パルデア上陸編
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パルデアに来てから三日目。今日は、ハッサクさんの同僚の人が予定を合わせてくれたそう。
何だかしれっと文字が読めるようになっていたり、ハッサクさんに合わせたキッチンでは洗い物すら出来なかったり、昨日は昨日で色々な事があった。まぁでも、文字が読めるようになったのはとても助かる! こういうのは生きていく為にも必要なスキルだからね! 後はこの時代の常識を勉強していけば、案外この世界に馴染むのも早そう。
「用意は出来ましたですか?」
「はい! 出来ました!」
今日着ているのは、この前とりあえず自分で選んだ服じゃない。ラクシアと色を合わせた水色のトレーナーワンピースだ。何とこの服、フードの部分にジッパーが付いていて服の形が変わるらしい。足はタイツを履いてスニーカーで良いし、可愛くて楽っていうのはとても助かる。今日はとりあえず、フードを開いて着てみる事にした。
「最近の服はおしゃれなんですねぇ」
「今日案内をお願いした女性は、小生よりもそういう事に詳しいと思いますです。ふざけた態度ではありますが、頼りになりますよ」
「はぇ〜。どんな人なんだろう」
「既に顔を合わせていますよ」
「え?」
パルデアに来て顔を合わせた人。まずハッサクさん、クラベル校長先生、後は理事長さんと……、面接官の人だ。理事長なら理事長だって言うだろうし、そうなると残るのは面接官さん。
「面接官さんですか?」
「正解です。彼女と、もう一人あなたに興味があるという方が一緒です」
「ほほぉ」
「では、待ち合わせ場所に行きますよ。今日はハッコウシティに向かいます」
「ハッコウシティ」
光ってそうな名前だ。どうやら海辺にある街らしく、カラフシティとはまた違った賑わいがあるんだそう。楽しみだ!
すっかり慣れた空飛ぶタクシーに揺られてしばらく。高いビルが並ぶ街が見えてくる。何だろう、ラスベガスみたいな雰囲気だ。カジノとかありそう。ゲームで何度も見たホウエンのミナモシティも港町だったけど、ハッコウシティは何と言うかこう……、ギラギラしてる大都会!
「ほぁ〜! 大都会だ!!」
「夜になると、百万ボルトの夜景と呼ばれる絶景が臨めます」
「痺れそうな夜景ですね!」
「痺れるかどうか、実際に目で見て確かめてみますか?」
「良いんですか!?」
「えぇ、もちろんです。小生も今日の授業は夕方までには全て終わりますから、一緒に見ましょうか」
「やったぁ! 楽しみ!!」
楽しみが出来た。ルンルンで外を眺めていた私は、落ち着きなさいと言わんばかりにハッサクさんに頭を撫でられた。そのままサイドテールに結んだ髪の毛に指を通して、ハッサクさんの手は彼の膝の上に帰っていった。
パルデアはヨーロッパ式なのかスキンシップが多いよぉ……! 顔が真っ赤になっちゃう……。そんな微妙に居心地が悪いままポケモンセンターの近くで降りて、約束のお店の前まで向かう事に。
降りた途端、さっきの雰囲気を気にする余裕が吹っ飛んだ。だって、大きな電光掲示板が何枚も! あっ、見た事の無いポケモンを連れ歩く人! パルデアは連れ歩きオッケーなんですね! 向こうから何だか美味しそうな香り……、見たい物が多すぎる!
「こら、紫音」
「……ふぉ? あっ、はいっ!」
キョロキョロしてたら、ハッサクさんが立ち止まって手招きしている。慌てて追い掛けると、ハッサクさんは困った様に笑った。
「興味が惹かれる物が多いのは構いませんですが、人が多いのであまり小生から離れないでくださいね。はぐれてしまうと、君はスマホを持っていないのですから探すのも一苦労です」
「ご、ごめんなさい……!」
それはそうだ。こんなワヤワヤと賑やかな街の中で人を探すなんて大変すぎる。それが連絡手段を持っていないとなると余計に。
じゃあはぐれない様にする為に確実な方法は……。手を握るのは、子供じゃないんだしちょっと恥ずかし過ぎる。
目の前でヒラヒラしてる背広と一体化したマントは? ……握ったら伸びない? そんなに安い素材じゃないとしてもシワになっちゃうよな……。
うーん、と悩んだ私は、指先でそっとハッサクさんの二の腕辺りの服をつまんだ。これならシワになりにくいだろうし、もし私がうっかり立ち止まっちゃってもハッサクさんにすぐ伝わる……、はず!
「……!」
恐る恐るだったけど、背広を握ったと気付いたハッサクさんがビックリした顔で振り返った。
「……あ、シワになっちゃいますかね……?」
「……いえ……、いえ、不意に引っ張られたので少し驚いただけです」
「あ……、そっか声掛けてからの方が良かったですね。ごめんなさい」
めちゃめちゃ困らせてしまったぁ……。また気まずくなって手を離した私に、ハッサクさんは優しく笑って私の手を握る。さっき握った所に導いて、ここを握っておくようにと付け加えて。
「構いませんですよ。はぐれない為にでしょう? もっとしっかり握っていてください」
「そ、そこまでフワフワしてません!」
「おや? しかし先程は、風も無いのに流されていくハネッコの様でしたが……」
「うぐぐ……、ちょっと風に流されただけです!」
「では、そういう事にしておきましょう」
何て楽しそうに言うんだ! ぐぬぬ、と唸る私を他所に、ハッサクさんは歩みを再開させた。歩く先には、見覚えのあるスレンダーさんと……、ちっちゃい女の子が並んでベンチに座っている。
「チリ、ポピー。お待たせしましたですよ」
「大将、大遅刻やで」
「ハネッコがあちらこちらに飛び回るものでして」
おお……。関西弁……、じゃなくてコガネ弁だ。面接の時はバリバリの敬語だったのに、今はそんな様子一ミリも無い。
その会話を横に、ベンチからぴょいっと飛び降りてきた幼女がハッサクさんの周りをくるくると回る。
「ハネッコ? どこにいるんですの?」
「小生の後ろに」
「え? どこ?」
幼女と揃って辺りを見渡す。ハネッコなんてどこにもいないですけど……。あ、私のハネッコの事? でも私のハネッコはボールにいるし……。
「……君の事ですよ、紫音」
「おねーちゃんはハネッコなんですの?」
「違いますね」
「……パルデアの外から飛んできたっちゅー話なら、まぁその例えは大正解やな」
「まぁ! おそらをとんできたんですの?」
「穴に落っこちてパルデアに来ました」
「……?」
不思議そうな顔された。うーん、まぁ確かに穴に落ちてパルデアにって言われても分かんないよね。……もしかしなくても、理解してくれたハッサクさんやクラベル先生が珍しいのでは?
「まぁ、難しい事は置いといて。改めまして、チリちゃんやで」
「チリチャンさん」
「ちゃう、チリちゃん。チリが名前や」
「えっ」
そう言えばさっき、ハッサクさんはチリチャンって呼んでなかった!
「自分おもろいなぁ! 気に入ったわ」
笑いのツボにハマったのか、チリチャン……、もといチリちゃんは笑い声を上げるとベンチから立ち上がる。パルデア式の挨拶が来るのかと思わず身構えた私の前に、スッと手が差し出された。
「ウチ、まだパルデア式の挨拶に馴染み無いねん。自分もこっちの方がええやろ?」
「……!」
そう言って手を取られて握手をされた。身構えていた私は、その握手に感激して思わず両手でチリちゃんの手を握り締める。
「そうなんです〜! 皆ほっぺ挨拶だったら心臓何個あっても足りないって思ってたぁ!!」
「お、おぅ……。元気やな……」
困惑のチリちゃん。分かってくれる人がいて嬉しいからってちょっと距離感間違えた……! 慌てて手を離すと、挨拶の順番を待っていてくれた幼女が小さな手を差し出してきた。
「ポピーですの! ポピーにもあくしゅのあいさつをおねがいします!」
「ポピーちゃん! はわぁちっちゃい手かわいい〜!! 私は紫音です、ハッサクさんの所でお世話になる事になりました!」
「ここだけのおはなしなんですけど……、ハッサクのおじちゃんはなきむしなんですよ!」
「な、なんだって……!」
いや知ってるけど。泣き虫と言うか感激屋さんと言うか……。でもそれを言っちゃうと、せっかく教えてくれたのに悪いからね。紫音はお姉さんなのでそういう機転も利くのだ、えっへん。
「大将、とりあえず今日は服と女の子の買い物って事でええ?」
「はい、お任せしますですよ」
「はいはい、お預かりしますよっと」
「荷物は……、そうですね、小生の自宅宛にデリバード便を頼んでください。メモを渡しますです」
今日使う分のLPの受け渡しと、送り先のメモを書いてチリちゃんに渡す間、ポピーちゃんの横にお邪魔した私に、ポピーちゃんがニコニコと微笑みかける。
「よかったですね! たくさんかってもこまりませんよ!!」
「あ、そんなに買うつもりは……」
「ごっ……!?」
最低限買えればいい、と言うつもりの言葉は、チリちゃんの驚いた声に引っ込んだ。何やらスマホの画面を見て固まっている。
「どうしましたの?」
「余ったら好きに飲み食いなさい」
「……ハッサクさん、チリちゃんとポピーに任せとき。紫音は立派なお嬢さんに進化させてお返しするわ」
「リッパナオジョーサン」
話が見えない。困惑する私を他所に、チリちゃんは目を輝かせて私の肩を叩く。
「行くで! 時間は限られてるんやから!!」
「あぁ、チリ。最後に一つ」
「何? 別れの挨拶でもするんか?」
「えっ!?」
心臓が足りないって話をしたばっかりなのに。慌ててチリちゃんの背中に隠れると、ハッサクさんはやれやれとばかりに肩を竦めた。
「あいにく逃げられるので今はしませんです。……夕暮れが近くなったら特に、紫音から目を離さないで欲しいのです」
「……何や過保護やなぁ。ポピーかてチリちゃん達が一緒ならそんな事言わへんのに」
「いえ、それが……。少し目を離すとすぐに目に付くポケモンを口説く悪癖がありまして……」
「悪癖って!」
「ラクシア……、ミズゴロウ以外の手持ちの子は全て口説いたポケモン達なのです。興味を持ったポケモンを追い掛けて何処まで行くやら……」
……むぅ。ちょっと目に入ったポケモンに声掛けたりしただけなのに! ホウエンにもシンオウにもいないポケモンなんて、そりゃ興味津々になるでしょ!
だからチリちゃん、不満を表現する為に膨らませたほっぺたをつんつんしないで欲しい。
「ははぁ、道理でこっち来たばっかや言うのにボールたくさん持っとる訳やわ。そりゃ目が離せへんな。ハッコウシティの周りは、他の地方ではおらへんポケモンもおるし、充分気を付けるわ」
「くれぐれもよろしくお願いしますですよ」
「はぁい! ポピーがしっかりつかまえておきますの!!」
「頼もしい限りです」
「両手をチリちゃんとポピーでちゃんと捕まえておくから、安心しいや」
「連行されてる気分なんですけど!」
私の抗議も何のその。ハッサクさんに見送られて、私は片手をチリちゃん、もう片方をポピーちゃんにしっかり握られてハッコウシティの繁華街に足を向ける事になった。手を振り返すくらいはさせて欲しかったかな!!
*
*
「た、たくさん買っちゃった……」
「せやなぁ。この店の飲み食いで大将に預かった分キレイに使い切ったわ」
あっちに連れ回されて、こっちに連れて行かれて。あれやこれや何やかんや買い込んで、その全ての配送手続きを終わらせると、ポピーちゃんがお疲れの様なのでようやくカフェで一息付いた。
そんなに買ってしまって大丈夫なのかとオロオロする私を気にせず、チリちゃんもポピーちゃんもどんどん買っていくんだもん……。LP足りたのかな……。
「……むぅ……」
「なはは……、ポピーもおねむか」
「結構あちこち行ったし、そりゃ疲れますって」
「そりゃそうか!」
カラカラと笑ったチリちゃんは、コーヒーを啜ると不意に真面目な顔になった。
「……なぁ、自分には悪い事したと思ってるで」
「……連れ回した事?」
「ちゃうわアホ。……ホントなら歳も近いチリちゃんが自分預かるのが理想やったんやろうけど、ちょうどその日部屋から出されへんのがおって……」
「あ、その事ですか。大丈夫ですよ! 突然現れた私が悪いので!」
「いや自分が悪い訳ちゃうやろ……。ポケモンの力に巻き込まれた被害者なんやで?」
「うーん……、被害者っていう自覚は無いんですよね……。実際、引受人になってくれたハッサクさんにも、今こうして買い物に付き合ってもらってるチリちゃんにも迷惑かけてる訳ですし」
お喋りは楽しいし、買い物も楽しいけど、これは全部私の為に時間を使ってもらってる訳で……。何だかしんみりした空気を変える為に、私はチリちゃんの会話で気になった事を聞いてみた。
「そんな事より、部屋から出せないってポケモンが風邪ですか? もう一緒にいてあげなくて平気なんですか?」
「ああ、うん。もう熱も引いてケロッとしてるわ。今日も出掛けてった」
「よかったぁ! まだ体調悪い子が家にいるのに無理に付き合ってもらってたら悪いなぁって思ったから……」
「かまへん。もしまだ治ってへんかったらそもそも今日来てへんって」
「それもそっか!」
「…………」
はい、会話終了。あれ、ハッサクさんとは結構お喋り盛り上がってたし、コガネの人っぽいのにあんまり話が続かない……。沈黙に居心地悪くなってきて、無言でカフェオレを啜る。……あ、もう無い……。
「……ハッサクさんとは上手くやって行けそう?」
虚無の顔で空っぽのグラスを見つめていると、面接官の顔をしたチリちゃんが真面目な顔のまま口を開いた。
「……へっ? あ、はい! 面白いお父さんみたいな感じで今のところ楽しいです! パルデア式スキンシップには慣れないけど……」
「距離近いもんなぁ……。分かるで……」
やっぱりチリちゃんもパルデア式スキンシップには馴染みが無いみたい。困惑するチリちゃん……、どっちかって言うと困惑するより先に反射的にビンタしそう。
「……今しょーもない事考えてるやろ」
「へ!?」
「ま、ええわ。……ちなみになんやけどな、ここからは真面目な話」
「真面目な話じゃなかったの!?」
「自分話の腰折るの好きやなぁ!」
デコピンされた! パルデア初日に転んでおでこ擦ったんですけど! 転んだの見てたでしょ、とは思ったけど確かに思ったことそのまま口に出してしまうのが悪い癖! じろりと睨まれてむむむ、と口を塞いだ私にため息を吐いて、チリちゃんは話し始めた。
「……今はな、恋愛におおらかな文化やねん」
「ほぁ?」
急に恋愛の話になった。紫音、困惑。
それが顔に出ていたのか、チリちゃんは苦笑いを浮かべたものの話題の転換理由は教えてくれるつもりはないみたい。話を聞いてれば分かるのかな?
「好きになった相手がタイプってヤツ? 性別も年齢もあまり気にせん人が多いんや」
「なるほど? ……あ、同居する事になったハッサクさんと性別が違うから?」
「そゆこと。……まあ、ハッサクさんに限ってそんな事は無いと思……、いやホンマにそうか?」
「え?」
何か自問自答が始まった……。性別は違う、親子とも言えるくらい歳も離れているけど、それも気にしない人は気にしないのが今の時代の流れって事なんだそう。さっきのハッサクさんとのやり取りで、チリちゃんには何か感じる事があったのかも知れない。
「ま、ええわ。困ったらチリちゃんに言いや。避難所くらいにはなったるわ。スマホ買ってもろたら連絡先交換しよな」
「え! つまり友達ってコト……!?」
「ぶはっ……! 連絡先交換したら友達かぁ」
「えっ違う……!? こっち来たばっかりで知ってる人いないし、友達欲しいなって……、思って……、はいすいません……」
あれ、友達ってどうやってなるものだったっけ……? チリちゃんの意思を無視して友達になりたいを押し付けちゃった事に気が付いて青ざめた私に、チリちゃんはしばらく爆笑したかと思うと手を差し出してきた。
「はーおもしろ! ええで、紫音面白いし、友達なったるわ」
「え……、やったー!」
「そいで、面白いついでにバトルしよ! 友達なるにはバトルで人となり知るところからや!」
「え」
「……バトルするんですの……?」
「お、ポピーおはようさん! カフェでご飯も食べたし、腹ごなしにバトルしよって話になってん」
「ま、待って! 私バトルよりコンテストの方が……」
「なはは! パルデアにコンテストあらへんやん」
「ひぇえん……」
目をこすりながらももそもそ立ち上がるポピーちゃんと手早く荷物をまとめ始めるチリちゃん。楽しそうな雰囲気を前に、バトルから逃げられるとは思えなかった。
*
*
「ほなポピー、審判頼むわ!」
「まかされました! しっかりみまもらせてもらいます!!」
ハッコウシティの外。土煙が舞う岩場にやって来ました。何か知らないポケモンがいる……! 何あのブイブイ言ってるポケモン! コロコロ転がってるポケモンもいる!
「手持ちフルでバトルしてもええけど……、ミズゴロウ以外は捕まえたばかりの子やろ? せやったらチリちゃんも自分に合わせて一匹で……」
「ちょっと待ってあのポケモン何!? あれは!? あの転がってる子は!? ううう話し掛けたい……、でもボックス使えないからハッサクさんにナンパしちゃダメって言われてるしぃ……っ!」
「……あー、うん。こりゃホンマに目離したらいかんヤツやな」
気ーにーなーるー! その場で駆け足をして好奇心と戦っていると、ポピーちゃんが駆け寄ってきて私の手をぎゅっと握り締めた。
「めっ! ですよ」
「うぅ、せめて名前だけでも……!」
「あかんで。チリちゃんが目の前におるのによそ見せんといてや。時間も遅なってきたし、大将が迎えに来るまでに終わるように一匹出し合って勝負ってルールにしよか」
「ほぁい……」
うぅっ、気になるポケモンいっぱいいるのに……! 唸りながらも、ボールを構えたチリちゃんを前にして仕方なくボールを握る。もちろん、ラクシアが入ったボールだ。
「ドオー! いてこませ!!」
「ドォーっ!!」
「ラクシア! 頼んだ!!」
「ごろーっ!!」
「わぁー! その子ドオーって言うの!? 君可愛いね!!」
「ドッ……、オォ……」
チリちゃんが繰り出したポケモンは、全体的にまぁるいポケモンだった。大きなお口と反比例した小さな目! 大きな身体を支えているのは小さな手!! 可愛い〜!!
「こーら、人のポケモン口説くんも無しや。終わったら触らせたるから、バトルに集中してや!!」
「触らせてくれるの!? やったぁ!!」
「終わったら、やで! ドオー、どくどく!!」
「あ、バトルだった。ラクシア、任せる!」
「任せる……!?」
「ごろっ!!」
私の声に返事をして、ラクシアは紫色の液体に軽く水を吐いて押し流した。回避は私が指示するよりラクシアに任せた方が確実だと思ってたけど、その考えは大正解だったらしい。
「ちょっとイイトコ見てみたい! ひみつのちから!」
代わりに、タイミングを見計らって攻撃の指示を出す。ここは岩場、怯んでくれればラッキー、畳み掛ける事が出来る!!
「何やその技!」
「秘密基地も作れる凄い技ですけど!」
「んな技パルデアにはあらへんわ!!」
何だって! つまりパルデアに秘密基地文化は無いのか……。ちょっと残念だなぁ。
「ドッ……」
でも、ラクシアが見事ドオーを怯ませてくれたのでおっけーです!
「ちッ、怯み技……! しゃんとせぇ!!」
「ラクシア、もう一度ひみつのちから!!」
「ごろぉー!!」
小さな体で岩場に体当たりをする。秘密基地を作れてしまうくらいのパワーだ。また怯んでくれればラッキーだけど、さすがに連続で使えば対策は取られる。
「まもる!!」
「ドォー!」
キィン、と高い音がして、ラクシアの小さな体は軽々受け止められてもしまった。
「今度は逃がさへん……、どくどく!!」
「ごっ……!?」
ばしゃっ。紫色の液体がラクシアの顔面にかかった。目にも入ってしまった様で、藻掻くラクシアにドオーが近付いてくる。
「堪忍な、目に入ってもうたわ……。ドオー、アクアブレイクで洗い流したれ!!」
「ドォっ……!!」
「ラクシア! 見えないなら見ようとしなくていいよ!」
避けて! と叫ぶより先に、水をまとったドオーの突進がラクシアをふっ飛ばした。でも、チリちゃん言葉通り目に入った毒液も一緒に流されていったお陰で、顔色は悪いながらもしっかりとドオーの姿を捉えている。
「まだ出来る! からげんき!!」
「……っ、ろぉ!!」
その言葉通り、歯を食いしばったラクシアがドオーの体に思い切り頭をぶつけた。からげんきってそういう技なんだ……。
「くっ、小さくても水タイプやな……! ドオーの水技受け切るなんて……」
「じたばた!!」
「ド……っ!?」
「なんっ……、て所で暴れてんねん! ドオー、振り落としたれ!」
そのまま背中でじたばた暴れ始めたラクシアを振り落とそうと、ドオーは体を左右に揺らす。猛毒を浴びた上、掴まる所のない丸い背中から転がり落ちるのはあっという間だった。
ころころ、と地面の上を転がって私の足元まで戻ってきたラクシアは、まだ出来ると言わんばかりに鳴いた。対するドオーも、プルプルと頭を振ってラクシアを睨み付ける。でも、そんなドオーの体が一瞬ぐらっとしたのが見えた。
「ラクシア、見せ場だよ!!」
「へぇ……、チリちゃんに勝つつもりなんや。何や泥臭い戦い方やなぁ……、そういうの嫌いやないで!」
「進化してないからって甘く見ないで! ラクシア、たきのぼり!!」
激流の力を借りて、ラクシア渾身のたきのぼりが決まった。じたばた攻撃で体力もだいぶ減っているはず。ぶつかった勢いでそのまま倒れるかと思ったのに……。
「……ごちそうさん。地震!!」
「えっ……」
「ドォーーっ!!」
「っ、ラクシア!!」
大きく揺れる地面。立っていられない程の地震に揺られて、ラクシアは態勢を崩して倒れ込んだ。私の悲鳴の様な呼び声に一度立ち上がろうとして……、目を回して動かなくなってしまった。
「……ミズゴロウ、せんとうふのう! チリちゃんのかち!」
「いや危なかったわ……。ドオーが貯水やなかったら……」
「ラクシア! うぅ、毒なのに無理させてごめんね……! ポケモンセンター……、は使えないから、毒消し! 毒消し持ってない!?」
「持ってるで。元気のかたまりも持っとる。治したるからその子借りるで」
負けた……。ゲームじゃミズゴロウで負けなしだったのに……。やっぱりゲームとは違うのかな……。まぁ、アニメだとピカチュウも負ける時は負けてたし……。
「うぅ、ごめん……」
「紫音おねーちゃんなかないで! はじめてのポケモンをあいてに、すごくがんばりました!!」
「ありがとう……」
「ミズゴロウも、とってもがんばってくれましたの! こういうときは、ごめんなさいよりありがとう、っていうんですよ!!」
「うん……。うん、そうだね。ありがと……」
「進化してへんでも勝てるように組み立てたええバトルやったわ。チリちゃんやなかったら、……っ! ポピー、紫音! 後ろ!!」
ポピーちゃんに教えられてしまった……。でもその通りなのでラクシアにお礼を言おうとしたら、チリちゃんの鋭い声が飛んできた。
二人で後ろを振り返ると、そこにはズラズラズラ〜っとゴーストポケモン達が。その光景に呆然としている一瞬の内に、わらわらとゴースに囲まれてしまった。
「きゃー!?」
「何事!?」
「二人とも走れ!!」
「ポピーちゃん!」
走り出したものの、小さなポピーちゃんはそんなに速く走れない。咄嗟にポピーちゃんを抱えて、私はその体をポイッと宙に放り投げる。狙う先は、ゴースの群れからちょっとだけ遠くにいたチリちゃんだ。
「わぁん! チリちゃん……っ!」
「いっ……、ナイス! 紫音も早う……」
「モテるってのもツライものですね……」
「何アホな事……、紫音!?」
「おねーちゃん!!」
チリちゃんの鋭いツッコミ、ポピーちゃんの悲鳴を遠くに聞きながら、ゴースの毒ガスを思いっ切り吸い込んでしまった私はゆっくりと意識を失っていった。