パルデア上陸編
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『よーし、ホウエンでの旅の相棒は君に決めた! ニックネームは……、うーん……、ラグラージに進化するから……、ラクシアにしよう!』
遠くからそう言って笑っていたご主人は今、僕と一緒の地面に立っている。横に並んで、時々腕に抱えてもらって。とても嬉しい! やっと本当に旅が出来るんだ!
でも、実際は旅じゃなくて怖い人……、ハッサクのお世話になる事になった。……知らない場所だし、まぁご主人の安全と言う意味でもその方がいいと思うし、残念だなぁって気持ちは飲み込む事にして、僕達はハッサクの家へとやってきた。
「さぁ、ここが今日から君達も暮らす家ですよ」
「お、お邪魔します……」
「違いますよ。ただいま、と言うのです」
『ただいま〜!!』
「あ! ミズゴロウ!!」
知らない家だ。中が安全か確認する為にも、真っ先に家に飛び込む。ヒレのセンサーを震わせて周囲を警戒していると、廊下の向こうに何かがいる動きを感じた。
『何かいる……』
『……だ、誰だお前! ここはボクの家だぞぉ!!』
扉の向こうから、見た事のないポケモンが飛び出してきた。咄嗟に構えた僕とそいつの間に割って入るように、フカマル先輩が慌てて飛び込んでくる。
『セビエ、ちょっと待ったぁ!! ミズゴロウもそんなに怒るなよ』
『先輩! 侵入者だよ!! こいつドラゴンじゃない!!』
『そう言うなって! ミズゴロウも主人を守る為なんだよ。ほら、ハッサクの後ろにいるのが新入りだ』
『……誰だあいつー!!』
セビエ、と呼ばれたポケモンが、紫音を見るなり僕に構わず走り出した。止めようとして背中のヒレに食い付こうとしたけど、ちょっと間に合わなかった……! そいつはそのまま紫音の方に向かって突進していく。
『紫音! 危ない!!』
「わわっ、ちっちゃい子が来た」
しゃがみ込んで、セビエに手を伸ばそうとしてる。ポケモンが好きだからって、敵意を持ってるポケモンにそんな事しちゃダメだよ! フワンテに捕まったばかりなのに!!
『侵入者は出てけ〜!!』
「こら、セビエ」
セビエの突撃を待ち構えてた紫音を守るみたいに、ハッサクが紫音の前に立った。ひょいっとセビエを持ち上げると、そんな事されるなんて思ってなかったセビエがハッサクの腕の中で大暴れを始める。
『わぁ!? ハッサク何するんだよ〜! 何でコイツを守るんだよ〜!!』
『話を聞けよ……。俺が見付けて、ハッサクが拾った新入りだよ』
『えっ、新入り!?』
『その新入りのポケモンがコイツ』
『……何でボクじゃなくて新入りを守るの!?』
『さぁ? 嫁にするからじゃね?』
『『嫁!?』』
何だそれ! 聞いてないよ!!
学校に行った方がいいとか、身元保証の為とかそんな事言ってたけど、実際は嫁にするつもりだったの!? 前もって僕に話を通すとか、そういう順序ってあると思うんだけど!!
『だから連れて帰ってきたのかぁ』
『待って! 納得する所じゃないよ!! 何で連れて帰ってくると嫁なの!?』
『ドラゴンはな、大事な物を巣に持ち帰るもんなんだよ。宝物だったり、番だったりな』
『それドラゴンポケモンの話でしょ? あの人はポケモンじゃなくて人間!!』
『『……確かに』』
顔を見合わせてそんな事を言わないで! 大丈夫なのか心配になる!!
『……まぁ、フワンテに連れてかれた時はハッサクも見た事無いくらい心配してたんだし、大事ではあるんじゃない? 新入りはメスだし』
適当なフォローを入れたフカマル先輩に、セビエが驚いた様に声を上げた。
『え? 誰がフワンテにさらわれたの?』
『新入りが吊られてさらわれたんだよ。……守ってやんないと、って思うだろ』
『……思う』
『だから、さっきの偵察も許してやれるな?』
『……そういう事なら仕方ないね! 弱っちいヤツは守ってやんないと!!』
フカマル先輩の話に納得したのか、セビエは敵意を引っ込めて紫音の方に向き直る。
「話は終わりましたですか? では挨拶なさい。今日から一緒に暮らす紫音ですよ」
『よろしくな! 新入り!!』
「はじめまして! 君セビエって言うんだね!? むむぅ……? ……セグレイブに進化すると見た!」
『にーちゃんに会ったの? カッコイイだろ〜!!』
「良かった……、これ歓迎されてる?」
差し出した指をぎゅっと握って握手の代わりをして、紫音は僕を見下ろした。
「ミズゴロウ」
『……なぁに』
勝手に先に入って、喧嘩を始めそうになった僕を叱るんだろうな。そう思っていた僕は、目の前で座った紫音をビックリして見上げた。
「安全確認してくれたの?」
『……そうだよ。知らない場所だし……』
「ありがとう。ミズゴロウがいれば、安心して色々な所に行けるね!」
『……! うん! 任せといて!』
「……ミズゴロウは、気配に敏感なのですか?」
「頭のヒレはレーダーになってるんです! 目を使わなくても、周りの様子が分かるんです凄いでしょう!」
『ふふん!』
どうだ、凄いだろう。ふふん、と胸を張ると、ハッサクも感心したような顔で頷いた。
「なるほど、紫音が気絶している時にヒレを震わせていたのは、君の様子を観察していたからなのですね」
その説明だけで、ハッサクは僕のヒレには触らないように、フカマル先輩達に言い聞かせている。僕が何か言う前に、敏感だからあまり触らない様に注意してくれるとは思わなかった。
『……婿になら来てくれても良いかもしれない……』
『チョロいな……。お前大丈夫か?』
フカマル先輩は呆れたみたいに言うけど、僕だって紫音を簡単に嫁にやる訳にはいかないからね!
*
*
『……あっ!!』
「うわっ、ビックリした」
『ごめん……』
ご飯を食べて、気絶してたハネッコも元気になった。ようやく落ち着いてソファに座る紫音の膝の上に陣どってウトウトしていた僕は、そう言えば大切な事に気付いた。
嫁にやる訳にはいかないって言った僕のご主人、紫音は僕の事を「ミズゴロウ」って呼ぶ。確かに、間違ってないんだけど……、それは僕達の名前であって、「僕」の名前じゃない。
友達になったばかりのハネッコやメリープ達と同じ扱い……。一応、僕だけちょっとご飯の量が多かったけど、それは特別扱いじゃないと思う。
「……ミズゴロウ? どうしたの? もう寝る?」
『……違うよ。僕の名前はラクシアって言ったの紫音じゃん……』
そう言っても、ご主人には僕がごろごろ鳴いてる様にしか見えない。ご飯を食べ終わって膝の上で不貞腐れる僕を心配そうに撫でてくれるけど、今はそれをして欲しいんじゃないのに……。
『返事しなきゃいいんだよ。俺もフカマルって呼び捨てにする奴は噛み付いてやるのさ!!』
『……先輩、だっけ』
『そう、フカマル先輩だ! 手の掛かる後輩が増えたなぁ!』
紫音の隣でソファに座っているフカマル……、先輩がご機嫌にそう言って笑う。そうか、返事しなきゃ良いのか……。
「またミズゴロウとフカマル先輩の会話が盛り上がってる……」
『……紫音』
「……お? どしたのミズゴロウ」
『…………』
「えぇ……、何その顔……」
『ダメだよ先輩……』
『ダメかー!』
ワハハ、と笑うフカマル先輩にガックリしてしまう。返事せずに顔をしかめてみたんだけど、それでも伝わらなかった……。もうラクシアって呼んでもらうのは諦めた方が良いのかなぁ……。がっくり落ち込んで、大人しく膝の上で丸くなった僕に、紫音がオロオロとしてるのが伝わってくる。
「……紫音」
「ふぉいっ」
「ミズゴロウのその様子、フカマル先輩がフカマルと呼ばれた時に似ていますですよ」
その時、片付けをしていたハッサクがキッチンの向こうから手助けしてくれた。きょとん、とした顔をフカマル先輩に向けて、僕を見下ろして、紫音は気の抜けた声を出す。
「……え」
『……!!』
ありがとうハッサク! うんうん、と頷いて、期待を込めて紫音を見上げる。まさか、僕の名前を忘れちゃった、なんて事は無いよね……?
「……あ、そう言えば手持ちに入れてたミズゴロウニックネーム付けてたなぁ」
『!!』
そう! 僕だけの名前付けてくれてたでしょ!!
「ラグラージに進化するからラクシア。……まぁ、結局ラグラージに進化しないままここまで来ちゃったけど」
『そうだよぉ! 可愛いからこのままで強くなろうねって言ってくれたの覚えてるよ!!』
「ラクシア……、良い名前ですね」
『何で早く呼んでくれなかったの!?』
「いたたたた! ほっぺ、ほっぺが刺さってる!」
『ありがとう! 怖いけどハッサクにもお礼してあげる!!』
「おやおや、小生にもですか」
紫音に頬ずりして、きっかけをくれたハッサクにも駆け寄って頬ずりをする。僕が満足するまで頬ずりさせてくれたハッサクは、僕が満足したと見るや紫音の膝の上に僕を戻すと自分はフカマル先輩を抱えた。そして、当たり前みたいに紫音の横に座る。……ダイニングじゃ遠いし、他に座る椅子無いし……、まぁ仕方ないか。良いタイミングでセビエが二人の間に乗り込んできたのも助かる。
「他の子にはニックネームを付けないのですか?」
『ボクにも付けて〜!』
「……セビエ、お前は小生のポケモンでしょう」
『……そうだった!』
「にゃはは……。セビエはともかく、姓名判断士の所に行かないとニックネーム付けられないんですよね?」
「いいえ、スマホで簡単に……。……あ、そうでした……」
「『スマホの壁!!』」
紫音と僕の声が綺麗に重なった。そっかぁ、こっちはスマホで何でも出来ちゃうんだなぁ……。
「んんっ、ニックネームの件は追々考えるとして。君達はもう休みなさい」
「気まずいからって急な話題転換。パンフレットにも目を通したいなぁって思ってたんですけど……」
寝なさいってハッサクは言うけど、まだ夜十時になったばかり。夜はこれからだって言うのに、もう寝ろ、だなんて……。
「いけませんですよ。しっかり睡眠を取らなければ、大きくなれません」
「……あ〜なるほど……。私、もう成長期とっくに過ぎてる十九歳です……」
「……なんと!? ……いいえ、そう言えば君は夕方の挨拶の際もあの触れ合いは子供相手に、と言っていましたね?」
「は、はい……」
「ドラゴーーーーン!!」
「ふぉ!?」
『え!?』
急に叫んだから、僕も紫音もビックリして飛び上がった。
「しょ、小生は君がアカデミーに在学者が多い十代前半だとばかり……!!」
「ほ、ホウエンとかシンオウの人は童顔って聞きますから……! 気にしないでください!! ねっ!?」
「うぼぉぉおい……っ! とんだ失礼を……! これからは丁重に扱いますですっ……!!」
「別に良いですってばぁ!」
号泣してしまったハッサクを前に、慌ててセビエの案内でタオルを取りに走った紫音を見ながらフカマル先輩がとんでもない事を呟く。
『後輩、相棒と過去から来たんだったよな?』
『え? うん……』
『今の人間達はな、番の性別も年齢も気にしないんだぜ』
『……話が見えないんだけど』
『守んなきゃならない子供じゃないって分かった、その上で丁重に扱うってハッサクが言うなら……、多分もう決まりだと思うぜ!』
『何が!? 僕は許さないよ!!』
『……真面目な話、紫音に婿取りする基盤無いだろ。大人しく嫁入りしとけ』
『うぅっ……! 僕は紫音と旅に出るんだぁ〜!!』
わぁ、と泣いて紫音の方に走った。抱っこしてもらおうと思ってたのに、紫音はもうセビエを抱っこしてる!
「あっ、ラクシア」
『うわぁ〜ん! 僕の紫音が取られた!! そこは僕の特等席だぞ!!』
『へへ〜んだ、今はボクの……、あれ? 何で降ろすの?』
ふふん、って顔をしてたセビエは床に降ろされて不思議な顔をした。その後、僕を抱き上げたものだからなおさら!
『とられた! ハッサクより温かいから紫音がいい!!』
「……何となくだけどね、ラクシア、今セビエに妬いたでしょ」
『……バレてる』
『ヤダー! 抱っこして!!』
「セビエはハッサクさんがびしょ濡れになる前にタオル持ってってあげて」
『抱っこ!!』
「……セビエ」
『抱っ、ひぇえ……!』
いつの間に泣き止んだんだろう。ハッサクがわぁわぁと騒ぐセビエをひょいっと抱き上げた。じーっとセビエを見下ろす視線に思わず紫音に抱き着いたら、紫音も怖かったのか僕をぎゅっと抱き締める。
「……あまり紫音を困らせないように」
『……ひゃい……』
「紫音、ラクシア。ハネッコ達もおねむの様ですし、やはり今日は早めに寝た方がいいと思いますですよ」
「はっ、はい……」
僕達に声を掛ける時はちゃんとにこっと笑ってくれたけど、固まったままのセビエの様子を見るに、怒らせたらいけない人なんだなぁ、とぼんやり思った。
……最強の人が紫音の味方になってくれたって事、なんだよね……? 大丈夫なのかな……。