初恋騒乱編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お世話になってる皆に背中を押されて、私はとうとうハッサクさんとお付き合いする事になった。……けど、実際はそんなに大きな変化は起こらなかった。
一つ。何故なら、元々同居していたから。その延長線上に関係性の変化があっただけで、生活環境が劇的に変わった訳じゃない。
二つ。何故なら、元々ハッサクさんはスキンシップが多い人だったから。キスしたい、ハグしたいと思った時は既に行動が終わっていたハッサクさん。お付き合いする時に心臓が爆発するから突然行動を起こすのは止めてほしいと伝えたら、「キスしますです」「今からハグしますね」と一言教えてくれる様になった。……まぁ、相変わらず心の用意はさせてくれないけど! アカデミーでは出来ないからって、家では隙あらばくっついて来るハッサクさん。昨日なんて、勢い余って弾き飛ばされました。ハッサクさん体幹も強い。
「……おや、小生を前にして考え事ですか?」
「ハッサクさんに弾き飛ばされない為に、筋トレしよっかなって……」
「……その件については本当に申し訳ありませんですよ……」
そんな事考えていたら、目の前にあるハッサクさんの顔が少し不満そうな表情で鼻と鼻をくっつけてきた。そのままスリスリと鼻をこすられるとくすぐったい。
……あ、変わった事あった。ハッサクさんが自分の膝を叩いて私を呼ぶ時は、しばらく離さないぞっていう合図になった事。私が膝に座るかどうかを決められる合図だ。
恥ずかしいなら隣に座れば、ちょっと寂しそうな顔はするけど頭や頬を撫でるくらいの軽いスキンシップにしてくれる。膝に座ったら……、唇がふやけちゃうんじゃないかってくらいキスの雨が降る。
ハッサクさんが言うには、すれ違いざまの一瞬じゃ全然足りないらしい。でも、身長差があるので立ったままだと私の首が痛くなるし、ハッサクさんも大変だからと二人で考えた結果が、私がハッサクさんの膝に座る事。
そして、現在進行系で膝の上にいる私。朝ならタイムリミットがあるからと覚悟して膝の上に座った訳なんですが、腰をぐいぐい抱き寄せられている。
「あの……、今日はフユウちゃんに呼ばれてるんですけど……」
そろそろ行かなきゃ。ハッサクさんも今日はリーグで仕事だって言ってませんでした? 控えめにそう言いながらハッサクさんの胸を押すけど、ハッサクさんは私の腕を首に移動させて抵抗を無かった事にされた。解せぬ。
「……もうそんな時間ですか……」
「ひょわぇ……、耳元で囁きぃ」
「むぅ……、君が寝坊してしまったので、朝の仲良し時間が足りませんです……」
「それはごめんなさいです!」
「構いませんですよ。夜は足りなかった分たくさん補充させてもらいますので」
「ひぇえ……」
これはもしや……、添い寝コースでは?
内心震えながらも、寝坊してしまったのは事実。可愛がられる心の用意をしておかないとな、と思いながら頬をもにもにするハッサクさんの手を甘んじて受け入れた。
*
*
「では、小生はここで。……道は覚えていますですか?」
リーグの前でタクシーを降りた私は、心配なのかオロオロとあれこれ確認してくるハッサクさんに苦笑いを浮かべた。
「覚えてないけど、ロトムが教えてくれます! たぶん」
「……しかし君のロトムは……」
「ロトム、フユウちゃんの仕事場教えて!!」
「ロトロトロト……」
「で、電話じゃないよ〜!」
『は〜い。紫音、どないしたん?』
「わぁ間違い電話です〜!」
ロトムに道案内してもらおうとしたら、普通に電話をかけ始めた。あれ? ちゃんと仕事場を教えてって言ったのに……。
数回のコール音の後に聞こえてきた声に、ロトムにフユウちゃんの仕事場を教えてもらおうとしたら、電話を掛けてしまった事を伝えると、電話の向こうで楽しそうな笑い声がした。
『そらそうやわ! だってこの前紫音がここに来た時はまだロトムと一緒やなかったもん』
「……あっ!!」
『お迎え行こか?』
「……一人で行けるもん」
『そう? ほな待ってるから気を付けておいでな〜』
「はーい。……ハッサクさん」
「はい」
「位置情報教えて下さい……」
「はい、構いませんですよ」
くすくすと笑いながら、ハッサクさんのロトムとピピッと通信を交わしたロトムは、画面に目的地の旗を刺す。
何故か私ではなくロトムに「寄り道しないように頼みますですよ」と言い聞かせていたハッサクさんに、そんなに信用無いかなぁと少し落ち込んでしまった私は、ハッサクさんの判断が間違っていなかった事をすぐに理解した。
何たって、今はロトムがどんなポケモンか教えてくれる。あちこちにカメラを向けていちいちポケモン図鑑を確認する私に業を煮やしたのか、ロトムは一つ鳴き声を上げて数メートル先に飛んで行ってしまった。
置いて行かれたら、フユウちゃんの所まで行けなくなってしまう。仕方なく先導するロトムに置き去りにされない様に移動する事数十分。寄り道しないとこんなに早く到着するものなんですねぇ。
「来たよー!!」
「遅っ! 迎えに出ようか連絡する所やったわ」
「ごっ……、ごめんなさい」
「ミロカロスが待ってるって言うのに、この浮気者〜」
「うっ……」
肘でちょんちょん、と小突きながら怒られました。他のポケモンに興味持って遅くなったのは事実だけど、浮気者って言われると余計に悪い事した気持ちになる。
そう! 今日はミロカロスを引き取りにやって来たのです!
「カロン」ってニックネームを付けていた色違いのミロカロス。三人目のコレクターに引き取られてガラル地方にいたらしく、パルデア地方の気候に慣れる為にしばらくカイン先生の牧場にいたらしい。ガラル地方ってどこだろうね!
まあ、私のそんな疑問は横に置いておいて。スマホアプリのボックスから引き出すのではなく、直接会った方がいいと言われた理由は分からないけど、カロンに会えるならオッケーです!!
「ほな、ここでちょっと待っててな」
「はい!!」
ウッキウキ気分で案内された客間で待っていると、ピカピカの新しいボールを持ったフユウちゃんが戻ってきた。
ちゃんとチップも新しい物に入れ替えて、ボールもそれに合わせて新しくしたんだと説明を受けながら今か今かと再会を待っていると、その様子を見たフユウちゃんが少し悲しそうな顔になる。
「病気も特に無い。ただ……、警戒心がめちゃくちゃ強なってるから、気軽に触れへんのは覚悟しとってな」
「くぅっ……! 分かりました……」
「ウチも尻尾ビンタされたわ。気が立ってるから、慣れるまでは他のポケモンも近付けない方が良いかも」
「……なんと……」
つまり、私が頑張ってお世話しないといけないという事だ。うーん、ゲームと違って実際ミロカロスのお世話した事無いからな……。色々手探りになってしまうけど、カロンとまた仲良くなる為には必要な事だ。頑張らなきゃ!
「あと、特性が隠れ特性になっとる」
「……は?」
そう気合を入れていた私に、フユウちゃんが言いにくそうに付け加えた。
隠れ特性。十年以上前に発見された、珍しい特性。
私のカロンはそれより前に捕まえたので、隠れ特性ではなかった。不思議なうろこだったはずなんですけど。
「メロメロボディになっとる」
「はい?」
「今はな、道具使えば特性も変えられんねん。二つ特性ある子は別の特性に、更に希少な道具使えば隠れ特性にも変えられる様になってて。……それで……、メロメロボディに……」
「はぁ〜〜〜っ!? どういう事!? ちょっとフユウちゃん! そのメロメロボディに変えたの誰!? コレクターなら希少な道具も気軽に使えるって事!? 何それー!!」
「ウチに怒らんとってやぁ……」
「ごめんなさい! でもシャドーボクシングはさせて!!」
「そりゃまぁお好きに……」
むっきゃー! ムカつく!!
フユウちゃんに怒ってしまっても意味は無いんだけど!! むしろ申し訳ない事をしてしまいましたすいません!!
でも腹の虫は収まらない。とりあえず誰もいない空間にシュッシュッとパンチを打ち込む事した。
「私の! ミロカロスは! 特性関係なく! メロメロになってしまいますが!?」
「はいはい」
「なるって言え!!」
「うんうん」
「フユウちゃん!!」
「はいはい。……へ? 呼んだ?」
「呼んだ! ここでカロンをボールから出して良い!?」
特性変わってもカロンはカロンのままだからね! そう言おうと思っての言葉だったんだけど、何故かフユウちゃんはここじゃダメだと言って私の手を引いて外の広い空間に連れて来た。
「暴れた時の為に、一応ね……。ハネッコおったよね? 暴れて辛そうな時の為にも、眠り粉の用意もさせとって」
「そんなに……?」
「そんなに。……本当に、引き渡される時の審査の時だけしっかりしてるっていうコレクターやったんは申し訳ないと思うわ……」
「……フユウちゃんのせいじゃないから。うん……」
そう、フユウちゃんはコレクターと私を中継してくれただけ。悪いのはコレクター。出来れば目の前に引っ張り出してもらいたいくらいだけど、今はそんな事よりカロンだ。
「ほな、ボールから出してご対面や」
「よしっ! 出ておいで、カロン!!」
ポシュン! と姿を現したカロンは、体を低くして周囲を伺うようにキョロキョロしている。淡い色合いの青。太陽の光を反射してキランと光ったその体に、嬉しさが限界突破した私は思わずカロンに駆け寄った。
「…………」
「カロン! 会いたかった〜!!」
「……!」
「あ、紫音待っ……」
フユウちゃんの制止は間に合わなかった。ぎゅっと抱き着こうとした私の腕から蛇の様に抜け出したカロンは、振り返るついでに思いっきり尻尾を叩き付ける。
「びゃう!?」
「ぽぉおおお……っ!!」
「あーあー……、見事なビンタ受けたなぁ……」
「元気があってよろしい!!」
いやまぁホントは頭グラグラするぐらい痛いけど! 病気や治らない怪我をしてる訳じゃないって事だから、とりあえず良しとしただけでめちゃくちゃ痛い!!
「……ぽぉ? …………ぽぉおおお……」
「お? 何どうしたの? 何か思い出し……」
一度は距離を取ったカロンが、何かに気が付いたかの様に私に顔を寄せてきた。じろじろと眺めるその様子に、私もフユウちゃんもドキドキしながらカロンの反応を待つ。
見つめ合う事数秒。カロンの綺麗な目が一瞬揺らいだかと思うと、次の瞬間再び尻尾ビンタが飛んできた!
バシッ! ビタッ!!
それはそれは、見事な往復ビンタだった。
「何で〜!?」
「……たぶんやけど、自分は長い間あちこち振り回されてきたのに、当の紫音は何も変わってへん事が許せないんちゃうかなあ……。会えて嬉しいより先に、その怒りが行動に出てしもたのかも」
「そっか、そうだよね……。ごめんねカロン……。また一緒にいてくれる?」
「…………」
返事は無い。ぷいっとそっぽを向いてしまったカロンは、無言のままポシュンとボールに戻ってしまった。
「……根気強く相手してやって」
「もちろん!」
「あと、帰る前にほっぺた冷やした方が良さそう。ウロコで少し切れてるから、ガーゼも持ってくるわ」
「そんなに酷い?」
今どうなってるか分からないけど、確かに頭が揺れる程のビンタを何回も受けてる。
……ん? 今フユウちゃん、ウロコで少し切れてるって言いましたよね? ますますどうなっているか分からない。腫れてないかな、と少し心配になった私が恐る恐る自分のほっぺたに手を伸ばすと、指先からざりっと嫌な感覚が伝わってきた。
「……ざりっ……?」
……人の皮膚って、ざりって音がする様なものだったっけ?
恐る恐る手を見ると、そこには赤い血に混じって淡い色のウロコがちらほらとくっついていた。この色。このウロコは……!
「ウロコー! か、カロン!! ウロコ! 剥げてる!! 尻尾見せて! ふ、フユウちゃん!!」
「……うん、病気はしてへんけど、案の定お世話はおろそかやったらしくて……、こんな事に……」
「むきゃー! 絶ッ対許さないんだから!!」
「はい、分かったから暴れない」
「うう〜っ!!」
痛いなんて言っていられなくなった! 絶対に元の綺麗な姿に戻すんだと心に決めて、私は鼻息も荒くフユウちゃんの治療を受ける事になった。
【 カロン が紫音の手持ちに加わった!】
冷静な性格。美しいと言われるその姿に加えて、珍しい色違いだった事もあり、複数のコレクターの手元を渡り歩いてきた。しかし、どのコレクターも観賞用でしかなかったので、立派な人間不信になっている。
基本的に、かつて共に旅をした信頼の置けるラクシア以外に心を開かない。
特に大きいドラゴンタイプのオスが嫌い。