パルデア上陸編
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野宿回避が決まって一安心した私は、何やらまだ話し合ってるハッサクさんと理事長さんらしい人を眺めていた。
パルデアでの新生活。正直とても楽しみだ。どんなポケモンがいるんだろう。まぁずっと旅してきたポケモン達がいなくなっちゃったのは正直悲しいけど……、それ以上に新しいポケモンとの出会いにワクワクしていた。
そんな私の肩を叩いて、クラベル先生がにこやかに声を掛けてきた。
「時代が変われば、色々な事が変わります。アカデミーで学んでから、これからの人生の事を考えるのも一つの道かと思いますよ」
「アカデミー! さっき言ってたやつ!」
その言葉と共に渡されたのはパンフレット。表紙にはモンスターボールモチーフの飾り……。あれ? これもしかして……。
「あっ! さっき横通った建物!!」
「おや、もうご覧になっていたんですね」
「はえ〜、大きな学校なんですね〜」
「寮も併設していますからね」
思ってたアカデミーと違う。街の一角のこじんまりした建物の学習塾みたいなものだと思ってたのに、これじゃ大学と言ってもいい規模だ。
「入学お待ちしていますよ。ハッサク先生に相談すれば、すぐに頷いてくれると思います」
「スゴ……! ……え? ハッサク先生?」
「呼びましたですか?」
話題に上がったハッサクさんが振り返る。と言うか、ハッサクさんも先生だった。ハッサク先生って呼ばなきゃ。あれ? でも私学生じゃないからハッサクさんで良いのかな? 分かんないし、とりあえずハッサクさんでいっか!
ハッサクさん、ドラゴン使いだからてっきり八人目のジムリーダーか四天王だと思ってたんだけど……、普通に学校の先生なのかな? ……この眼力で? ハハハ、まっさかぁ!
「アカデミーへの編入はどうでしょうか、というお話をしていたところですよ」
「わわ、ま、待ってください! パンフレット貰ったけど、そもそも学費的なあれそれの問題が……!」
「ハッサクには、教師としても四天王としても、アカデミーの学費を払って困らない程度の給料を渡しているつもりですよ」
「はぇ〜、四天王……。……ビェッ!?」
理解した途端思わず飛び退いた。やっぱりめちゃくちゃ強いんじゃん!! 驚いて固まった私に、理事長やトップと呼ばれる人がにこやかに微笑んだ。
「と言う訳で、紫音さん。学費の事は気にせず、アカデミーに入学してもらって構いません」
「後見人になってもらったのも申し訳無いのに学費までなんてそんな……」
「いいえ、これは必要な事です。あなたは知らない事が多過ぎます」
「それはそうかも知れないけど……」
「心配いりません。数日暮らす内に、決意が固まるでしょう」
「……えぇ……」
決定事項なんだ……。いやさすがに身元証明の後見人だけじゃなくて、大学通うお金までお世話になるのは少し……、少しじゃなくてかなり後ろめたい。
「気にしないでください。後見人になると言う事は、あなたの人生の面倒を見るという事なのですよ」
そう言ってニコッと笑うハッサクさん。わぁハッサクさん笑うと雰囲気変わるな〜、なんて現実逃避しそうになる思考を頑張って引き戻した。
「うぅっ、私を拾ったばかりに……」
「そう悲観的にならないでください。小生は君に出会えて嬉しいですよ」
「ほぁ……、そですか……」
そう言ってもらえるのはありがたいけど悲観的にもなるよ〜! 最低限の保証してもらえたら後はどうにか一人で生きていくぞってつもりだったのに、学校に通う話になってるんだもん! 学校と言えばハッサクさん年齢的にもご家族とかいるのでは!? 今さらだけど私お邪魔していいの!?
「小生の家族は、フカマル先輩を始めとしたドラゴンポケモン達だけですから、気にしなくていいのですよ。駄目ならば、最初から手を挙げていません」
「…………えっ」
「……紫音さん。全部口に出ています」
「フェッ……」
わぁなんてこった! 慌てて口を塞いだけど、皆生暖かい目をしてる。もう何も言わないでおこう……。はい、いいえだけを話す主人公になるのよ、紫音……!
「それに、美術教員としてもコンテストのお話はとても興味がありますです」
「美術の先生なんだ!?」
「驚きましたか?」
私の決意はあっという間に粉砕した。美術の先生! 驚きすぎてはい、いいえだけで話すなんて無理!!
「授業受けてみたいです!」
「小生は大歓迎ですよ。パンフレットにもよく目を通して、どんな授業を選択するか考えるのも良いかと」
「選択制!? わぁ悩む〜!!」
期待に胸を膨らませて、パンフレットに目を通そうとした私だったけど、そのパンフレットをひょいっと没収された。他でもない、目を通しなさいって言ったハッサクさんに。
「ですがその前に。紫音、まずは君の身の回りの物を買いに行きますですよ」
「……はっ!」
「君、着の身着のままでしょう。寝具は明日買いに行くとして……、今日は着替え等の細々とした物を買いに行きましょうか。小生と買いに行きづらい物は、後日女性に案内を頼みます」
「確かに……! 何も無いです……」
「このパンフレットは、家で落ち着いて読みましょうね」
「はい……」
そうだったー! ハッサクさんのお家に直行という訳には行かない。何も出来ないんだから、とりあえず荷物持ちくらいはやらないと!!
「ではハッサク。彼女を頼みますよ」
「もちろんですよ。責任を持って預かりますです」
「あ、あの! ありがとうございました!!」
「いいえ。またお会いするでしょうから」
そう笑う理事長さんとクラベル先生に見送られて、私はハッサクさんに連れられて再びタクシーに乗り込む事になった。
さっきとは少し色のバリエーションが違う鳥達が運ぶゴンドラを前にして、ハッサクさんが扉を開けるなりフカマルが真っ先に乗り込む。
「……フカ!」
「ふぉ? フカマルが手伝ってくれるの?」
「……紫音はフカマル先輩にもずいぶん気に入られた様ですね」
ハッサクさんの困った様な声に苦笑いをしながら、私はフカマルの小さな手を握った。あんまり引っ張られてる感じは無いけど、フカマルが重しになって正直さっきよりゴンドラに乗りやすかった。
「では、カラフシティまで飛びますですよ」
カラフシティ! どんな街なんだろう!! カラフルな街なのかな……、とても楽しみです!!
*
*
「足元に気を付けてくださいですよ」
「は、はいっ……」
乗る時はフカマルに、降りる時はハッサクさんに手を添えられて。紳士的だなぁって思ってたら、その行動も納得の光景が目に飛び込んできた。
カラフシティ、ヨーロッパ的な雰囲気がすごい!! テレビでしか見た事が無いような白い壁に青い屋根の街並み。ポケモンは遂に日本飛び出しちゃったか〜、という気持ちでいっぱいです。
「では、ロトム。彼女と一緒に服屋へ。小生は生活小物を見てきますですよ」
「ふぁっ」
「ロト!」
「ひとまず数着買ってきなさい」
「えっ」
あの、私財布どころかお金持ってないんですけど。そう言い出せないまま、ロトムの案内に従って服屋さんに足を踏み入れた。
お洒落なお店だ。いかにもお高いんでしょう……? と言うような雰囲気の中、薄目で値札を見る。すると、何ということでしょう! ……文字が読めなかった。
「いやこういう時って普通その世界に合わせて文字読めるようになる〜みたいなチート付かない? って言うか付けてよ困っちゃう……」
「ロト?」
「あ……。ううん、大丈夫! ちょっとハッサクさんに申し訳ないなって思って!」
心配そうに見てくるロトムに返事をして、多分きっと数字が書いてあるだろう辺りの文字列の中から、桁が少ない物を何枚か選んで籠に入れていく。ポケモンの世界でも通貨は円だから、同じ感覚で買い物していいはず!
言われた通り、とりあえず部屋着と着替えを二日分。あと下着をちょっと持っていざレジへ。桁が少ない物を選んだとは言え、数が増えれば値段は跳ね上がる。……お金……、どうしよう……。
「お支払はいかがしますか?」
「あ、えっと……」
「ロト!」
「はい、リーグペイでお支払ですね!」
「そ、ソウデスオネガイシマス」
リーグペイって何〜!? 困惑する私の目の前で、ロトムからピロン、とご機嫌な音が鳴った。それを確認すると、店員さんは袋詰めをした商品を私に手渡す。……えっ、今ので終わり!?
「ありがとうございましたぁ!」
「は、はひ……」
現金を持ち歩く必要の無い世界。科学の力ってスゲー!!
「終わりましたですか?」
「はい……。お金持ってないからお支払いどうしようかと思いました……」
「……そう言えば、説明を忘れていましたね。LP(リーグペイ)、パルデアで現金と同じく主流になっている支払い方法ですよ」
「すごい時代ですね……」
「そうかも知れませんね。便利な世の中になりましたですよ」
そうしみじみと言いながら、ハッサクさんが自然な流れで私の手から紙袋を掠め取った。既に日用品が入った荷物を持ってるのに! あまりにも自然な流れ、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。……いや取られてるけど。荷物持ちはするって決めてたのに!!
「に、荷物……! 持ちます!!」
「小生がこのまま荷物持ちでも構わないのですが……。では、これからテイクアウトする夕食は君にも持ってもらいましょうか」
そう笑って、ハッサクさんはのしのしといい匂いのする街角へ足を向けた。
お洒落なこの街は、服屋さんだけじゃなくてレストランも有名らしい。何でも、ジムリーダーがレストランのシェフでもあるんだとか。
「食べられないものはありますか?」
「と、特には……。辛すぎるものが苦手なくらいで……」
「パルデアに来たばかりですし、今日は小生がお薦めする物を食べましょうか」
「はい! 楽しみです!」
「では、少々待っていてくださいです」
「了解です!」
元気な返事に満足そうに頷いて、ハッサクさんは一つのレストランに消えた。
どんな料理なんだろう、楽しみだなぁ。そんな事を考えていたら、肩をちょんちょん、と叩かれた。
「ハネッコ出てきちゃったの? 君ってば風に乗って遠くまで行っちゃうんだから、あまり外には……」
そう言ってる間にもちょんちょん。またつつかれた。
もしやハネッコじゃない? 可能性があるのは飛べるヤヤコマやムックルなんだけど、羽音は聞こえないしなぁ……、と思って振り返ると、そこには何とフワンテがいた。一匹じゃなくて五匹も。
「フワっ……!?」
「ぷわわ」
「フワンテ! 可愛いなぁ、近くで見るとちっちゃいお口がよく見える〜!!」
予想外のポケモンに驚いたけど、風船ポケモンのフワンテがこんなに近くにいるとは思わなかった。これは小さい子もバルーンと間違えてさらわれちゃうよ……。
「……って、あれ、ありゃ?」
そんな事を思っていると、フワンテの腕が私の体に伸びてきた。
遊びたいのかな、と思ったのも束の間。五匹のフワンテの腕が私の体をしっかり固定してしまったのだ。しかも、そのままふわふわ浮かび上がろうとしている。
えっ? 待って待って!? フワンテに連れて行かれるのって子供の話じゃないの!?
「わぁ待って待って! これ重みで落ちたりしない!?」
私の悲鳴も何のその。フワンテ達はぷわわ、と鳴いて空へ浮かび上がった。
私の両腕はフワンテの腕で拘束されてるし、ボールを出したくても動かせない。何処に連れて行かれるか分かんないし、とりあえずポケモンだけでも逃がそうと声を上げた。
「ミズゴロウ、みんな! ボールから出てきて!!」
そう指示すると、すぐさまミズゴロウが飛び出してきた。遅れて出てきたハネッコを踏んづけて無事に地面に着地したミズゴロウは、ふわふわと浮いている私を見て大きな口をあんぐりと開ける。
そうだよね驚くよね! 私も驚いてる!
「ハッサクさんを呼んで! 私動けないから〜!!」
「ごろ〜!?」
困惑した鳴き声を上げたミズゴロウは、私が頼んだ通りハッサクさんが入ったお店に向かって走り始めた。ミズゴロウに続いて、メリープやムックルも店内になだれ込むのが見える。そんな中……。
「はね!」
「ハネッコは来てくれるの? マイペースだね君!」
ハネッコがフワフワと付いてきた。でもいてくれると心強い! 例えハネッコはフワンテとの相性が圧倒的に悪くても! 数も不利だとしても!!
「ねぇ、どこまで連れてくつもりなの……?」
「…………」
返事もしてくれなくなったフワンテに宙吊りにされて、私は暗くなっていく空をふわふわと飛ぶ事になってしまった。