パルデア上陸編
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授業に使う題材を探す為に、休日を使って南二番エリアを歩き回っていると、フカマル先輩が突然走り出した。何か気になるものでも見付けたのかと思ってその後を追い掛けると、ハネッコを抱えた女性が一人棒立ちになっている。
荷物も何も無い。モンスターボールも持っていない様に見える。もちろん、観光客にも見えない。
しかし、野生と思しきハネッコが腕に抱かれるのを許すほど懐いている様子を見るに、悪い人物では無さそうだが……。どう見ても怪しさ満点だ。
(……校長先生と理事長に相談ですね)
頭を指で叩いて考えをまとめていると、彼女の足元に走り寄るフカマル先輩と視線を合わせて何やら談笑している。あのフカマル先輩が警戒心を持たないと言う事は、ますます怪しい人物という可能性は下がっていく。
「……空飛ぶタクシーを呼びますです」
「空飛ぶタクシー……!? タクシーも空を飛ぶんですか?」
「…………」
驚くのはそこなのか。そう言えば、先程通話の際にスマホロトムにも驚いた顔をしていたか。……まさかとは思うが、スマホロトムを知らない訳ではないだろう。
「車が飛ぶ訳ではありませんですよ」
「……ですよね!!」
「シンオウ地方での移動手段は何なのですか?」
「近距離は自転車で、街を跨ぐ時は秘伝わざで空を飛びます!」
「そうでしたか。パルデアでは、秘伝わざではなくタクシーを使うのですよ」
「はぇ〜。じゃあ移動の時風に悩まなくていいんだ」
「快適ですよ。ただ、ゴンドラを降ろす為に開けた場所が必要ですが」
「ふむふむ」
小生の話を興味深そうに聞く彼女を伴って、タクシーを呼ぶ為に歩き始めた。
歩きながら、ロトムに頼んでタクシーを手配する。少し歩けば平地がある、そこに降ろしてもらえば良いでしょう。
「しかし、授業の題材の代わりにとんでもない拾い物をしてしまいました……」
まさか人間を拾うとは。突然行方不明になる者、記憶を失って行き倒れていた者、他の地方では様々な事例が度々ある事は把握しているが、小生がそんな事例に当たるとは夢にも思わない。
何やら隠し事をしている気配もあるが、その辺りの話もチリなら詳しく聞き出してくれるだろう。
「……フカフカ」
「……! はい、どうしましたですか?」
事情を聞き取る為にあれこれ考えていた小生は、クイクイと足を引っ張るフカマル先輩に呼ばれて足を止めた。何事かと先輩を見下ろすと、フカマル先輩は無言で後方を指差す。
「……フカ!」
「……ほとんど動いていないではないですか!」
件の女性が、しゃがみ込んで何やら笑顔を浮かべていた。見れば、ムックルとヤヤコマに話しかけている。更に、その後ろには先ほどまで腕に抱いていたハネッコに加えてメリープが増えていた。
「ムックルだ〜! 親の顔より見たムックル! いやぁ可愛い〜!! そっちの君は何て言うの!?」
「ピィーーー!!!!」
「ピチチチチチ!!」
「アハハハ! そっかぁ、分からん!」
「ピィ!?」
「でも君も可愛いね! 一緒に来る?」
「ピチチ!!」
親の顔をもっと見てあげなさい、と喉までせり上がった言葉を何とか飲み込んで、小生は大きなため息を吐いた。
まさか、一歩歩く度にポケモンに声を掛けているのでは無いだろうか。さすがにそんな事は無いだろうと頭を振る小生の予想に反して、彼女は目ざとく草むらに隠れていたヒマナッツを見付け出した。
「ヒマナッツだぁ〜! ポケモンいっぱい! パルデアいい所!!」
「ヒマっ……!?」
「……コルさんが喜びそうな絵面ではありますね……」
太陽にヒマナッツを掲げる彼女は、小生を呼び止めた時と同じ様にフカマル先輩に足を引っ張られてようやく状況を思い出した様だ。
「ごっ、ごめんなさい……!」
大慌てで小生の前まで走ってきた。彼女の後ろに、声を掛けてきただろうポケモンが続く。その数五匹。
小生は十メートルも歩いていないのだが、そんなに声を掛けていたのなら歩みが全く進んでいないのも納得だ。
「楽しそうですね。ポケモンはお好きですか?」
「……! はい、もちろん! ずっと好きです!!」
「そうですか……」
「あのっ、それで質問なんですけどこの子シンオウにいない子、何てポケモンですか!?」
「ヤヤコマですね。飛行、ノーマルタイプですよ」
「君ヤヤコマって言うのか〜!!」
「ピチチチ!!」
「オレンジの体毛につぶらな瞳! でも実は進化するとめちゃくちゃ格好良くなるパターンでは?」
「ピ?」
「えぇ〜! どんな進化するのか気になる〜!」
一人で盛り上がっている彼女は、一通りヤヤコマを褒め回すとそっと地面に下ろす。ムックルが期待の目で彼女を見上げているが、しかし彼女はムックルを撫でて首を振った。
「……一緒に行きたいけど、私、ボールも何も持ってなくて……」
「ピィー……」
「せっかく会えたんだからもちろん一緒に行きたい! ……行きたいけど、今は無理なんだ……」
「…………」
「今度はちゃんとボール買ってくるから! 待ってて欲しいな……、って言うのはワガママだもんね……」
「ピチ……」
楽しそうな雰囲気から一転。着いてきたポケモンとの別れを惜しむ様に一匹ずつ丁寧に撫でて、彼女は意を決した表情で立ち上がる。
「よしっ、お待たせしまし……、うぇ!?」
せっかく出会えた友との別れ。そんな光景を見せられては、このハッサク、感極まって涙を堪える事が出来るはずもなく。
「……ズビッ……。い"え"、小生に"お"か"ま"い"な"く"ッ……!!」
「な、何があったんですか!? ハンカチ……、も無い! わぁマジで手ブラじゃん!!」
「お気遣いありがとうございますです……。ズビッ、こちらは素晴らしいものを見せていただいたお礼です……!!」
「素晴らしい……、って、えぇ!? ボール……、えっこんなに!?」
彼女に着いてきたポケモンの分、ちょうど五つのボールを手渡すと、彼女の戸惑いを他所にポケモン達が一斉に歓声を上げた。
その喜びのまま勢い良く彼女に……、彼女が持つモンスターボールに我先にと群がる。
「待っ……! せめて順番に……!!」
「……ごろ!」
もみくちゃにされる彼女の悲鳴に応える様に、ポケットからモンスターボールが飛び出してきた。中から姿を現したのは、水色のポケモン。パルデア地方では見かけないポケモンだ。
「みっ、ミズゴロウ〜!!」
「ごぉろ、ごろっ!」
トレーナーの意思を示すように、その短い脚で地面をたしたしと叩いて一匹ずつ順番に並べていく。落ち着いてボールで捕まえた彼女は安堵のため息を吐いて……、そしてミズゴロウにしがみついた。
「ミズゴロウ〜! ありがとお〜!!」
「ごろっ!」
「……ミズゴロウ。確か、ホウエン地方で旅に出る子供達に渡されるポケモンの内の一匹、でしたね」
「そうです!」
「では、出身はホウエン地方と言う事ですね?」
「そっ……、ソウデスネ!」
違和感のある答えだが、今は深く聞かないでおこう。タクシーがもう間もなく到着する頃だ。
「さて、目に映るポケモン全てを口説かれては日が暮れてしまいますので、小生のポケモンに運んでもらいますです」
「……す、スイマセン……」
「セグレイブ」
「ギュオワーン!」
「ほぁっ」
ボールの中でしっかり話を聞いていたセグレイブが、指示を出す前に彼女を捕獲する。その際、一瞬目が輝いた気がしたが、気にせず目的地まで歩き始めた小生は、背後から聞こえてくる声に頭が痛くなってきた。
「君セグレイブって言うんだね」
「ギュオワン」
「フカマルと一緒にいるってことは……、地面? うーんこのヒンヤリ感地面と違うな……。ドラゴン、ドラゴンだね!?」
「ギュオ……」
「氷とドラゴン! えっつまりドラゴンなのに苦手な氷タイプを自分の物にしちゃったって事!? 凄いねぇ!!」
「ギュ……」
少しずつセグレイブの応える声が小さくなってきている。立ち止まって振り返ると、セグレイブは喜びを隠す事なくニコニコと満面の笑顔で彼女の言葉を聞いていた。
「……セグレイブ」
「……! ギュオワン!!」
「取り繕ってももう無意味ですよ……」
「ンギュ……」
「あなたも、小生のポケモンまで口説かないでくださいですよ」
「しゅみません……」
しょんぼりとしたセグレイブに、もう何も喋らないぞという意思表示なのか手で口を覆う女性。
改めて、とんでもない拾い物をしたものだとため息を吐いて、小生は目的地までの歩みを再開した。