パルデア上陸編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……ほぉあ……」
目の前にそびえるアカデミー! 今日は授業選択の助けにもなると学校見学をさせてもらえる事になった。
ハッサクさんが授業が終わった後は、このままリーグ本部にお邪魔して晴れてトレーナーカードも貰えるんだそう! ボックスも使えるようになる!!
そんなウキウキ気分で学校に到着した私は、冒頭の声を漏らしたって訳です。王城か? って言いたくなる大きな扉から入ると、そこは図書室とエントランスが一つになった大きなホールが広がっていた。
「あ、来た来た!」
「お待ちしていましたよお」
「君が編入する事になる総合科一年の担任、ジニア先生と、副担任のゆうあ先生です。お二人とも、彼女が紫音です」
「ジニアせんせ、ゆうあせんせ」
受付の前で笑顔で手を振って私達を呼ぶお二人さん。彼らに歩み寄って紹介してもらうと、ジニア先生がにこやかに笑った。
「お話は聞いていますよお。生徒が増えるのは嬉しいなあ! 一緒に頑張りましょうね」
「ほほぁ」
「私は本当は生物学の補佐役なんだけど、今日に向けてジニアさんとちゃんと準備したし多分大丈夫! という訳で、私が校内を案内するね」
「……なるほどぉ?」
てっきりハッサクさんがこのまま案内してくれるんだと思ってた。でもそうか、ハッサクさんは担当授業がある。融通が効くゆうあ先生にお願いしたって事か。
「じゃあゆうあ先生お預かりします!」
「お借りします、ですよ。預けられているのは君の方です」
「……お借りします!」
「はあい、大事にしてくださいねえ」
ではお願いしますです、と手を振るハッサクさんとお別れして、私はゆうあ先生の後ろについて歩き始めた。
二人が見えなくなった辺りで、私はススス……、と先生に近付く。そして小声でこそっと聞いてみた。
「お付き合いされてるんですか?」
「……へっ!? だっ、誰と!?」
「ほほぅ、誰が、じゃなくて誰と、なんだ」
「……えへん、誰がお付き合いしてるって?」
「なるほど! お似合いだと思いますです!」
「えっ。待って紫音ちゃん!! ……満面の笑顔!!」
「紫音さんはジニア先生とゆうあ先生の仲を応援しています!」
私の目は誤魔化せない! どこが、何で、ってワタワタしてるゆうあ先生を大事にしてくださいねって送り出してる辺りかな……。可愛いのでグッと親指を立てて笑っておいた。
「わー! 待っ、待って! わぁいい笑顔! ……言わないでね?」
「それがご希望ならその様に!」
「待ってすっごく不安なんだけど……」
「大丈夫、秘密は守りますよ!! 二人のラブラブを眺めさせてくれれば!!」
「眺めないでー!」
「イチャイチャして欲しいのは欲しいけど……、何ならアイコンタクトとかしてくれればこっちで勝手に補完するので!」
「じ、ジニアさぁ〜ん!!」
助けを求めるゆうあ先生。ごめんなさいジニア先生……、可愛いので今日放課後までずっとお借りしますね……。
*
*
「……で、ここが私が受け持ってるクラスだよ!」
「あれ? 副担任って言ってませんでしたっけ」
校内の設備や施設、授業風景を説明を聞きながら回る。購買がもはやフレンドリーショップだったり、学食のメニューに驚いたり。
グラウンドでバトル、ポケモンとのコミュニケーション、ポケモンと暮らす世界ならではの授業はもちろん、歴史や数学といった馴染みのある授業まで。
フカマル先輩がアシスタントをしている美術の授業は正直もっと見てみたかったなぁと思っていたら、ゆうあ先生が一つの教室の前に立った。
「うん、兼任って感じかな」
「大変そう……」
「そんな事無いよ! みんないい子だしね」
そう言いながら、ゆうあ先生が教室に入っていく。……え、私も入っていいのかなこれ。
「自習にしちゃってごめんね! 勉強進んでる?」
「ちゃんとやってるよ。今歴史やってたトコ。誰と話してたの?」
「新しく編入してくる子。……あれ? 廊下に立ってないで入っておいでー!」
「お、おじゃましまーす……」
ゆうあ先生に手招きされて、恐る恐る教室に足を踏み入れる。今まで見てきた授業風景と違って、人数はそんなに多くない。でも、七人の視線が一斉に集まるのは居心地が悪かった。
「キンチョーしないで! ボク、ピーニャ」
ゆうあ先生と話していた男子生徒がニコッと笑って自己紹介してくれた。手を差し出されて、ピーニャ君と素直に握手。
続いてメロコちゃん、オルティガ君にしまちゃん……、と紹介してもらっている途中で、すすっ……、と新たな人物が近付いてきた。……この人制服着てない! 先生なのかな……、と首を傾げる前に、彼女はにこっと満面の笑顔になった。
「あなたが紫音?」
「……そ、そうです……」
「そっかぁ! あなたがハッサクのお嫁さんなんだね!!」
「は」
「あ」
「えっ!?」
「……?」
お姉さんの発言に教室が凍り付いた。絶対零度使ったのは誰かな〜? 目の前のお姉さんだねぇ〜。
「……あれ? どしたの?」
「えっ、この人立ったまま気絶してない? おーい、大丈夫?」
「気付けなら任せな。一発入れてやるから」
「……っ、はっ!!」
「あ、戻って来た。よかったね、メロコに入れられる前に気付けて」
「……ちなみにお姉さん……、そのお話はどこから……?」
「お姉さんじゃない。エイル」
「エイルちゃん。そのお話はどこから!?」
肩に手を置いて揺さぶる。わぁ〜、って悲鳴上げてるけどそんなに構っていられません! そんな、情報、どこから!? 誤情報は正さなければなりません!!
「ふ、フカマルちゃんから……」
「フカマルちゃん。もしかしてフカマル先輩だね!?」
「うん、そだよ。ハッサクと添い寝もしたんでしょ? 一緒に寝ると温かいもんね!」
「うわっ、うわあああああ! ああああ!!」
慌てて口を塞いだけど、もう遅かった。こんなっ、みんなの前でそんな事暴露しなくても……!
「ちがっ、違くて……! あの、ハッサクさんはそんなんじゃなくて……」
「エイルさん。事実でも言っちゃだめな事あるんですよー!」
「ゆうあ先生……? えっ、何で、添い寝の事知ってるの……?」
「……あっ!」
何でゆうあ先生も知ってるの!? フラフラ詰め寄ると、先生はしばらく視線をさ迷わせてやっと自白した。飲み会でそんなお話をしたんだそう。盛り上がったんだなって思ってたらそんなお話してたんですか!?
「事実なんだ……。先生がそんなティーンみたいな……」
「違う、あの、聞いて……!」
「小生の紫音って……」
「小生の紫音!? 初耳なんですけどぉ!? じゃなくて、違うんです! いい? エイルちゃんもよく聞いて」
「うん」
「同居はしてます。それは事実」
「……? うん」
「居候ってヤツです」
「いそうろう」
「ペットかもしれません」
「……ちょっと、教室でそういう嗜好暴露するの止めてくれない?」
「ふもがっ」
オルティガ君が持ってたステッキを口にねじ込まれた。物理的に黙らされた私は、ふもふもと口の中で文句を言いながらもとりあえず黙る。顔が燃えるように熱いので、ラクシアを身代わりにしようとしたら拒否された。助けてラクシア……。呆れた鳴き声で返事しないで欲しいな……。
「……まぁ、なんと言うか……。水飲む?」
「たすかりまひゅ……」
崩れ落ちてたら、しまちゃんがお水を渡してくれた。飲みやすい様にキャップを開けて差し出してくれる優しさをありがたく受け取って、私はぐすぐす鼻を啜りながら水を口に含む。
「……我は、人の嗜好は好き好きとの考えゆえ……」
「大声で言う事じゃないという事でしょ?」
「ふふ、しまも今羨ましそうな顔してたもんね」
「びっ、ビワ姉!!」
「でも、お陰でカノジョの緊張感もふっ飛んだみたいだよ」
「誘爆で色々散っていったけどな」
「被害甚大だって……。先生もエイル並の爆弾連れて来ないで欲しいんだけど……」
「えー! 編入する時期が微妙だから、クラスでの授業について行けない時にここに来てもらおうと思って……。いきなり会うより、今の内に顔合わせしとこうと思ったの!!」
「え! じゃあここに来ればまた紫音に会えるの!?」
「……ごろ。ごろー」
「うん? 君ははじめましてだねぇ」
ラクシアがエイルちゃんの足をちょいちょい、とつついた。そのまま何やらお喋りを始めた様子に、私はそっとしまちゃんに聞いてみる。
「あのお姉さんって、ポケモンと話せるの?」
「そうみたい。トレーナーではないんだけど」
「ええ……、いいなぁ……」
「……ポケモンの意志が分かるっていうアプリもあるよ」
「スマホ持ってない……。パルデアに来たばっかりで……」
「そう言えば、あの子はパルデアじゃ見ないポケモンだもんね」
「カイン先生の授業で見た。あのリボンが許可貰ってる証なんだろ?」
「うん、そうみたい。ミズゴロウ、ニックネームはラクシアだよ」
「ちっちゃくて可愛いねぇ」
「可愛くて強いんだよ。……えーっと、あなたの名前は……」
「ふふ、紹介の途中でエイルちゃんのギガインパクトが炸裂したからね。わたしの名前はビワ、何かソワソワしてるのがシュウメイ君だよ」
ビワちゃんが一人ずつ教えてくれた。確かに、何だかシュウメイ君がソワソワしてる。
何だろう、何か聞きたい事あるのかな。この流れだと嫌な予感しかしないけど。
「シュウメイ君、何でしょうか……」
「そ、添い寝のシチュエーションをお尋ねしたく……」
「ぐはっ」
「シュウ君のトドメばりだ……!」
やっぱりそうですよねー。もう何も隠す事は無いし、話してる間に気持ちを落ち着かせようと思った私はぽつぽつ話し始めた。
ゴースの毒ガスを吸い込んで低体温になった時に、ハッサクさんに添い寝をお願いした事。相棒のラクシアは水タイプでひんやりしてるし、一番温かいのはハッサクさんだと思ったから、と理由まで一通り話すと、何故かシュウメイ君に視線が集まっていた。
「……今のシュチュエーションだと、添い寝してもらうのはシュウメイだろ」
「……ほぅ? 詳しく」
「えー、どうかなぁ。オルティガ君じゃない?」
「は? オレはそんなブザマ晒さないけど?」
「……ふぉう? しまちゃん、君はいったい何者なの?」
「私は坊っちゃんのメイドです」
「へぇ〜! メイドさん! 納得の気遣い!」
だから、さっきお水渡してくれる時も飲みやすい様に蓋開けてくれたんだ! 細やかな心配り!
あれ? そうなると同時に話題に上ったシュウメイ君は……。
「…………。なるほど!」
「……えっ」
「察した」
「何を」
「お付き合いされてどのくらいですか?」
「ひゅっ」
「あっ、それともまだ……、な感じですか?」
「……シュウメイ!? ……マジか、コイツさっき戦闘不能にされたのに……」
「死なば諸共!!」
シュウメイ君、撃沈。勝利のポーズを決めて拍手喝采を受けていた私は、ピーニャ君の控えめな声に大事な事を思い出した。
「あー、盛り上がってるトコロ悪いけど、あっちの盛り上がりは放置してていいの?」
「えっ」
「ゆうあ先生がキミの相棒に怒られてるみたいなんだけど」
「えっ!?」
そう言えばそうだ。ポケモンと話せるお姉さん。そのお姉さんの所に近付いて行ったラクシア。……いや、もう何も暴露される事は無かったはず! ……はずだけど、とりあえず回収しようそうしよう!!
「ラクシア〜? そろそろ戻って来て欲しいな〜」
「今ゆいちゃんとお話してるから待ってね」
「何を話してるの……?」
紫音、困惑。いや私だけじゃなくて教室にいる皆が困惑の顔をして二人とラクシアを囲む。何たって、ゆうあ先生が何故か床に正座してるから。
「ごろ、ごろろごろごろ」
「……ハッサクが遅いから、紫音は寂しがってたんだって」
「びぇっ」
「それは本当に申し訳なく……。ジニアさんの言う事にも一理あるかなって……、思って……」
「……ろろん。ごろ」
「待って……、ちょっ、ラクシア! エイルちゃん通訳しないでっ……」
急いでラクシアを抱っこして、エイルちゃんに通訳を止める様に言ったけど間に合わなかった。
「泣いてた」
「泣いてない! ……ラクシアもセビエもいたから寂しくない!!」
「はぁ……、エイル、そろそろ黙れ」
「ふもっ!?」
メロコちゃんがポケットからアメを取り出すと、ポイッとエイルちゃんの口に放り投げる。見事なコントロールでエイルちゃんの口に吸い込まれていったアメに驚きながらも、エイルちゃんはすぐに嬉しそうに笑った。
「……エイルも悪気は無いんだよ……。だから立ったまま燃え尽きるな」
「……はっ。私はどこ? ここは誰?」
「迷子かな? あなたは紫音、ここは教室」
「ふふ、楽しい人が来てくれて嬉しいよ!」
「はは……、はははは……」
ぽんぽん、と励ますように肩を叩かれながら、隅々まで暴露されてしまった私はもう笑うしかなかった。
*
*
「うう、酷い目に遭った……」
「……いいヒトなんだよ。嫌いにならないであげてね」
「もう隠す事無いから、大丈夫だと思う……。エイルちゃんがいれば、ラクシアとお喋り出来るって事だし!」
そう、ポジティブに考えよう。
あの大混乱の後、皆でお昼ご飯を食べた私は、再びゆうあ先生と校内の見学を再開した。とは言っても、施設はほぼ見て回ったそうだから、残りは何を紹介してもらえるんだろう。
「紫音ちゃんはバトル好き?」
「……うーん、バトルよりコンテストとかそっちの方が好きですね。見る分にはどっちも好きだけど」
「そうなんだ! アカデミーではね、時々学校最強大会っていうのが開かれるんだよ」
「へぇ〜」
「誰でも参加出来る大会でね。チャンピオンランクの生徒はいきなり本戦から出場出来るんだけど、一般の生徒は予選を勝ち抜いた生徒が本戦に出場、ってルールになってるの」
まぁ、本戦まで勝ち上がれる子は多くなんだけどね、と苦笑いをしながら、ゆうあ先生はアカデミーのエントランスに戻って来た。
「それでね、今日はその本戦が開催されるんだよ! 何とその本戦には……、私達教師も参加出来るのです!」
「へぇ〜! ゆうあ先生が戦ってる所観てみたいです!」
「あ、私今回はエントリーしてないんだぁ」
「えっ」
てっきりゆうあ先生がバトルする流れなんだと思ってたからズッコケた。不定期にやる……、季節ごとにやる球技大会みたいなイベントかな? いよいよ学校って雰囲気だ。
「校内イベントなら、グラウンドでやるんですか?」
「違うんだなぁ、これが! 学校最強大会はね、誰でも観戦出来るように街のバトルコートでやるんだよ」
「バトルコート?」
「そう! この長ーい階段の下見て! 盛り上がってるでしょ?」
「おお……! 人がたくさん……」
ゆうあ先生が指差した先。とんでもない階段の下では、バチバチと白熱したバトルが繰り広げられている。
……ん? あれ、バトルしてる人見覚えがあるような……?
「ちっちゃくてよく見えない……」
「あ、あれは……! 紫音ちゃん、早く行こう!! 多分決勝戦だよ!!」
「え、えぇー!? ちょっ、ゆうあ先生待って!!」
決勝戦!? すっごく白熱してる観客達の隙間を縫うように進むゆうあ先生にぐいぐい引っ張られて進んでいくと、熱気と盛り上がりが大きくなってきた。
見覚えのある人、あるじま君の近くに陣取ったゆうあ先生が目を輝かせる。
「あー! やっぱりあるじま君だ! 相手はハッサク先生だね!!」
「ハッサクさん」
「いけー! そこだ、あるじま君!!」
あるじま君の赤いワニみたいなポケモンの向こう側。火の鳥に焼かれたアップリューがハッサクさんの手元に戻っていく所だった。
「ふぅ、終盤だった〜! 良かったね、間に合って!!」
思ってた校内イベントじゃなかった。街の人皆が応援してる。こういう楽しい空気は嫌いじゃない。ゆうあ先生があるじま君を応援するなら、私はハッサクさんを応援しよう。
「は、ハッサクさん頑張れ〜……!」
「ほら! もっと大きな声で!!」
「が、頑張れ〜!」
何とか声を捻り出す。でもまぁ、この歓声にかき消されてハッサクさんには聞こえないでしょう! ……と思ってたら、ハッサクさんと一瞬目が合った。ハッサクさん普段ニコニコしてる印象しか無いから、キリッとしたその顔に息を飲む。そして次に繰り出したのは……。
「ほぁ……、セグレイブだ……」
「ハッサク先生最後の切り札! セグレイブだ!!」
「えっ」
切り札。最後。ハッサクさんが押されてる。
あるじま君チャンピオンって事は、四天王のハッサクさんも一回は負けてるって事なんだけど。でも、あるじま君も最後の一匹かも知れないし!!
「竜は頂きこそふさわしい! セグレイブ、あなたの色で塗り潰しなさい!!」
「ほわぁ」
その言葉と共に、ハッサクさんが黒いボールを掲げた。……かと思うと、そのボールを中心に風が吹き荒れる。
髪の毛がバサバサするくらいの突風の中微動だにしないハッサクさんが、ボールを見て笑った。……見た事が無い笑顔。ニヤッと笑う感じ。
そのボールをセグレイブに向けて投げると、セグレイブが結晶に包まれて……、再び姿を見せた時はクリスタルの身体に変わっていた。
なっ……、何あれー!?
「か、かっこいい……!!」
「……うんうん。かっこいいねぇ」
「ゆうあ先生! あれ何!? セグレイブが結晶に!!」
「……え、そっち?」
隣のゆうあ先生の肩を叩いてセグレイブを指差す。何かにんまり〜って顔してたけど、テンション上がってる私にとってそんなの些細な事だった。
「先生!」
「あ、うん。あれはね、パルデア特有の現象、テラスタルって言うんだよ」
「テラスタル! 凄い!!」
キラキラしてる〜!! 頭に冠乗ってる!
「ラウドボーン! シャドーボール!!」
「ボォワーン!!」
「セグレイブ、氷のつぶて! 叩き割ってやりなさい!!」
「ギュワーン!!」
先に指示を出したあるじま君のラウドボーンがシャドーボールを作り出すわずかな時間で、セグレイブが氷を投げ付けた。少し気を取られたのを見るなり、ハッサクさんの声が飛ぶ。
「きょけんとつげき!!」
「ギュオワーン!!」
冠からエネルギーを放つと、セグレイブが背中を丸めて突進してきた。凄い迫力、ラウドボーンは……、いない! そっか、あの技は背中の大きなヒレで攻撃するから、一度動き出したら前が見えない!! だから先に意識を向けて、少しでも動きを止める為にまず氷を投げ付けたんだ……。
「今度は決めるぞ! ラウドボーン、もう一度シャドーボールだ!!」
「ボワーン!!」
「ここに来る前に、あるじま君フレアソング使ってたからなぁ……。何度も受けるのはセグレイブでも……」
「がっ、頑張ってセグレイブ!!」
「……ッ、ギュワン!」
祈る様にセグレイブを呼ぶ。応えてくれたセグレイブにホッとしたのも束の間。
「……きょけんとつげきはね、一度使ったらしばらく受けるダメージが二倍になるんだ」
「……えっ、それじゃあ……」
「あれ、実はすっごく痛い」
ゆうあ先生の解説と共に、セグレイブが膝を付いた。次の瞬間。
パリンっ──
「え……」
「ギュワ……、ァア……」
「砕けっ……!? セグレイブ!!」
セグレイブの身体が砕け散った。戦闘不能になったセグレイブがハッサクさんの手元に戻って行く。そのまま戦闘終了。観戦してる人みんなが当たり前の様に日常に戻って行くのを呆然と見ながら、私はゆうあ先生に肩を叩かれるまで動けなかった。
「……ちゃん。紫音ちゃん!」
「あ……、ゆうあ、先生……。っ、そうだ、セグレイブは……?」
「テラスタルは初めてか?」
「……あるじま君」
「セグレイブ自身が砕けた訳じゃないから、そんな青い顔しなくても大丈夫だよ。詳しくはアカデミーでお勉強する事だからな」
「……うん……」
「じゃ、俺は……、」
「あ! あるじまだ!!」
「……逃げる!!」
その時、学校の方からエイルちゃんがやって来た。手をブンブン振ってこっちに走ってくるのを見るなり、あるじま君は体を翻して走り出す。
「待って〜! さっきラクシアちゃんに聞いたんだけど……」
「……えっ!?」
それはつまり私に関係しているという事では!? 砕けたセグレイブとは違う意味で青ざめた私の腰から、ラクシアが飛び出す。そのままエイルちゃんの胸に飛び込んだ。
「わぁ、ラクシアちゃん!」
ぽむっ、と前足でエイルちゃんが喋る前に物理的にロック。可愛い!! 私にもあれやって欲しい!
「ふもっ。……うん、ごめんなさい……」
「……ラッキー。じゃ、教室で会ったらよろしくな」
何だかエイルちゃんを見るなりあるじま君が不機嫌になった。ラクシアとお喋りしてる間に、これ幸いと立ち去って行く姿を見送って、私はエイルちゃんを振り返った。
「あ、紫音もいた!」
「ずっといましたー!」
「あれ? あるじまは?」
「アカデミーの方に行ったよー」
「えー! むぅ、用事があったのに! ゆいちゃんには後で聞きに行くね!!」
ぷくっとほっぺたを膨らませたエイルちゃんが、ラクシアを私の腕に戻して来た道を戻って行く。……何だったんだろう。
「……私にも用事……、って事なのかな……?」
「……あの様子だと……。ラクシアストップが掛かったみたいですけど」
「うーん……。……いや、まさか……、ははは……」
何か思い当たる事があったのか、ゆうあ先生は明後日の方向を見て乾いた笑い声を上げた。
*
*
「改めて聞きたいんだけど」
「ふぁい」
照り焼き味をスイーツにしてしまったアイスを食べていた私は、先にアイスを食べ終わったゆうあ先生に笑顔で問い掛けられた。
「紫音ちゃん、ハッサク先生の事好きなんでしょ?」
「……ノーコメント」
「紫音ちゃん」
「アイスが溶けるので!」
「待ってるから!」
「……うー……」
アイスが溶けるからと言う言い訳は通用しなかった。紫音は逃げられない! 大人しくアイスをもそもそ食べるけど、さっきまで美味しかったアイスの味がもう分からない。
「……それで? ハッサク先生好きなの?」
「あー……。……あー……、仮にそうだとしましょう。これは仮定の話ですからね?」
「うんうん」
「……居候させてもらってるのに、好きだなんだって話まで加わると、ハッサクさん困っちゃうじゃないですか。それに、ハッサクさん多分『パルデアで行き場の無い君が自分の身の安全を確保する為に、保護者である小生に好意を抱いているのだと勘違いしてもおかしくありませんです』って言うと思うんです。……行き場が無いのは確かだし……。まぁもしもの時があったらアカデミーの寮に入れてもらえればありがたいですけど、何だかんだハッサクさんとの同居生活楽しいんです」
そう、楽しい。セビエとお留守番して、ドラゴンポケモンに構ってもらって、ハッサクさんとお喋りして過ごす。穏やかでとても楽しい日々だ。
「考えてみてくださいよ! 告白して振られた人とこれまで通り同居生活出来ます? ギクシャクするでしょ? そんなの楽しくないじゃないですか! せっかく"今"楽しいのに、それを壊したくないからこのままで……、このままがいいんです」
「紫音ちゃん……」
「……あーっ! そうだ先生もジニア先生とお付き合いしてるの秘密にって言ってましたね! 私も言わないので先生も言わないでくださいよ!! 言ったら大声で叫びながら校内一周しますから!!」
「わ、分かった! 分かったから止めてね!?」
「約束ですからね!!」
「はい、約束。……それで? 好きなの?」
何でそこに戻ってきちゃうの!? 先生確信持ってますね? それは困るんですよ〜!!
「……ううー! 分かりませんよっ! 恥ずかしいが先に来るので!!」
「ふふふ、そっかぁ……! ……告白は? 先に進めるとしたら告白する?」
告白? 誰が誰に?
紫音が、ハッサクさんに……? いやいやいやいや!!
「しませんよ! ゲームでしか恋愛した事無いのに無理ですって! ステータス上げる系なのか、それとも選択肢によってルート変わる系なのかも分からないのに! 失敗したからってロードしてやり直す事も出来ないのに! それなら現状維持が一番良いに決まってます!! 嫌われたくないんです!!」
「……それはもう好きって事じゃ……」
「わぁー!!」
決定打! それは困る!
意識しない様に自分に言い聞かせてたのに、エイルちゃん爆弾辺りから情緒がおかしい。
落ち着こうと思って目を固く閉じる。……ダメだ、さっきの強風の中笑うハッサクさんが浮かんできてしまった!
「うう、それ以上言わないでください意識しちゃったら顔も見れなくなっちゃう現状維持出来なくなる! 嫌だ……、そうなったら私どこに行けばいいの……」
「……紫音ちゃん……」
うつ向いた私の背中を優しく撫でてくれるゆうあ先生。でもこうなったの先生のせいなんですけど。……違う、先生だから人をよく見てるって事なんだろうな……。あと歳が近いから? 分からない……、紫音センサー、人には反応するのに自分にはさっぱりだから……。
「ごめんね……。言わないから安心してね! 誰にも何も言わないから! ねっ!?」
「お願いします……。……すぅー、はぁ……。……よし!!」
思いっ切り深呼吸。大丈夫、私は大丈夫!! 何故なら……、私はペットだから!!
「友好関係維持! 私はペット!! それなら小生の紫音発言も納得! 問題無し!!」
「……えっ、いやでもペット自認はどうかと思うな……」
「……じゃあ何ならいいんですかっ?」
「うーん……、フカマル先輩の手下、とか?」
「先輩の手下! じゃあ先輩に焼きそばパンとかカレーパン買って帰ろう!!」
「それだとしたっぱかな……」
「えー!?」
わぁわぁと賑やかなお喋りは、ジニア先生がゆうあ先生を迎えに来るまで続いた。ハッサクさんは学校で待ってるとの事なので、二人を見送った私は長ーい階段を、登って……、何とか……、アカデミー正門前に……、戻ってきたのだった……。
まさか毎日これ登るの……? 死んでしまいますが?
人目もはばからずにずべっ……、と地面に倒れてしまった私は、近付いてきた足に何とか顔を上げる。あ、ごめんなさい邪魔ですよね……。
「その調子では、毎朝の登校は大変そうですね」
見上げた先では、ハッサクさんが笑っていた。さっきまでゆうあ先生とハッサクさんがどうのって話をしていたから、ぽかんとした顔になる。
「……あ、ハッサクさん! さっきのバトルカッコよかったですよ!!」
「やはり君の声だったのですね」
「セグレイブが結晶になって! あれ凄いですね!!」
「……そうでしょう! テラスタル現象は謎が多い現象ではありますが、同時に美しい現象でしょう?」
「はい、とっても! あの冠、タイプ毎に変わるんですか?」
「学業に熱心なのはいい事です。帰ったら少しそのお話をしましょうね」
「はい!」
良かった、普通に話せる。話しながら起き上がって、ハッサクさん横の所定の場所に付いた。それを待って歩き始めたハッサクさんについて行きながら、私はゆうあ先生の言葉に頭を振る。
『先に進めるとしたら告白する?』
私はやっぱりこのままがいい。
現状維持は後退だって誰かが言っていたけど、現状維持も大変なんだぞ、と顔も知らないその人に心の中で文句を言っても、バチは当たらないと思う。