一万打企画
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ある日の午後の休日。
その日、太宰は仕事を休憩して(サボって)街に出掛けていた。
休日だからか少し人が多い通りを歩き、次なまえと逢引する時に連れていく場所の下見をする。
そんなことを考えながら少しだけ上機嫌で歩いていれば、前方に今自分がちょうど考えていた人物、なまえの姿が見えた。
緊張しつつも不自然が無いよう話し掛けようとした、が……
「ごめん、待った?」
「ううん。今来たから大丈夫。」
自分が声をかけるよりも先に自分の知らない、少しチャラく見える男がなまえに話しかけた。
しかも会話からして待ち合わせをしていたようで、太宰はピシリと固まる。
「……太宰?」
「あれ、本当だ。太宰君?こんなところで何して___って、何してるんですか?!」
そんな修羅場?を目撃した二人、織田作と安吾は足を止め、声を掛けるがギョッとした。
「やァ。安吾、織田作。奇遇だねぇ。ちょっと待ってねぇ。今身の程知らずで厚顔無恥な邪魔な虫を撃ち落とすから。そしたら4人でカレーでも食べに行こうか。」
何故なら太宰は仕事の道具である銃をなまえの隣にいる男へ向けて狙いを定めている。
「あぁ、それはいいな。」
「じゃないでしょ!!何やってるんですか太宰君!?銃を下ろしなさい!!織田作さんも止めてください!!」
「ちょっと安吾、邪魔しないでよ。狙いが定まらないでしょ。」
「定まったらまずいんです!!」
安吾は必死に止めるが太宰は止まる気配は無い。
「じゃ、行こっか。」
「ん。」
男三人(正確には二人)が騒いでいる間になまえと男は歩き出す。
そしてそれに反応するかのように太宰は暴走する。
「何アレ?何あの男?誰の許可得てなまえの隣歩いてるの?大体最初の『待った?』『ううん。今来たから大丈夫。』って何?カップルでも気取ってんの?殺していい?」
「やめなさい!!」
「だって私達マフィアだし、暗殺・隠蔽・偽装はお手の物なんだから人一人くらいいいよね?」
「いいわけないでしょ!!」
息継ぎをせず歩き出した二人の後ろ姿を動向をかっぴらいて見る太宰を引き攣った顔で安吾は見る。
「太宰。」
「!織田作さん、止めてください!」
「……なまえ達行ってしまったがいいのか?」
「……ちょっと私、あっちに用があるから行ってくる。」
織田作の言葉に太宰はなまえ達が去った方を見て、銃を持ったまま同じ方向へ歩き出してしまった。
「「……」」
残された二人のうち一人は深いため息を吐き、なまえ達が去った方向へ駆けて行った。
***
なまえ達を尾行し、着いた先は映画館だった。
「チケット買ってきたよ。」
「ありがとう。いくらだった?」
「いいよ。デートで女の子にお金払わせるわけ無いでしょ?」
「……そう。」
ウィンクをして笑う男子に対し、無表情で頷くなまえ。
それに対し、太宰達は……
「はァァァァァァ!!?デートだって認識してるのは君だけだから。なまえだって『あ、これデートだったんだ。』って顔してるし!」
「ちょ、太宰君静かに!気付かれますから!!」
「太宰、よくなまえが考えてること分かったな。」
チケットを購入し、スクリーンへ向かう二人に太宰は怒りを募らせ、安吾は必死に止め、織田作は無表情ななまえの考えを読み取った太宰に感心する。
「ほら!私達も行くよ!」
「え、中まで着いてくんですか!?僕達なまえさんが何見るかも知らないんですけど……」
「それなら問題ないよ。これ(盗聴器)から聞こえる内容によると今世紀最大に怖いと言われているホラー映画だよ。」
「え、」
「チケットももう三人分あるから行こう!」
「さすが太宰だな。準備万端か。」
「いや、あの、僕は遠慮しておきま、」
「let's go!」
「ァ゙ァ゙ァァ゙ァァ゙ァァ!!?」
安吾の嫌だという悲痛な叫びは今心に余裕のない太宰には届かなかった。
***
映画が終わり、劇場からすぐに出たなまえ達の後を追い太宰達もその場を退出するが、安吾は精神的に疲れていた。
暴走する太宰の制御や天然で無自覚にボケる織田作へのツッコミ、それだけで疲れるというのに苦難はまだまだ続くようで、太宰はなまえ達の様子を食い入るように見ている。
「__さん___ね、」
「__君、が___そ_は___大丈___?」
今は少し距離があるせいか、なまえ達の会話は聞こえないが、心なしか男の方は顔が蒼く、引き攣っているように見える。
「ふふっ、残念だったね!ホラー映画を見て怖がるなまえを慰めつつ頼りがいのある所を見せて落とすつもりだったのだろうけどそんな簡単になまえは落とせないから!もしそんな簡単に落とせるなら今私はここにいない。」
「……それ、言ってて虚しくないですか?」
安吾の疲れきったツッコミは耳に入らず、太宰は次の地点へ行く二人を追い掛けた。
***
映画を見ていい時間になったのか、辺りが暗くなり始めた頃。
なまえは今日ずっと一緒にいた男子に手を引かれてヨコハマが一望できるような景色のいい場所に来ていた。
辺りには(太宰達を除いて)誰もおらず、静かな空間。
「……あの、ここから先を見るのはあの男の方に悪いのでは……」
「しっ、静かに。」
太宰に言われ、仕方無しに黙ればなまえ達の声が聞こえてきた。
「あのさ、みょうじさんって好きな人、とか気になる人って、いるの?あ、もちろん異性として。」
「?いないよ。」
「そっか。よかった。」
あぁぁぁ、やっぱりこの流れは……と気まずい安吾の横で、太宰は銃を準備した。
「いや、太宰君!何やってるんですか!?」(小声)
「暗殺する準備だよ。あ、これ安吾の分ね。織田作は自分のがあるから大丈夫だよね?」(小声)
「あぁ。」(小声)
「いりませんから!大体、裏社会とは何ら関係ない一般人を殺したらマフィアにとっても不利でしょう!」(小声)
「安吾、この世にはね?交通事故という便利な死因があるのだよ。」(小声)
「やめなさい!」(小声)
三人が自分達を見ているとも知らず、二人は話を進める。
「オレ、みょうじさんのこと気になるっていうかそんな感じだから、お試しでもいいから付き合ってみない?」
男の言葉に太宰は銃の引き金を引こうとした。
その時だった。
「ごめんなさい。お試しでも無理です。」
なまえの言葉で踏みとどまり、安吾は安堵する。
しかし、安吾の苦難は終わらない。
「どうしても?」
「どうしても。」
「でも、好きな人も気になっている人もいないんでしょ?」
「それでも無理。」
男は諦めが悪いようで、なまえがどんだけ断ろうと諦めない。
堪忍袋の緒を切らし、太宰が飛び出そうとした時だ。
「……やっぱり、あの男のことが好きなの?」
「あの男?」
男となまえの会話に足を止めた。
「オレ、この間見ちゃったんだよね。みょうじさんと黒い服を着たオレ達と同い年くらい?の男がみょうじさんのバイト先で楽しそうに話してるの。」
「……あぁ、太宰のことか。」
すぐに思い至ったようで、なまえはぽつりと声を漏らす。
「あんな危ない男やめてオレにしなよ。みょうじさんはあの時他の客の相手してて知らないと思うけど、彼奴、ヤバい奴だ。」
「……」
「ふとした時に見せる仄暗い目は不気味で、恐ろしかった。そんなヤバい奴やめて、オレにしなよ。」
男の言葉を聞き、安吾と織田作は太宰の反応を盗み見る。
確かに自分達は裏社会の人間であり、表で暮らしている人間にとって危ない人間なのかもしれない。
だがそれでも太宰は本気でなまえのことを想っている。
それなのにその太宰の想い人であるなまえに良からぬことを吹き込むから、心配になったのだ。
「あ、あの、太宰君……」
「……これでもし、」
「はい?」
「もし、なまえが私の事嫌いになったり恐れたりしたら絶対の男殺す。もう殺してくれってくらいの痛みと苦しみと絶望を与えて、精神が崩壊するくらい拷問して、万が一逃げられても居場所が無いように社会的にも殺す。」
そこには男の言う仄暗い目を持つ太宰がいた。
目の前の生物がどんなに苦しもうと足掻こうと画面の外から退屈そうに眺めている目。
唯一今回それと違うのは、退屈で無関心な感情に怒りが加わったことだ。
きっと、今の彼の頭は恐ろしいほど冷静で、だけれど心はこれまでに一片も動かなかった感情に火がついている。
その恐ろしさに安吾は息を飲み、空気に圧倒されたがそれを壊すような、清く澄んだ聞いてて気持ちの良い声が聞こえた。
「そう。でもそんなことずっと前から知ってるよ。」
「……え、?知ってるって、どういう……」
「?そのままの意味だけど。太宰が人を殺すのに躊躇いが無いのも知ってるし、ヤバい人間ってことも知ってるよ。裏社会で出世してる的な意味でもストーカー的な意味でも。」
「(ストーカー?)それならさっさと縁切らないと!彼奴は絶対ヤバい奴だって!さっきみょうじさんが言った通り、彼奴は目の前で人が死のうと顔色を変えない、恐ろしい人間だ!」
「?だから知ってるけど。太宰はそういう人間だって知ってて一緒にいるんだよ。」
「……は?」
なまえの言葉に男と太宰は固まるが、それに反応するでもなく、なまえは淡々と自分の考えを述べていく。
「私達みたいな人の生死に慣れてないような平凡な人間は太宰達は怖いかもしれない。私だって、最初は少し怖かった。だけど、一緒に話したり出掛けたりしてとっても楽しかったの。沢山の人を殺してるかもしれないけど、太宰と一緒にいると落ち着く。だから、離れたくはないなぁ。」
「そのためお付き合いは出来ません。」と言ったなまえの言葉に暫く呆然としていた男だったが、納得がいかないようで顔を顰めて「っなんだよ、それ……!」と言うと乱暴になまえの肩を掴んだ。いや、掴もうとした時だ。
バンッ
空気を切り裂くような音が響いた。
見れば、男は肩から血を流し、太宰の手には銃が握られていた。
「……誰の許可を得て私の婚約者に触れてるんだい?」
なまえの肩を抱き寄せて男に聞く太宰にはいつもの貼り付けた笑顔はなく、静かな怒りを感じた。
「ヒッ、い、いいや、あの、!」
いつから見られていたのか、と気が気でない男は腰を抜かし、太宰の圧倒的な雰囲気に呑まれている。
「私の婚約者がお世話になったね。また“後日”お礼をしよう。」
そう言ってにっこりと貼り付けた笑みで笑う太宰に男が顔面蒼白になりながら逃げるように帰ったのは言うまでもない。
***
「……私達、婚約なんてしてたっけ?」
男が帰り、ついでに安吾と織田作も退散した後、静まり返った空間でなまえがぽつりと聞けば太宰は自販機で買ったお茶を噴き出す。
「あ、ああれはただの口八丁手八丁で、特に深い意味は、いや、その内そうはなるだろうけど違くて、」
「?どっち?」
なまえにストーカーだとバレてから少しは素直に本音が出るようになったが、まだ照れくさいのか、ごにょごにょと喋る。
「まぁ、どっちでもいいか。ありがとう、太宰。助けてくれたのが太宰で良かった。」
「え、」
「困ってたから見知った人がいるだけで安心しちゃったや。」
「……ぁぁ、そういう。」
自分だからなまえは安心したのかと考えたが、その後ろの言葉で幻想は崩れる。
そうだよね、君はそういう子だよね。きっとあの場面で私が助けようとも安吾が助けようとも織田作が助けようとも安心してたよね。
他の誰かに奪われる気はないが、自分の恋路も長い。
そうやって遠い目をした時だった。
「でも、話してた内容は本当だよ。太宰と一緒にいると、安心する。」
「っ___!!」
安心したような、嬉しそうな、そんな顔で自分に笑いかけながら言うものだから、太宰は声にもならない声を上げ、悶える。
ちょこん、と近くて当たる指先に顔は紅くなり、仕事でもしないような緊張が自分を襲う。
「ん?どうかした?太宰。」
「……なんでもない。」
こんなに近くにいるのに頬を紅くすることもなければ、特に意識した様子もない。
それは少し残念だけどまだこの感情に慣れていない自分にはちょうどいいような物足りないような矛盾を感じて、
せめて、この距離で少しでも意識してもらえるように、太宰は自然となまえの手を握った。
[完]
アトガキ↓
はい、「【探偵がストーカーってどうなの。】で夢主が男の人と出かけていたのを太宰が目撃して尾行する」というリクエストでした!
夢主を落とそうと頑張るけど思い通りにならない脇役の男、意図せずフラグを折りまくる夢主、黒の時代では思考が危険な太宰、巻き込まれた恐らく今回一番の被害者である安吾、カレーが美味しくて満足な織田作……という構図で書いていたのですが、織田作があまり書けませんでした……!
本当は男の人役を文ストの男性キャラの誰かにしようとしたのですが、候補だった中也の場合でも織田作の場合でも普通に乱入しそうなので脇役にさせていただきました!
えっ?脇役男子のその後?
勿論きっちり太宰さんがお礼(マフィア流)をしましたよ。……安心してください。死んではいません。
その日、太宰は仕事を休憩して(サボって)街に出掛けていた。
休日だからか少し人が多い通りを歩き、次なまえと逢引する時に連れていく場所の下見をする。
そんなことを考えながら少しだけ上機嫌で歩いていれば、前方に今自分がちょうど考えていた人物、なまえの姿が見えた。
緊張しつつも不自然が無いよう話し掛けようとした、が……
「ごめん、待った?」
「ううん。今来たから大丈夫。」
自分が声をかけるよりも先に自分の知らない、少しチャラく見える男がなまえに話しかけた。
しかも会話からして待ち合わせをしていたようで、太宰はピシリと固まる。
「……太宰?」
「あれ、本当だ。太宰君?こんなところで何して___って、何してるんですか?!」
そんな修羅場?を目撃した二人、織田作と安吾は足を止め、声を掛けるがギョッとした。
「やァ。安吾、織田作。奇遇だねぇ。ちょっと待ってねぇ。今身の程知らずで厚顔無恥な邪魔な虫を撃ち落とすから。そしたら4人でカレーでも食べに行こうか。」
何故なら太宰は仕事の道具である銃をなまえの隣にいる男へ向けて狙いを定めている。
「あぁ、それはいいな。」
「じゃないでしょ!!何やってるんですか太宰君!?銃を下ろしなさい!!織田作さんも止めてください!!」
「ちょっと安吾、邪魔しないでよ。狙いが定まらないでしょ。」
「定まったらまずいんです!!」
安吾は必死に止めるが太宰は止まる気配は無い。
「じゃ、行こっか。」
「ん。」
男三人(正確には二人)が騒いでいる間になまえと男は歩き出す。
そしてそれに反応するかのように太宰は暴走する。
「何アレ?何あの男?誰の許可得てなまえの隣歩いてるの?大体最初の『待った?』『ううん。今来たから大丈夫。』って何?カップルでも気取ってんの?殺していい?」
「やめなさい!!」
「だって私達マフィアだし、暗殺・隠蔽・偽装はお手の物なんだから人一人くらいいいよね?」
「いいわけないでしょ!!」
息継ぎをせず歩き出した二人の後ろ姿を動向をかっぴらいて見る太宰を引き攣った顔で安吾は見る。
「太宰。」
「!織田作さん、止めてください!」
「……なまえ達行ってしまったがいいのか?」
「……ちょっと私、あっちに用があるから行ってくる。」
織田作の言葉に太宰はなまえ達が去った方を見て、銃を持ったまま同じ方向へ歩き出してしまった。
「「……」」
残された二人のうち一人は深いため息を吐き、なまえ達が去った方向へ駆けて行った。
***
なまえ達を尾行し、着いた先は映画館だった。
「チケット買ってきたよ。」
「ありがとう。いくらだった?」
「いいよ。デートで女の子にお金払わせるわけ無いでしょ?」
「……そう。」
ウィンクをして笑う男子に対し、無表情で頷くなまえ。
それに対し、太宰達は……
「はァァァァァァ!!?デートだって認識してるのは君だけだから。なまえだって『あ、これデートだったんだ。』って顔してるし!」
「ちょ、太宰君静かに!気付かれますから!!」
「太宰、よくなまえが考えてること分かったな。」
チケットを購入し、スクリーンへ向かう二人に太宰は怒りを募らせ、安吾は必死に止め、織田作は無表情ななまえの考えを読み取った太宰に感心する。
「ほら!私達も行くよ!」
「え、中まで着いてくんですか!?僕達なまえさんが何見るかも知らないんですけど……」
「それなら問題ないよ。これ(盗聴器)から聞こえる内容によると今世紀最大に怖いと言われているホラー映画だよ。」
「え、」
「チケットももう三人分あるから行こう!」
「さすが太宰だな。準備万端か。」
「いや、あの、僕は遠慮しておきま、」
「let's go!」
「ァ゙ァ゙ァァ゙ァァ゙ァァ!!?」
安吾の嫌だという悲痛な叫びは今心に余裕のない太宰には届かなかった。
***
映画が終わり、劇場からすぐに出たなまえ達の後を追い太宰達もその場を退出するが、安吾は精神的に疲れていた。
暴走する太宰の制御や天然で無自覚にボケる織田作へのツッコミ、それだけで疲れるというのに苦難はまだまだ続くようで、太宰はなまえ達の様子を食い入るように見ている。
「__さん___ね、」
「__君、が___そ_は___大丈___?」
今は少し距離があるせいか、なまえ達の会話は聞こえないが、心なしか男の方は顔が蒼く、引き攣っているように見える。
「ふふっ、残念だったね!ホラー映画を見て怖がるなまえを慰めつつ頼りがいのある所を見せて落とすつもりだったのだろうけどそんな簡単になまえは落とせないから!もしそんな簡単に落とせるなら今私はここにいない。」
「……それ、言ってて虚しくないですか?」
安吾の疲れきったツッコミは耳に入らず、太宰は次の地点へ行く二人を追い掛けた。
***
映画を見ていい時間になったのか、辺りが暗くなり始めた頃。
なまえは今日ずっと一緒にいた男子に手を引かれてヨコハマが一望できるような景色のいい場所に来ていた。
辺りには(太宰達を除いて)誰もおらず、静かな空間。
「……あの、ここから先を見るのはあの男の方に悪いのでは……」
「しっ、静かに。」
太宰に言われ、仕方無しに黙ればなまえ達の声が聞こえてきた。
「あのさ、みょうじさんって好きな人、とか気になる人って、いるの?あ、もちろん異性として。」
「?いないよ。」
「そっか。よかった。」
あぁぁぁ、やっぱりこの流れは……と気まずい安吾の横で、太宰は銃を準備した。
「いや、太宰君!何やってるんですか!?」(小声)
「暗殺する準備だよ。あ、これ安吾の分ね。織田作は自分のがあるから大丈夫だよね?」(小声)
「あぁ。」(小声)
「いりませんから!大体、裏社会とは何ら関係ない一般人を殺したらマフィアにとっても不利でしょう!」(小声)
「安吾、この世にはね?交通事故という便利な死因があるのだよ。」(小声)
「やめなさい!」(小声)
三人が自分達を見ているとも知らず、二人は話を進める。
「オレ、みょうじさんのこと気になるっていうかそんな感じだから、お試しでもいいから付き合ってみない?」
男の言葉に太宰は銃の引き金を引こうとした。
その時だった。
「ごめんなさい。お試しでも無理です。」
なまえの言葉で踏みとどまり、安吾は安堵する。
しかし、安吾の苦難は終わらない。
「どうしても?」
「どうしても。」
「でも、好きな人も気になっている人もいないんでしょ?」
「それでも無理。」
男は諦めが悪いようで、なまえがどんだけ断ろうと諦めない。
堪忍袋の緒を切らし、太宰が飛び出そうとした時だ。
「……やっぱり、あの男のことが好きなの?」
「あの男?」
男となまえの会話に足を止めた。
「オレ、この間見ちゃったんだよね。みょうじさんと黒い服を着たオレ達と同い年くらい?の男がみょうじさんのバイト先で楽しそうに話してるの。」
「……あぁ、太宰のことか。」
すぐに思い至ったようで、なまえはぽつりと声を漏らす。
「あんな危ない男やめてオレにしなよ。みょうじさんはあの時他の客の相手してて知らないと思うけど、彼奴、ヤバい奴だ。」
「……」
「ふとした時に見せる仄暗い目は不気味で、恐ろしかった。そんなヤバい奴やめて、オレにしなよ。」
男の言葉を聞き、安吾と織田作は太宰の反応を盗み見る。
確かに自分達は裏社会の人間であり、表で暮らしている人間にとって危ない人間なのかもしれない。
だがそれでも太宰は本気でなまえのことを想っている。
それなのにその太宰の想い人であるなまえに良からぬことを吹き込むから、心配になったのだ。
「あ、あの、太宰君……」
「……これでもし、」
「はい?」
「もし、なまえが私の事嫌いになったり恐れたりしたら絶対の男殺す。もう殺してくれってくらいの痛みと苦しみと絶望を与えて、精神が崩壊するくらい拷問して、万が一逃げられても居場所が無いように社会的にも殺す。」
そこには男の言う仄暗い目を持つ太宰がいた。
目の前の生物がどんなに苦しもうと足掻こうと画面の外から退屈そうに眺めている目。
唯一今回それと違うのは、退屈で無関心な感情に怒りが加わったことだ。
きっと、今の彼の頭は恐ろしいほど冷静で、だけれど心はこれまでに一片も動かなかった感情に火がついている。
その恐ろしさに安吾は息を飲み、空気に圧倒されたがそれを壊すような、清く澄んだ聞いてて気持ちの良い声が聞こえた。
「そう。でもそんなことずっと前から知ってるよ。」
「……え、?知ってるって、どういう……」
「?そのままの意味だけど。太宰が人を殺すのに躊躇いが無いのも知ってるし、ヤバい人間ってことも知ってるよ。裏社会で出世してる的な意味でもストーカー的な意味でも。」
「(ストーカー?)それならさっさと縁切らないと!彼奴は絶対ヤバい奴だって!さっきみょうじさんが言った通り、彼奴は目の前で人が死のうと顔色を変えない、恐ろしい人間だ!」
「?だから知ってるけど。太宰はそういう人間だって知ってて一緒にいるんだよ。」
「……は?」
なまえの言葉に男と太宰は固まるが、それに反応するでもなく、なまえは淡々と自分の考えを述べていく。
「私達みたいな人の生死に慣れてないような平凡な人間は太宰達は怖いかもしれない。私だって、最初は少し怖かった。だけど、一緒に話したり出掛けたりしてとっても楽しかったの。沢山の人を殺してるかもしれないけど、太宰と一緒にいると落ち着く。だから、離れたくはないなぁ。」
「そのためお付き合いは出来ません。」と言ったなまえの言葉に暫く呆然としていた男だったが、納得がいかないようで顔を顰めて「っなんだよ、それ……!」と言うと乱暴になまえの肩を掴んだ。いや、掴もうとした時だ。
バンッ
空気を切り裂くような音が響いた。
見れば、男は肩から血を流し、太宰の手には銃が握られていた。
「……誰の許可を得て私の婚約者に触れてるんだい?」
なまえの肩を抱き寄せて男に聞く太宰にはいつもの貼り付けた笑顔はなく、静かな怒りを感じた。
「ヒッ、い、いいや、あの、!」
いつから見られていたのか、と気が気でない男は腰を抜かし、太宰の圧倒的な雰囲気に呑まれている。
「私の婚約者がお世話になったね。また“後日”お礼をしよう。」
そう言ってにっこりと貼り付けた笑みで笑う太宰に男が顔面蒼白になりながら逃げるように帰ったのは言うまでもない。
***
「……私達、婚約なんてしてたっけ?」
男が帰り、ついでに安吾と織田作も退散した後、静まり返った空間でなまえがぽつりと聞けば太宰は自販機で買ったお茶を噴き出す。
「あ、ああれはただの口八丁手八丁で、特に深い意味は、いや、その内そうはなるだろうけど違くて、」
「?どっち?」
なまえにストーカーだとバレてから少しは素直に本音が出るようになったが、まだ照れくさいのか、ごにょごにょと喋る。
「まぁ、どっちでもいいか。ありがとう、太宰。助けてくれたのが太宰で良かった。」
「え、」
「困ってたから見知った人がいるだけで安心しちゃったや。」
「……ぁぁ、そういう。」
自分だからなまえは安心したのかと考えたが、その後ろの言葉で幻想は崩れる。
そうだよね、君はそういう子だよね。きっとあの場面で私が助けようとも安吾が助けようとも織田作が助けようとも安心してたよね。
他の誰かに奪われる気はないが、自分の恋路も長い。
そうやって遠い目をした時だった。
「でも、話してた内容は本当だよ。太宰と一緒にいると、安心する。」
「っ___!!」
安心したような、嬉しそうな、そんな顔で自分に笑いかけながら言うものだから、太宰は声にもならない声を上げ、悶える。
ちょこん、と近くて当たる指先に顔は紅くなり、仕事でもしないような緊張が自分を襲う。
「ん?どうかした?太宰。」
「……なんでもない。」
こんなに近くにいるのに頬を紅くすることもなければ、特に意識した様子もない。
それは少し残念だけどまだこの感情に慣れていない自分にはちょうどいいような物足りないような矛盾を感じて、
せめて、この距離で少しでも意識してもらえるように、太宰は自然となまえの手を握った。
[完]
アトガキ↓
はい、「【探偵がストーカーってどうなの。】で夢主が男の人と出かけていたのを太宰が目撃して尾行する」というリクエストでした!
夢主を落とそうと頑張るけど思い通りにならない脇役の男、意図せずフラグを折りまくる夢主、黒の時代では思考が危険な太宰、巻き込まれた恐らく今回一番の被害者である安吾、カレーが美味しくて満足な織田作……という構図で書いていたのですが、織田作があまり書けませんでした……!
本当は男の人役を文ストの男性キャラの誰かにしようとしたのですが、候補だった中也の場合でも織田作の場合でも普通に乱入しそうなので脇役にさせていただきました!
えっ?脇役男子のその後?
勿論きっちり太宰さんがお礼(マフィア流)をしましたよ。……安心してください。死んではいません。