パルデア上陸編
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「髪の毛が無くなった……」
「無くなっていません、大丈夫です」
カイリューでリーグまでひとっ飛びしたまでは良かったが、完全にタクシー移動に慣れてしまったらしい紫音が顔をしかめながらそんな事を言った。手櫛で髪の毛を整える彼女の用意が済むのを待っていると、何やら疲れた様子のあるじま君が近くに降り立つ。
「あ、ハッサクせんせ。……たぶん明日大変だと思いますよ」
「……何がでしょう?」
「ノーコメント」
「あ、あるじま君! さっきエイルちゃんが探してたよ」
「もう見付かった後。……はぁ、早く帰ろ……」
エイル君とまた何やらあったらしい。チリを迎えに来たのなら、小生達と目的地は同じだ。
三人で自動ドアをくぐると、受付前で会話に花を咲かせるチリとフユウ君、そして、その隣で持ち歩いている事務仕事をこなすアオキが待っていた。
「お、来た来たー! 待ってたよー!」
「あるじまはん! ……と紫音やないか! 何や、またフユウがアオキさん迎えに来た思たら、カード受け取るの今日やったんか。編入の準備も進んどるんやな」
「チリちゃん! 今日学校見学もしてきた!」
「良かったなぁ。楽しかった?」
「楽しかったー!」
「そら良かったわ。……あ、それならついでに渡したい物があるし……、あるじまはん、もうちょい待ってもろてええ?」
「早く帰りたかったんだけどな……、まぁいいか」
「そんならちゃきちゃき終わらせよ!」
「話はまとまりましたか?」
チリと紫音の会話が落ち着くのを待って、アオキが顔を上げる。その隣で、フユウ君が写真以外の必要項目が記入されたカードを取り出した。
「……アオキです。あなたが紫音さんですね」
「はいっ」
「では、効率的に進めていきましょう。まず、トレーナーカードの写真を撮ります」
「写真」
「一応身分の証明にもなるから、求められたらすぐ出せる様に持ち歩いといてな」
「はーい!」
「写真を撮る間に、スマホロトムとIDの同期も済ませてしまいましょう。必要なら、ボックスの説明も。まず、スマホはお持ちですか?」
「スマホ……」
アオキの確認に、紫音がうつ向く。そう言えば、まだ渡していなかった。
助けを求める様に小生を見上げる紫音の様子に、アオキの表情が険しくなる。
「……お持ちではない?」
「持ってません……」
「……ハッサクさん」
「ちゃんと用意していますですよ」
咎める様な声に、懐からスマホを取り出した。途端に、紫音が期待に目を輝かせる。
……ちょっとした悪戯心で用意した物だが、素直な紫音は種明かしをする前に受け取ってしまった。無くしたりしないように、首から提げられるストラップが付いたスマホ。……子供用のスマホだ。
「スマホ!!」
紫音は、それが子供用モデルだと言う事は分からない。喜んで首から提げて、スマホを掲げた拍子にストラップが抜ける。途端に部屋中にブザーが鳴り響いた。
「…………」
チリの肩が震え始めた。わずかに遅れてあるじま君も震え始める。
さすがにこの状況になれば紫音も気付く。ゆっくり振り返る表情は、見事な怒りに彩られていた。
「……それ、子供用スマホやんな?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
何とか踏み止まっていた二人の笑い声が決壊した。冷静なフユウ君の言葉と、膝から崩れ落ちて息も絶え絶えになるほど笑っている二人に、紫音の頬がハリーセンの様に膨らんでいく。
「……ハッサクさん!」
「はい」
「もぉー! 大爆笑かっさらってるんですけど!! どうやって止めるんですかこれ!!」
「ストラップを戻せば止まりますです」
「うぅー!」
唸りながらもどうにかストラップを元に戻すと、少しずつ大爆笑も収まっていく。しかし、紫音の不満は収まらないらしく、無言でつっぱりを繰り出してきた。
ぽす、ぽす。小生に効果は今ひとつの攻撃が繰り出される中、小生は本物のスマホロトムを取り出す。
「悪戯心だったのですよ……。本物はこちらです」
「……鳴らない?」
「もうロトムも入っていますですから、警報音は然るべき時にしか鳴りません」
「ロト!」
「わっ」
疑いの視線を向ける紫音に、スマホに入っていたロトムが小生の言葉を肯定する。
自分の意志でくるくると飛び回るロトムを珍しげに眺める紫音に、涙を拭いながらチリがその肩を叩いた。
「……ヒィ、どーりでチリちゃんの連絡先登録したスマホとちゃうなぁ思ったわ。何か困った事あったら連絡しいや」
「電話!」
「その話の前に、あなたの声をロトムに覚えさせましょう。操作せずとも、ロトムが操作を手伝ってくれます」
「そ、そんな事まで……!? すごい……、私、何も分からないから助けてね、ロトム」
「ロト!」
アオキの説明を受けながら、何とかスマホロトムの初期設定を終わらせた紫音は、早速目の前にいるチリに電話を掛けている。はいもしもし、と電話を取ったチリと一緒に楽しそうに笑っているのを止めて、フユウ君が無理やり話を戻した。
「はいはい、スマホ操作も大事やけど、次は本命、ボックスアプリの使い方説明するからよく聞いてな」
「はーい」
「ロトムにボックス開いて、って言えばロトムがその画面にしてくれるよ」
「ロトム、ボックス開いて!」
「ロト!」
「おわぁ、開いた……! ……あれっ、フユウちゃん、ボックスに私の知らないポケモンがいる! ミロカロスは!?」
「うん、とりあえずチュートリアル終わらせようね。そのポケモンと、手持ちの子交代してみよ」
「うん」
操作の説明を受けながら、ボックスに手持ちのポケモンを預け入れて代わりに新しいポケモンを引き出す。ぽんっ、と渡されたボールを受け取った彼女は、恐る恐るそのボールを開いた。
「もん……。のず……?」
「かっ……! 可愛い〜!! でも何で……?」
周囲を探る為にまず鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めたモノズを見て、紫音は目を輝かせた。
「預かり物や」
「君の入学祝いと、ゴースト対策を兼ねた小生からのプレゼントです」
「嬉しいです! この子は何てポケモンですか!?」
ようやく渡せた贈り物を喜んでもらえて一安心だ。教えるのは一言で済むが、せっかくスマホも手に入れたのだから図鑑アプリも教えてしまおう。
「それもスマホで調べられますですよ。カメラを向けて……」
「……ふむふむ……」
カシャッ! 小気味良い音と共にシャッターが切られる。先にカメラを起動してしまったせいで、写真を撮る事になってしまった。
「……撮れた!」
「違いますです」
「……ありょ?」
「声で指示する事もできますが、画面をスワイプして……」
「スワイプ」
「指で画面を左右になぞることです。……この様に」
「わっ、画面が切り替わった!」
紫音とは身長差がある為、小生が彼女の横からスマホを操作するのは簡単ではない。紫音の肩に手を置いて、その肩越しに説明をした方がスムーズだ。実際、紫音は頷きながら真剣に説明を聞いている。
「この図鑑アプリを開いて……、そう、その後カメラを向けてみてくださいです」
「……あっ、出た! モノズ……。悪とドラゴンタイプ!!」
「そうです。良く出来ました……、……あ」
「モノズ。モノズ……! 可愛いなぁ……!」
気付けば、大喜びをしている紫音と鼻先が触れるかと思う程近い距離になっていた。そっと離れた小生には気付かなかったのか、生息地や平均身長等を興味深そうに眺めている紫音に、これ幸いと胸を撫で下ろす。
「パルデア図鑑に登録されているポケモンは、名前から生息地等の情報が確認出来ますが、この地に生息していないポケモンは名前しか分からないのです」
「そうなんですか?」
「ええ。例えば……、君のラクシアがそうですね。ラクシア、少し姿をお借りしますですよ」
「ごろ?」
首を傾げたラクシアにスマホを向ける。ミズゴロウ、と表示される以外何の情報も無い小生のスマホを覗き込んでいた紫音は、突然鳴り始めた自分のスマホに飛び上がった。
「特別許可を受けている証のリボンをしていれば、このように例え迷子になってもトレーナーに所在地の連絡が届きますです」
「はぇ〜! 科学の力ってすごーい!!」
「しかしリボンもしていない、親も分からないポケモンの場合、ジュンサーさんに連絡が行く様になっていますです。リボンは決して外さないように」
「はいっ!」
大切にリボンを撫でた紫音に微笑んで、小生は彼女の頭を撫でる。
「モノズは、ドラゴンの中でも特に育てるのが大変な子ですが、強くなれば君の身を守ってくれるはずです。頑張って育ててくださいね」
「はい、ありがとございます! ハッサクさん大好き!!」
「……は」
満面の笑顔でそう言った紫音が小生の胸に飛び込んできた。突然の事に息が止まる。呼吸を思い出した時には、既に紫音はモノズへ駆け出していた。そして、自分の腕が中途半端な高さまで上がっている事に気付いた小生は天井を仰ぐ。それと同時に、突き刺さる視線にも気が付いていた。
「……はぁ……」
「センセ、抱き返そうとしました?」
「……む、無意識です……」
「無意識レベルかいな……。さっきから思っとったけど、あの距離感もエグいで。調教したん?」
「うぼぉぉぉおいっ……! 違うのです、ただ少々……、そう、小生が僅かな問題抱えているのであって!!」
「そうは言うけど……、お二人さんに揃って会う度に距離近うなっとるんよ……。あんなに逃げ回ってた紫音が当たり前になってしもとるやんか」
「……いや、あれは新しい子に興味津々で気付いてないんちゃう……?」
「人を巻き込んでおいて、結局手を出したのかと」
「何やそれ。アオキさん詳しく」
「セクハラで訴えられては敵いませんので」
視線を逸してアオキがチリの追求から逃げた。次の標的をフユウ君に定めた彼女が詰め寄るが、フユウ君も軽くかわす。
「お陰でイチャイチャ出来たから、ウチとしては問題あらへんかったで!」
「何やそれー!」
「はいはい、皆様ご馳走様」
「うにゃー!?」
「…………あっ」
その時、紫音が悲鳴を上げた。そちらを振り返った小生達が見たのは、右手を噛まれて血を流している彼女の姿。
そうだ、モノズは噛み付いたりする事で周囲の状況を探る習性があったのだ。
「噛まれっ……」
「あー! 出血してしもとる! 骨は……、良かった、大丈夫そうやな!」
「ふんふん……、のず!」
「うん、ご挨拶出来て偉いなぁ。この匂いの手はもう噛んだらあかんで」
「いたいです……」
「せやな、痛いよなぁ。……チリ、応急箱ある!?」
「あーもう! チリちゃん顎で使うんトップと自分くらいやで!?」
用意している応急箱を取りに、チリが建物の奥へ駆け出した。自分の手から流れる血をぎこちなく舐めるモノズに、紫音は自由な方の手でその頭を撫でる。
「挨拶だったんだね。ちょっとビックリしただけだから大丈夫だよ」
「……のず……」
「ごめんなぁ。ウチらは当たり前に知っとるから油断したわ……。警戒心強いポケモンもいるから、気軽にナンパしないように。やるならすぐ戦えるポケモンを横にスタンバイさせてね」
「はい……」
「その子は目が退化してしまっているのです。噛んだり体当たりをして周囲を確認する習性なので、近付く際は先に声掛けをお忘れなく」
「……それ、先に言ってください……」
「すみません……」
突然君に抱き着かれて驚いたので、注意喚起が遅れた等とは口が裂けても言えないが。
走って戻ってきたチリから受け取った応急箱で簡単な手当をするフユウ君が、モノズを見ながら難しい顔になっていく。
「しかしモノズなぁ……。そんな感じで目が離せへん子やし、ミズゴロウ以外の子も預かろか?」
「……うう……」
「いくらハッサクさんがドラゴンの専門家だと言っても、トレーナーである君自身が慣れるまでは大変だと思います。……彼女の提案は妥当かと」
「……うう、分かりました……。……あ、でもハネッコは連れていきたいです……」
「ん。それなら他の子は大切にお預かりしとくわ。慣れたら交代で連れてったってな」
「お願いします……」
しょんぼりとフユウ君にボールを預ける紫音に、チリが微妙な顔で近付いた。その手には新しいボールが握られている。
「ボックス開設祝いにモンスターボール渡そう思とったんやけど……。まぁ、あって困るもんやないしな」
「……チリちゃん……! ありがとうチリちゃ……、あっ」
ボールを受け取るなり、落ち込んでいた紫音がみるみるうちに目を輝かせる。喜びのままチリに抱き着こうとした紫音がその寸前で踏み止まった。かと思うと、その代わりに両手を握り締めて握手で感謝を伝えた紫音が元気良く走り出した。
「ありがとうチリちゃん! ちょっと外行ってポケモン探してくる!! モノズ、外行こう!!」
「のず?」
「お、おぅ元気やな……。って何や今の変な気遣い!!」
「俺見てサムズアップして行ったな……。変な所で気遣いしやがって……」
「まさかとは思いますが……。彼女、手持ちの半分を預けた理由を忘れていませんか?」
「……大いにあり得ますです……」
アオキの指摘に、小生は今にも飛び出そうとしている紫音を引き止めるべくカイリューを飛ばす。辛うじて建物内で押し留めた紫音とモノズを抱えてカイリューが戻ってきた。
「モノズに手が掛かるからフユウ君に預かってもらったのでしょう。嬉しいのはよく分かりましたから、落ち着いてくださいです」
「ハイ……」
素直に謝る紫音にそれ以上強く言えるはずもなく、小生は困った子だとため息を吐くしか出来なかった。
【 モノズ が紫音の手持ちに加わった!】
控えめな性格。性別はメス、親はハッサク。
紫音ならサザンドラまで進化させられるだろうと、実は性格から全て調整済み。
正真正銘の末っ子。まず匂いを確認してから噛む。家ではセビエ、外ではラクシアが世話を焼く。