひっくり返された事!! ハッサクだって逃げ出すカインに呼び出されるなんて、エイル、絶対何かやらかしたんだと思うんだけど……。
『お手伝いして欲しいって言ってた! 分かる? 場所分かる?』
「お手伝い……? 何だろう……」
『早く行かないと、遅刻したって怒られちゃうぞ〜』
「カインは怒らないよ! 優しいもん」
『えぇ……』
僕と認識がずいぶん違うなぁ。
そう思ったけど、エイルは一緒に行こうと急かすモココに手を引かれて走り出した。
またね〜! と笑って小さくなっていくエイルに、僕はため息を吐いてカロンを振り返る。カロンは、まだエイルに言われた事を考えているみたいで、尻尾でペタペタと自分のほっぺたを叩いていた。
『……わたしは……、どうしたい……?』
『カロンお姉さん……』
「……おーい! みんな!!」
『……あ、帰ってき……、進化してる!?』
エイルと入れ違いで、紫音がニャッコと帰ってきた。お互い方向が違うだったから、きっとすれ違う事も無かったんだろう。友達と会ったら、紫音はきっと「そこでエイルちゃんに会った!!」と元気良く教えてくれるだろうから。
「向こうにね、いい感じの川があったんだよ! ご飯食べたら水遊びしない!? しよう! 決定!!」
『けってーい』
『まっ……、進化してる!! ニャッコ、どうしたの!?』
『何が?』
『ほら見て!』
ハネッコだったニャッコとデートって言ってた紫音が戻ってきたら、ニャッコがハネッコじゃなくなってた。進化した事に気付いてないのか、きょとんとした顔をしたニャッコの手を引っ張る。ピンク色から黄緑色に変わった手を見て、ニャッコが悲鳴を上げた。
『……手〜っ!!』
「あとこれね、羽根拾ってきた。絶対綺麗だと思うんだよね〜!!」
『紫音っ! 手! 自分の手が!! 何か違う色になってるぅ!!』
『……賑やかだなぁ』
羽根を拾ってきた、と言う紫音の隣で、混乱したニャッコがわぁわぁと鳴き声を上げた。その頭には、確かに綺麗な羽根が添えられている。
思わず苦笑いをすると、僕の反応がお気に召さなかったのか、紫音はむむっと眉を寄せた。
「むっ! 今呆れたね!? 見て! ほら綺麗!! みんなの分あるよ!!」
これはていこうの羽根、これはちりょくの羽根、と僕達の頭にそれぞれ羽根を刺していく。……僕とカロンは刺せる場所が無くて、体にペタッと貼り付けられた。
『……ここら辺に、こんな羽根落とすようなポケモンいたっけ?』
『さぁ……? 分かんない……、わたし、見えないから……』
『……水の匂いがする。……乾いた土の匂いじゃない、湿った土と草の匂いも。たぶん、これを探しにどこかへ……』
「やっぱり! 似合うと思ってたんだよ〜!! ロトム、ロトムの分もあるよ! 写真撮るから出てきて!」
『……えっ!? ぼくまで!?』
ロトムは赤い羽根が似合う、と笑った紫音は、僕達みんなを近くに寄せるとスマホを掲げた。こっち見て〜、と手を振る紫音を横目に、僕はご機嫌なニャッコに声を掛ける。
『ねぇ、ニャッコ』
『なぁに? 自分今それどころじゃないんだけどっ!!』
『僕達を置いてどこまで行ってきたの?』
『うーん……。向こう!』
『向こうかぁ』
ニャッコが腕を上げた方向から、少しだけ水の匂いがする。でも、湿った匂いがする場所なんて無い。僕達を置いて、どこまでこれを探しに行ったんだろう。
『……進化したとは言えニャッコだけだと不安だし、こういう時は僕達も連れてってよ』
「あたっ。えっ、ご不満!? 色が気に入らなかった!?」
『そうじゃないよ。……はぁ、紫音そういう所あるよね……』
「……あ、分かった! ラクシアも行きたかったんだ!!」
『半分正解。はぁ〜あ、カインに僕達から目を離したって言ってやろ〜っと』
「……何か嫌な予感がする! 何て言ったの!?」
『ははっ。さぁね〜』
「ラクシア〜!!」
抱き上げて、僕のお腹に顔を埋めようとする紫音の頭を蹴る。あびゃ、と情けない声が聞こえるけど気付かない振りをして、僕は地面に戻って来た。
『……羽根……。わたし達の為に探しに行ってくれたんだ……』
『……似合ってるよ、カロン』
とっても綺麗だ、と言おうとして、今のカロンにその言葉は嬉しいとは反対の気持ちになってしまう事に気が付いて口を閉じる。
でも、実際とても綺麗だし……。セグレイブに自慢してやるくらいはしてもいいかも知れない。
『ねぇ、ロトム』
『なぁに?』
『カロンだけ、追加で一枚撮って。それをハッサクに送ってあげて』
『……いいよぉ。今は機嫌が良いしトクベツだからね』
そう言って、ロトムはパシャッとはにかんでるカロンの姿を写真に収めた。
カロンは気付いてないけど、すごく嬉しそうな顔をしている。やっぱり、僕と同じで紫音の事が好きなんだ。でも、信じられないって言ってた言葉も嘘じゃない。
早く元気になって欲しいな。そう思って、僕は紫音に貰った羽根をカロンにくっつけた。
その夜。カロンのソロショットを見せられたセグレイブは、ハッサクのスマホロトムをずっと離さなくなってしまった。
僕としては、これで我慢しててってつもりだったんだけど……。ま、いっか!!
【ニャッコ は ポポッコ に進化した!】