一万打企画
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学ストです。
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春__出会いと別れの季節。
といっても、部活に入っていない私は新入生が無事入学しようと1年の時と交友関係はほとんど何も変わらないのだが。
それでも何かが起こる予感のする春は何処か心が浮ついていて、四限終了後、私はお弁当を持って裏庭へ向かった。
***
裏庭には立派な桜の木がある。
太く頼もしい幹、大きな背丈、薄桃色の花弁が舞い散る様は美しくてつい魅入ってしまう。それはもう、桜の木で首吊りしてる人なんて目に入らないくら、___!?
さらっとスルーしていた事実を確かめるようにギギギ、と壊れたおもちゃのように首を動かし、その立派な桜の木を見上げれば確かにそこにはうちの学校の制服を来た男子生徒が首を吊っていた。
「_____!?」
声にもならない悲鳴をあげ、まず何をすべきかを考えようとするが頭が上手く回らない。
どうすればいいのだろうか、
木から下ろせばいい?でもこういう時って現場を荒らしちゃダメだよね。あ、そうか、警察に電話……いや、その前に救急車なのかな、どうすればいいんだろう、誰か助けてっ!!
と軽くパニック状態になりながら右往左往し、結局私は仏様(仮)に隣のおばあちゃんから貰った饅頭とお弁当を供えて先生に助けを求めに行った。
顔を下げているから誰かは分からなかったが、取り敢えず特徴だけを先生に伝える。
近くに国木田先生がいて良かった……。
遠くから男子生徒を助けに行ったであろう国木田先生の怒鳴り声が聞こえる。きっとこれで安心だろう。
しかし饅頭どころかお弁当まで供えてしまったので私は急いで購買へ向かった。
***
そんな濃い一日があった次の日。
あの現場が夢に出るんじゃないかと少し心配もしたが全くそんなことはなく、熟睡出来た。
そうして一日はあっという間に過ぎ、さぁ帰るぞ。と準備をすれば廊下から悲鳴が聞こえてくる。
人類最大の敵Gでも出たのかな?なんて考えるも、悲鳴はやけに黄色かったのでそれはないかと思い直す。
さて、準備も出来たし帰ろう。
さして重くもない鞄を背負った時だった。
「やぁ、なまえちゃん。昨日ぶりだねぇ。」
女子があげる高い声とは違い、低く落ち着きのある声が私を呼んだ。
え、誰?と咄嗟に口から出なかったのは目の前で胡散臭い笑顔を振り撒いているこの男が学校内での有名人だったからだろう。
「えっと、太宰……?何か用、でございましょうか……」
この学校の武装生徒会役員の一人、書記の太宰治だ。よく女子にキャーキャー言われてる人。
何となくこちらが一方的に知っている人物だけに距離が測りがたく、変な敬語を使ってしまう。
というか昨日ぶりってなんだ。昨日どこかで会いましたっけ?だめだ、昨日のことはあの首吊り事件しか思い出せない。
うーん、と首を傾げるが全く思い出せないし女子の視線が痛い。刺されそう。もう「すみません、覚えてないので帰っていいですか?」って言っていいかな?
「あぁ、ここじゃぁ目立つしゆっくり話せないね。少し移動しようか。」
なんて私の考えに気付いたのか、提案してくれたのは有難いが、話すことが確定してしまった。
「おいで、案内しよう。」なんて言いながらさらっと手を取って引いてくれるこの人を見て、あぁ、これはモテるはずだよ。と鋭くなった女子の目線に現実逃避を開始した。
***
連れて来られたのは知る人ぞ知る、といった落ち着いた雰囲気のお洒落なお店。
なんで私こんな所に連行されたんだろう。なんか悪いことしたっけ。
「何か食べる?」と何を考えているのか分からないこの人は聞いてくるが丁重に断っておいた。
あぁ、お家に帰りたい。
放課後、学園一のモテ男と二人っきりって女子に見られたら……なんて思うと胃が痛くなってくる。
店員さんから届けられた烏龍茶を啜りながらさっさと帰るため、本題を切り出す。
「あの、それで私に何か御用でしょうか……?」
「いやね?国木田君から昨日君に世話になったと聞いたからお礼に来たのだよ。」
えっと、昨日の私ほんとに何したんだ。と悩んでいれば太宰君は自分の鞄から見覚えのある弁当箱と美味しいと有名なお店の饅頭を取り出した。
「え、それ」
「昨日君が供えてくれたものだよ。美味しかったけど、私、玉子はだし巻き玉子がいいなぁ。」
お弁当箱を受け取り聞いていないのに好みの話をする。というか食べたのか。いや別にお供え物だからいいんだけどね。なんか複雑。
「はい、それとお礼のお饅頭ね。好きでしょ?和菓子。」
「はい!凄い好きです!」
和菓子が大好物の私は有名店の和菓子一つで盛り上がる。どうやらくれるらしいからそれは素直に受け取ろうとした。
「……」
「……ぁ、」
饅頭が入った箱を受け取ろうとすると、手の先が触れ合ってしまい、どこの少女漫画だよ。と思いながらすみません、と謝ろうとした。
そうすれば女子に怒られることも誤解されることもないだろう、と。
しかし、手を引っ込めようとした私とは裏腹に、太宰は私の手を追いかけて絡めてくる。
まるで恋人同士の戯れのように当たり前のように。
「……ねぇ、なまえ。」
何するの、という文句は太宰の静かな声に消された。
周りが静かだからか、太宰の声はよく響く。
「前に私と、何処かで出逢ってないかい?」
その声は、探るような目は、私の平常心を意図も容易く奪った。
心臓が早い、けれどこれは恋や青春みたいな甘酸っぱいものなんかじゃなく、硬く、重苦しい警鐘と言った方が正しいものだった。
昨日が初対面のはずだった。その考えは今も変わらない。そうそのまま答えればいいはずなのに、私の喉は震え、まともな声は出ない。
これは、まるで本能に刻まれた恐怖のようだった。前世、あるいはそれよりもっと前に植え付けられた感情のように思える。
「い、いいえ。」
声は震えていなかっただろうか、不自然じゃなかっただろうか。
先程まで早く帰りたいとばかり考えていたのに今はそんな余裕などあるはずなく、目の前で「そう。」と目を伏せている男が怖くて仕方なかった。
「……それが、何か?」
「いや、覚えてないならそれはそれでいいよ。」
意味の分からないことを言ってと太宰は席を立つ。
「___それじゃぁ、またね。」
この場を去った太宰は、わらっていた。
しかしその笑顔の中には何か計り知れないような恐ろしく、異質なものが隠されているような気がして、私は冗談じゃないと思った。
***
『出してッ!私を、私をここから出してッ!!』
ここは、どこだろう。
右も左も分からないような真っ暗な部屋の中、女の人が、必死に扉を叩いて叫んでいる。
女の人___?
違う。あれは、“私”だ。
根拠も理由も無いのに、何故だかスっと頭に入るようにそう思った。
“私”は扉の取っ手をガチャガチャと回して必死にその部屋から出ようとしているけど開く気配は無くて、焦りだけがどんどん出てくる。
『これで分かったかい?君はもうここから逃げられないよ。』
焦って焦って、何度も扉を叩いては開かなくて絶望して泣いている“私”にそう言ったのは、聞き覚えのある男の声の人。
『……っどうして、』
震える声で、“私”は聞いた。
『どうして、こんな酷いことをするの……?』
男の人は、酷く愉しげで何が悪いのか分かっていないような声音で言った。
『なんでって、そんなの決まってるだろう?
私が君を、_________』
***
「やぁ、なまえちゃん。お目覚めかい?」
「……太宰。」
いつの間に来てたのか、私の前の席で此方に体を向けてにっこりと笑っているのはあの日から毎日昼放課と放課後に遊びに来る太宰。もぐもぐと勝手に人の弁当を食べている太宰に怒る気にもなれない。
……太宰と出会ったあの日から、とても怖い夢を見る頻度が多くなった気がする。
「おや、どうかしたかい?」
「……なんでもないです。」
毎日見るあれは、あの夢は、本当に夢なのだろうか。
夢で見たものはどれも見たことが無いはずなのに覚えがあって、夢という割にいつだって鮮明だった。
夢、というよりも記憶……といった方が正しいような気さえする。
「なまえ?様子が少しおかしいけど、本当に大丈夫かい?」
「あ、うん。だいじょう、ぶ____」
太宰は私の方へ手を伸ばし、男の人にしては細くて綺麗な手で私の頬を撫でた。
その時の太宰は愛しいものでも見るかのように頬を紅くして幸せそうに微笑んでいたのに、私の体は硬直した。
壊れ物を扱うようなその手も、溶けそうなほど熱いその視線も、普通ならドキドキしてしまうかもしれないが、私の心臓はあの日の放課後と同じような恐怖を抱いた。
「ぁ、わ、私、日直で先生に呼ばれてるから行くね!」
少しでも早くその手から逃げたくて、少しでも早くその視線から逃げたいから、だから呼ばれてもいないのに次の授業の荷物を持って教室を出た。
ちらり、と振り返り少しだけ見えたのは太宰の此方を刺すような視線だった。
***
眠い眠いお昼過ぎの5限は化学の時間。
先生の声とか授業の内容とかが面白くなくて眠気しか誘わない。
眠いな……なんて思っていた時だった。
とんとん、と肩叩かれ横を向けば中也君が悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「これ見ろ!」とノートの切れ端を渡され、中を覗けば下手くそな化学の先生の絵が描いてあった。
「っ、な、なにこれっ……!」
笑いを堪えながら小声で隣の中也君に聞けばしてやったりという顔をしている。
「眠そうだったから眠気覚ましに描いてやったんだよ。」
目ェ覚めたか?なんて聞かれれば勿論答えはyesだ。笑いすぎて目が冴えてしまった。
昼放課の空気が緊迫していただけに少しだけ和んで心に余裕が生まれる。
「ふふっ、ありがとう。中也君。」
「!おう。」
ニヒルに笑う男前の彼は今日も頼りになる。
***
「さっきの授業中、中也と何を話してたんだい?」
放課後、真っ直ぐ帰宅しようと思っていた私を引き摺るように初めて話した時の喫茶店に連れてきた太宰はいつもの胡散臭い笑みを浮かべずにそう聞いた。
「なに、って……中也君の描いた落書きが面白くて笑ってただけだけど。」
何となく、それが怖くて目を逸らして答えた。
「へぇ、まぁ知ってたけど。」
なら聞くな。と突っ込もうとしたが、そこで私は違和感に気付いた。
私と太宰は違うクラスだ。それなのに、何故太宰は私の授業風景を知ってるんだ……?
いや、それだけじゃない。太宰は当たり前のように私の名前を最初から呼んでいたが、私達は元々なんの関わりもない。私は自己紹介もしてないのに、なんで、私の名前が最初から分かったのだろう……?
「ん?どうかしたかい?」
恐る恐る目を向ければ先程の無表情はどこにいったのか、と思わせるくらい優しく笑っていて、けれどそれが私には仮面のように見えてなんだか怖かった。
「お、御手洗に行ってきます……!」
なんだか知ってはいけないことを知ってしまった気がして、気付いたらそう言って私は逃げていた。
***
男である太宰は絶対に入ってこれない場所、女子トイレに入って息をつく。
最初にやってきたのは安心、次にやってきたのは不安だった。
鏡に写る自分は酷い顔をしている。
なんだか頭が痛い。もうこれを理由に帰ってしまおうか。
なんて考えていれば覚えのない、しかし確かに私の記憶である光景が脳裏に浮かぶ。
鍵のかかった部屋、そこで“私”は鎖に繋がれてぼーっとしている。けれどそれは世間一般的にいう呑気な表情なんかではなくて、“私”の目は絶望に囚われていた。
まるで死ぬのを待つだけの生き人形のような姿にぎょっとする。
『なまえ、今日はいい子にしてたかい?』
いつも夢に見る男の声の人だ。相変わらず姿は見えない。
“私”はその言葉に少しの反応も示さず、虚空を見つめている。
そんな“私”に男の人は苛立った様子もなく、その雰囲気は何処か満足気だった。
『ふふっ、可愛い可愛い私のお人形さん。_____』
「あの、大丈夫ですか?」
後ろから掛けられた声にハッとする。
振り返れば知らないおばあちゃんが心配そうに私を見ていた。
慌てて大丈夫だということとお礼を伝えてから太宰の元へ戻った。
***
「す、すみません。遅くなっちゃって。」
少し頭が痛くて……と言い訳のような本当のような言葉を並べる。
「おや、それは大変だねぇ。大丈夫かい?」
「あ、はい。だいじょう、」
そこではたと気付いた。
太宰の声は、夢に出てきた男の人の声に似ている気がした。
なんで、気付かなかったんだろう。
あの男の声の人が太宰なんじゃないか、と考えれば考えるほど太宰への恐怖は膨れ上がっていく。
「なまえ。」
怖くて怖くて仕方ない中、名前を呼ばれ、ビクリと体が跳ねる。
「はい。ココア。」
にっこりと笑いながら差し出されたのは私の好きな飲み物。
「あの、えっと……」
「ゆっくりでいいよ。落ち着いて。ココアには心を落ち着かせる作用もあるから飲むといい。」
軽くパニックに陥っている私に対し、太宰ははい。とココアを渡す。
その様子をじっと見つめられて、飲まなきゃ失礼かな。なんて思って飲めば確かに少しだけ安心した。
「落ち着いたかい?」
「は、はい。お陰様で。」
勝手に焦って勝手に怖がっていたのに対応は紳士で何となく罪悪感が沸く。
「あ、あの……」
「ん?なぁに?」
さっきは取り乱してすみませんでした……。と謝ろうとしたその時だった。
視界が揺れて、強烈な眠気が私を襲う。
なんで、こんな急に……と思って薄れる意識の中、必死に太宰を見れば太宰は頬を紅く染めてわらっていた。
そこで私の太宰に対する恐れは間違ってなかったんだ、と理解して私は意識を飛ばした。
***
「ゥ、あたま、いた、い……。」
意識がハッキリしない中、目が覚めると私は真っ暗な知らない部屋の中にいた。
「ど、どこここ……?」
暗くて辺りが見えない。
手探りでゆっくりとここは何処か手がかりになるものはないかと探す。
その時、ジャラリと聞き慣れない音が聞こえた。
え、と思って音の元を辿るように足首に触れればそこには金属状の何かが繋がれていた。
いや、目が少しずつ慣れてきて分かる。
あれは、あれは鎖だ。
夢にも出てきた、あの鎖。
なんで、という気持ちでいっぱいになる。
鎖に真っ暗な部屋なんて、ここは夢の中?そう信じたくて頬を少しだけ強く引っ張るけど痛くて、嫌でもここが現実だと理解してしまう。
さっきまで私、喫茶店にいたはずなのに、なんで、私はここにいるの?
ここは、いやだ。
こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいッ!!!
嫌で嫌で逃げ出したくて鎖がついてるのも忘れて恐怖で震える身体で扉に向かえば鎖が逃がさないと言うようにピンと延びて扉にはギリギリまでしか手は届かない。
それでも正気を保っていない私は逃げたくて、夢の時と同じようにドアを必死で叩いたりドアノブを回したりするのに開く気配は少しもない。
「ふふっ、そうやってると、昔を思い出すねぇ。」
後ろから、声が聞こえた。
その聞き覚えのある声にバッと振り返ればいつの間にか愉しそうにわらっている太宰がいた。
なにが、おかしいの……?
こんなの、ただの悪戯だよね……怯えてる私を見て後でドッキリでしたー、とかそういうのだよね……?
そんなわけないと自分が一番理解しているのにそれを信じたくなくて、真実から目を逸らす。
「む、かし……?」
「そう。私と君はずっと前に出会っているのだよ。まぁ君は忘れてるみたいだけど、大丈夫。また何年も掛けてたぁっぷり可愛がってあげるから。」
ヒッ、と引き攣った声があがる。
太宰の言葉に反射的に思い出したのは頭痛の時、絶望して生き人形のような姿になった“私”。
そうはなりたくなくて、必死に助けを求める。
「誰かッ!誰か助けてくださいッ!!」
手が痛くなるくらいドアを叩き続けて助けを求めるのに、外からはなんの反応もない。
「うーん、そうやって必死にもがいてる所も可愛いけど、そろそろこっちに集中しようか。」
「ん!?」
後頭部を掴まれたかと思えばそのまま接吻をされる。
明らかに異質なこの男が怖くて、そんな男とこんな行為をするのが嫌で反抗するように顔を逸らそうとすれば唇に少し強めに噛み付かれた。
痛くて少しだけ口を開ければ、チャンスとでも言うようにニュルりとした自分のものじゃないソレは確かに熱を持って入ってくる。
深く深く絡め取られ、窒息死しちゃうような苦しい接吻。
ようやく離された時、私はもう肩で息をして、目の前でわらう太宰を睨み付けた。
「『……っどうして、』」
震える声で、私は聞いた。
「『どうして、こんな酷いことをするの……?』」
太宰は、酷く愉しげで何が悪いのか分かっていないような声音で言った。
「『なんでって、そんなの決まってるだろう?』」
あぁ、酷く夢と重なる。
暗い部屋の中、必死で扉を叩く私、そんな私を嗤うように恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくりと、しかし確実に迫ってくる太宰。
「『___私が君を、愛してるからだよ。』」
夢では聞こえなかったのに、今この言葉を聞いて、あぁ、あの時も太宰はきっとこう言ってたんだな。なんて諦めにも似た感情が浮かび上がる。
「これからはずっーと一緒だね。」
なすすべなく呆然と立ち尽くす私に対し、あどけなく笑うこの青年は、___いったいだれなのだろう。
全ての始まりは桜舞うあの季節、
きっとあれこそが、あそこで彼と出会った事こそが、私の人生最大の凶だったのだろう。
[完]
アトガキ↓
はい、ここまで読んでくれてありがとうございました!!リクエスト内容は【太宰と夢主の転生もので、ヤンデレ太宰だけが記憶ありだったら。】でした!!
ご期待通りに書けたでしょうか……?
個人的に太宰のヤンデレって最高かよっ!!という思考の持ち主なのでこのリクエストは楽しかったし嬉しかったです!!
この後太宰さんは夢主に対して飴と鞭を適切に使い分けて、外の世界のことを全て忘れるように洗脳して、夢主が「私には太宰しかいない……」と思い込んでポツリと独り言を漏らしたら密かにほくそ笑んでそれを肯定してたらおいしいと勝手に思ってます。
【蛇足】
文中にちょくちょく出てきた夢や頭痛の時のあれは前世の記憶です。
夢主が見たものは全て前世で実際自分が体験したことでした。分かりずらくてすみません……。
(『』の中が前世での記憶の台詞となっております。)
きっと夢主が最初から太宰に恐怖を抱いていたのは何となく、潜在的に前世のことを覚えていたからだと思います。
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春__出会いと別れの季節。
といっても、部活に入っていない私は新入生が無事入学しようと1年の時と交友関係はほとんど何も変わらないのだが。
それでも何かが起こる予感のする春は何処か心が浮ついていて、四限終了後、私はお弁当を持って裏庭へ向かった。
***
裏庭には立派な桜の木がある。
太く頼もしい幹、大きな背丈、薄桃色の花弁が舞い散る様は美しくてつい魅入ってしまう。それはもう、桜の木で首吊りしてる人なんて目に入らないくら、___!?
さらっとスルーしていた事実を確かめるようにギギギ、と壊れたおもちゃのように首を動かし、その立派な桜の木を見上げれば確かにそこにはうちの学校の制服を来た男子生徒が首を吊っていた。
「_____!?」
声にもならない悲鳴をあげ、まず何をすべきかを考えようとするが頭が上手く回らない。
どうすればいいのだろうか、
木から下ろせばいい?でもこういう時って現場を荒らしちゃダメだよね。あ、そうか、警察に電話……いや、その前に救急車なのかな、どうすればいいんだろう、誰か助けてっ!!
と軽くパニック状態になりながら右往左往し、結局私は仏様(仮)に隣のおばあちゃんから貰った饅頭とお弁当を供えて先生に助けを求めに行った。
顔を下げているから誰かは分からなかったが、取り敢えず特徴だけを先生に伝える。
近くに国木田先生がいて良かった……。
遠くから男子生徒を助けに行ったであろう国木田先生の怒鳴り声が聞こえる。きっとこれで安心だろう。
しかし饅頭どころかお弁当まで供えてしまったので私は急いで購買へ向かった。
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そんな濃い一日があった次の日。
あの現場が夢に出るんじゃないかと少し心配もしたが全くそんなことはなく、熟睡出来た。
そうして一日はあっという間に過ぎ、さぁ帰るぞ。と準備をすれば廊下から悲鳴が聞こえてくる。
人類最大の敵Gでも出たのかな?なんて考えるも、悲鳴はやけに黄色かったのでそれはないかと思い直す。
さて、準備も出来たし帰ろう。
さして重くもない鞄を背負った時だった。
「やぁ、なまえちゃん。昨日ぶりだねぇ。」
女子があげる高い声とは違い、低く落ち着きのある声が私を呼んだ。
え、誰?と咄嗟に口から出なかったのは目の前で胡散臭い笑顔を振り撒いているこの男が学校内での有名人だったからだろう。
「えっと、太宰……?何か用、でございましょうか……」
この学校の武装生徒会役員の一人、書記の太宰治だ。よく女子にキャーキャー言われてる人。
何となくこちらが一方的に知っている人物だけに距離が測りがたく、変な敬語を使ってしまう。
というか昨日ぶりってなんだ。昨日どこかで会いましたっけ?だめだ、昨日のことはあの首吊り事件しか思い出せない。
うーん、と首を傾げるが全く思い出せないし女子の視線が痛い。刺されそう。もう「すみません、覚えてないので帰っていいですか?」って言っていいかな?
「あぁ、ここじゃぁ目立つしゆっくり話せないね。少し移動しようか。」
なんて私の考えに気付いたのか、提案してくれたのは有難いが、話すことが確定してしまった。
「おいで、案内しよう。」なんて言いながらさらっと手を取って引いてくれるこの人を見て、あぁ、これはモテるはずだよ。と鋭くなった女子の目線に現実逃避を開始した。
***
連れて来られたのは知る人ぞ知る、といった落ち着いた雰囲気のお洒落なお店。
なんで私こんな所に連行されたんだろう。なんか悪いことしたっけ。
「何か食べる?」と何を考えているのか分からないこの人は聞いてくるが丁重に断っておいた。
あぁ、お家に帰りたい。
放課後、学園一のモテ男と二人っきりって女子に見られたら……なんて思うと胃が痛くなってくる。
店員さんから届けられた烏龍茶を啜りながらさっさと帰るため、本題を切り出す。
「あの、それで私に何か御用でしょうか……?」
「いやね?国木田君から昨日君に世話になったと聞いたからお礼に来たのだよ。」
えっと、昨日の私ほんとに何したんだ。と悩んでいれば太宰君は自分の鞄から見覚えのある弁当箱と美味しいと有名なお店の饅頭を取り出した。
「え、それ」
「昨日君が供えてくれたものだよ。美味しかったけど、私、玉子はだし巻き玉子がいいなぁ。」
お弁当箱を受け取り聞いていないのに好みの話をする。というか食べたのか。いや別にお供え物だからいいんだけどね。なんか複雑。
「はい、それとお礼のお饅頭ね。好きでしょ?和菓子。」
「はい!凄い好きです!」
和菓子が大好物の私は有名店の和菓子一つで盛り上がる。どうやらくれるらしいからそれは素直に受け取ろうとした。
「……」
「……ぁ、」
饅頭が入った箱を受け取ろうとすると、手の先が触れ合ってしまい、どこの少女漫画だよ。と思いながらすみません、と謝ろうとした。
そうすれば女子に怒られることも誤解されることもないだろう、と。
しかし、手を引っ込めようとした私とは裏腹に、太宰は私の手を追いかけて絡めてくる。
まるで恋人同士の戯れのように当たり前のように。
「……ねぇ、なまえ。」
何するの、という文句は太宰の静かな声に消された。
周りが静かだからか、太宰の声はよく響く。
「前に私と、何処かで出逢ってないかい?」
その声は、探るような目は、私の平常心を意図も容易く奪った。
心臓が早い、けれどこれは恋や青春みたいな甘酸っぱいものなんかじゃなく、硬く、重苦しい警鐘と言った方が正しいものだった。
昨日が初対面のはずだった。その考えは今も変わらない。そうそのまま答えればいいはずなのに、私の喉は震え、まともな声は出ない。
これは、まるで本能に刻まれた恐怖のようだった。前世、あるいはそれよりもっと前に植え付けられた感情のように思える。
「い、いいえ。」
声は震えていなかっただろうか、不自然じゃなかっただろうか。
先程まで早く帰りたいとばかり考えていたのに今はそんな余裕などあるはずなく、目の前で「そう。」と目を伏せている男が怖くて仕方なかった。
「……それが、何か?」
「いや、覚えてないならそれはそれでいいよ。」
意味の分からないことを言ってと太宰は席を立つ。
「___それじゃぁ、またね。」
この場を去った太宰は、わらっていた。
しかしその笑顔の中には何か計り知れないような恐ろしく、異質なものが隠されているような気がして、私は冗談じゃないと思った。
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『出してッ!私を、私をここから出してッ!!』
ここは、どこだろう。
右も左も分からないような真っ暗な部屋の中、女の人が、必死に扉を叩いて叫んでいる。
女の人___?
違う。あれは、“私”だ。
根拠も理由も無いのに、何故だかスっと頭に入るようにそう思った。
“私”は扉の取っ手をガチャガチャと回して必死にその部屋から出ようとしているけど開く気配は無くて、焦りだけがどんどん出てくる。
『これで分かったかい?君はもうここから逃げられないよ。』
焦って焦って、何度も扉を叩いては開かなくて絶望して泣いている“私”にそう言ったのは、聞き覚えのある男の声の人。
『……っどうして、』
震える声で、“私”は聞いた。
『どうして、こんな酷いことをするの……?』
男の人は、酷く愉しげで何が悪いのか分かっていないような声音で言った。
『なんでって、そんなの決まってるだろう?
私が君を、_________』
***
「やぁ、なまえちゃん。お目覚めかい?」
「……太宰。」
いつの間に来てたのか、私の前の席で此方に体を向けてにっこりと笑っているのはあの日から毎日昼放課と放課後に遊びに来る太宰。もぐもぐと勝手に人の弁当を食べている太宰に怒る気にもなれない。
……太宰と出会ったあの日から、とても怖い夢を見る頻度が多くなった気がする。
「おや、どうかしたかい?」
「……なんでもないです。」
毎日見るあれは、あの夢は、本当に夢なのだろうか。
夢で見たものはどれも見たことが無いはずなのに覚えがあって、夢という割にいつだって鮮明だった。
夢、というよりも記憶……といった方が正しいような気さえする。
「なまえ?様子が少しおかしいけど、本当に大丈夫かい?」
「あ、うん。だいじょう、ぶ____」
太宰は私の方へ手を伸ばし、男の人にしては細くて綺麗な手で私の頬を撫でた。
その時の太宰は愛しいものでも見るかのように頬を紅くして幸せそうに微笑んでいたのに、私の体は硬直した。
壊れ物を扱うようなその手も、溶けそうなほど熱いその視線も、普通ならドキドキしてしまうかもしれないが、私の心臓はあの日の放課後と同じような恐怖を抱いた。
「ぁ、わ、私、日直で先生に呼ばれてるから行くね!」
少しでも早くその手から逃げたくて、少しでも早くその視線から逃げたいから、だから呼ばれてもいないのに次の授業の荷物を持って教室を出た。
ちらり、と振り返り少しだけ見えたのは太宰の此方を刺すような視線だった。
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眠い眠いお昼過ぎの5限は化学の時間。
先生の声とか授業の内容とかが面白くなくて眠気しか誘わない。
眠いな……なんて思っていた時だった。
とんとん、と肩叩かれ横を向けば中也君が悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「これ見ろ!」とノートの切れ端を渡され、中を覗けば下手くそな化学の先生の絵が描いてあった。
「っ、な、なにこれっ……!」
笑いを堪えながら小声で隣の中也君に聞けばしてやったりという顔をしている。
「眠そうだったから眠気覚ましに描いてやったんだよ。」
目ェ覚めたか?なんて聞かれれば勿論答えはyesだ。笑いすぎて目が冴えてしまった。
昼放課の空気が緊迫していただけに少しだけ和んで心に余裕が生まれる。
「ふふっ、ありがとう。中也君。」
「!おう。」
ニヒルに笑う男前の彼は今日も頼りになる。
***
「さっきの授業中、中也と何を話してたんだい?」
放課後、真っ直ぐ帰宅しようと思っていた私を引き摺るように初めて話した時の喫茶店に連れてきた太宰はいつもの胡散臭い笑みを浮かべずにそう聞いた。
「なに、って……中也君の描いた落書きが面白くて笑ってただけだけど。」
何となく、それが怖くて目を逸らして答えた。
「へぇ、まぁ知ってたけど。」
なら聞くな。と突っ込もうとしたが、そこで私は違和感に気付いた。
私と太宰は違うクラスだ。それなのに、何故太宰は私の授業風景を知ってるんだ……?
いや、それだけじゃない。太宰は当たり前のように私の名前を最初から呼んでいたが、私達は元々なんの関わりもない。私は自己紹介もしてないのに、なんで、私の名前が最初から分かったのだろう……?
「ん?どうかしたかい?」
恐る恐る目を向ければ先程の無表情はどこにいったのか、と思わせるくらい優しく笑っていて、けれどそれが私には仮面のように見えてなんだか怖かった。
「お、御手洗に行ってきます……!」
なんだか知ってはいけないことを知ってしまった気がして、気付いたらそう言って私は逃げていた。
***
男である太宰は絶対に入ってこれない場所、女子トイレに入って息をつく。
最初にやってきたのは安心、次にやってきたのは不安だった。
鏡に写る自分は酷い顔をしている。
なんだか頭が痛い。もうこれを理由に帰ってしまおうか。
なんて考えていれば覚えのない、しかし確かに私の記憶である光景が脳裏に浮かぶ。
鍵のかかった部屋、そこで“私”は鎖に繋がれてぼーっとしている。けれどそれは世間一般的にいう呑気な表情なんかではなくて、“私”の目は絶望に囚われていた。
まるで死ぬのを待つだけの生き人形のような姿にぎょっとする。
『なまえ、今日はいい子にしてたかい?』
いつも夢に見る男の声の人だ。相変わらず姿は見えない。
“私”はその言葉に少しの反応も示さず、虚空を見つめている。
そんな“私”に男の人は苛立った様子もなく、その雰囲気は何処か満足気だった。
『ふふっ、可愛い可愛い私のお人形さん。_____』
「あの、大丈夫ですか?」
後ろから掛けられた声にハッとする。
振り返れば知らないおばあちゃんが心配そうに私を見ていた。
慌てて大丈夫だということとお礼を伝えてから太宰の元へ戻った。
***
「す、すみません。遅くなっちゃって。」
少し頭が痛くて……と言い訳のような本当のような言葉を並べる。
「おや、それは大変だねぇ。大丈夫かい?」
「あ、はい。だいじょう、」
そこではたと気付いた。
太宰の声は、夢に出てきた男の人の声に似ている気がした。
なんで、気付かなかったんだろう。
あの男の声の人が太宰なんじゃないか、と考えれば考えるほど太宰への恐怖は膨れ上がっていく。
「なまえ。」
怖くて怖くて仕方ない中、名前を呼ばれ、ビクリと体が跳ねる。
「はい。ココア。」
にっこりと笑いながら差し出されたのは私の好きな飲み物。
「あの、えっと……」
「ゆっくりでいいよ。落ち着いて。ココアには心を落ち着かせる作用もあるから飲むといい。」
軽くパニックに陥っている私に対し、太宰ははい。とココアを渡す。
その様子をじっと見つめられて、飲まなきゃ失礼かな。なんて思って飲めば確かに少しだけ安心した。
「落ち着いたかい?」
「は、はい。お陰様で。」
勝手に焦って勝手に怖がっていたのに対応は紳士で何となく罪悪感が沸く。
「あ、あの……」
「ん?なぁに?」
さっきは取り乱してすみませんでした……。と謝ろうとしたその時だった。
視界が揺れて、強烈な眠気が私を襲う。
なんで、こんな急に……と思って薄れる意識の中、必死に太宰を見れば太宰は頬を紅く染めてわらっていた。
そこで私の太宰に対する恐れは間違ってなかったんだ、と理解して私は意識を飛ばした。
***
「ゥ、あたま、いた、い……。」
意識がハッキリしない中、目が覚めると私は真っ暗な知らない部屋の中にいた。
「ど、どこここ……?」
暗くて辺りが見えない。
手探りでゆっくりとここは何処か手がかりになるものはないかと探す。
その時、ジャラリと聞き慣れない音が聞こえた。
え、と思って音の元を辿るように足首に触れればそこには金属状の何かが繋がれていた。
いや、目が少しずつ慣れてきて分かる。
あれは、あれは鎖だ。
夢にも出てきた、あの鎖。
なんで、という気持ちでいっぱいになる。
鎖に真っ暗な部屋なんて、ここは夢の中?そう信じたくて頬を少しだけ強く引っ張るけど痛くて、嫌でもここが現実だと理解してしまう。
さっきまで私、喫茶店にいたはずなのに、なんで、私はここにいるの?
ここは、いやだ。
こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいッ!!!
嫌で嫌で逃げ出したくて鎖がついてるのも忘れて恐怖で震える身体で扉に向かえば鎖が逃がさないと言うようにピンと延びて扉にはギリギリまでしか手は届かない。
それでも正気を保っていない私は逃げたくて、夢の時と同じようにドアを必死で叩いたりドアノブを回したりするのに開く気配は少しもない。
「ふふっ、そうやってると、昔を思い出すねぇ。」
後ろから、声が聞こえた。
その聞き覚えのある声にバッと振り返ればいつの間にか愉しそうにわらっている太宰がいた。
なにが、おかしいの……?
こんなの、ただの悪戯だよね……怯えてる私を見て後でドッキリでしたー、とかそういうのだよね……?
そんなわけないと自分が一番理解しているのにそれを信じたくなくて、真実から目を逸らす。
「む、かし……?」
「そう。私と君はずっと前に出会っているのだよ。まぁ君は忘れてるみたいだけど、大丈夫。また何年も掛けてたぁっぷり可愛がってあげるから。」
ヒッ、と引き攣った声があがる。
太宰の言葉に反射的に思い出したのは頭痛の時、絶望して生き人形のような姿になった“私”。
そうはなりたくなくて、必死に助けを求める。
「誰かッ!誰か助けてくださいッ!!」
手が痛くなるくらいドアを叩き続けて助けを求めるのに、外からはなんの反応もない。
「うーん、そうやって必死にもがいてる所も可愛いけど、そろそろこっちに集中しようか。」
「ん!?」
後頭部を掴まれたかと思えばそのまま接吻をされる。
明らかに異質なこの男が怖くて、そんな男とこんな行為をするのが嫌で反抗するように顔を逸らそうとすれば唇に少し強めに噛み付かれた。
痛くて少しだけ口を開ければ、チャンスとでも言うようにニュルりとした自分のものじゃないソレは確かに熱を持って入ってくる。
深く深く絡め取られ、窒息死しちゃうような苦しい接吻。
ようやく離された時、私はもう肩で息をして、目の前でわらう太宰を睨み付けた。
「『……っどうして、』」
震える声で、私は聞いた。
「『どうして、こんな酷いことをするの……?』」
太宰は、酷く愉しげで何が悪いのか分かっていないような声音で言った。
「『なんでって、そんなの決まってるだろう?』」
あぁ、酷く夢と重なる。
暗い部屋の中、必死で扉を叩く私、そんな私を嗤うように恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくりと、しかし確実に迫ってくる太宰。
「『___私が君を、愛してるからだよ。』」
夢では聞こえなかったのに、今この言葉を聞いて、あぁ、あの時も太宰はきっとこう言ってたんだな。なんて諦めにも似た感情が浮かび上がる。
「これからはずっーと一緒だね。」
なすすべなく呆然と立ち尽くす私に対し、あどけなく笑うこの青年は、___いったいだれなのだろう。
全ての始まりは桜舞うあの季節、
きっとあれこそが、あそこで彼と出会った事こそが、私の人生最大の凶だったのだろう。
[完]
アトガキ↓
はい、ここまで読んでくれてありがとうございました!!リクエスト内容は【太宰と夢主の転生もので、ヤンデレ太宰だけが記憶ありだったら。】でした!!
ご期待通りに書けたでしょうか……?
個人的に太宰のヤンデレって最高かよっ!!という思考の持ち主なのでこのリクエストは楽しかったし嬉しかったです!!
この後太宰さんは夢主に対して飴と鞭を適切に使い分けて、外の世界のことを全て忘れるように洗脳して、夢主が「私には太宰しかいない……」と思い込んでポツリと独り言を漏らしたら密かにほくそ笑んでそれを肯定してたらおいしいと勝手に思ってます。
【蛇足】
文中にちょくちょく出てきた夢や頭痛の時のあれは前世の記憶です。
夢主が見たものは全て前世で実際自分が体験したことでした。分かりずらくてすみません……。
(『』の中が前世での記憶の台詞となっております。)
きっと夢主が最初から太宰に恐怖を抱いていたのは何となく、潜在的に前世のことを覚えていたからだと思います。
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