パルデア上陸編
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「もんもんのずのずモノズちゃん〜、君が好きな味何ですか〜」
「もん……?」
馴染みのある童謡の替え歌を歌いながら、私はご機嫌にポケモン達のご飯を用意していた。
メリープ達はフユウちゃんに預かってもらってるから……、いつもよりちょっと用意は楽になったけど、それでも初めて一緒にご飯を食べるモノズの好きな味は分からない。
とりあえず、辛いの好きな子が多いからまずは辛いものから用意してみよう。お気に召さない様なら渋い味を試してみましょう!
「……ありゃ、もうすぐ無くなりそう……。辛いポケモンフードのストックは……。……お留守番するセビエがつまみ食いするから高い所にありそうだなぁ」
念の為、手が届く範囲の棚を開けて確認してみた。……うーん、やっぱり無いかぁ。残るは高い所にある棚。ハッサクさんが私の為に踏み台を用意してくれているけど、それを持って全部確認するのは大変だし……。
その時私は閃いた! そう言えば、手持ちにフワフワ飛べる子がいるじゃないですか!
「ニャッコー! 助けて〜!」
「はね? はね〜」
ニャッコ。ハネッコに付けたニックネームで呼ぶ。しかし、呼ばれたニャッコは「ニャッコさん呼ばれてるよ〜」って感じでキョロキョロしている。ニャッコは君なんですけど……。
「……ハネッコ!」
「はにゃ? はね!」
試しに今まで通りに呼ぶと、喜んで寄って来た。うーん、頑張ってニャッコだって認識してもらわないとな……。
まぁそれはこれから頑張りましょう! とりあえず、棚を開けて貰おうとお願いした。開けて確認した後に踏み台を持って行けば何回も持ち運びしなくて済む。戸棚を閉めるのもやってもらえばオッケー! うん、完璧なプランだ!
……ニャッコの小さなおててでは開けられなかったけど! ちょっと手を挙げて終わり。可愛いからオッケーです。横着しないで大人しく踏み台持ってきます……。
そう思っていたら、後ろから肩に手が触れる感覚が!
「ああ、辛い味のポケモンフードが空いたのですね」
「ほびゃっ。……あ、そうです!」
「良かった。……こんな時は小生を呼んでくださいです。特に君は今手を怪我しているのですから」
「ふぁい……!」
うわビックリした! 背中越しにハッサクさんが戸棚に手を伸ばす。そのままポケモンフードを取り出すと、ご飯を待っているポケモン達の方へ歩いて行った。
「……ビッ……、クリしたぁ……!」
まだ心臓がドキドキしてる。フワッと触れる手。高い所にも簡単に届く身長差。そして何より、体温を感じるくらい近かった。……うう、当たり前みたいに距離が近くなっていませんかね? それとも、今日のあれこれで私が意識してるだけなのかな……。
「……はね?」
「何でもないよ……。ありがとうニャッコ」
「……?」
「ニャッコは君なの〜!」
「はにゃ〜!」
わしゃわしゃ〜! 心配そうな顔をしているニャッコを撫で回す。はにゃはにゃ喜ぶニャッコを撫で終わると、その様子を微笑ましいと言った様子で眺めていたハッサクさんと目が合った。……ハッサクさん、もはや柑橘系の甘み通り越してジャムになってませんか?
「……ご飯の用意だ! やります〜!!」
「はい。では、渋い味と酸っぱい味の食事をお願いしますです」
「はいっ!」
そんな顔でずっと見られていたと思うと恥ずかしい! でも、そんな事は言ってられない。皆お腹空かせて待ってるからね!!
ポケモン達それぞれの前にご飯を置いて、私とハッサクさんもテーブルに着いて、ようやくご飯。ちょっとフライングしたセビエが、今日もフカマル先輩に小突かれている。その隣で、モノズが自分の物では無いご飯に顔を突っ込んだ。
「……あ、モノズ! それはラクシアのご飯だよ!」
「……のず? のんのず……」
「普通に食べてるー! モノズ、君のはこっち!」
「ごろ……」
「ラクシアがご飯取られて凄い顔してる……。うーん……。モノズ、こっちこっち」
「ふんふん……」
まず、渋い味のフードをモノズの鼻先に近付ける。ガブッと噛もうとした瞬間サッと手を引っ込めて、意識をモノズのご飯に向けさせた。
「君のご飯はこれ。隣にあるのは、他の子のご飯だから食べたらダメだよ」
「のず!」
「よし! ラクシアは減った分持ってくるからちょっと待っててね」
「ごろー!」
「ハッサクさんはこっち気にせず食べててください!」
パタパタと再びご飯の用意を始めた私が、ハッサクさんに声を掛ける。でも、そう言いながら振り返ると、ハッサクさんはもう食べる手を止めていた。
「待っていますよ、ゆっくり用意してくださいです」
「ほわっ……」
……やっぱり何かフラグ立ってませんか!? 私はハッサクさん友人ルートを進みたいなぁって思ってたんですけど……。気のせいですよね……? 紫音、しっかりするんだ!!
「い、急ぎますです! ご飯も冷えるし!!」
そう、ご飯が待っている! ラクシアもご飯を待ってる!! 私のぐちゃぐちゃした感情はとりあえず後回し!
気持ちを切り替えて、もう一度ドタバタとご飯の用意を終わらせる。再びご飯の前に座る頃には、何とか気持ちを落ち着かせる事も出来たから、とりあえず良しとしましょう! さぁ、ご飯食べるぞ!!
*
*
今日は校内を歩き回って疲れたから、と言い訳をして、私は早々に部屋に引っ込んだ。ハッサクさんはまだやる事があるからと、セビエも一緒に寝る事に。
……ちょうどよかった。セビエにも聞いておかなきゃいけない事があったし!
「……セビエ。君も私をハッサクさんのお嫁さん認識してるの?」
小声でそっと聞いてみる。ベッドの上から新入りのモノズを見下ろしていたセビエは、私の言葉に一瞬きょとんとした顔をして、すぐに元気良く返事をした。
「……? キュエ、キュッキュ!」
「ごろ、ごろろ」
あ、今の様子だと何となく分かるぞ……。今そうだよ、って返事したね!?
「違うんだよぉ……。私はただの居候なの……。迷惑かけっぱなしなのに、好きになってもらえる訳ないじゃん……」
「キュ……」
「でも、逃げてばっかりだと今度は嫌われちゃうしなぁ……。見学終わった後から絶対変だって思われてる……」
思わず手で顔を覆う。
思い出してみよう。ハッサクさんに話し掛けられてドキッとする。気持ちを落ち着かせる為に一呼吸置く。そうすると返事するまでに変な間が開く。微妙な空気の出来上がり! ……ハッサクさんはまだ気にした様子無いけど、それが重なればおかしいなって思うかも知れない。
セビエとラクシアの会話も盛り上がってる。うう、何を話しているんだ! エイルちゃんヘルプ!! ……あ、待ってやっぱり聞きたくない。知るのが怖いです。
「うう〜……! どうしたらいいんだろう……。一度セーブして告白失敗したらリロード出来ればいいのに……っ!」
「ごろ……」
「……違う違う、親友ルートに入りたいんだってぇ……! このまま……、一緒に晩ご飯食べて、お喋りして、そういう感じの……っ、……あれ?」
自分に言い聞かせている内に、じんわりと視界が滲んできた。慌てて目を擦るけど、何故か涙が止まらない。
「ちょ、待って……。何で……」
「キュエ! キュ、キュッキュエ〜!!」
「ごろ!? ごろろ、ごろごろ!!」
「うう〜っ……、セビエ、待ってっ……」
セビエが急に泣き出した私に驚いて、部屋を飛び出して行ってしまった。ハッサクさんやる事あるって言ってたのに! 泣き止まないと、ハッサクさん困らせちゃう……!
「キュエ……!」
「どうしたのですか急に……、紫音?」
「ハッサクさん……」
「どうしましたですか!?」
来てしまった。怪訝そうな顔をしながら姿を見せたハッサクさんが、私を見るなり顔色を変えて駆け寄ってくる。
私だってどうしたか分からない。それに何より、そんなに優しくされると、勘違いしそうになる。
「分かんないんですぅ〜……! 何でそんなに優しくするんですかぁ〜っ!!」
そんな事言いたい訳じゃないのに、理不尽な文句が口から飛び出してきた。それに答える代わりに、ハッサクさんは私をぎゅっと抱き締める。背中を撫でる大きな手が温かいから、私は余計に子供みたいに泣き出してしまった。
私が落ち着くまで辛抱強く背中を撫でてくれるハッサクさんにすがり付いていたから、その肩は涙で濡れてしまっている。うう、申し訳無くてまた泣きたくなってきた……。
「優しくされるのはお嫌いですか?」
「嫌いです……」
「それは困りますですね。小生は君に優しくしたいのですが」
「……うう〜……、ぐすっ……」
「小生が君に優しく見えるのは、君が大切だからですよ」
「……セビエやフカマル先輩の同じ様にですか?」
「……そうです」
「……うん」
やっぱりそうだ。勘違いしちゃダメ。ハッサクさんは優しいから、皆を大切にしてくれているだけ。フカマル先輩やセビエと同じカテゴライズだ。改めてそのつもりで暮らしていかないといけない。そう心に決めた私のおでこに、ハッサクさんのおでこがくっついた。
「……ですが、泣いている姿を見て動揺するのは君だけです」
「……はぇっ」
「……もしや、今日学校で何かありましたですか?」
「……あったけど秘密です」
「秘密ですか」
言える訳が無い。セビエやフカマル先輩が、私をハッサクさんのお、おおお、オヨメサン……、認識してる事とか、ハッサクさんが「小生の紫音」と漏らしている事を知ってしまったとか。
でも、少なくともオヨメサン認識は先輩達の誤解だった訳で。
「……また涙が」
「……うう、どうしよう……。ごめんなさい……」
また涙が! せっかく止まったのに、感情がぐちゃぐちゃになっているせいでまた溢れてきた……!
目尻から溢れる涙を指で拭われる。気を紛らわせる為になのか、ハッサクさんが今度はおでこやまぶたにキスして来た。いくら私でもそろそろ気付く。こういう事するのはハッサクさんだけだって!!
「うう〜……、すぐそういう事する〜……!」
「君にしかしません」
「……勘違いするから止めてくださいぃ……」
「勘違い? 何を勘違いするのですか?」
「…………自分で考えてくださいっ!」
「…………分かりません。教えてもらえますですか?」
そっぽを向いて突き放したのに、ハッサクさんちょっとだけ無言になってすぐに首を傾げた。教えてって言いながらハッサクさんの指が私の頬をすりすり撫でる。しかも、顔をハッサクさんの方に向けられた。
逆光の中、ハッサクさんの瞳が光ってる。そんな目にじーっと見られると、蛇にらみされたみたいに動けなくなる。
「……紫音」
「ひゃ、はい……」
優しい声で名前を呼ばれた。何とか返事はしたけど、噛んでしまいました。そんな色っぽい声で名前を呼ばれた事無いもの! 頬を撫でていた指はいつの間にか顎を持ち上げる位置に移動していて、長い指は唇をなぞっているし……!! こっ、この流れってもしかしてこのまま唇にキスされるヤツでは? まさかヨーロッパ系って友愛で唇にもキスするんですか、私が知らないだけ!?
えっちな体験どころか、そういうゲームした事すら無いのでよく分かりませんが、これ、明らかに親友ルートではありませんよね!? どこで間違えてしまったんでしょう!
「わ、あ、あの……っ!」
色気の暴力! た、助けて〜!!
私の心の声を聞き付けたのか、ラクシアが鋭く鳴いた。それに応えたのはニャッコ。あ、眠り粉でハッサクさんを眠らせるんですね? ……あれ? これは至近距離にいる私も眠り粉吸わない?
「ぐっ……」
「……ふわ……」
眠り粉を吸ったハッサクさんのまぶたが重くなってきた。同時に、私もやっぱり……、眠たく……。
ぽすん。疲れていたのは本当だったので、私はハッサクさんの腕の中でうっかりそのまま眠ってしまった。
『あ、ちゃんと寝たよ』
『紫音が先に寝ちゃったよ!』
『え?』
『ねぇ、このままハッサクも寝ると、紫音潰しちゃうけど』
『えっ!!』
僕がハッサクを蹴り飛ばすとあのまま唇がぶつかると思ったから、ニャッコに眠り粉をお願いした。計画通り、ハッサクを止める事に成功したまでは良かった。……んだけど、近い場所にいたせいで、紫音もハッサクに抱っこされたまま眠ってしまった。
セビエの言葉に驚いて振り返ると、確かにハッサクもベッドに倒れそう。
『わぁ〜! せ、セビエ、ハッサク支えて!!』
「ぐっ……」
その時、まだギリギリ眠っていなかったハッサクが、倒れそうになりながらも紫音を潰さない様に体の位置をずらした。でも、結局睡魔に負けて布団に沈んでいく。
「……ラクシア……」
『……何だよっ。文句は聞かないからな!!』
「リビングの電気を……、消すよう、セグレイブ達に……」
『……このままここで寝るつもりなの!?』
紫音を抱き枕にして寝るつもりだ! ……ニャッコに頼んでそういう流れにしちゃったのは僕だけど!!
『今日は皆で寝るの? やったー! 先輩も呼んでくるね!!』
『なになに? みんな何のお話してるの?』
『モノズも一緒に寝よう! 紫音はね、温かいんだよ!』
『そうなの?』
セビエもこのまま寝るつもりだし……! 紫音がますますハッサクの嫁みたいになっていく!!
『みんなで寝よう〜!』
『……うぅ、早くしないと紫音の傍が取られちゃう!!』
ただでさえハッサクに盗られてるのに! ハッサクに言われた通りにするのはムカつくけど、セグレイブに電気を消して寝るように伝えると、セグレイブはチラッと寝室を覗き込んで楽しそうに笑った。
『ラクシアも実はハッサクと紫音の仲を応援してたり?』
『……とんでもないコト言わないでよ〜!!』
僕は! ハッサクから! 紫音を守ってるの!!
僕のけたぐりを受けて『痛っ』と呻いたセグレイブだったけど、楽しそうに笑うだけで謝ってはくれなかった。解せない!