パルデア上陸編
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『今日は同僚の先生方と食事をしてから帰りますです。食事はこのサイトからデリバリーを頼んでください』
そう言って出掛けたハッサクが、全然帰って来ない。
皆でご飯も食べたし、シャワーも済ませたし後は寝るだけの時間になったのに帰って来ない。セビエも何度かウトウトしては、外でタクシーが羽ばたく音が聞こえる度に玄関に走っていく。それでもまだ帰って来ない。遅すぎる!!
「……飲み会、盛り上がってるのかなぁ……」
『そうなのかも……。寂しい?』
「あは、寂しいって聞いてる? うーん、そうなのかも……。もうこの時間はハッサクさんとご飯も食べてのんびりお喋りしてる時間だから……」
『ボクも寂しい! だから抱っこして!!』
『今僕が抱っこしてもらってるからダメでーす』
『膝は二つある!』
『どっちも僕の……、ああっ!』
膝の主導権を賭けてわぁわぁ言い争ってたら、紫音が僕達をまとめてぎゅっと抱き締めた。
「うう〜……、ラクシアとセビエいてくれてよかったぁ……。……ハッサクさん、早く帰って来ないかなぁ……」
さびしい。小さな声だったけど、ぎゅっと抱き締められてる僕達にははっきりと聞こえた。顔を見合わせて、同時に紫音の頭を撫でようと手を伸ばす。届かなかったからほっぺたを撫でた。
『紫音弱い。守らなきゃ……』
『紫音、知らない所に来たし不安なんだよ』
『ここにいる間はボクが守るからね!!』
『は? 僕がいるんですけど』
『オマエはテーサツ係。得意なんでしょ?』
『いやそうだけど……、……あ!』
紫音を慰めていると、玄関の方から気配が。ヒレをピンッ、と立てた僕に、紫音もセビエもハッと立ち上がる。
「帰ってきた!?」
『帰ってきた!!』
『遅い遅いぞーっ! やっと帰って……』
廊下への扉を開ける。その瞬間、セビエが小さく悲鳴を上げて立ち止まった。それは僕も同じ。何だか嫌な気配がして、思わず立ち止まった。
「ふぁ……、おかえりなさい」
「紫音……、起きていたのですか?」
「……テレビが面白くて!」
「……そうですか」
紫音は気付いていない。……違う、人間は気付かないんだ。セビエなんて怒ってプルプルしてるのに!
『……紫音に近付くな!!』
「ラクシア!?」
『しんっじられない!!』
『ハッサク臭い! 知らない臭いがする!!』
「セビエもどしたの!? そんなに寂しかったの?」
『ちーがーうー!!』
「違うっぽい! わぁ、ハッサクさん! 待っててくださいタオルを……」
『いいよ、放っとけば』
「セグレイブ!?」
ハッサクが紫音に近付く前に、玄関にいるハッサク目掛けて思いっ切り水を吐きかける。
頭からずぶ濡れになったハッサクが困惑しているのを横目に、悠々とセグレイブが家に入ってきた。
何をするのかとちょっと警戒したけど、セグレイブは紫音を抱き締める。突然の事に紫音も困惑、ハッサクも呆然としていた。
「お、おぅ……。どうしたの……?」
『……やっぱり紫音の体温がちょうどいい……、さっきのメスみたいに臭くないし』
『……さっきのメス?』
『……にーちゃん! どういう事!?』
『フーゾク帰りだよ。ハッサク、他のメス抱こうとしたんだ』
『はぁー!?』
「……セグレイブ。……なっ!?」
『浮気ってコトー!?』
紫音を待たせておきながら! 自分は外でメスを抱いてきたなんて!!
嫁にする、とか婿に貰う、とかそんな話してたけど、とんでもない!! そんなオスを紫音と番わせるなんて絶対許せない!!
『浮気だ』
『オレもそー思う』
『許せないよなぁ』
『その子は知らない方がいいと思うけど……』
『ハッサクが駄目なら、俺達が守ってやるしか無いよ』
『美味いしな』
『オンバーンは食べようとすんな』
『イテッ』
ハッサクのポケモン達が、どんどん紫音の所に集まっていく。集まるだけじゃなく、ぎゅうぎゅうと密着している。口々にそんな事を言いながら、まるで紫音を慰めるかの様に頭を撫でた。力加減が下手っぴなのか、オンバーンにワシャワシャされて頭がグラグラしてる。
「は、ハッサクさん助けて〜!!」
「……っ! こら、お前達!!」
誰も返事をしない。プイッ、とそっぽを向いたまま、紫音を構い続けてる。
「ちょ、皆廊下埋まってるから……! ハッサクさんもずぶ濡れ……」
『いいから。気にしないで』
「あはは〜、もしかして皆、私のこと寂しんぼだって思ってる? 大丈夫だから、ねっ!?」
『さびしいって言ったクセに……』
『ボクより寂しんぼだよぉ……』
元気に笑った紫音だったけど、僕とセビエの呟きに皆が顔色を変えた。
遅くまで待ってた紫音。寂しいって気持ちを隠して笑う紫音。うん、ハッサクにやるなんてとんでもない!!
『……こっちは任せろ』
『ちゃんと寝かし付けるよ』
「ってあれ〜!? ちょ、どこに連れて行くの!? もう寝ろって!? 皆待ってよ〜!!」
「…………」
ドタバタとハッサクのポケモンに抱えられて、小さくなっていく紫音の声。ハッサクと違って、ちゃんと寝かし付けてくれるハズ!
後は……。呆然と紫音を見送ったハッサクをぎろりと睨む。セビエと唯一この場に残ったハッサクの手持ち、フカマル先輩で揃ってシャワールームを指し示した。少なくとも、洗い流すまで家には入れない。
「……帰宅の挨拶を交わしていませんです」
『そんなの今どーぉでもいいでしょ!!』
「うぐっ……!」
小さな体だからって馬鹿にするなよ! ロケット頭突き……、は覚えられないけど、気分はロケット頭突きの勢いだ! ハッサクの腹に見事な頭突きをくらわせると、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「な、何を怒っているのですか……?」
『はぁー!? 何を怒っているのか!? そんなのも分かんないの!?』
『紫音じゃなきゃ駄目だったみたいだけど。まぁ、良くは無いよな!』
『えぇ!? そんなの当たり前じゃない? だってボク達、番を見付けたら他のメスに目移りしないように……』
『それオレ達の話。ハッサクは人間』
『……あっ!』
「あの、フカマル先輩……? 何を言って……」
『そんな事今どうでもいいでしょ!? 紫音に寂しい思いさせといて! こんなくっさい匂いと帰ってくるなんて!!』
『それはそう』
ワハハ、と陽気に笑ったフカマル先輩が、僕達の会話を困惑の表情で眺めるハッサクを振り返る。
『ま、とりあえず臭いからシャワーな』
「……とりあえずシャワー、それは分かりましたです……」
フラフラとシャワールームに消えていくハッサクを見送って、僕とセビエはプンプン怒ったまま紫音の寝室に戻ってきた。ドラゴンに囲まれて、戸惑った顔をしていた紫音は、僕の顔を見てちょっと安心した顔になって……、そして怒った顔になった。
「ラクシア、あんなに手酷いお出迎えしちゃダメだよ」
『……だって臭かった……。それに、紫音をこんなに待たせて外で遊んでるなんて……』
「理由があってもいきなりはダメなんだぞぉ。セビエも。寂しかったからってあんなに怒らなくても……」
『さびしくないっ! よそ者の臭いがしたから追い払おうとしたの!!』
「うーん、怒ってる事しか分からない……。とりあえず、明日一緒にごめんなさいしようね」
『『しない!!』』
「えぇ……」
『ハッサクの問題だからなぁ。とりあえず反省は必要じゃない?』
『おーい、ハッサクシャワーから出てくる。たぶん真っ直ぐにこっち来るぞー』
悪いのはハッサクなのに、何で僕達が謝らなくちゃいけないんだ! ふんす、と怒りで鼻を膨らませていると、フカマル先輩が部屋に顔を出した。
『……入れないで!』
『はーい。……あ、オレじゃ抱えられるから誰か頼む』
『じゃあ自分が守る』
『ドラミドロ助かる。……あ、おーい後ろ。紫音食われてるけど』
『柔らかさの奥にある骨の硬さ』
『食レポするな!!』
『イタッ』
セグレイブの爪でバシッと引っ掻かれたオンバーンは、すごすごと部屋の外に出て行った。ドラミドロと並んで扉の前に陣取ると、扉の隙間からこっちをじっと見ている。
『ハッサクが食べないならオレが……』
『あげないよ!? 僕のトレーナーなんだから!!』
『まぁまぁ! ほら、紫音も遅くまで起きてて眠そうだし、みんな寝よう! ハッサクは知らない!!』
カイリューが皆に声を掛ける。確かにもう遅い時間だ。そろそろ寝なきゃいけない。
「……みんな一緒に寝てくれるの?」
『……うん』
「えへへ、あったかいなぁ」
ふにゃふにゃした笑顔でそんな事を呟いて、紫音はあっという間に眠ってしまった。その寝顔を眺めて、僕も眠りに就く。扉の向こうで、ハッサクとドラミドロ達が攻防している気配を感じながら。
その次の日に、危ないハッサクが紫音を食べようとするなんて、誰が想像できる? ハッサクのポケモン達も、今は紫音を助けてくれるけど……、いつまで助けてくれるか分からない。
が、がんばらなきゃ……! 紫音は僕が守る!!