一万打企画
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※【籠絡】シリーズのネタバレあり。
私の名はなまえ。五歳の時にマフィアに拾われ、数え切れないほどの人を殺してきた。
それは16になった今でも変わらない。
恩人が去った今でも私はポートマフィアに従い続け、今日も手を汚しては毎日を生きている。
そんな毎日のある日のこと、
私も16歳となり、立派に成長したのである立食パーティーに出席することになった。
今回のパーティは最近経済面で急成長しているある財閥で、顔見せ及び今後のことについての話し合いのため、出席するらしい。
今まで年齢が年齢だった為、そういう場には行ったことがなかったから今回のパーティが初めてとなる。
少しの緊張は覚えるが、元々あの人に礼儀.作法.その他諸々教えられた為知識はあるので過度な緊張はしなかった。
紅葉の姐様や首領、エリス嬢にパーティ用のドレスを見立て、成人祝い……と言うには少し早い気もするが、成長祝いとしてプレゼントしてくれた。
色は黒。
私達マフィアを象徴するかのような真っ暗なその色は11年前、私を拾ってくれたあの人を思い出させて少しの安堵と静寂を覚えた。
***
パーティに出席している人に挨拶をして回る首領の一歩後ろで話の邪魔にならぬよう静かに控える。
けれど愛想がないと思われればポートマフィアの品位にも関わるので姐様に教えてもらったことを思い出すように口を閉じて静かに微笑む。
時折話しかけられたり下卑た視線を上から下まで浴びたりすることもあるが、相手が不快にならぬよう様々な誘いを交わしつつ、その場を切り抜ける。
そうしていればパーティでの挨拶回りも終わりが近付いてきたようで、最後は武装探偵社社長、福沢諭吉様に挨拶をする。
「これはこれは福沢殿。久しぶりですねぇ。」
「森医師も変わりないようで何よりだ。」
首領はいつものようにニコニコと話し始める。
これは長くなるのだろうか。
見れば、福沢様の傍に控えていた探偵様は福沢様から離れて楽しそうに料理を楽しんでいた。
ちょいちょい、と手招きされ、首領をちらりと横目で見ればそれに気付いた首領が「行ってきなさい。」と先程と変わらぬ笑みで言ったので、その場を失礼し、探偵様に近寄る。
「何か御用でしょうか?探偵様。」
御用かと思い、開口一番にそれを聞けば探偵様はぷくっと頬を膨らませた。
「僕は探偵じゃなくて名探偵!ちゃんと覚えといてよね!!」
「名探偵、様?」
「そう。世界一のね!」
あ、それよりもジュース取ってきてくれる?オレンジのやつね!
なんて妙なとこを訂正したと思えば名探偵様の用とはジュースのお使いのようで、少しだけ拍子抜けする。
けれど名探偵様は見た目の割に歳は私よりもずっと上だと聞いた。年上は敬うものだ、と考え直し、分かりました。と頷いて注文されたオレンジジュースを取りに行く。
後ろから、あ、あとそれと一緒に何か甘いもの持ってきて〜。という気の抜けた声が聞こえてきた。
***
「やぁ、なまえ。久しぶりだねぇ。」
名探偵様ご注文のオレンジジュースと甘いケーキを持って元の場に戻ろうとすれば後ろから聞き覚えのある声がかけられる。
「……太宰。」
その声に引っ張られるように振り向けば、そこにはなんとも形容しがたい関係の太宰がいた。
「……なんでここにいるの?」
「この立食パーティーに武装探偵社も招待されてねぇ。こういう場に慣れている私が推薦されたのだよ。」
にっこりと先程の首領と全く同じような表情で笑う太宰に「そう。」とだけ相槌を打って会話が途切れる。
太宰がポートマフィアを出てって10年。
置いていかれたその日からずっと太宰を少しでも忘れたくて、私情だと分かっていても会わないように探偵社と会合する時はわざと仕事を入れたり、休んだりした。
そうして少しずつ、本当に少しずつ忘れられたと思っていたのに、そんな馬鹿みたいな努力を嘲笑うように太宰は私の前に現れる。
けれど相手は敵とはいえ停戦協定を結んだ相手。無下にはできず、しかし何か話すこともできず、行き詰まる。
密かに溜息を吐き、こっそりと自分よりも高い位置にある顔を見上げれば、見なければ良かったと後悔してしまう。
この人は歳を取らないのか、なんて馬鹿なことを本気で思ってしまうほど変わらない美しい造形、しかし昔の素っ気ないような、私に興味のないような熱の無い目ではなく、何か愛おしいものでも見るかのように、太宰は私を見ていた。
それが歪な関係だったあの頃、決して趣味がいいとは思えない、未成年だった私に手を出した太宰が深くて怖い接吻をし、情欲に溺れそうになるその時に見せていたそれに類似していて、背筋にゾクリと何かが走る。
「っ名探偵様を待たせているので、失礼します。」
刺すような、包み込むような、全てを呑み込むようなその視線が、むず痒くて心は平静を失う。
逃げるように言葉を残しその場を去ろうと太宰の横を通ったその時、
「今日のパーティが終わったあと、このホテルの909号室に来て。」
ガッと腕を掴まれ、耳元で囁くように静かにそう言われた。
耳に掛かる太宰の熱い吐息が私の冷静さを尽く奪うようで、耳を抑えてバッと振り返る。
「またね。」
にっこりとわらう太宰には、あの頃と変わらず逆らってはいけないと思わせる声音だった。
***
「ふーん。君も随分と厄介な男に好かれたものだね。」
凄い執着だ。
なんて名探偵様はよく意味のわからないことを言いながらオレンジジュースを傍らにケーキを嬉しそうに頬張っている。
最初は遅い!と怒っていたのに今ではケーキに集中しているからその件についてはいいのだが、その後の厄介な男やら執着やらとの言葉が気になる。
「……それってどういう意味で?」
男、と言われて一番最初に出てきたのはやはり太宰だった。暫く疎遠だったというのにあの人を一番最初に思い出してしまう辺り、私の未練や執着は10年やそこらじゃ断ち切れるものでは無いらしい。
しかし、私が太宰に執着していたとしても私は太宰に置いていかれた身で、その逆は無いと思われる。
だとすると私に執着している厄介な男とは誰なのか。
中也、芥川君、首領、広津さん、立原くん……
沢山の人を思い浮かべるけど誰も当てはまらない。
疑問が解決する気配もなく、答えを求めるように名探偵様を見つめ続ければあぁー、もう!と怒ったように言った後、ビシッとケーキを食べていたフォークで私を指した。
「今日の0時、絶対に男の手を取るな。」
じゃないと君、死ぬから。
名探偵様は警告するようにそれだけ言うとまたケーキを食べ始める。
今日の0時……ちょうどパーティが終わった30分後。ということは名探偵様の言う男とはやはり太宰のことなのだろうか。
いや、でもパーティが終わったすぐ後に指定された場所へ行けば0時は過ぎないだろう。ということはやはり男とは太宰ではないのだろうか。
疑問はやはり解けなかったが、名探偵様の言う男が太宰とは限らないが、もし太宰だとしたら……と考えると名探偵様の警告に何故だか頷けなかった。
***
23時55分、
パーティが終了してから25分程経っている。
パーティが終わったら指定の場所にすぐにでも行くつもりだったのに、名探偵様の武勇伝を聞いたり、エリス嬢とお話してたら遅くなってしまった。
急ぐ気持ちを抑えながら、駆け足で太宰がいるであろう場所まで行き、扉の前で止まり、息を整えてからノックをする。
すると、「どうぞ。」と太宰の声が聞こえてきたので「失礼します。」と一つ声を掛けてから部屋に入る。
「やぁ、なまえ。遅かったねぇ。」
部屋の中は電気も点いていないから真っ暗で、部屋を照らす月の光だけが頼りだった。
その中で太宰が優しく微笑んだ気がした。それを嬉しく感じてしまう自分に嫌気が差す。
私が太宰に向けるこの想いは恋というにはあまりにも重く、どろどろとしているように感じる。
太宰が好き。
それは幼い頃に植え付けられた洗脳とも呼べるかもしれないけど、私の心を表す単語はそれしかなかった。
太宰が好きで、大好きで、ずっと傍に置いて欲しかった。
けれど太宰はもう私の傍にいてくれるような立場じゃなくて、私達が睦ごとをしたのは遠い昔だし、そもそも私と太宰は12も歳が離れているのだから私だけが太宰を想っていてもどうにもならない。
そうやって何度も考えてきたことを思い起こしては勝手に沈んで、こんな想いを抱えて一喜一憂しているのは私だけだと思ってしまえばさっさとこの想いを捨てたくて、できるだけ淡々と答えた。
「すみません、色々と用事があって。それで、ご要件は?」
「今日は、君を誘いに来たんだ。」
太宰からの誘い、
それだけで心臓はいつもよりずっと早くなるのだから嫌で仕方がない。
太宰はゆっくりと私に近付くと頬を撫で、髪を梳く。
それが私達はそんな関係じゃないのに、恋人同士の秘め事みたいで私は動けなかった。
なまえ、
声を掛けられ、自分よりもずっと高い位置にある顔を見上げる。
そこには頬を赤らめてわらう太宰がいて、これは幻なんじゃないかと思った。
だって、私の知る太宰はそんな甘くて優しくて……それでいて、恐ろしい執着を感じさせるような視線を送ったりはしない。
「大きくなったね。初めて会った時は皮膚と骨しか無いようなガリガリで髪もボサボサで服もボロボロだったのに、今ではまるで正反対だ。
白くて穢れを知らないような滑らかな肌、艶のある長く切り揃えられた黒髪、スラリと伸びた四肢、男ならかぶりつきたくなるような紅く色付いた唇。」
太宰は上から下まで全てを見透かすように視線を送る。
太宰は親指でなぞるように唇に触れるとずっと昔に見たような、食べられてしまいそうな視線を向けた。
「ここも、ここも、ここもここも、昔はぜーんぶ、私のもので常に痕がついていたのに、今では綺麗なもんだねぇ。」
太宰に言葉と共に首や腕、胸元など、昔は紅く色付いていた箇所を指さされれば、まるでその痕を欲しがるように私の心臓はキュッと小さくなる。
「おさむ、」
縋るように太宰を見つめれば思わず口から言葉は零れてしまう。
それが合図かのように太宰は目を細めると10年振りに私は太宰と接吻をした。
唇を重ね、互いの唇を味わうように食むと、そのうちそれだけでは満足出来なくなり、自然と舌は絡み合う。
まるで生き物のように動く熱いそれは勝手知ったるように私の口内を動き回り、確実に私に快感を与えていく。
「お、さむ、おさむ、おさむ、!」
口を離し、自由になれば今まで抑え込んでいたものを解放するように、太宰を呼び続けた。
忘れようと思っていたのに、一回昔のように扱われてしまえば、もう二度と太宰と離れたくなくて、泣きながら太宰を求め続ける。
きっと今の私は泣きすぎて顔がぐしゃぐしゃだろう。いやだな、こんなんじゃぁまた太宰に捨てられちゃう、すてられたくない、
「ねぇ、なまえ。私と心中しようか。」
そんな想いを聞き届けるように、私の上から聞こえてきた言葉にハッと顔を上げる。
大きくて丸い満月が太宰を照らす。
時刻は0時、名探偵様が言っていた時間。
ということは、私はこの誘いに乗れば死んでしまうのだろうか。
大きな満月を背に静かに微笑む太宰は神秘的で、それでいて死を招く死神のようだった。
「なまえ」
昔と変わらず、私を導くように差し伸べられる優しくて残酷な手。
大好きだったその手を私は_____
[完]
アトガキ↓
はい、籠絡シリーズif【夢主が大人になったら】でした!すみません、16歳って大人じゃないですよね……
でもこのシリーズの太宰さん隠れヤンデレで重いので16歳、つまり結婚できる歳になったら心中申し込みそうだなぁって思ってつい……!
何となく気付いた人もいると思いますが、このシリーズで太宰さんはマフィアを抜ける時、夢主を置いていきます。
え?なんで置いていくかって?私が大好きなのに置いていかれてそれが悲しくて必死に忘れようとしてるのに全然忘れられないなまえ……って可愛いでしょ?
忘れたくても忘れられない、他の男のことなんて考えられないように育てたんだから今回のこの結果は当たり前だよ。
とのこと。
え?歪んでる?……私、歪んだ愛の太宰さんってのがツボなんですよね。
ん?結局夢主は太宰の手を取って心中したかって?
……ご想像にお任せします。
私の名はなまえ。五歳の時にマフィアに拾われ、数え切れないほどの人を殺してきた。
それは16になった今でも変わらない。
恩人が去った今でも私はポートマフィアに従い続け、今日も手を汚しては毎日を生きている。
そんな毎日のある日のこと、
私も16歳となり、立派に成長したのである立食パーティーに出席することになった。
今回のパーティは最近経済面で急成長しているある財閥で、顔見せ及び今後のことについての話し合いのため、出席するらしい。
今まで年齢が年齢だった為、そういう場には行ったことがなかったから今回のパーティが初めてとなる。
少しの緊張は覚えるが、元々あの人に礼儀.作法.その他諸々教えられた為知識はあるので過度な緊張はしなかった。
紅葉の姐様や首領、エリス嬢にパーティ用のドレスを見立て、成人祝い……と言うには少し早い気もするが、成長祝いとしてプレゼントしてくれた。
色は黒。
私達マフィアを象徴するかのような真っ暗なその色は11年前、私を拾ってくれたあの人を思い出させて少しの安堵と静寂を覚えた。
***
パーティに出席している人に挨拶をして回る首領の一歩後ろで話の邪魔にならぬよう静かに控える。
けれど愛想がないと思われればポートマフィアの品位にも関わるので姐様に教えてもらったことを思い出すように口を閉じて静かに微笑む。
時折話しかけられたり下卑た視線を上から下まで浴びたりすることもあるが、相手が不快にならぬよう様々な誘いを交わしつつ、その場を切り抜ける。
そうしていればパーティでの挨拶回りも終わりが近付いてきたようで、最後は武装探偵社社長、福沢諭吉様に挨拶をする。
「これはこれは福沢殿。久しぶりですねぇ。」
「森医師も変わりないようで何よりだ。」
首領はいつものようにニコニコと話し始める。
これは長くなるのだろうか。
見れば、福沢様の傍に控えていた探偵様は福沢様から離れて楽しそうに料理を楽しんでいた。
ちょいちょい、と手招きされ、首領をちらりと横目で見ればそれに気付いた首領が「行ってきなさい。」と先程と変わらぬ笑みで言ったので、その場を失礼し、探偵様に近寄る。
「何か御用でしょうか?探偵様。」
御用かと思い、開口一番にそれを聞けば探偵様はぷくっと頬を膨らませた。
「僕は探偵じゃなくて名探偵!ちゃんと覚えといてよね!!」
「名探偵、様?」
「そう。世界一のね!」
あ、それよりもジュース取ってきてくれる?オレンジのやつね!
なんて妙なとこを訂正したと思えば名探偵様の用とはジュースのお使いのようで、少しだけ拍子抜けする。
けれど名探偵様は見た目の割に歳は私よりもずっと上だと聞いた。年上は敬うものだ、と考え直し、分かりました。と頷いて注文されたオレンジジュースを取りに行く。
後ろから、あ、あとそれと一緒に何か甘いもの持ってきて〜。という気の抜けた声が聞こえてきた。
***
「やぁ、なまえ。久しぶりだねぇ。」
名探偵様ご注文のオレンジジュースと甘いケーキを持って元の場に戻ろうとすれば後ろから聞き覚えのある声がかけられる。
「……太宰。」
その声に引っ張られるように振り向けば、そこにはなんとも形容しがたい関係の太宰がいた。
「……なんでここにいるの?」
「この立食パーティーに武装探偵社も招待されてねぇ。こういう場に慣れている私が推薦されたのだよ。」
にっこりと先程の首領と全く同じような表情で笑う太宰に「そう。」とだけ相槌を打って会話が途切れる。
太宰がポートマフィアを出てって10年。
置いていかれたその日からずっと太宰を少しでも忘れたくて、私情だと分かっていても会わないように探偵社と会合する時はわざと仕事を入れたり、休んだりした。
そうして少しずつ、本当に少しずつ忘れられたと思っていたのに、そんな馬鹿みたいな努力を嘲笑うように太宰は私の前に現れる。
けれど相手は敵とはいえ停戦協定を結んだ相手。無下にはできず、しかし何か話すこともできず、行き詰まる。
密かに溜息を吐き、こっそりと自分よりも高い位置にある顔を見上げれば、見なければ良かったと後悔してしまう。
この人は歳を取らないのか、なんて馬鹿なことを本気で思ってしまうほど変わらない美しい造形、しかし昔の素っ気ないような、私に興味のないような熱の無い目ではなく、何か愛おしいものでも見るかのように、太宰は私を見ていた。
それが歪な関係だったあの頃、決して趣味がいいとは思えない、未成年だった私に手を出した太宰が深くて怖い接吻をし、情欲に溺れそうになるその時に見せていたそれに類似していて、背筋にゾクリと何かが走る。
「っ名探偵様を待たせているので、失礼します。」
刺すような、包み込むような、全てを呑み込むようなその視線が、むず痒くて心は平静を失う。
逃げるように言葉を残しその場を去ろうと太宰の横を通ったその時、
「今日のパーティが終わったあと、このホテルの909号室に来て。」
ガッと腕を掴まれ、耳元で囁くように静かにそう言われた。
耳に掛かる太宰の熱い吐息が私の冷静さを尽く奪うようで、耳を抑えてバッと振り返る。
「またね。」
にっこりとわらう太宰には、あの頃と変わらず逆らってはいけないと思わせる声音だった。
***
「ふーん。君も随分と厄介な男に好かれたものだね。」
凄い執着だ。
なんて名探偵様はよく意味のわからないことを言いながらオレンジジュースを傍らにケーキを嬉しそうに頬張っている。
最初は遅い!と怒っていたのに今ではケーキに集中しているからその件についてはいいのだが、その後の厄介な男やら執着やらとの言葉が気になる。
「……それってどういう意味で?」
男、と言われて一番最初に出てきたのはやはり太宰だった。暫く疎遠だったというのにあの人を一番最初に思い出してしまう辺り、私の未練や執着は10年やそこらじゃ断ち切れるものでは無いらしい。
しかし、私が太宰に執着していたとしても私は太宰に置いていかれた身で、その逆は無いと思われる。
だとすると私に執着している厄介な男とは誰なのか。
中也、芥川君、首領、広津さん、立原くん……
沢山の人を思い浮かべるけど誰も当てはまらない。
疑問が解決する気配もなく、答えを求めるように名探偵様を見つめ続ければあぁー、もう!と怒ったように言った後、ビシッとケーキを食べていたフォークで私を指した。
「今日の0時、絶対に男の手を取るな。」
じゃないと君、死ぬから。
名探偵様は警告するようにそれだけ言うとまたケーキを食べ始める。
今日の0時……ちょうどパーティが終わった30分後。ということは名探偵様の言う男とはやはり太宰のことなのだろうか。
いや、でもパーティが終わったすぐ後に指定された場所へ行けば0時は過ぎないだろう。ということはやはり男とは太宰ではないのだろうか。
疑問はやはり解けなかったが、名探偵様の言う男が太宰とは限らないが、もし太宰だとしたら……と考えると名探偵様の警告に何故だか頷けなかった。
***
23時55分、
パーティが終了してから25分程経っている。
パーティが終わったら指定の場所にすぐにでも行くつもりだったのに、名探偵様の武勇伝を聞いたり、エリス嬢とお話してたら遅くなってしまった。
急ぐ気持ちを抑えながら、駆け足で太宰がいるであろう場所まで行き、扉の前で止まり、息を整えてからノックをする。
すると、「どうぞ。」と太宰の声が聞こえてきたので「失礼します。」と一つ声を掛けてから部屋に入る。
「やぁ、なまえ。遅かったねぇ。」
部屋の中は電気も点いていないから真っ暗で、部屋を照らす月の光だけが頼りだった。
その中で太宰が優しく微笑んだ気がした。それを嬉しく感じてしまう自分に嫌気が差す。
私が太宰に向けるこの想いは恋というにはあまりにも重く、どろどろとしているように感じる。
太宰が好き。
それは幼い頃に植え付けられた洗脳とも呼べるかもしれないけど、私の心を表す単語はそれしかなかった。
太宰が好きで、大好きで、ずっと傍に置いて欲しかった。
けれど太宰はもう私の傍にいてくれるような立場じゃなくて、私達が睦ごとをしたのは遠い昔だし、そもそも私と太宰は12も歳が離れているのだから私だけが太宰を想っていてもどうにもならない。
そうやって何度も考えてきたことを思い起こしては勝手に沈んで、こんな想いを抱えて一喜一憂しているのは私だけだと思ってしまえばさっさとこの想いを捨てたくて、できるだけ淡々と答えた。
「すみません、色々と用事があって。それで、ご要件は?」
「今日は、君を誘いに来たんだ。」
太宰からの誘い、
それだけで心臓はいつもよりずっと早くなるのだから嫌で仕方がない。
太宰はゆっくりと私に近付くと頬を撫で、髪を梳く。
それが私達はそんな関係じゃないのに、恋人同士の秘め事みたいで私は動けなかった。
なまえ、
声を掛けられ、自分よりもずっと高い位置にある顔を見上げる。
そこには頬を赤らめてわらう太宰がいて、これは幻なんじゃないかと思った。
だって、私の知る太宰はそんな甘くて優しくて……それでいて、恐ろしい執着を感じさせるような視線を送ったりはしない。
「大きくなったね。初めて会った時は皮膚と骨しか無いようなガリガリで髪もボサボサで服もボロボロだったのに、今ではまるで正反対だ。
白くて穢れを知らないような滑らかな肌、艶のある長く切り揃えられた黒髪、スラリと伸びた四肢、男ならかぶりつきたくなるような紅く色付いた唇。」
太宰は上から下まで全てを見透かすように視線を送る。
太宰は親指でなぞるように唇に触れるとずっと昔に見たような、食べられてしまいそうな視線を向けた。
「ここも、ここも、ここもここも、昔はぜーんぶ、私のもので常に痕がついていたのに、今では綺麗なもんだねぇ。」
太宰に言葉と共に首や腕、胸元など、昔は紅く色付いていた箇所を指さされれば、まるでその痕を欲しがるように私の心臓はキュッと小さくなる。
「おさむ、」
縋るように太宰を見つめれば思わず口から言葉は零れてしまう。
それが合図かのように太宰は目を細めると10年振りに私は太宰と接吻をした。
唇を重ね、互いの唇を味わうように食むと、そのうちそれだけでは満足出来なくなり、自然と舌は絡み合う。
まるで生き物のように動く熱いそれは勝手知ったるように私の口内を動き回り、確実に私に快感を与えていく。
「お、さむ、おさむ、おさむ、!」
口を離し、自由になれば今まで抑え込んでいたものを解放するように、太宰を呼び続けた。
忘れようと思っていたのに、一回昔のように扱われてしまえば、もう二度と太宰と離れたくなくて、泣きながら太宰を求め続ける。
きっと今の私は泣きすぎて顔がぐしゃぐしゃだろう。いやだな、こんなんじゃぁまた太宰に捨てられちゃう、すてられたくない、
「ねぇ、なまえ。私と心中しようか。」
そんな想いを聞き届けるように、私の上から聞こえてきた言葉にハッと顔を上げる。
大きくて丸い満月が太宰を照らす。
時刻は0時、名探偵様が言っていた時間。
ということは、私はこの誘いに乗れば死んでしまうのだろうか。
大きな満月を背に静かに微笑む太宰は神秘的で、それでいて死を招く死神のようだった。
「なまえ」
昔と変わらず、私を導くように差し伸べられる優しくて残酷な手。
大好きだったその手を私は_____
[完]
アトガキ↓
はい、籠絡シリーズif【夢主が大人になったら】でした!すみません、16歳って大人じゃないですよね……
でもこのシリーズの太宰さん隠れヤンデレで重いので16歳、つまり結婚できる歳になったら心中申し込みそうだなぁって思ってつい……!
何となく気付いた人もいると思いますが、このシリーズで太宰さんはマフィアを抜ける時、夢主を置いていきます。
え?なんで置いていくかって?私が大好きなのに置いていかれてそれが悲しくて必死に忘れようとしてるのに全然忘れられないなまえ……って可愛いでしょ?
忘れたくても忘れられない、他の男のことなんて考えられないように育てたんだから今回のこの結果は当たり前だよ。
とのこと。
え?歪んでる?……私、歪んだ愛の太宰さんってのがツボなんですよね。
ん?結局夢主は太宰の手を取って心中したかって?
……ご想像にお任せします。