パルデア上陸編
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「さささむむむいいい……っ」
「……紫音、動けませんです……」
「すすすみみみままませせせんんん……」
今日はフリッジタウンにやって来ました。寒いとは聞いていましたが、ここまで寒いとは聞いていません。フカマル先輩がお留守番なのも納得の寒さです。以上、今日の日記。
歯がカチカチ鳴るので上手く喋れない。ハッサクさんの背中にへばり付いていても寒い。
「ほら、頑張ってください。あの建物が目的地ですよ」
「うぇ……、どどどどこですすすか?」
「あれです」
「ほぁ、リーグ本部と似た造りの!」
建物の中に入れば暖かいのでは? そう気付いた私は、ハッサクさんの背中から飛び出して建物へまっしぐら。自動ドアが反応するより先に飛び込もうとしたので、見事に激突しました。中にいる人達の困惑した顔がよく見えます。
「痛い……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「開かなかったんです……!」
「それは君が……、ふふふ……」
「笑わなくてもいいじゃないですかっ!」
「随分賑やかな客人だね」
ぶつけた額と鼻をさすっていると、奥から威勢の良い声が飛んできた。ハッサクさんに腕を取られて立ち上がると同時に姿を見せたのは、アカデミーでよく見る人。
「……タイム先生?」
「違いますです。彼女はフリッジタウンのジムリーダー、ライムさんです」
「あ、ホントだ似てるけど違う」
ライムさん、本職は有名なミュージシャンの人。世界ツアーの合間を縫って、私の相談の為に時間を作ってもらったのだ。
「姉さんに聞いてるよ。アンタが問題児だね?」
「問題児」
「ゴーストに追い回されるんだろ? ……正直、アンタが何かやらかさなきゃ追い回すような子達じゃないんだが」
「……追い回されると言うか……、連れて行かれそうになったと言うか囲まれると言うか……」
「ふん、まぁいいさ。アンタ相手じゃバイブスも上がんないし、詳しい話を聞かせてもらうよ」
「はい……」
「……はて」
ハッサクさんが首を傾げても見向きもしないで、ライムさんは足早に建物の奥へと進んでいく。その道中、足元に駆け寄ってきた頭にロウソクが灯したポケモンに触ろうと膝を曲げると……。
「触るんじゃないよ!」
「ひぇっ……! ご、ごめんなさい……!!」
鋭い声が飛んできた。反射的にハッサクさんの背中に隠れると、ライムさんもハッとした顔になって視線を逸らす。ミュージシャンだから、気難しい人なのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。……理由は分からないけど、何か気に入らない事があるのかも……。
「……ボチもゴーストだ。理由が分からないなら、なおのこと気軽にゴーストタイプに触るもんじゃない」
「た、確かにそうですね……。気を付けます……。君ボチって名前なんだね、可愛いじゃないか……」
触れないのが残念です……。
どんな子なのか気になるけど、ライムさんは機嫌悪そうなので、とりあえずポケモン図鑑を確認してみる事にした。
ボチ。人と関わること無く命を落とした野生の犬ポケモンの生まれ変わり。ちょっと構っただけで、どこまでもついてくる人懐っこいポケモン。
「ううっ、余計に私が構ったらダメな子だった……っ!!」
あっぶない。ライムさんが止めてくれなかったら、大変な事になってた。
「紫音、そろそろ腕を……」
「……はっ」
ライムさんの声に驚いて、ハッサクさんの背中にしがみついたままだった。慌ててハッサクさんから離れる。……離れようとしたら肩を抱かれた。やらかすからあんまり離れるなって事ですね! ん? 待てよ……。
「……捕まえておくだけなら、手でよいのでは……?」
「この奥の部屋で待っててくれ。ちょっと用意をするから」
「分かりましたです」
あれー? ハッサクさん肩を抱いたまま歩き出した。大きな手にガッチリホールドされているので抵抗する事も出来ない私は、ほぼ引き摺られる様に廊下の奥にある部屋で待つ事になった。
*
*
「これが、彼女の身に起きた顛末です」
「……ふぅん」
ハッサクさんが時系列とゴーストに関連した事件を話し終わると、ライムさんが私をじっと見て頷いた。
「……フワンテにさらわれた時は、フワンテ達からちょっかいを掛けてきた。間違いないね?」
「はい……。街中で肩をちょんちょんっ、と……」
「ゴーストタイプの群れに追われた時は、バトルが終わった直後だった。地形が変わる程の技は使っていない。これも確かだね?」
「はい。……あ、秘密の力って言う場所の力を使って戦う技は使いました」
「何だいその技は。……まぁ今はいいさ」
一通り話を聞いたライムさんは、しばらく考え込む様に静かになった。何を言われるのだろうと緊張していると、ライムさんは腰のボールをぽんぽんと投げる。中から姿を見せたポケモン達は、自由気ままに部屋を歩き始めた。……あれっ、ほぼゴーストタイプでは!? ヤミラミ、カゲボウズまでは分かる。その隣にピカチュウの被り物したポケモン、浮かぶティーセット。
「紫音っ!」
「うわにゃっ!?」
「ライムさん! 突然何をっ……!」
「も、モノズ〜!!」
赤ちゃんがはいはいするみたいに歩き回るポケモン以外、わらわらと私に近付いてくる。
ハッサクさんがポケモン達を見るなり立ち上がって、私を守る様に抱き締めた。私も慌ててモノズをボールから出したけど、ライムさんはそれを止める事無くやっぱりな、とため息を吐いた。
「シンオウの裏側に追放されたポケモン。タイプで言えばゴーストなんだってね? アンタにとっちゃ一瞬でも、十五年分の月日をすっ飛ばした力がその体に染み付いてンのさ。この子達は、アンタを仲間だと思ってる」
そう言いながら、やっと私に群がっていたゴーストポケモン達をボールに戻す。
ホッと安心したものの、ハッサクさんはまだ私を離さない。厳しい顔でライムさんを睨んでいた。
「……先に説明して欲しかったですね」
「確証が無かったんだよ。試しにゴーストじゃない子も一緒に出したんだが、その結果がコレだ。……まさかここまでとはね」
「私、ゴーストタイプって事……?」
「そう勘違いされる程の力が染み付いてるって話さ。……一緒に追い回されたヤツに話を聞いてみるといい。狙われたのはアンタじゃなくてそっちさね。仲間を虐めていると思われたんだろう」
「……では、フワンテにさらわれたのは……」
「群れからはぐれた子を迎えに来たのさ」
「な、何だってー!!」
「紫音」
「はいすいません」
とんでもない話に耐えられなくなって、思わず話の腰を折ったらシンプルに怒られた。黙ります。でも、そのお陰で警戒する気持ちも落ち着いたのか、ようやくハッサクさんのホールドから解放された。……まだ肩は抱かれたままだし、険しい顔のままだけど。
「解決策は無いのですか?」
「初めて見聞きした状態だからねぇ。ハッキリした事は言えないけど、その力に負けないように、よく食べてよくおねんねしな。少しでも足を踏み外すと、すぐ迎えにくるだろうさ」
「なるほど……」
健康が一番って事ですね! よく食べて、よく運動して、よく寝る!! 任せてください!!
「そうやってパルデアに馴染んで行けば、この異様に好かれる現象も治まっていくだろうさ」
「はいっ!」
「……ところで、話は変わるがね」
「はい?」
「この子。……エレズンはゴーストじゃない。見ての通り駄々っ子なんだよ。そろそろご飯の時間なんだ。ジムトレーナーに預けてきてくれるかい」
話変わり過ぎじゃない? ハッサクさんに助けを求めると、ハッサクさんも微妙な顔してた。つまり、まだ何か私に関する話があるという事では?
「……何で私に?」
「大人の話があるからだよ」
「……ナルホド!」
やっぱりそうか! 本人が聞いちゃいけない話とは!! でもハッキリ「アンタには聞かせられない」と言われた様なものなので、大人しくエレズンを受け取った。
「ついでにアンタも何か飲んで体温めて来な」
「いえっさー!」
ハッサクさんなら、後で教えてくれるでしょう! ……教えてくれなかったら、それはそれでよく食べてよく寝ろって言われたアドバイスは対症療法って事になる。……つまり、治らないって事だ。
大人の話が、根本治療の話だといいな!
そんな期待をして、私は素直に部屋を出る。……部屋を出た途端に、ライムさんの姿が見えなくなって不安になったらしいエレズンに大号泣されて、私は大慌てでお世話に慣れているトレーナーを探して走り出した。